『大学への数学』読者はお馴染み、安田亨先生の著書。理系編と文系編の2種類が存在していて、かつては共に2000~2009年度入試までの10年分の問題を収録していましたが近年“増補版”として2012年度入試までの13年分の問題を掲載したものが出版されました。ただし2013年現在の受験生の学習指導要領から外れている複素数平面の問題は、1999年度以前に出題された現行課程範囲内の良問に差し替えられています。
のっけから独特の安田節・独自の情報満載の「はじめに」「本書の利用法」の後、すぐに「問題編」「解答編」が続きます。問題の配列は単元ごとで、本書もまた日常的な演習を前提にした参考書であると考えられます。単元内の掲載順に特に規則性は見つかりません。“場合の数・確率”の項では概ね易→難の配置になっているのに対し、“数と式など”の項では東大入試史上最も簡単と言われた問題が先頭に来ていないことなどから、単元別に前から順に解くと解説などの面で読者が学習しやすいだろうと著者が判断した配列になっているのかと思います。ただし、「解答編」の解説は基本的に一問一問が独立した構成になっているので、基本的にはどこから手を付けても問題ありません。また各問題文には、出題年度とその年の問題番号が記されています。
こうして章立てを一通り見ると、他の参考書に比べ学科の内容以上の情報がまとめられたページに乏しいように感じます。ただ、自分もそれほど多くの受験生がそんなところにまできちんと目を通しているとは思っていませんし、むしろ本書のようにそういった情報が各問の解説の中に分散して取り入れられている方がもしかしたら受験生の目に触れやすいのではないでしょうか。そういう意味で、これは“生徒の目線に合わせる”という本書の企画意図が正しく反映された結果なのかもしれません。
「解答編」に関して。各問題とも、“考え方”“解答”“注意”から構成。このタイプの問題はまずどのように考えるべきか? といったことに始まり、模範的な答案を付した後細かいテクニックや別解の検討、高度な知識や東大の入試作問委員会への批判(!)で締めくくります。この“考え方”“注意”が安田節全開で、読む人によっては独特の言い回しなどにイライラするかもしれませんが、他では見ない実戦的な情報の宝庫となっています。大数を買うほどの数学好きにはひとつの講義としても楽しめる事でしょうし、もっと根本的な話として“考え方”にあるような地に足着いた考え方さえ定着すれば、タイトルの通り試験中に“東大数学で1点でも多く取る”ための力を発揮することができるようになること請け合いでしょう。
とは言え、無論基本操作ができることは前提です。当たり前ですが、難関大の入試ならどんな教科でも基本操作を身に着けて初めて土俵に上がれます。ひとつひとつの操作もおぼつかないのに、勘違いして“東大数学で1点でも多く取る方法”なんて言葉にすがっても、本書の解説はそのレベルにまでは対応してくれないのでご注意を。
難易度評価は、本書では特に行われていません。解説にもよっぽどのことがなければ簡単とも難しいとも書かれていませんが、“一般的な評価がこうだからこの問題はできるべきだ”ではなく“試験場でこの問題を見た時に、どう点をかき集めるか”を大切にする本書のコンセプトからすれば当然のこととも言えます。
石橋雄毅