前回は敢えて数学の難問系問題集界でも突き抜けた頂点を紹介しましたが、今回は同ジャンルの中でももっと手の出しやすい『大学入試 最難関大への数学』を紹介します。
「ⅠAⅡB編」「ⅢC編」の2冊からなる本書は、その名の通り・表紙にも書いてある通り、東大・京大・東工大・一橋・早稲田・慶應辺りの受験生向けに書かれています。実際、収録されている問題の多くはそれらの大学の過去問です。『最高峰の数学へチャレンジ』には入試で出題されても皆できなくてあまり差がつかないような(そもそも、東大の前期入試にすらまず出題されないだろうというような)問題ばかりが収録されていたのに対し、本書のレベルは入試で大きく差がつき得るくらい(『大学への数学』の難易度評価ならCくらい)の丁度良いもので、文理問わず“東大の過去問で普段2完を狙える人が3完まで目指せるように”するために演習するにはかなり良質の問題集だと思います。
扱われている問題の分野は、ⅠAⅡB:数と式(殆ど整数問題)、関数と図形、場合の数・確率、微分・積分、数列、ベクトル、ⅢC:極限、微分法、積分法、面積・体積・弧長、関数方程式・物理への応用、行列・1次変換(旧課程)、2次曲線・極座標――といったラインナップ。概ね対象の大学向けに絞られています。各分野の問題は5~9問程度で、やはり“各分野を演習して固めていく”というよりは“ある程度ある力をさらに伸ばす”という色合いが大分強いですね。本書に書いてある【こういう人に特にお勧め】を引用するに「最難関レベルの大学を目指す人」「難しい問題で思考力を高めたい人」「知識はあるが、得点に結びつかない人」「知的な刺激がほしい人」「入試直前期に勘を鈍らせたくない人」とある通りなので、数学がまだ全然……という人にはかなりの背伸びになってしまいます。解答・解説に関しても同様で、取り立てて丁寧という訳ではありませんが本書レベルの問題が丁度良いという人には必要十分、気になるということは無いでしょう。
巻末には付録として、著者の提唱する問題に対する方略『判断枠組』とやらが掲載されています。こういったことを字面でしっかりと読む機会はそれほど多くないでしょうから、ある程度誰が読んでも刺激になる部分はあると思いますが、内容的には数学が苦手な人向けのメッセージのようなので、本書のレベルに十分手が出る人にとっては、自分なりに方法が確立できていることを改めて言葉として述べられるだけにもなってしまうかもしれません。感覚的にやっていることを言語化することは、それはそれで大事なことなのですが、少なくともこれ目当てで本書を購入するほどのものではなく、あくまで“付録”です。逆に数学が苦手な人にはこういうことを考えられていない場合も多いので、読んでみる価値大いにアリなのですが、今度は問題集としてのレベルが高過ぎて……。ただし、“こういうときには、こうすればよい”のような便利なことが書いてある訳ではなくて、もっと抽象的な、根本的に大事な姿勢について書いてあるだけなので、過度の期待はしないように。
経験上、“数学がある程度できる”程度の(数学で一点突破を狙う訳ではない)東大受験生なら、本書レベルのことができるだけで十分な場合が多いです。数学でこれ以上のものに手を出すときには、他の科目の伸びしろを慎重に検討する必要があるからです。一般的に、これより先は理科や英語の方がコストパフォーマンスが良かったりします。その境界線に立っている参考書として、本書はとても丁度良いと思うのです。
2014/05/02 石橋雄毅