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多項式近似 ~超越関数を越えてゆけ!~

 今回の題材は1999年東大理系数学第6問。一般的な模範解答のように、直接的に出すのが難しい値を直線で上手く評価する方法を“一次近似”と言いますが、この方法自体は受験物理でもよく使いますよね。例えばヤングの実験などで目にすることの多い次のような近似です。…
第7回 出典:東京大学前期 1999年 理系数学 第6問

 皆さん、こんにちは。夏に鍛えた基礎力が秋以降一気に開花するということは決して少なくありません。大事なのは、それまで正しい努力をし続けること。入試までまだまだファイトです!

 今回の題材は1999年東大理系数学第6問。解いてみた方はお分かりかと思いますが、この問題は結局 を評価するところが最難関。一般的な模範解答は このようなもの(※クリックすると略解が表示されるので注意) となっていますが、これを見てどうしてそんな方法を思いつくのか、と憤った人も少なくないかと思います。

 解答のように、直接的に出すのが難しい値を直線で上手く評価する方法を“一次近似”と言いますが、この方法自体は受験物理でもよく使いますよね。例えばヤングの実験などで目にすることの多い次のような近似です。

 のとき、

※“≃” は “≒” と同じ意味です。大学に入ると、“≒” に当たる記号は沢山出てくるのですが、ここでは表示上の都合からこの記号を用います。

 この原理をさらに掘り下げたものに、“テイラー展開”というものがあります。このテイラー展開は大学に入るとすぐ学ぶことになるでしょうし、大学入試でもよく扱われる題材ですが、今回はこれについて解説します。

 物理を学ぶ中でその片鱗は皆さんも見ているかと思いますが、世の中の様々なことが、様々な関数を用いて表せます。それは自然科学のみならず、例えば経済の分野にも数学は幅を利かせているでしょう。いろいろな関数がこの人間社会を支えています。
 ただそういった沢山の関数は、時に扱いが難しかったりもしますよね。三角関数や対数関数などはその代表例ですが、確かに関数 がどういった値をとってどういった振る舞いをするのかを解析するのは、無理とは言わないまでもなかなかに骨が折れることでしょう。その点では、皆さんにとっても長い付き合いのはずである多項式関数は正確な値もグラフの様子も比較的容易に求まり、おまけに積分も簡単で、とても扱いやすい関数だと言うことができます。すると当然、「関数がみんな多項式で表せたらラクなのになあ……」と考える人が出てくるわけです。
 そこで、例えば関数 sin x が x≒0 のとき

            ……(*)


と近似できたとします。この係数の数列を求めましょう。

 近似できたというからには、まずは x=0 のときの値が両辺で等しくなっていなければ話にならないでしょう。ということは、
また、近似できたのであれば x=0 のときからの変化の様子も両辺で等しくなっているべきところですが、それは x=0 での接線の傾きを比べればよいとも言えるでしょう。つまり(*)の両辺を1回微分して x=0 を代入し、
 さらに変化の様子をより精密に比較しようと思えばグラフの凹凸の曲がり具合を比べることになりますが、それは接線の傾きの変化の様子、すなわち2階微分を比べればよいでしょう。よって(*)の両辺を2回微分して x=0 を代入し、
 ……と、このように「(*)の両辺を微分して x=0 を代入し比べる」という操作を繰り返し続けることで、


を得ることができ、無事に sin x という超越関数を x=0 の近傍において多項式で近似することができます。
 一応付け加えておくと、(*)が恒等式ならば両辺を微分しても恒等式となることを考えて、数列を求めるために x=0 の代入と両辺の微分を繰り返そうという流れがこの話題の紹介としては一般的ではあります。ただ、ここでは“近似”というイメージを持ち出すために接線の傾きやその変化の様子といったもので考えることにしました。
 また、このような方法で関数を近似していることからも分かる通り、この近似は接点の十分近くでのみよく成り立つもので、ある程度離れてしまうと意味を成しません。必要に応じて選ぶ接点を変えてやることが大事になります。

 以上のようにして関数を多項式で近似する方法を「テイラー展開」と言い、特に x=0 のまわりで行うテイラー展開を「マクローリン展開」とも呼びます。
 同様にして一般の関数 f(x) をマクローリン展開すると


となります。ここで、 は f(x) の n 階微分係数を表します。さらに一般化して x=a のまわりでテイラー展開すると、次のように書けます。


 何故このようになるかは、f(x) を x 軸方向に -a だけ平行移動し、マクローリン展開してから元に戻すと考えると分かりやすいでしょう。

 先の近似公式「 」も のマクローリン展開で微小となる2次以上の項を無視したものから来ていることや、これまたよく使う近似「 |x|≪1 のとき sin x ≒ x 」も上のマクローリン展開の結果からすれば当然であることを考えると、実際この多項式による近似は汎用性が高く、便利であることが分かります。東大に限らず様々な大学の入試数学でこのテイラー展開が題材となるのも、微分計算の力を測る丁度良い問題であることの他にこのような重要性・汎用性があるからかもしれません。

 以上、テイラー展開・マクローリン展開について理解を深めていただけたでしょうか。“振る舞いの分かりづらい関数を多項式で近似する”という方法には実はこれ以外のものもあるのですが、受験レベルではこれだけでも十分役に立つと思います。
 それでは最後に微分計算の練習ということで、いくつか問題を出して終わろうと思います。また次回も宜しくお願いします。


 次の関数をマクローリン展開せよ。
(1)    (2)    (3)    (4) 


《解答》

2013/09/27 石橋雄毅

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