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Z会出版『漢文道場』

 他の科目に比べ種類に乏しい受験漢文の参考書の中で、今回は東大受験生の使用率が比較的高いと思われる一冊『漢文道場』をご紹介。
 本書は国公立2次・私大対策を主眼に据えた問題集。難易度としては“標準”に設定されていますが、ここ最近の東大古典は…
 他の科目に比べ種類に乏しい受験漢文の参考書の中で、今回は東大受験生の使用率が比較的高いと思われる一冊『漢文道場』をご紹介。

 本書は国公立2次・私大対策を主眼に据えた問題集。難易度としては“標準”に設定されていますが、ここ最近の東大古典は易化傾向が進むばかりということもあり、本書レベルが完成されていればひとまずは十分と思われます。一般的な東大受験生の感覚としても、東大古典は最低限の点さえ安定するならあまり時間を割かず他教科を勉強していたいという声が多数になるだろうからです(それすら怠ってしまう or そこにまで手が回らない受験生が多いがために、より一層易化に拍車がかかるのでしょうが)。

 問題と解答とが分かれて別冊になっていますが、そのうち『問題編』は「基礎編」「練成編」「実戦編」の三部構成。「基礎編」で句形・句法をさらっと確認してから「練成編」「実戦編」での読解演習に入るという作りですが、たった10節・見開き10ページのみの「基礎編」は一長一短。基本事項の要点がとても簡潔にまとめられているだけなので、他で素地が出来上がっている人にとっては無駄に時間を取られ過ぎることなく読解演習に移れる一方、学校の漢文の授業があまり機能していないなどという人にとってはさすがに少し物足りないでしょうか。ただ、受験生が漢文の勉強に使える時間を潤沢に取れるとも思えないので、例えばひとまず「基礎編」で一通り確認しあまりにも理解不足だと感じられる項目に関してのみ『ステップアップノート10 漢文句形ドリルと演習』、『漢文ヤマのヤマ』シリーズ等の文法書で詳しく演習するといった使い方がもとから想定されているのかもしれません。他には、口語訳の例題となっている文には意訳の必要な故事成語が多く、前後の文脈が無い中の問いとしては殆ど解答不能で、ここは正直使いづらいです。

 「練成編」「実戦編」はそれぞれ20問ずつ、計40問の読解問題からなります。おおむね易から難の順に並べられている各問題に対し、課題文と問いの他に設けられている項目として「語彙チェック」「句法チェック」「出典」「概要」「考察」がありますが、漢文の問題集としては「語彙チェック」「句法チェック」の存在が非常に優秀。一般的な漢文の問題集では意味を分かっておくべき漢字・覚えておくべき重要句形は解説の中で小出しに説明されることが多く、結局記憶すべき事項が何なのか印象に残りにくくなってしまいがちなのですが、本書ではそれを単体でストレートに確認できるので、効率的に知識を補充できる仕組みが作れます。他にも、文法事項の深い話や漢文世界の常識を教えてくれる「考察」は特筆に値するでしょう。ただ、古い問題集ということもあって問題自体の質は(少なくとも東大対策という観点からすれば)そこまで素晴らしいものというわけでは無く、例えば故事成語や史実を知らないと解答不能な問題が少なくありません。強みはどちらかというと収録されている問題数の多さ、といった感じです。

 『解説編』は淡々としていてかなりアッサリめ。ここもこの参考書の大きな減点ポイントなのですが、それでも東大受験生に多く使われているというのは、東大志望ともなるとこの程度の解説で十分理解できるだけの力を皆持っているということなのでしょうか。使用を考えている人は、念のため書店で解説編を立ち読みしてみてからにしましょう。また「語彙チェック」「句法チェック」の答えも無く、問題解説の中に全体的に散りばめられているものを探すしかないのですが、さすがにこれくらいはまとめてあってほしかったところですね。

 全体として、“質より量”な本書。受験生にそれほど重要視されていない東大国語対策にそれがよく使われているこの現状を鑑みると、“経験値を積む”ことの重要性とそれを知っている東大受験生達の姿が、ちょっと見えてくる気がしませんか。



2015/5/1 石橋雄毅

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