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東大生物2016年度第1問:小腸特異的な細胞へのGFP導入

 第10回を迎えました。今回は、2016年度の東大生物を見てみます(つまり2か月前に行われた東大入試の問題です!)。
 がっつり実験系の問題です。さまざまな情報が入り乱れているので、整理し理解しながら進むようにしましょう。

 なお、今回は問題数の関係で、知識問題であるABCEは省略しました。実験考察問題の考え方を、一緒に確認していければと思います。






















D
 まず、実験1の内容を簡単に整理してみます。

・Lgr5遺伝子の転写調節領域の直後に緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子をつないだDNAを組みこんだトランスジェニックマウスを準備。
・GFP遺伝子がLgr5遺伝子の直後に配列している→Lgr5遺伝子が発現している細胞ではGFP遺伝子も発現する。
・GFP遺伝子は緑色に蛍光するタンパク質である。
⇒このトランスジェニックマウスでは、Lgr5遺伝子が発現している細胞は緑色に光る。


ざっくりとこのように整理できます。
 次に図1-3を見てみます。生後2箇月、4箇月、14箇月の小腸上皮で、共通してCBC細胞で緑色の蛍光が確認されています。このことから、Lgr5遺伝子はCBC細胞にのみ発現していることがわかります。

 ここで、問題を見てみましょう。聞かれているのは、「絨毛部分の上皮細胞はどの細胞から作られているか」です。しかし、今確認したことからわかるように、実験1の結果から解釈できるのは「Lgr5遺伝子がCBC細胞にのみ発現している」ということだけです。つまり、実験1からは「絨毛部分の上皮細胞はどの細胞から作られているか」はわからないのです。よって答えは(4)です。

解答
(4)


F
 実験2ではいろいろな遺伝子などが登場し、話がややこしくなりました。内容をしっかりと整理しておきましょう。

・酵素Cをコードする遺伝子はLgr5遺伝子の直後にある→Lgr5遺伝子が発現する細胞でのみ酵素Cが発現する。
・酵素Cは化合物Tの存在下で領域Lのみを切り取る→R遺伝子の転写調節領域の直後にGFP遺伝子が配列する。
⇒化合物Tをマウスに投与すると、Lgr5遺伝子が発現する細胞でのみGFP遺伝子が発現し、緑色に光る。


 さて、ここまでよろしいでしょうか?  次に、問題を見てみましょう。マウスに化合物Tを投与したときに、(1)~(4)の細胞がGFPの蛍光を発するかどうか、という問題です。先ほど確認したように、Lgr5遺伝子が発現している細胞では、化合物TがあるとGFPの蛍光を発します。つまり、「Lgr5遺伝子を発現しているかどうか」で判断すればよいことになります。
 さらに言うと、問題文に「化合物Tの酵素Cに対する作用は投与と同時に、かつ、その時点でのみ及ぼされ」とあるので、化合物Tが投与された瞬間にLgr5遺伝子を発現していればGFPの蛍光を発することになります。よって、「化合物Tの投与の瞬間にLgr5遺伝子を発現しているかどうか」で考えればよいとわかりますね。

解答
(1)発する (2)発しない (3)発する (4)発しない


G
 Fで確認した通り、化合物Tを投与した瞬間にLgr5遺伝子が発現していれば、GFP遺伝子が発現して蛍光を発します。これは酵素Cの働きによりR遺伝子の転写調節領域の直後にGFP遺伝子が配列するからです。また、問題文に「R遺伝子の転写調節領域は、その後ろにつないだ遺伝子をマウスの体内のあらゆる細胞で常に発現させるはたらきをもつ」とあります。
ここで問題を見てみます。化合物T投与後にLgr5遺伝子に変異が生じてはたらきが失われても、R遺伝子の転写調節領域の直後にGFP遺伝子が配列しているという状況に変わりはありません。つまり、GFP遺伝子は変わらず発現し、蛍光を発しているはずですね。

(解答例)
維持される
化合物Tの投与によりR遺伝子の転写調節領域の直後にGFP遺伝子が配列しており、Lgr5遺伝子に変異が生じてもその配列は変わらないから。(62字)


H
 図1-5を見てみます。化合物T投与後ではCBC細胞のみにGFPの蛍光が見られますが、その後段々と蛍光が見られる上皮細胞が絨毛側に増えていき、5日目では絨毛上のほとんどの上皮細胞で蛍光が見られるようになります。そして60日を過ぎると、絨毛上のすべての上皮細胞で蛍光が見られるようになり、それは1年経過しても続いています。
 これは、上皮細胞はCBC細胞から生まれていることを示しています。つまり、CBC細胞が分裂・分化して上皮細胞になり、そうして生まれた上皮細胞がどんどん絨毛側へ押し上げられていくため、日が経つごとにGFPの蛍光が見られる細胞が図1-5のように増えていったのですね。
 さらに、60日後、1年後も蛍光が見られるということは、CBC細胞はずっとくぼみの部分に残り続けていることになります。なぜなら、問題文に「分化した上皮細胞は分裂することはなく、やがて寿命を迎えて死んだ細胞は絨毛の頂上部分から剥がれ落ちていく」とあり、CBC細胞がすべて上皮細胞になってしまっていたら、蛍光を発する上皮細胞は死んでしまい、60日後や1年後まで蛍光を発する細胞が見られることはありえないからです。

 これらのことから、CBC細胞が分裂すると、一部は上皮細胞に分化していきますが、一部はCBC細胞として残り、上皮細胞を作り続けている、ということがわかりました。これは、いわゆる幹細胞の定義にも当てはまります。CBC細胞は、小腸の上皮細胞を生み出す組織幹細胞だったのですね。

(解答例)
CBC細胞が分裂すると、一部は上皮細胞に分化するが、残りはCBC細胞として残留し、分裂を続けている。(46字)






 いかがでしたでしょうか?今回は「いかに情報を整理し理解できるか」を問われている問題だったと言えます。難易度としては易しめだったと思います。東大の生物は、今回のように問題文や実験系から得られる情報を整理する力が求められており、今回はその典型例とも言える問題でした。
 「難しかったな」と感じた人は、もう一度じっくり問題文を読んで、時間をかけて自分なりに整理してみることをオススメします。

 ちなみに、問題文の情報を整理する際は、「図を書く」ことをオススメします。私も受験生時代には、問題文の情報を図にまとめて整理していました。
 今回は問題文に図が載っていますので、ここに書き込んでいく形で整理するといいかもしれません。
 みなさんもぜひ実践してみてください!


解答例まとめ
D (4)
F (1)発する (2)発しない (3)発する (4)発しない
G 維持される
化合物Tの投与によりR遺伝子の転写調節領域の直後にGFP遺伝子が配列しており、Lgr5遺伝子に変異が生じてもその配列は変わらないから。(62字)
H CBC細胞が分裂すると、一部は上皮細胞に分化するが、残りはCBC細胞として残留し、分裂を続けている。(46字)



2016/4/28 宮崎悠介

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