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第1回 東大の授業は面白い?


 私は地方のあまりレベルの高くない学校の出身で、東大生や東大OBの知り合いから直接話を聞く機会がなく、東大に対して幻想とも言えるほどの良いイメージを描き、受験勉強に励んでいました。
「東大へ行けば、日本一の教授陣のエキサイティングな授業をやる気溢れるクラスメートと共に受けられ、いくつもの面白そうな学部の中で揺れて、進振り(※1)を迎えるんだろうなあ…」といった具合です。
私ほど大きな期待を持った受験生はあまりいないかも知れませんが、同じようなイメージを持っている受験生は決して少なくないと思います。

 結果的に、私は幸運にも東大の門を叩くことはできたのですが、入学後に目の当たりにした東大の姿は、当初のイメージとはいくらか異なるものでした。

その中でも最も印象的だったのが、「授業が面白くなかった」ということです。



東大の授業は面白くない?

 面白いか面白くないか、という判断は完全に主観ですし、あなたがそう感じただけじゃないかと責めたくなる人は大勢いるでしょうが、それでも私は「東大の授業は面白くない」と言い切ってしまいたいです。

 私は東大に入学してから、多くのコミュニティで様々な人たちと知り合いました。彼らの中には一日中自分の好きな勉強をしている、いわゆるイカ東(※2)もいれば、都会の遊びやお酒に溺れ、留年を重ねてしまう人もいました。しかしその中の誰一人として、東大の授業は概して面白いと言っていた者はいません。
「授業を受けるくらいなら、自分の好きな勉強を進めたほうが良い」「可能な限り授業は受けずに、サークルや遊びに没頭したい」などと答えるでしょう。

 ではなぜ日本の最高学府と言われ、最も勉強にささげた時間が多かった人が集まっているはずの東京大学の授業がここまで酷評されてしまうのでしょうか。

 東大の教授陣は間違いなく研究者として才能あふれる方々ですが、だからと言って講師・話し手として優れているかというと必ずしもそうではなく、授業への熱意も話術も人それぞれです。そして特に駒場の二年間の授業では、普段教授の方々がされている研究よりかなりレベルの低い講義をしているためか、モチベーションが低い先生が多いように感じます。これが東大の授業がつまらなく感じてしまう大きな原因かと思います。




じゃあ、東大の授業は受けない方が良い?

 以上、散々東大の授業のネガキャンにも見える記事を淡々と綴ってきましたが、私は決して「東大の授業なんてつまらないから受けなくても問題ない」と主張したいわけではありません。ただ、「東大の授業に過度な期待をするな」ひいては「東大に入る前に、自分のやりたいことを探しておこう」と言いたいのです。

 授業に期待しないこととやりたいことを探しておくこと、一見あまり関係がないように見えますが、私含め少なくない東大生はこの二つの繋がりを実感しているはずです。

 東大にはご存じの通り進学振り分けというとても珍しい、一見素晴らしい制度があります。二年生までは教養学部生として同じような授業を選択でき、三年生に上がる時に改めて専攻を選びなおせるという制度です。
この制度、様々な専門の教授の講義を受けてから学科を選択できるという点で非常に学生に有益なものなのですが、その代償として「とりあえず東大生」が毎年大量に生まれてしまうという欠点があります。

 「とりあえず東大生」とは、「特にやりたいことがあるわけじゃないけど、成績もいいしもし入れたらかっこいいから、とりあえず東大を目指そう」のようなノリで東大に入学してくる学生のことです。(※一般的に使われている呼称ではありません)
このとりあえず東大生、えてして東大の授業に過剰な期待をしている者が多いです。「これだけ学科があれば、適当な授業を受けているだけでやりたいことが一つは見つかるだろうなあ」、なんて考えを持ってしまいがちです。
しかし、とりあえず東大生たちが本当にやりたいことを見つけられる可能性は低いでしょう。東大の授業は、ただ教室に座って話を聞いているだけの学生を引き付けられるような面白さは持ち合わせていないのですから

 ただ東大の授業は、能動的な興味を持って聞けば必ずしもつまらないというわけではありません。予備校の人気講師の授業のようなわかりやすい面白さはないかも知れませんが、授業で扱っている内容自体はしっかりしており、「この授業から気づきを得よう」と積極的な姿勢で授業を受ければ、面白いと感じられるものもきっとあるはずです。逆に言えば、漫然と授業をうけているだけでは面白いと思えるものに巡り合うことはとても難しいでしょう。

 ただ、授業に対する積極的な姿勢を維持するのは簡単なことではありません。大学生活は高校までより遥かに多くの自由と誘惑にあふれており、そのせいで毎年多くの真面目な学生がダレてしまい、いわゆる「東大までの人(※3)」になってしまいます。

 そうならないためにも、受験生の皆さんは自分がやりたいことをしっかり考えて東大に入学してきてください。それが大学の授業を能動的に受け、楽しみ続けるための第一条件です。決して進振りの存在を免罪符にしてはいけません

 必ずしも一つ、これがやりたいと決めておく必要はありません。ただ、自分は何に興味があって、何なら楽しめて勉強できるのか等の自己分析を怠ってはいけません。そこを欠いてしまうと、漫然とつまらない授業を受け続けることになり、結局本当にやりたいことを見つけられずに終わってしまうでしょう。




最後に… 

 確かに、進振りは良い制度です、東大の一二年生に文転や理転も含めた多くの可能性を与え、毎年多くの学生が真にやりたい学問を見つけるのに一役買っています。
ただ、自由というのは常にリスクと隣り合わせです。進振りという自由に甘え、自分と向き合うことを怠ってしまうと、実りのない駒場生活を送ってしまうことになります。

 そうならないためにも…受験生の皆さん、勉強でお忙しい中だとは思いますが、自分のやりたいことをしっかり考えて東大に入学してください。きっと活力に満ちた、良い大学生活が送れると思います。




語注
1 進振り…進学振り分け制度の略。
2 イカ東…「いかにも東大生」の略。昨今、良くテレビ番組でネタにされるオタク系東大生を漠然と指すことが多い。
3 東大までの人…東大に入学するまでは良いものの、そこから伸び悩んでしまう人。「東大からの人」と対比して用いられる。

2017/06/08 K.H

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