第15回となりました。今回は、ABCモデルを題材とした考察問題を扱ってみます。
現課程を学習しているみなさんなら、花器官の形成における遺伝子の働き方を説明したABCモデルはご存知だと思いますが、実はABCモデルは旧課程では教科書に載っていませんでした。今回扱う問題は旧課程の時期のものですので、東大生物においては「知らないものが出てきたときにいかにそれを速く理解し、対処できるか」という力が試されているといえるかもしれません。
今回は、
「ABCモデルを知らない人がこの問題を解くならどのように考えるか」という視点で進めていきたいと思います。みなさんはABCモデルに関して知識がありますので、問題文は理解しやすいでしょう。考察が苦手な人も取り組みやすい問題ですので、実験結果から論理的に解答を導く訓練として効果的だと思います。ぜひ一緒に考えてみてください!
なお、今回は考察問題に焦点を絞るため、知識問題は除いてあります。
E
まずは表2-1を見てみましょう。A突然変異体では領域1および2に異常が見られるようです。同様にB突然変異体では領域2と3に、C突然変異体では領域3と4にそれぞれ異常が見られます。
本文中に「調節遺伝子A、B、Cは花器官形成において、それぞれはたらく領域が決まっており、その組み合わせによってどの器官が形成されるかが決まる」とあります。このことから、遺伝子Aは領域1および2で、遺伝子Bは領域2および3で、遺伝子Cは領域3および4でそれぞれ機能し、遺伝子Aのみが働くとがくが、遺伝子AとBの組み合わせで花弁が、遺伝子BとCの組み合わせでおしべが、遺伝子Cのみでめしべが形成されることが推測できます。
さて、問題文に移ると「A突然変異体では、領域1から領域4にかけて、めしべ、おしべ、おしべ、めしべの順に花器官が形成された」とあります。
これは、遺伝子Aが働かなくなったことによって領域1と2に異常が起き、領域1ではめしべ、領域2ではおしべが形成されたということを意味します。めしべは遺伝子Cのみが働くことによって形成されるはずですので、A突然変異体では領域1で遺伝子Cが働いていると考えられます。同様に、領域2では遺伝子BとCが働いているでしょう。
ここで、「領域3と4で働いているはずの遺伝子Cが、なぜ領域1と2でも働いているのだろう?」という疑問が出てきます。この異常は、A突然変異体、つまり遺伝子Aが働いていない個体だから起こったものと考えられます。
つまり、遺伝子Aが働いていないと、領域1と2でも遺伝子Cが働くようになるのです。これは、本来遺伝子Cは領域1から4の全てで働くはずだったが、遺伝子Aが遺伝子Cの機能を阻害するため、突然変異の起きていない正常な個体では領域1と2では遺伝子Cが働いていない、と考えれば説明がつきます。
以上のことから、選択肢(2)が正解と考えられます。
(解答)
(2)
F
ランカドニアの領域1から4ではそれぞれ、がく、がく、めしべ、おしべが形成されます。Eで考察したように、がくは遺伝子Aの機能、めしべは遺伝子Cの機能、おしべは遺伝子BとC両者の機能によって形成されます。Eでしっかり考察できていれば、すぐに答えは出てきますね。
(解答)
調節遺伝子A:領域1、2
調節遺伝子B:領域4
調節遺伝子C:領域3、4
G
シロイヌナズナですべての領域で遺伝子Bが発現すると、領域1と2では遺伝子AとBの機能により花弁が形成され、領域3と4では遺伝子BとCの機能によりおしべが形成されます。
遺伝子Bを強制的に発現させた後、遺伝子AとCの機能を変化させるとすべての領域でおしべが形成される場合、これは全ての領域で遺伝子BとCが働いていることを意味します。つまり、遺伝子Aは機能を失い、遺伝子Cは機能が維持されているということになります。
ここで注意すべきは、遺伝子Cの機能は「すべての領域で強制的に発現されている」のではなく「維持されている」ことです。Eでの考察で、本来遺伝子Cは全ての領域で働いているが、遺伝子Aの機能により領域1と2では遺伝子Cの機能が阻害されている、とわかっています。つまり、遺伝子Cはもともとすべての領域で働こうとしているわけです。なので、遺伝子Aの機能を失えば遺伝子Cは自動的にすべての領域で働くようになるのです。
(解答例)
領域1:花弁
領域2:花弁
領域3:おしべ
領域4:おしべ
調節遺伝子Aの機能を欠損し、調節遺伝子Cの機能を維持する。
いかがでしたでしょうか?ABCモデルについて持っている知識をいったん脇において、考察問題として論理的に考えることができましたか?
今後も、このように
「本来知らないはずの現象について実験結果から考察させる問題」は必ず出題されます。夏ももう終わり、過去問に触れる機会が多くなってくると思うので、それらの問題を通して考察力を鍛えていってほしいと思います!
解答例まとめ
E (2)
F 調節遺伝子A:領域1、2
調節遺伝子B:領域4
調節遺伝子C:領域3、4
G 領域1:花弁
領域2:花弁
領域3:おしべ
領域4:おしべ
調節遺伝子Aの機能を欠損し、調節遺伝子Cの機能を維持する。
2017/8/31 宮崎悠介