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特集ブログ ~自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分~

 東大生や東大卒業生が、自身の合格体験を基にアドバイスをしているブログや書籍は数多くある。もちろん、有益なものも多い。
 ただし、実際に生徒指導をしていると、自身の東大合格体験はあくまでも一例でしかないことに気づく。生徒を東大に受からせるには、学科知識、教材・模試・過去問の活用法、受験戦略、学習方法のすべてを見直し体系化する必要がある。

 情報が氾濫する時代だからこそ、自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分。自らが東大合格体験者でもあり、東大受験専門の塾・予備校の講師として毎年、生徒を東大合格に導いているメンバーのみが運営する『東大入試ドットコム』の特集ブログです。

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2015/12/04
東大模試を受験した方は既にご存知でしょうが、東大入試の解答用紙は独特です。字数指定のない国語、まっさらな数学、書き方に困る原稿用紙の地歴……これらの使い方に慣れておき、本番で戸惑わないよう訓練しておくことは、東大に合格する上で見逃せない重要な要素です。

では、その訓練はどのように行えば良いか――これは実際に使って慣れていく他はもうないでしょう。受験直前期には多くの人が過去問を沢山解きますが、これを実際の解答用紙に、本番通りの時間設定で解いていき、極力環境を本番そのものに近づけていくことがより効果的な演習に繋がります。

しかし、本番そっくりな解答用紙はなかなか用意できないもの……そこで、私達東大入試ドットコムは受験生のみなさんのために、そのまま無料でダウンロード・印刷して使えるデータを用意しました!

データ作成に当たっては、様々な点にこだわりました。本番の解答用紙そのものの雰囲気――解答スペースのレイアウトから配色まで――をほぼ完全に再現し、しかも家庭で印刷して使いやすいように用紙がA4サイズに収まるよう編集しました。全科目効果的に過去問演習を行うためのツールがまたひとつできたと自負しています。

データはデータでみなさんにドンドン活用してもらいながら、今回の企画では、実際にその解答用紙を使い慣れた人達に、解答用紙の特徴や使い方のコツなどを解説していきます。実際に手を動かして訓練してみる上で参考になることもあるはずですから、ぜひこの機会に目を通してみてください!

公開日

教科

12月7日(月)

          国語         

12月9日(水)

数学

12月11日(金)

物理

12月14日(月)

世界史

12月16日(水)

化学

12月18日(金)

日本史

12月21日(月)

生物

12月23日(水)

地理

12月25日(金)

英語


2015/12/4 石橋雄毅

2015/11/26
 第5回を迎えました。今回は、植物の分布に関する問題を扱います。高い文章読解能力が問われる問題ですので、読み飛ばさないよう、一文一文理解しながら読み進んでください。








A
マツ類が陽樹であることは知識として知っておくべきところですね。オオシラビソやトウヒが陽樹か陰樹かを知っている受験生は少ないと思いますが、「反対に」と書いてあることから、オオシラビソとトウヒは陰樹であることがわかります。ここまでは知識問題です。
 
さて、6はハイマツが山のどこに分布しているかを問われています。図3-4(B)を見ると、ハイマツはa線とb線がかなり近いです。A線は、緯度1°ごとの、ハイマツが分布する山の最低標高を結んだ線です。b線は、それらの山においてハイマツが分布している最低標高を結んだ線です。このふたつの線が近いということは、「山の標高≒ハイマツが分布している標高」ということになります。つまり、ハイマツは山の頂上付近に分布している、ということがわかりますね。

 7は、ハイマツがどのような気候に生育しているかを答えます。これも、知識として知っている受験生はほとんどいないでしょう。そこで問題文を読むと、「オオシラビソという高木に成長する樹木」とあり、また「ハイマツは高標高地に生える代表的な低木」とあります。高木と低木では、低木の方が標高の高い地点に分布します。生物用語でいえば、日本のバイオームの垂直分布において、低木は高山帯に、高木はそれより標高の低い亜高山帯や山地帯、丘陵帯に分布します。標高が高くなると気温は低くなるので、ハイマツの方がオオシラビソよりも寒冷な気候に生育しているといえます。
 ちなみに、オオシラビソは亜高山帯に分布しています。

(解答)
4…陽
5…陰
6…頂上
7…寒冷

B
 「オオシラビソの生育に適していると考えられる気温の範囲であるにも関わらず、この種が分布しない理由」についての考察として不適切なものを答える問題です。選択肢をひとつずつ見ていきましょう。

(1)今回の問題は、オオシラビソが生育している本州中部~東北地方が舞台です。温暖帯でないことは明らかであり、「温暖帯の気候下では生育できない」というのは今回の考察としては的外れです。よって不適切であり、答えのひとつです。
(2)(3)下線部には、「現在の気候条件や、種としての水平分布域の変遷などからさまざまな説が唱えられてきた」とあります。積雪量や風の強さは「現在の気候条件」を反映した考察であり、適切です。
(4)オオシラビソは陰樹です。極相林は陰樹のみで構成されるのは基本知識ですから、この考察はおかしいことに気づきます。よって不適切であり、もうひとつの正解です。
(5)未だ分布域を拡大中という考えは、「水泳分布域の変遷」という視点からの考察と言え、下線部の説明と合致します。よって適切です。


(解答)
(1)、(4)

C
 花粉分析には、地中に埋まっている花粉を使うことが問題文に書いてあります。しかし、花粉は有機物であり、またとても小さいです。簡単に分解されて消えてしまいそうですよね。だから、少しでも花粉の保存状態の良いだろうと思われるところで花粉分析をすることが必要だと考えられます。

 ここまで思考が及べば、あとは「湿性遷移の過程にある湿地」と「花粉の保存状態が良いこと」とを結びつけようとします。そもそも、地中の有機物は微生物などの「分解者」によって分解されます。つまり、有機物を分解するのは生物です。下線部(エ)に記されている地域は標高が高いので低温であることが考えられます。低温なら、生物の活動は抑えられていそうですね。また、湿地なら、地中には水分が多く含まれていると考えられます。つまり、乾いた土よりも空気の乏しい、もっと言うなら、酸素が乏しい土壌環境であると言えます。酸素が少ないことも、微生物の活動を抑える要因となりそうですね。

 以上、「低温な気候である」ことと、「酸素の乏しい環境である」ことを盛り込んで、解答します。

(解答例)
高標高地は低温な気候であり、また湿地は酸素の乏しい土壌環境であるため、花粉が分解されず保存されている可能性が高いため。(59字)

D
 「オオシラビソの垂直分布は、約3500年前は約300~400m高い方にずれていた」という情報から、約3500年前の気候を推定します。オオシラビソの生育に適している気候条件は約3500年前から変わっていないとすると、現在オオシラビソが分布している標高における現在の気温と、そこから300~400m高い標高における約3500年前の気温が等しいということになります。標高が100m高くなると気温が約0.6℃低くなるので、300m~400m高い標高では約2℃気温が低くなります。よって、約3500年前の平均気温は現在より約2℃高かったと考えれば、オオシラビソが約3500年前は現在より300~400m高い標高に生育していた理由になりそうですね。

(解答)
(1)


E
 Dで、約3500年前はオオシラビソの生育に適した標高は現在より300~400m高かったことがわかりました。そしてその後、平均気温が徐々に下がるにつれて、オオシラビソの生育する標高も低くなり、現在の標高に達したと考えられます。

 ここまでわかってしまえば、「a線とb線の間に頂上の標高がある山にオオシラビソが生育していない理由」は明白ですね。つまり、a線より低い標高の山は、約3500年前は標高が低すぎて、オオシラビソが生育できる気候環境ではなかったのです。その後、オオシラビソの生育できる標高が下がってきたとはいえ、もともといなかったのですから、オオシラビソの種が山に飛んでこない限り、a線より低い山にオオシラビソは生育し得ないわけです。

(解答例)
約3500年前はオオシラビソの垂直分布が現在より300~400m高かったため、a線とb線の間に頂上の標高がある山にはオオシラビソが生育していなかったから。(69字)





いかがでしたでしょうか?「さまざまな知識を総動員して解く」というような問題ではありませんでしたが、解きにくい問題だったのではないでしょうか。記事の冒頭でも書きましたが、今回の問題は「文章読解能力が問われる」問題でした。a線やb線がなにを表しているのか、それらはどのような関係にあるのか、a線とb線が300~400mの差を保って平行になっているのはどのような意味があるのか……すべて問題文の情報をもとに考え、導かなければいけません。
 今回の問題で、問題文をちゃんと読むことがどれだけ重要か、実感していただけたら幸いです。みなさん、たとえ問題文が長くて読みたくなくても、文字を拒絶する脳に鞭を打って、最後まで読んでくださいね。(笑)

(解答例)
A 4…陽、5…陰、6…頂上、7…寒冷
B (1)、(4)
C 高標高地は低温な気候であり、また湿地は酸素の乏しい土壌環境であるため、花粉が分解されず保存されている可能性が高いため。(59字)
D (1)
E 約3500年前はオオシラビソの垂直分布が現在より300~400m高かったため、a線とb線の間に頂上の標高がある山にはオオシラビソが生育していなかったから。(69字)

2015/11/26 宮崎悠介

2015/11/24

分野別過去問解説です。今回は数列に関する問題を二問。最後に東大数学の数列の問題の特徴,傾向についても述べます。


問題1

まずは2005年理系第一問。




問題1の解答

(1)まず,$f(x)$を微分すると,$\frac{1-\log x}{x^2}$となるので$a_1=1,b_1=-1$とすることで問題の主張が成立する。次に,$n=k$のときに$f^{(k)}(x)=\frac{a_k+b_k\log x}{x^{k+1}}$と表せると仮定すると,もう一度微分することで,


$f^{(k+1)}(x)=\dfrac{\frac{b_k}{x}x^{k+1}-(k+1)x^{k}(a_k+b_k\log x)}{x^{2k+2}}\\ =\dfrac{b_k-(k+1)a_k-(k+1)b_k\log x}{x^{k+2}}$


となる。よって,


$a_{k+1}=-(k+1)a_k+b_k,b_{k+1}=-(k+1)b_k$


とすると,$n=k+1$のときも問題の主張が成立する。よって,数学的帰納法により題意は示された。そして,求める漸化式は$a_{n+1}=-(n+1)a_n+b_n,b_{n+1}=-(n+1)b_n$である。


(2)まず$b_{n+1}=-(n+1)b_n$を繰り返し用いると,


$b_n=-nb_{n-1}\\=(-1)^2n(n-1)b_{n-2}\\=\cdots \\=(-1)^{n-1}n!b_1\\=(-1)^nn!$


となり$b_n$が求まった。あとは,


$a_{n+1}=-(n+1)a_n+b_n=-(n+1)a_n+(-1)^nn!$


を用いて$a_n$を求めればよい。漸化式の両辺を$(-1)^{n+1}(n+1)!$で割ると,


$\dfrac{a_{n+1}}{(-1)^{n+1}(n+1)!}=\dfrac{a_n}{(-1)^nn!}-\dfrac{1}{n+1}$


よって,$\dfrac{a_n}{(-1)^nn!}=c_n$とおくと$c_{n+1}=c_n-\dfrac{1}{n+1}$となる。

この式を繰り返し使うと,


$c_n=-\dfrac{1}{n}+c_{n-1}\\ =\cdots \\=-(\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\cdots +\dfrac{1}{n})+c_1\\ =-h_n$


となる。よって,$a_n=(-1)^nn!c_n=(-1)^{n+1}n!h_n$



問題1のポイント,補足

・(1)は微分するだけの簡単な問題です。(2)は漸化式を解くだけの問題です。$a_n$を求める部分で一工夫必要ですが難しくはありません。
・(2)で「$h_n$を用いて」とあるので,漸化式を解いたときに$h_n$が登場することで安心できます。(1)の計算の検算にもなります。このように出てきた答えに自信が持てる問題は見直しに時間をかけずに別の問題に時間を使いましょう。
・数列(漸化式)がメインの問題というのは東大ではあまり出題されません。メインは整数,確率で,道具として数列(漸化式)を用いる,という問題は多いです。この問題は珍しく数列がメインの問題です。



問題2

続いて2011年理系第二問の(3)です。




問題2の解答

$p$を$q$で割った商を$A_1$,余りを$B_1$とすると,


$p=A_1q+B_1\:(0\leq B_1 < q)$


よって,$a_1$は$\dfrac{p}{q}=A_1+\dfrac{B_1}{q}$の小数部分,つまり$\dfrac{B_1}{q}$である。

以下このような操作を繰り返す。すなわち,$B_i=0$になるまで「$B_{i-2}$を$B_{i-1}$で割った商を$A_i$,余りを$B_i$とする」という操作を$i=2$から繰り返す。ただし,$B_0=q$とした。割り算の定義より


$B_{i-2}=A_{i}B_{i-1}+B_{i}\:(0\leq B_i < B_{i-1})$


となる。$a_1$の場合と同様に(帰納的に)$a_k=\dfrac{B_k}{B_{k-1}}\:(k=1,2,\cdots)$であることが分かる。

さて,$q=B_0 > B_1 > \cdots > B_i$なので,上記の操作は遅くとも$i=q$で終了する($q$以下の正の整数は$q$個しかない)。つまり,$q$以下の正の整数$N$が存在して$B_N=0$となる。よって$a_N=0$。したがって,$a_{N+1},a_{N+2},\cdots$も$0$になる(数列の定め方により一度$0$になるとそれ以降も全て$0$になる)ので題意は示された。



問題2のポイント,補足

・有理数の連分数展開が有限回で終わるという有名な定理を証明させる問題です。ユークリッドの互除法になじみがあれば解きやすいでしょう。東大の問題はこのように深遠な数学(今回は連分数展開)が背景にあることも多いです。
・数列メインの問題というより,数列は道具でメインは整数,論証の問題です。解答をきちんと書くのがけっこう大変な問題です。



まとめ〜東大数列の傾向〜

・問題1の補足でも述べたように,数列をメインとする問題は東大ではあまり出題されません(ただし,2015年には数列をメインとする問題が出題されています)。整数,確率の問題を解く際の道具として使うことが多いです。
・道具としての数列を使いこなすにあたって「漸化式を立てる,そしてそれをきちんと解く」というのが非常に重要になります。また,シグマ計算を素早くできることも重要です。
・「数列に関連する道具」としては数学的帰納法も非常に重要です(様々な分野の問題で頻出)。
・漸化式を解く問題では答えに$n=1,2$を代入して検算しましょう。つまらない計算ミスを防ぐことができます。


2015/11/12
 第4回となる今回は、発生に関する問題を扱います。東大生物において、発生は頻出分野ですが、「発生はニガテだ」という人が多いのも事実だと思います。今回の問題を通して、発生の問題に少しでも慣れていただければ幸いです。

では、問題を見ていきましょう。








A
 周辺組織を、神経などへの分化に誘導する部位のことを、形成体(オーガナイザー)とよびます。これは基本中の基本の知識ですね。

(解答)
形成体(オーガナイザー)



B
灰色三日月環とは、受精後の受精卵で表層回転が起きることによって精子進入点の反対側に生じる色の薄い部分のことです。灰色三日月環を含む側が将来背側になって、精子進入点は腹側になる、というのは知っておいてほしい知識です。そして、灰色三日月環と原口背唇部の位置は一致します。

 また、問題文を見ると、「背側決定因子が表層回転して原口背唇部の位置に移動する」とあります。つまり、表層回転することによって、背側決定因子が灰色三日月環の位置に移動する、とわかります。
 この背側決定因子がないと、背側構造が形成されず、正常に発生しないことが考えられます。つまり、2細胞期のイモリ胚の割球を分離したとき、両割球に背側決定因子が含まれていれば、両割球は正常に発生するが、背側決定因子が一方のみに偏って配分されてしまうと、両割球のうち片方は正常に発生するが、もう片方は正常に発生しないだろうと推測できますね。

 まさしくこれが答えで、灰色三日月環を含む部分が均等に両割球に配分されるかされないかの違い、ということになります。

(解答例)
灰色三日月環が第一卵割で両割球に分配されれば分離後正常に発生するが、分配されない割球ができるとその割球は正常に発生しないから。(63字)



C
 実験結果からAタンパク質のはたらきを推定する問題です。実験内容は、「Aタンパク質をコードする伝令RNAであるA RNAを、将来腹側になる箇所に注入すると、その箇所に二次胚が形成された」というものでした。

 この実験を詳しく解釈していきましょう。まず、「A RNAを注入する」と、注入された箇所でRNAからタンパク質が翻訳されるはずですから、「A RNAを注入する」=「Aタンパク質を注入する」と考えることができます。また、二次胚とは、本来の胚とは別にできる構造体のことを指します。つまり、本来の胚である一次胚から別の体が生えているような状態になるわけですね。A RNAは将来腹側になる箇所に注入されました。すると、その箇所に二次胚ができたということは、「腹側になるはずだったのに、A RNAを注入されたことによって背側になってしまった」ということになります。
 以上から、「Aタンパク質をコードする伝令RNAであるA RNAを、将来腹側になる箇所に注入すると、その箇所に二次胚が形成された」=「Aタンパク質を将来腹側になる箇所に注入すると、その箇所に背側の構造が形成された」と言い換えることができます。ここまでわかれば、「Aタンパク質は背側構造の形成を促進する働きがある」ということがわかりますね。

ちなみに、「促進」や「抑制」という言葉は生物を解く上でとても便利な言葉です。大体、生体内の物質はなにかしらの反応などを促進したり抑制したりするものですから。「○○という物質を入れたら□□という反応が起きた」という実験があれば、「○○は□□の反応を促進する」とすぐに言うことができます。記述問題を解答する際にも、難しく考えすぎず、シンプルに「促進」「抑制」などという言葉を使っていきましょう。

(解答例)
A RNAを注入すると将来腹側になる箇所に二次胚が形成されたことから、Aタンパク質は背側構造の形成を促進する働きを持つ。(60字)



D
 Cで検討したとおり、Aタンパク質は背側構造の形成を促進する働きがあります。つまり、二次胚を形成する働きを持ちます。また、Bたんぱく質については、「背側の決定を阻害する効果がある」とあります。つまり、二次胚の形成を阻害する、と考えられます。
 また、「Bタンパク質はAタンパク質のはたらきに対して影響を与えるが、Aタンパク質はBタンパク質のはたらきに影響を与えない」とあります。これはつまり、「Aタンパク質による二次胚形成促進作用より、Bタンパク質による二次胚形成阻害作用のほうが優位であり、Bタンパク質によってAタンパク質のはたらきが抑制される」ということですね。

 さて、ここで問題に戻ると、一定量のA RNAに対してB RNAを少しずつ増やして混合し、胚の腹側割球に注入するとどうなるか、です。Aタンパク質のはたらきを抑制するBタンパク質の量が少しずつ増えれば、二次胚がだんだん形成されにくくなる、と推測できます。そのような結果を反映しているグラフを探すと、(1)が合致しますね。これが正解です。

 ちなみに、(2)~(6)はなにが違うのかを検討します。(2)は(1)の反対の結果を示しているものなので当然間違いです。(3)と(4)は、Aタンパク質やBタンパク質が頭部肥大胚の形成に関わっているなどという内容は今回の問題文には全く出てきていないため、間違いです。(5)と(6)は、今回はA RNAとB RNAの混合液を腹側に注入しているため、背側構造の大きさには影響しないので間違いです。(背側構造が小さくなるのは、B RNAが胚の背側割球に注入された場合です。腹側割球に注入された場合は、目立った変化が起こらないと問題文に書いてあります。引っかからないようにしましょう!)

(解答)
(1)



E
 問題文によると、Aタンパク質とBタンパク質はともに胚全体に分布しています。つまり、そのままでは胚全体でAタンパク質のはたらきがBタンパク質によって抑制されているはずです。しかし、実際には背側構造が形成されるわけです。このことから、将来背側になる箇所では、Bタンパク質のはたらきが抑制されているのだと考えられますね。

 では、Bタンパク質のはたらきを抑制している正体はなんなのでしょうか?Aタンパク質はBタンパク質のはたらきに影響しないと問題文に書いてある以上、ほかの因子が関与していることがわかります。
 そこで問題文を見ると、「背側化因子が胚の表層回転により移動し、これによりAタンパク質が胚内で偏って機能する」と書いてあります。つまり、背側化因子によってAタンパク質が働けるようになり、そこが背側になったということです。これは、背側化因子がBタンパク質のはたらきを抑制することによってAタンパク質が働けるようにした、と考えられます。
 以上から、解答は以下のようになります。

(解答例)
背側化因子は、Bタンパク質のはたらきを抑制することで、Aタンパク質のはたらきを促進する。(44字)






いかがでしたでしょうか?発生の分野が苦手な人が多い理由として、「さまざまな物質や細胞の相互作用を考えねばならず、複雑である」ことがあげられるかと思います。しかし、問題文に書いてあるヒントや実験結果を組み合わせていけば答えにたどり着けることが、今回の問題を通して実感していただければ幸いです。複雑な問題になりがちな分野だからこそ、東大生物の面白さである「パズル的要素」が強調されていて、私は個人的には好きな問題です。(笑)


(解答例まとめ)
A 形成体(オーガナイザー)
B 灰色三日月環が第一卵割で両割球に分配されれば分離後正常に発生するが、分配されない割球ができるとその割球は正常に発生しないから。(63字)
C A RNAを注入すると将来腹側になる箇所に二次胚が形成されたことから、Aタンパク質は背側構造の形成を促進する働きを持つ。(60字)
D (1)
E 背側化因子は、Bタンパク質のはたらきを抑制することで、Aタンパク質のはたらきを促進する。(44字)


2015/11/12 宮崎悠介

2015/10/29
さて、第3回となりました。今回は、性染色体と連鎖に関する問題です。例によって、高校生物の教科書には出てこないような事例を用いた考察問題です。問題文をしっかり読み、ヒントをすべて拾っていきましょう。

なお今回は、たとえばX染色体にA遺伝子とB遺伝子がある場合は、X(A,B)と表記することにします。






A
 性染色体にある遺伝子による遺伝は、伴性遺伝です。事例としては、キイロショウジョウバエの白眼、ヒトの赤緑色覚異常や血友病などがあります。これは教科書の知識なので、すらっと解答できてほしい問題です。

(解答)
性染色体にある遺伝子による遺伝…伴性遺伝
事例…キイロショウジョウバエの白眼、ヒトの赤緑色覚異常や血友病などからひとつ


B
(a)
 交配1では、X(r)Y(R)とX(r)X(r)とを交配しています。一見、R遺伝子しか調べていないように見えます。しかし、問題は「どの2つの遺伝子の間の組み換えを調べているか」というものです。これはどういうことでしょうか?
 そこで、問題文をよく読んでみます。すると、「yの近傍には体の色に関わる2つの遺伝子RとLがある」「yはRとLの間に位置する」とあります。つまり、R遺伝子の近くに、y遺伝子があるのです。よって、交配1では、R遺伝子とy遺伝子の間の組み換えを調べているとわかります。y遺伝子はY染色体にしかなく、また優性や劣性の対立遺伝子もないため、わざわざ遺伝子型として表記する必要がなかったから、X(r)Y(R)としか書かれてなかったんですね。

 さて、交配1の結果生じた組み換え体はどのような表現型を持つかを考えます。X(r)Y(R)の個体が減数分裂をして、組み換えが生じた結果できる配偶子の性染色体は、X(R)またはY(r)となります。かけ合わせるX(r)X(r)の個体からは、X(r)を性染色体として持つ配偶子しか生じません。よって、組み換え体の遺伝子型はX(r)Y(r)またはX(R)X(r)となることがわかります。したがって、組み換え体が雄なら体色が赤くならず、雌なら赤くなります。

(解答例)
調べている遺伝子…y遺伝子とR遺伝子
組み換え体の表現型…雄なら体色が赤くならず、雌なら赤くなる。



(b)
 空欄10と11は、(a)で考えた通り、X(r)Y(r)とX(R)X(r)で決まりです。
 ここでは、交配2について考えます。交配2では、R遺伝子とL遺伝子との間の組み換えについて検討しています。
 まず、表1-1は検定交雑の結果なので、かけ合わせるのは劣性ホモの遺伝子型を持つ個体です。よって、空欄12はX(r,l)X(r,l)とわかります。
 調べた個体の遺伝子型はX(r,l)Y(R,L)なので、この個体から生じる配偶子のうち、組み換えの結果生じる配偶子の遺伝子型は、X(R,l)、Y(r,L)、X(r,L)、Y(R,l)の4つです。これらの配偶子と、遺伝子型がX(r,l)である、かけ合わせた個体からの配偶子によって、組み換え体ができます。よって空欄13と14には、X(r,l)X(R,l)とX(r,l)Y(r,L)が入ります。

(解答)
10、11…X(r)Y(r)、X(R)X(r)
12…X(r,l)X(r,l)
13、14…X(r,l)X(R,l)、X(r,l)Y(r,L)



C
(a)
 この問題のポイントは、「ふ化する前に、個体の遺伝子型としての性を区別する」というところにあります。ふ化する前なので、たとえば生殖器を見て「この個体は雄だ、雌だ」などと議論することはできないわけです。また、この問題で出てきている遺伝子の話ならば、体色が赤色かその他の色かは判断材料には使えません。なぜなら、「赤い体色になるかは受精後1ヶ月たたないと判別できない」と問題文に書いてあるからです。

 では、ふ化前に性別を判断するには、何を見ればいいのでしょうか?そこでもう一度問題文を読むと、「白色素胞は受精後2日で現れ、顕微鏡で観察できる」とあります。これが使えそうです。つまり、X染色体とY染色体で白色素胞に関する遺伝子であるL遺伝子が異なり、白色素胞が形成されているかいないかで雌雄が班別できる、という方向性で考えるわけです。

 そこで問題なのは、X染色体とY染色体のどちらにL遺伝子があって、どちらにl遺伝子があるか、ということです。もしL遺伝子がX染色体、l遺伝子がY染色体にあるとすると、雌はX(L)X(L)、雄はX(L)Y(l)となり、両方とも白色素胞を持つことになるので、これではだめです。
 では逆に、L遺伝子がY染色体に、l遺伝子がX染色体にあるとするとどうでしょうか。その場合、雌はX(l)X(l)、雄はX(l)Y(L)となり、雌は白色素胞を持たず、雄は持つことになります。これなら、ふ化前に顕微鏡下での観察で雌雄判別ができそうですね。

(解答)
遺伝子型…X染色体:l 、Y染色体:L
表現型…雌:白色素胞を持たない、雄:白色素胞を持つ



(b)
 (a)で登場したL遺伝子と、X染色体とY染色体とを区別するy遺伝子は近傍に存在するため、組み換えが起こります。まずは、表1-1から、このふたつの間の組み換え価を求めましょう。
 交配1から、R遺伝子とy遺伝子の間の組み換え価が11/6395=0.172%であることがわかります。また、交配2から、R遺伝子とL遺伝子の間の組み換え価が102/4478=2.278%であることがわかります。R遺伝子、L遺伝子、y遺伝子は以下のような位置関係にあるので(問題文に「yはRとLの間に位置する」とあることは、問題B(a)で確認しましたね)、L遺伝子とy遺伝子の間の組み換え価は、2.278%-0.172%=2.106%であることがわかります。




 さて、ここでこれを答えにしてはいけません。聞かれているのは、「色の表現型と遺伝子としての性はどのくらいの確率で一致するか」です。つまり、「組み換えが起こらず、白色素胞を持たなければ雌、持てば雄という判断ができるのは、どのくらいの確率か」ということです。よって、答えは100-2.106≒97.9%です。

(解答)
97.9%






 いかがでしたでしょうか?伴性遺伝の問題はただでさえ複雑なのに、そこに連鎖が絡む問題でした。遺伝が苦手な人にとっては、手も足もでない問題だったかもしれません。
 しかし、伴性遺伝とは何か、連鎖とは何か、その仕組みを理解していれば、決して難しい問題ではありません。

 今回難しかったのは、問題文をしっかり読んで解答のヒントを見つけないと、正解までたどり着けないという点です。例えば問題B(a)では、R遺伝子、y遺伝子、L遺伝子がその順で互いに近くに存在しているという状況から、遺伝子が決定できました。また、問題C(a)では、体色は受精後1ヶ月経たないとわからないが、白色素胞は受精後2日で観察できるようになるという記述から、L遺伝子を解答の足掛かりとして見つけることができたわけです。
 このように、問題文にはどんな形でヒントが隠れているかわかりません。文章が長くて一見読みづらそうな問題文でも、一字一句逃さないという意識をもって取り組んでください。

(解答まとめ)
A   性染色体にある遺伝子による遺伝…伴性遺伝
   事例…キイロショウジョウバエの白眼、ヒトの赤緑色覚異常や血友病などからひとつ
B(a) 調べている遺伝子…y遺伝子とR遺伝子
    組み換え体の表現型…雄なら体色が赤くならず、雌なら赤くなる。
 (b) 10、11…X(r)Y(r)、X(R)X(r)
    12…X(r,l)X(r,l)
    13、14…X(r,l)X(R,l)、X(r,l)Y(r,L)
C(a) 遺伝子型…X染色体:l 、Y染色体:L
    表現型…雌:白色素胞を持たない、雄:白色素胞を持つ
 (b) 97.9%

2015/10/29 宮崎悠介

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