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特集ブログ ~自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分~

 東大生や東大卒業生が、自身の合格体験を基にアドバイスをしているブログや書籍は数多くある。もちろん、有益なものも多い。
 ただし、実際に生徒指導をしていると、自身の東大合格体験はあくまでも一例でしかないことに気づく。生徒を東大に受からせるには、学科知識、教材・模試・過去問の活用法、受験戦略、学習方法のすべてを見直し体系化する必要がある。

 情報が氾濫する時代だからこそ、自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分。自らが東大合格体験者でもあり、東大受験専門の塾・予備校の講師として毎年、生徒を東大合格に導いているメンバーのみが運営する『東大入試ドットコム』の特集ブログです。

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2015/10/26

今回は東大1983年の理系第6問のいろいろな解法を解説します。問題はかなり古いですが,良問です。最後に積分で体積を求める問題についての注意点を述べます。


問題

放物線$y=\dfrac{3}{4}-x^2$を$y$軸のまわりに回転して得られる曲面$K$を,原点を通り回転軸と$45^{\circ}$の角をなす平面$H$で切る。曲面$K$と平面$H$で囲まれた立体の体積を求めよ。


初手(全解答の共通部分)

曲面$K$の式は,$y=\dfrac{3}{4}-x^2-z^2$である。また,平面$H$の方程式は$y=x$としてもよい(このあたりは空間座標の基本的な知識が必要,東大を受験する理系なら短時間で突破したい)。


解答1:$z=t$で切る

$z=t$で切った断面の面積$S(t)$を考える。曲面$K$と$z=t$の共通部分は$y=\dfrac{3}{4}-x^2-t^2$であり,平面$H$と$z=t$の共通部分は$y=x$である。よって,この放物線と直線で囲まれた図形の面積が$S(t)$である。放物線と直線の交点の$x$座標を$\alpha,\beta$とおくと,1/6公式より

$S(t)=\dfrac{|\beta-\alpha|^3}{6}$

一方,$\alpha,\beta$は二次方程式$x=\dfrac{3}{4}-x^2-t^2$の解なので,解と係数の関係より

$(\beta-\alpha)^2=(\alpha+\beta)^2-4\alpha\beta=1-4(t^2-\dfrac{3}{4})=-4t^2+4$

となる。以上から$S(t)=\dfrac{4}{3}(1-t^2)^{\frac{3}{2}}$

よって,求める体積は

$V=\int_{-1}^1S(t)dt=\dfrac{8}{3}\int_0^1(1-t^2)^{\frac{3}{2}}dt$

($\alpha=\beta$となるのが$t=\pm 1$であるときなので積分範囲が分かる)

あとは$t=\cos\theta$と置換して積分するのみ:

$V=-\dfrac{8}{3}\displaystyle\int_{\frac{\pi}{2}}^0\:\sin^3\theta\sin\theta d\theta\\=\displaystyle \dfrac{2}{3}\int_0^{\frac{\pi}{2}}(1-\cos 2\theta)^2d\theta\\=\dfrac{\pi}{2}$

最後の積分計算は少し省略しましたが,わりと簡単な計算です。


解答2:$x=t$で切る

$x=t$で切った断面の面積$S(t)$を考える。曲面$K$と$x=t$の共通部分は$y=\dfrac{3}{4}-t^2-z^2$であり,平面$H$と$x=t$の共通部分は$y=t$である。放物線と直線の交点の$z$座標を$\alpha,\beta$とおくと,1/6公式より

$S(t)=\dfrac{|\beta-\alpha|^3}{6}$

一方,$\alpha,\beta$は二次方程式$t=\dfrac{3}{4}-t^2-z^2$の解なので,

$|\beta-\alpha|=2\sqrt{-t^2-t+\dfrac{3}{4}}$

よって,求める体積は

$V=\displaystyle\int_{a}^bS(t)dt=\dfrac{4}{3}\int_a^b(-t^2-t+\dfrac{3}{4})^{\frac{3}{2}}dt$

ただし,$a,b$は$-t^2-t+\dfrac{3}{4}=0$の解である,つまり$a=-\dfrac{3}{2},\:\:b=\dfrac{1}{2}$

これを積分する必要があるが,解答1よりはかなり難しい。ルートの中が二次式であることに注意して置換積分を行う。$t=-\dfrac{1}{2}+\cos\theta$と置換すると,ルートの中身は

$-(t+\dfrac{1}{2})^2+1=\sin^2\theta$

となるので,

$V=\dfrac{4}{3}\displaystyle\int_{\frac{\pi}{2}}^0\sin^3\theta\cdot(-\sin\theta)d\theta\\=\dfrac{8}{3}\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^4\theta d\theta$

これは解答1と全く同じ式である。以下解答1と同様に積分すればOK。


解答3-1:$y=x+t$で切る

高校では習わない知識(正射影と面積の関係)を認めれば$y=x+t$で切っても計算できます。$y=x+t$で切った断面の面積$S(t)$を考える。曲面$K$と$y=x+t$の共通部分は$x+t=\dfrac{3}{4}-x^2-z^2$,つまり$(x+\dfrac{1}{2})^2+z^2=1-t$である。

この式は$xz$平面における円の方程式を表す。つまり,断面を$xz$平面に正射影すると半径$\sqrt{1-t}$の円になる。よって,

$S(t)=\sqrt{2}\pi (1-t)$

したがって,求める体積は,

$\int_0^1S(t)\cdot\dfrac{1}{\sqrt{2}}dt=\dfrac{\pi}{2}$


解答3-2:$y=x+t$で切る

回転放物面と平面の共通部分が楕円になることを認めれば,正射影を考えなくても$S(t)$が計算できます。計算の詳細は省略しますが,$y=x+t$で切った断面は長軸の長さが$2\sqrt{2}\sqrt{1-t}$,短軸の長さが$2\sqrt{1-t}$の楕円になるので,$S(t)=\sqrt{2}\pi (1-t)$となります。


積分で体積を求める問題について

・東大では積分を用いて立体の体積を求める問題が頻出です。この手の問題では切る方向が非常に重要になります。切る方向が不適切な場合,積分計算が非常に複雑になります(or計算出来ない)。どの方向から切るべきなのか考える時間は長めに取りましょう。

・立式しても終わりではありません。定積分の計算は非常にミスしやすいので,計算はかなり丁寧にしましょう。答案に途中式を細かく書くと検算もしやすいのでおすすめです。そして出てきた値が実際の立体の体積の値として妥当かどうかも確認しましょう。

2015/10/15
さて、第2回を迎えました。前回は、ある遺伝子をノックアウトしたマウスを用いた実験考察問題を扱いましたね。

今回は、少し特殊な問題を扱います。知識問題とも、実験考察問題とも言えない、「東大生物にはこんな問題もでるのか」という興味深い問題です。しかし、「与えられた情報をもとに論理的に考える力」を問われている、ということに変わりはありません。

それでは、問題を見ていきましょう。







A

さきほど、「今回の問題は知識問題でも実験考察問題でもない」と言いましたが、この問題は知識問題の色が濃いです。

図3-2に出てくるイトミミズ、ユスリカ、トンボ、アメリカザリガニが系統的にどういう関係にあるのか、という問題です。これらの動物がどう分類されるのかは、知っておいてほしい知識です。

イトミミズは環形動物、ユスリカ、トンボ、アメリカザリガニは節足動物です。さらに、ユスリカとトンボは、昆虫です。アメリカザリガニは、甲殻類です。ということは、ユスリカとトンボが系統学的に一番近い関係にある、と言えます。つまり、問題のaとbには、ユスリカとトンボが入ると考えられますね。すると、両者に次に近い関係にあるのは、同じ節足動物であるアメリカザリガニなので、cにはアメリカザリガニが入ります。そして、残ったdにイトミミズが入るので、答えは(2)とわかります。

ちなみに、ヒトデは棘皮動物です。このように、動物の分類が出題されることは意外とあります。しかし、この手の問題で問われる動物はたいてい決まっているので、代表的な動物名のみ覚えておけば対応できます。

「この問題、正直わかりませんでした・・・」という人は、今すぐ教科書を開いて、動物の分類名(○○動物門)と代表的な動物名を確認してくださいね。


B

まずは、問題文が意図していることを整理します。
図3-2で、オオクチバスからトンボ幼虫に向かって、「消費が与える負の影響」という矢印が伸びています。これは、「オオクチバスがトンボ幼虫を捕食する」ことを指していると考えられます。このオオクチバスを駆除すると、捕食者がいなくなるのでトンボ幼虫は増えそうな気がしますが、実際には減少する可能性がある、と問題文で言っています。理由は、「オオクチバスの捕食がトンボ幼虫に与える直接的な負の影響よりも、ある2つの間接的な正の影響の総和の方が強い」から、と書いてあります。

つまり、「オオクチバスがトンボ幼虫に与える、トンボ幼虫の生存にとって有利に働く2つの正の影響がある。この正の影響がとても大きいので、オオクチバスによって食べられるという負の影響を受けてもなお、トンボ幼虫はため池で生存することができる。オオクチバスを駆除すると、捕食される危険がなくなるが、正の影響が同時に消えてしまうので、そのことがトンボ幼虫にとって痛手で、結果としてトンボ幼虫はさらに減少することになる」ということです。

そして、問題で聞いているのは、この正の影響とはなにか、です。つまり、「オオクチバスがトンボ幼虫に与えている正の影響」を答える問題です。

そこで図3-2を見てみると、トンボ幼虫はアメリカザリガニに捕食されており、またアメリカザリガニは、トンボ幼虫に正の影響を与えている水草をも捕食しています。つまり、トンボ幼虫は、アメリカザリガニから直接的に、また間接的に負の影響を与えられているわけです。
しかし、アメリカザリガニはオオクチバスによって捕食されています。まさしくこれが答えであり、要はオオクチバスはアメリカザリガニを捕食することで、トンボ幼虫に正の影響を与えているのです。

よって、答えは以下のようになります。

(解答例)
オオクチバスがアメリカザリガニを捕食することによる、トンボ幼虫の被食量の減少。(39字)
オオクチバスがアメリカザリガニを捕食することによる、環境形成作用を持つ水草の被食量の減少。(45字)


C

アメリカザリガニの個体数を減らす、駆除以外の有効な方法を答えます。
一般に、ある生物の個体数を減らす方法として、どのようなものがあるかを考えます。

ぱっと思いつくものとしては、

①罠や狩猟による駆除
②天敵に捕食させることによる駆除
③住処の破壊
④食物の排除

といったところでしょうか。このなかで、どれが答えとして適切かを考えます。

そこで問題文を見てみると、「在来生物への影響がもっとも少ないと考えられる駆除以外の有効な方法」とあります。この条件にあてはまるものはどれでしょうか。

まず、①以外の方法と言われているので、①は除外します。
②は、確実にアメリカザリガニの個体数は減るでしょうが、ほかの在来生物をも捕食してしまう可能性があります。
③は、確実にほかの在来生物の個体数も減少してしまうので、この問題の答えとしては論外ですね。
④は、①~③と比較すると、ほかの在来生物への影響が少なそうなので、答えの可能性としては一番高いでしょう。(ほかの在来生物への影響がないわけではないでしょうが、「影響がもっとも少ないと考えられる」という条件には当てはまりそうです。)

そこで、④について検討します。図3-2によると、アメリカザリガニはトンボ幼虫、水草、イトミミズ・ユスリカ幼虫、雑木林の落葉をエサにしています。このうち、トンボ幼虫、水草、イトミミズ・ユスリカ幼虫は在来生物そのものなので、排除してはいけませんね。よって、可能性として考えられるのは、「雑木林の落葉」です。ため池は里山にあるので、落葉は量としてはかなり多いでしょうし、これを排除すればアメリカザリガニが食べることのできるエサは激減すると考えられます。

以上から、「落葉を排除すること」、「ため池に落葉が溜まらないようにすること」が、「在来生物への影響がもっとも少ないと考えられる駆除以外の有効な方法」と言えます。

よって、答えは以下のようになります。

(解答例)アメリカザリガニの食物を減らすために、ため池やその周辺から雑木林の落葉を排除し、またため池に落葉が溜まらないように管理する。(62字)





いかがでしたでしょうか?知識問題でも、実験考察問題でもない、独特な雰囲気をもつ問題でした。東大生物には、時としてこのような問題が出題されることもあります。
今回の問題のポイントとしては、「与えられた文章と図から、いかに必要な情報を抽出し、論理的に解釈できるか」だと言えます。知識は必要なく、純粋に与えられた情報のみから正答を導く、パズルのような問題です。
なので、東大生物では、たとえ問題文や図が長くて読み飛ばしたくなっても、そこをぐっとこらえてすみずみまで見渡すことが重要です。

今回のような問題は特殊なので、ほとんどの人が経験したことのない出題だったと思います。過去問や模試、入試本番でも今回のような問題が出る可能性は十分ありますから、「こんな問題やったことない!」と焦ることなく、冷静に考えられるようになることが大切です。

東大生物に出てくるような問題は、受験生の誰もやったことのない問題ばかりですから。

(解答例まとめ)
A (2)
B オオクチバスがアメリカザリガニを捕食することによる、トンボ幼虫の被食量の減少。(39字)
  オオクチバスがアメリカザリガニを捕食することによる、環境形成作用を持つ水草の被食量の減少。(45字)
C アメリカザリガニの食物を減らすために、ため池やその周辺から雑木林の落葉を排除し、またため池に落葉が溜まらないように管理する。(62字)


2015/10/15 宮崎悠介

2015/10/04

分野別過去問解説の第四弾です。今回は微分(関数の最大値を求める)の問題を二問。最後に東大数学の微分の問題の特徴,傾向についても述べます。


問題1

まずは2011年第一問(文理共通)。




問題1の解答

(1)直線$QR$と$y$軸の交点を$A$とする。$A$の$y$座標は$a$なので$PA=1-a$である。あとは$Q$の$x$座標$q_x$と$R$の$x$座標$r_x$の差を求めればよい。


$q_x,r_x$は,円の方程式$x^2+(y-1)^2=1$と直線の方程式$y=a(x+1)$から$y$を消去した$x$についての方程式の解である。実際に$y$を消去すると,

$x^2+a^2(x+1)^2-2a(x+1)=0$
$(a^2+1)x^2++2(a^2-a)x+a^2-2a=0$

よって,解と係数の関係より,

$q_x+r_x=-\frac{2(a^2-a)}{a^2+1},\:\:q_xr_x=\frac{a^2-2a}{a^2+1}$

これを用いると,

$|q_x-r_x|=\sqrt{(q_x+r_x)^2-4q_xr_x}=\frac{2\sqrt{2a}}{a^2+1}$

以上より求める面積は,

$S(a)=\frac{1-a}{2}\cdot\frac{2\sqrt{2a}}{a^2+1}=\frac{(1-a)\sqrt{2a}}{a^2+1}$


(2)$S(a)$を頑張って微分すると,

$S'(a)=\frac{(a+1)(a-2+\sqrt{3})(a-2-\sqrt{3})}{(a^2+1)^2\sqrt{2a}}$

よって,$S(a)$が最大となるのは$a=2-\sqrt{3}$のときである。


問題1のポイント,補足

・(1)は東大にしては考え方が易しめなので「少々大変でもとにかく計算をやりきること」「結果に自信を持って(2)に進めるように検算をすること」が重要です。
・検算方法の例として,(1)の答えに$a=0$や$a=1$を代入すると0になることが確認できます。
・(2)もただ微分するだけの易問です。$S(a)$のルートを外すために二乗してから微分するという方法もありますが,計算量はほとんど変わりません。
・(2)の答え$2-\sqrt{3}$はだいたい$0.27$です。これは直感的にも正しそうな値なので自信を持って次の問題に行けます。


問題2

続いて1998年理系第一問(文理共通)。




問題2の解答

$f(x)$を微分すると,

$f'(x)=9x^2-6(a-\frac{1}{a})x-4=(3x-2a)(3x+\frac{2}{a})$

よって,極大値と極小値の差は$f(\frac{2}{3}a)$と$f(-\frac{2}{3a})$の差である。計算していくと,


$f(\frac{2}{3}a)-f(-\frac{2}{3a})=(\frac{4}{3}a^2-4)(\frac{1}{a}-\frac{a}{3})-(\frac{4}{3a^2}-4)(\frac{1}{3a}-a)\\=\frac{4}{9a^3}(a^6+3a^4+3a^2+1)\\ =\frac{4}{9a^3}(a^2+1)^3$


となる。$a$を$-a$にしても極大値と極小値の差は変わらない。よって,以下$a$が正の場合を考える。
ここからは微分ではなく相加相乗平均の不等式を用いるのが賢い。

$\frac{4}{9a^3}(a^2+1)^3=\frac{4}{9}(a+\frac{1}{a})^3\\\geq\frac{4}{9}\left(2\sqrt{a\cdot\frac{1}{a}}\right)^3\\ =\frac{32}{9}$

等号成立は$a=1$のとき。よって答えは$a=\pm 1$



問題2のポイント,補足

・これも東大にしてはかなりの易問。計算ミスのないように何度も検算すべき。
・ちなみに($f'(x)=0$の解を$\alpha,\beta$とおき),

$f(\alpha)-f(\beta)=\int_{\beta}^{\alpha}f'(x)dx$

を用いて計算することもできる。この方法の方が計算は楽だが,発想力が必要。本番は愚直な方法でも良いから完答することが重要。


まとめ〜東大微分の傾向〜

・微分を中心とした問題は易しい問題が多い(一方積分中心の問題は発想,計算ともに難しい問題が多い)。
・ただし,微分の計算自体はかなり複雑な問題もある。発想力では差がつかないことが多く,とにかく計算ミスをしないことが重要。
・今回の問題1のように,前半の小問で図形のとある量を計算させ,後半の小問でその量の最大値(または最小値)を微分を使って求めさせる問題が頻出。

2015/10/01
今回は、最新年度である2015年度の第1問を題材にしようと思います。

前回の記事で説明したような概要を頭にいれつつ、早速問題を見てみましょう!






今回の問題は、ノックアウト動物を用いた実験でした。ノックアウト動物とは、ある特定の遺伝子の働きを欠損した動物のことです。その動物の生理作用などを観察することで、欠損した遺伝子の働きを知ることができるんですね。(たとえば、ある遺伝子を欠損するとインスリンという物質が分泌されなくなったとすると、その遺伝子はインスリンの分泌に必要な遺伝子であるということがわかりますね)

今回は、オキシトシンというホルモンの遺伝子をノックアウトしたマウスを用いた実験でした。「オキシトシンってなんだっけ??」という人、心配ご無用です。今回の問題は、オキシトシンの生理作用を知らなくても解けるようにできています。
では、実際に問題を解いていきます。

A

表1-2を見てみると、仔の遺伝子型と産仔数から、メンデルの法則に則った遺伝をしていることがまずわかります。そして問題の仔マウスの生存率ですが、100%か0%のどちらかです(96%とか98%とかもありますが、ここではこれらも100%とカウントしています。実は、正常な仔マウスでも産後すぐに死んでしまうというのは、珍しいことではないのです)。
そこで、仔マウスの24時間後の生存率が100%のときと0%のときの、父、母、仔それぞれの遺伝子型をまとめてみます。



こうしてみてみると、父と仔の遺伝子型は、仔の生存率にあまり関係なさそうということがわかります。(なぜなら、父や仔がOT遺伝子を持ってようと持ってなかろうと、仔の生存率が100%になることもあれば、0%になることもあるからです。)
しかし、母の遺伝子型を見ると、母がOT遺伝子を持ってるときは仔の生存率は100%に、OT遺伝子を持たずot遺伝子しか持っていないと仔の生存率は0%になっています。
このことから、仔の生存率には、父や仔の遺伝子型は無関係で、母の遺伝子型が関与していることがわかります。

それを踏まえて、以下のような解答例が書けますね。

(解答例)父と仔の遺伝子型は仔マウスの生存率に無関係だが、母の遺伝子型は仔マウスの生存率に影響し、OT/otだと仔マウスの生存率は100%に、ot/otだと0%になる。(67字)

この問題のポイントは、乱雑な表の情報を、いかに簡潔に整理できるかである、と言えるでしょう。表から情報を読み取る際、よくわからなければ上記のような簡単な表を作ってみるのもいいかもしれません。

ちなみに、この問題で聞かれているのは「遺伝子型が生存率に与える影響」だけなので、「なぜ母の遺伝子型がOT/otだと生存率100%で、ot/otだと0%なのか」は答える必要がありません。聞かれていないことですし、それを書き始めると2行程度という指定をオーバーしてしまいますし、なにより「遺伝子型が生存率に影響を与える理由」は次の問題で考えるからです。

B

Aの問題で、母親の遺伝子型が仔の生存率に影響することがわかりました。母親がOT遺伝子を持っている、つまりオキシトシンを作ることができると仔は生存し、OT遺伝子を持っていない、つまりオキシトシンを作ることができないと仔は死んでしまうようです。

実験2で「オキシトシンは子宮や乳腺、社会的行動や性行動に関わるニューロンに受容体が1種類存在すること」、実験3で「実験1で用いたすべての母親について、保育行動には問題がなかった」と書いてあることから、オキシトシンが分泌できないことによる生理的機能不全が、仔マウスの生存率低下の原因と考えられます。

よってまず(1)(2)(6)は除外できますし、オキシトシンは腎臓機能や体温維持には関係ないので、(3)(4)も違います(というより、(3)(4)のような母親はそもそも生存できないでしょう)。

よって、正解は(5)とわかります。オキシトシンの受容体が乳腺に存在している(実験2より)ことからも、この選択肢が妥当と言えます。また、理由の記述としては以下のような解答例が考えられます。

(解答例)仔マウスの生存率には母の遺伝子型が影響するため、母に生じた何らかの機能不全が原因である。オキシトシンの受容体が乳腺に存在することから、(5)が適切と考えられる。(78字)

C

A、Bの問題を通して考えたことを整理すると、「母がオキシトシンを分泌できないと、乳がでないため、仔マウスが生存できない」となります。この理由が正しいかを確かめるにはどうしたらいいでしょうか?・・・乳を与えて生存するか確かめればいいだけですね。よって、解答例は以下のようになります。

(解答例)遺伝子型がot/otの母の仔マウスに人為的に授乳すれば、仔マウスの生存率は上昇するはずである。(43字)

ちなみに、「遺伝子型がot/otの母の」という記述は必須です。なぜなら、ot/ot以外の遺伝子型の母から生まれた仔マウスに授乳して生存したとしても、「母親の遺伝子型がot/otではなかったから生存した」のか、「授乳したから生存した」のかがわからないからです。「人為的に授乳する」以外の実験条件は、完全に一緒でなければなりません。

このように、他の条件は変えずに、あるひとつの条件を変えてその影響を見る実験を対照実験といいます。



いかがでしたでしょうか?東大の生物といえども、論理的に考えればそこまで難しい問題ではない、ということを実感していただけたら嬉しいです。
今回の問題では、「本文中の乱雑な表を整理して必要な情報を抽出する力」、「導いた答えを次の問題のヒントにして有機的、論理的に考える力」が問われていたと言えます。

このような力をつけるには、やはり同じような問題を解くことが近道です。たとえば今回の問題をしっかり復習したうえで、1週間後にもう一回解き直して、(答えを覚えるのではなく)論理的な説明とともに正解を導けるかを確認するのはひとつの有効な手段だと思います。(生物を選択している友達に問題を見せて解説するというのもいいかもしれませんね)

(解答例まとめ)
A 父と仔の遺伝子型は仔マウスの生存率に無関係だが、母の遺伝子型は仔マウスの生存率に影響し、OT/otだと仔マウスの生存率は100%に、ot/otだと0%になる。
B 仔マウスの生存率には母の遺伝子型が影響するため、母に生じた何らかの機能不全が原因である。オキシトシンの受容体が乳腺に存在することから、(5)が適切と考えられる。
C 遺伝子型がot/otの母の仔マウスに人為的に授乳すれば、仔マウスの生存率は上昇するはずである。

2015/10/1 宮崎悠介

2015/09/28
これから東大生物の問題を扱っていくなかで、「そもそも東大生物ってどんな感じの出題なのか?」を知っておく必要があります。
ということで、東大生物の概要・特徴を箇条書きで簡単に説明します。

・大問3題で構成される。
・化学などのように、第一問はこの分野からの出題、というような設定はなく、毎回テーマはばらばらに出題される。
・どの大問も、2~3つの文章からなる。基本的にはそれらの文章は関連がある。
・扱われる文章、テーマは高校の教科書には出てこないような内容ばかりであるが、教科書の知識+文章の内容をきちんと理解すれば解けるように構成されている。
・論述問題が必ず出題される。もちろん知識問題もある。

だいたいこんな感じです。基本的に実験考察問題がメインになってくるので、与えられた文章と自分の知識とを併せて論理的に実験結果を解釈することが求められます。
また、知識問題も侮れません。生物の配点60点中、約20点ほどが知識問題にあてられています。つまり、教科書の知識を完璧に頭の中に入れておけば、あとは実験問題の半分を取れれば、それだけで40点は簡単にとれるわけです。(と、簡単に言いましたが、知識問題を完答するのは至難の業なので、実験考察問題を得意にして確実に点数を稼げるようにしておくのがベストです笑)

また、東大生物の論述は字数指定ではなく行数指定です。1行当たり30~35字が目安なので、たとえば「3行程度で答えなさい」という問題ではだいたい100字ほどの論述が求められると考えてください。

以上が、ざっくりとした東大生物の概要です。

それでは、次の記事から、実際に問題を見てみましょう!

2015/9/28 宮崎悠介

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