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特集ブログ ~自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分~

 東大生や東大卒業生が、自身の合格体験を基にアドバイスをしているブログや書籍は数多くある。もちろん、有益なものも多い。
 ただし、実際に生徒指導をしていると、自身の東大合格体験はあくまでも一例でしかないことに気づく。生徒を東大に受からせるには、学科知識、教材・模試・過去問の活用法、受験戦略、学習方法のすべてを見直し体系化する必要がある。

 情報が氾濫する時代だからこそ、自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分。自らが東大合格体験者でもあり、東大受験専門の塾・予備校の講師として毎年、生徒を東大合格に導いているメンバーのみが運営する『東大入試ドットコム』の特集ブログです。

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2015/07/10


今回も前回に引き続き2004年の問題です。パッと見た感じだと普通の和文英訳か?という印象ですが、「この内容について英語圏からきた留学生の隊員に質問されたと仮定し、その要点を60語程度の英語で述べよ。」という問題文。
今回のような「要点をまとめよ」系の問題は2001年から2004年の間は毎年出題されていました。最近の入試では目にしませんが、イラスト問題が2015年に8年ぶりに出題されたように同様の形式が再び出題される可能性は否定できません 。たとえ最近の出題傾向とは異なる過去問だったとしても、その演習は全く無駄にはなりません。

ちなみにこの「留学生に英語で説明する」という場面、特に大学院進学後に毎日のように経験することになります。学部にもよりますが東大には多くの留学生が在籍しています。英語圏出身の留学生よりも、中国、タイ、インドといったアジア圏出身の人が多い印象です。ちなみに私の研究室は交換留学生等も含めると日本人学生:留学生=1:1、半数が留学生です。もちろん英語でコミュニケーションするしかありません。そういった意味ではこの問題は東大でのリアルな生活を仮定しているのかもしれませんね。

さて、本題に戻りましょう。「要点を述べよ」との指示ですが、元の文もそれほど長くなく、60語もあれば十分に全ての発言の文意を汲み取った答案を作れそうです。もちろん和文英訳ではありませんから、「ちょっと聞いてください」だとか「ご覧の通り」、「どうでしょう」といった言葉は英語にする必要はありません。隊長が伝えようとしていることを必要十分に英語で言い換えればOKです。
答案を考える前にまずは隊長の発言を簡単に日本語で要約してみましょう。

出発の時間だが、天気が悪くなってきた。
今出発すると途中で激しい雷雨に遭うかもしれない。
しばらく待って天気が良くなれば出発、2時間経っても変わらなければ出発は明日に延期。


以上の内容を書いておけば十分でしょう。このくらいの内容であれば時間をかけずに英文を完成させたいところです。

にわか雨に遭う・・be caught in a shower
〜の途中で・・・・on the way
〜を延期する・・・put off, postpone

あたりの重要表現さえ押さえておけばそれほど苦労しないはず。しっかり点数を取りたい問題です。

では前回に引き続き工学部のHくんが書いた答案を見てみましょう。


■ H 君の答案


まず「雨が降りそうだの箇所」について。確かに gonna = going to の意味ですが、wanna, gotta 等と同様にあくまでもスラングですので答案では使うべきではないでしょう。「雲行きが怪しくなってきた」という表現の ”今にも降り出しそう” というニュアンスを上手く出すには will や seem を使うのではなく、be going to rain, be likely to rain, look like rain といった表現を使う方が良いでしょう。

might be caught in a heavy rain でも問題ありませんが、might get caught in a heavy rain のように get を使うこともできます。また問題文では “雷雨” と書かれているので heavy rain ではちょっと物足りない。雷雨は thunderstorm で書くことができますが、それが分からなかったとしても heavy rain and thunder ぐらいで凌ぎたいですね。

「天気が回復する」という箇所で recover を使っていますが、健康や損失といったものを目的語とすることが多い単語であり今回の文脈ではイマイチ。improve やシンプルに change を使っても良いでしょう。
postpone the departure until tomorrow ももっとシンプルに書けそう。あくまでも「留学生に伝える」ことを前提にするのであれば we’ll leave tomorrow だけでも十分かもしれません。日本語でも「出発を明日に延期する」よりも「明日出発する」の方がシンプルですよね。

このように与えられた日本語を「シンプルな英語で書く」練習をしておくことで、言い換え表現の引き出しを増やしておきましょう。同じ表現の繰り返しを嫌う英語という言語でモノを書く上で "同じ意味のことを色々な言い回しで書ける" ことは非常に大切です。これは大学受験だけでなく、むしろその後の大学・大学院生活で痛感することかもしれませんが...


以上を踏まえてH君の答案をブラッシュアップしてみました!

The team leader says that it looks like rain though it’s time to leave. If we leave now, we might get caught in a heavy thunderstorm on the way. So he suggests we had better stay here until the weather improves. If it doesn’t change after two hours, we’ll postpone the departure until tomorrow.


その他の解答例

According to the team leader, it’s very likely to rain though it’s time to leave. If we leave on schedule, we might be caught in a heavy thunderstorm on the way. We should stay and see weather the weather will change in the next two hours. If it doesn’t improve, we’ll leave tomorrow.

2015/7/10 大澤英輝

2015/06/26


今回は2004年度の問題を扱いましょう。出題内容はいたってシンプル。「自宅から遠い大学に実家から通うかどうか」というテーマはこれから大学へ進学する皆さんにとって身近なものでしょうし、理由を考えるのにもそれほど苦労することは無いでしょう。

話は逸れますが、東大には全国各地から学生が集まることもあり、大学の近くに一人暮らしをしている人が多いように感じます。前期課程の学生が通う駒場キャンパス付近であれば、吉祥寺や下北沢を通る京王井の頭線沿線や、その下北沢で乗り換える小田急線沿線が人気のようです。
山手線の内側にある本郷キャンパス近辺は家賃が高く、大学の近くに住むのは学生にとって難しい… 比較的家賃が安いとされる山手線の北側(大塚〜田端あたり)に住んで自転車で通っている人をよく見かけます。

もちろん都内のいわゆる名門校出身の東大生も多く、そういった人たちは実家から通っています。実家生の強みといえばやはり食事でしょうか。家族と食事を共にすることで金銭的負担を抑えられるのはもちろん、キチンとした食生活を保つことができるのは嬉しいことです(実家暮らしだとその重要さに気づくのは難しいですが..)。一方で実家生にとっては一人暮らしの”自由さ”を羨ましく感じることも多いでしょう。
私も実家生でしたが、一人暮らしをしている友人の家で朝まで勉強したり、鍋をつついたりお酒を飲んだりと、自由な一人暮らしの恩恵与かることも多々ありました。


さて、雑談はこのくらいにしておいて実際に問題を見ていきましょう。『いくつか理由を挙げ』という指示に沿った答案を作らなければいけません。理由を複数考えるのは難しくはないでしょうが、それらを50時程度でまとめるのに少し苦労するかもしれません。

では実際に考えられる理由を挙げてみましょう。

■一人暮らし
・通学に掛かる時間が短い→勉強や他の活動に充てられる。
・自由になりたい→自分の好きなように生活できる。家族に干渉されたくない。
・自立したい→社会人になる前に自律した生活を送る練習に。

■実家暮らし
・金銭的負担が少ない→東京での一人暮らしはお金がかかる。
・家族と離れたくない→ホームシックになるかも?
・家族と離れられない→兄弟の子守、祖父母の介護の手伝い等々。

すぐに思いつくのはこのくらいでしょうか。それぞれ一行目に書いた「通学時間」と「金銭的負担」という2つの理由が一人暮らしの是非を決める大きな理由になりそうに思えます。とはいえ『いくつか理由を挙げ』という指示がある訳ですから、他の理由も考えなければいけません。

上記の理由以外にも、もっと個人的で具体的な理由を挙げても良いでしょう。例えば「実家で飼っているペットの犬と離れたくない!」だとか「料理が好きだから一人暮らしをして腕を磨きたい!」、「一人暮らしをして彼女と一緒に暮らしたい!」なんて理由でも良いのかもしれません。

逆に抽象的な話だけで終わってしまわないように気をつけましょう。例えば、「自由だから一人暮らしをしたい」だけでなく、「家族に気兼ねなく友達を呼べる」だとか「口うるさい兄弟から解放されて趣味のジグソーパズルに没頭できる」ぐらい詳しく書いても良いでしょう。もちろんそういった内容を「自信を持って英語で書ける」ことが前提ですが。少しでも自信が無いのであれば、減点される可能性の低い”無難な英語”で書いた方が安全です。


では実際に工学部のHくんが書いた答案を見てみましょう。


■ H 君の答案


spend (時間orお金) 〜ing は超重要イディオムですので間違えることのないように。I can use this time for other purposes の箇所はもっと具体的に書いても良いですね。例えば、
I’d rather study than spend time in such a wasteful way.
ぐらいで纏めてしまうことが出来ます。他の箇所についてはそれほど指摘することはありませんが、ここで一つ「英語のテンプレート」を持つということについて考えてみましょう。

ここで言う「英語のテンプレート」はしばしばTOEFL iBTのWriting対策として用いられています。例えばiBTのWritingの試験では与えられたお題に対して賛否を400語程度の英語で書かせるものがあります。制限時間も厳しい中で400語の英作文を一から作り上げるのは大変です。だからこそ予め「テンプレート」を持っておき、そこに当てはめていく形で英作文を作るのが一つの方法論として確立しています。

大雑把に説明すれば、

I agree with _______. <立場の表明>

I have three reasons. First of all, _____ . Second, ______. Third, _____.<理由>

In conclusion, I think ______ for these three reasons.<結論>


といった感じで大まかな文章の流れを先に準備しておく訳ですね。

もちろんこういったテンプレートを制限語数の少ない東大英作にそのまま使うことはできませんが、考え方を応用することはできるでしょう。
今回の例で言えば『いくつか理由を挙げ』と指示されている訳ですから、
I have three reasons. First, _____ . Second, ______. Third, _____.…
といった流れで書けますね。

他にも、

<立場の表明>

<理由>

<反対の立場からの意見・譲歩>

<それに対する反論>

<結論>


といった流れもよく見かけるのでテンプレートとして持っておくのも良いかもしれません。

以上を踏まえてH君の答案をブラッシュアップしてみました!

I’d like to live alone near my university. I have two reasons. First, I would rather spend time studying than commuting by train. It’s so wasteful to spend 4 hours everyday on the train. Second, I think college students should be independent from their parents. I’ll do part-time job so that I can make my living by myself.


その他の解答例

I’d rather live at home. First of all, the expense for my own apartment in Tokyo would be the great burden to my parents. They can’t afford to pay much. In addition, I love Cocco, my dear pet dog and I can’t even think of living apart from her!

2015/6/26 大澤英輝

2015/06/12
 2014年秋頃、またもや新たな東大過去問参考書が発売されました。これについて、その特色・特徴を

①構成
②解答・解説の充実度
③難易度評価

の3つの観点から、東大受験参考書愛好家のひとり、ワタクシ石橋雄毅が紹介していきます!


◆代々木ライブラリー『東大理系数学入試問題研究』 理系数学
 本書は2014年度~2009年度までの6年分の“理系数学”の問題についての解説集。加えて、新課程に配慮し東大がもっと昔に出題した複素数平面の問題3問(2005理系・1999文系・2003理系)と、人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」のちょっとした成果も収録しています。編者として「SAPIX YOZEMI GROUP」「東大入試問題研究会」となっていますが、東大入試問題研究会のその他の活動についてはネットで少し調べてみた限りでは掴めませんでした。

 改めて本書の構成について。赤本的な「出題内容&学習アドバイス」2ページに続けて、最近6ヵ年の出題内容分析(殆ど代ゼミの解答速報の問題分析)から本書は始まります。本書の説明書きによれば、後者は“解法の手掛かりが見つけられない場合には、ヒントとして利用しても効果的”とのこと。その後、2014年度の問題から順次、問題と“解答例”、そして解説に当たる“View Point”が1問につき1ページ程度ずつ掲載されていきますが、問題のページに小問ごとの“予想配点”が付されているのが小さいけれど本書の特徴。予想配点を掲載している参考書はそれほど多くはありません。また、1年度分の問題がセットで書かれているようなページは用意されていないので、本書も時間を計りながら解くことは考えられていなさそうです。これを2009年度まで淡々と続けていくと、次に「付録」として複素数平面の問題3問についても同様の構成で並べ、最後に「ロボットは東大に入れるか」の成果で締めくくられます。このプロジェクトに関する詳しい説明はこちらのサイトをご覧になっていただければと思いますが、本書には実際に人工知能“東ロボくん”が東大数学の問題を解いていくプロセスまで掲載。その方面に詳しくないので自分には雰囲気しか分からないのですが、書かれているのは表面的なことだけで肝心の専門的な部分は省略されているようなので、人工知能――もっと広くすれば情報の分野に興味がある東大受験生が、その分野の雰囲気を少しでも知る上で役に立ちそうといった感じでしょうか。

 解答・解説に関して。個人的にはあまり満足できるものではないかなと感じています。今までにも見てきたように東大数学の関連書籍は現状特に多いです。その中で各書の特色を出せるところがあるとしたらそれはやはり解説の充実度が一番だろうというのが普通に考えられることだと思いますが、本書はその解説の部分が大変薄い。東大数学だけについて扱った本の解説で、全教科について扱っている赤本と同程度の解答・解説しか載せなければ、物足りなさを感じてしまうのは自明の理。良い“View Point”を書く執筆者もいるだけに、その質が本全体に無いのが惜しまれます。

 分析に付されている難易度評価は、今までの代ゼミの解答速報の際の評価が概ね採用されているようでした。ただ、数問ほどは発表当時の形から修正されており、数年経っての思い直したのか代ゼミ以外の執筆者から意見があったのかなどと邪推が捗ります。

 総じて、やはり数多ある他の東大数学の過去問参考書に比べ解説に個性が無いのが痛い。本書で一番興味深いのは正直東ロボくんの部分というレベル。“研究”というからには、もう少し徹底的にやってしまって欲しかったところです。



2015/6/12 石橋雄毅

2015/05/29


今回扱うのは2005年度の問題。東大入試ドットコムを見てくれている皆さんならきっと見覚えがある問題でしょう。そう、東大入試ドットコムの公式Twitterのプロフィール画像である ”花瓶のオバさん” ですね。公式Twitterをまだフォローされていない方は是非こちらからフォローしてくださいね。東大に関する様々な情報を日々つぶやいています。

問題とは全く関係ありませんが、今回の問題のなかなか味のあるイラスト、その後出題されたイラスト問題(2007年度のUFO2015年度の鏡等)ではガラッと雰囲気の変わったタッチになりました。今後出題されるイラストはどんなものなのか?、またイラストのタッチは一体どんな基準で決められているか?個人的には少し気になります。

では実際に問題を見てみましょう。
まず目に付くのは”30〜40語”という文字数。最近は60〜80語や50〜70語といった語数指定が多いですが、それらに比べると負担はかなり少ない印象です。ちなみに2005年のB問題も40〜50語と少なめ。2015年度はA,Bともに60〜80語の英作文が課されており、英作文の負荷、重要性が上がってきていることを感じます。

イラストを見てみると、割れた花瓶を見て起こるオバさん(お姉さん?)と、それを背後から不安そうに覗き込む男の子… 問題文では「自由に解釈し、…」と書かれていますが、常識的に考えればそれほど解釈の仕方に幅がある訳ではないですし、ここで敢えて突拍子もない解釈をしてリスクを負う必要もないでしょう。

男の子が花瓶割っちゃった。

それを女性が見て激怒。

男の子が怖がる。


といった流れを押さえておけば自然と30語ぐらいは突破してしまうでしょう。

ちなみにさきほど「オバさん(お姉さん?)」と書きましたが、イラストの登場人物同士の関係や年齢等々は自分で自由に解釈して構いません。今回の例で言えば「母と息子」、「兄弟」、「夫婦」、「友達」といった無難な解釈をすることも出来ますし、「家政婦と家主」や「学校の先生と生徒」といった少し特殊な解釈をすればそこから色々なストーリーが生まれてきそうですね。(今回は語数指定の都合上、それほどストーリーを広げる余裕はなさそうですが...)

では実際の東大生はどんなことを思ったのでしょうか?今回も法学部のN君に答案を作ってもらいました!

■ N 君の答案


まずは文法面から見ていきましょう。
a woman is looking down at broken vace… の部分、vaseのスペルミスは無論見逃すことはできません。1点の差に泣く受験生になりたくなければケアレスミスにはいくら注意してもし過ぎることはありません。

次に looking down は単純に looking at で十分でしょう。確かに look down で「見下ろす」(look down on A・・・「Aを軽蔑する」は超重要熟語)という意味になりますが、例えば look down the city from the mountain のように俯瞰的な文脈や、look down a manhole のように「覗き込む」といったニュアンスで使われる場合が多く、必ずしも今回の状況にフィットしないように思います。
こういった語彙の使い分けを学ぶには辞書に載っている例文や用法を覚えるのが効果的ではありますが、全てを完璧にマスターするのは至難の技でしょう。むしろ今回の「look at A」ように、100%減点されることがない表現で書き換えられるのであれば、そちらを選択することが重要でしょう。「気の利いた表現で加点を狙う」ことよりも「無難な表現で減点を避ける」ことを選択した方が結局高得点が得られるのではないでしょうか。

他には standing outside of the room... の outside は前置詞として使っていますから of は不要です。文頭で Inside the room, と書いていますが、それと同じですね。
英文の内容にもいくつか気になる点があります。まずは「男の子が花瓶を割った」という要素が欠けていること。確かに trembling with fear や he will be in trouble … といった箇所で暗に仄めかしてはいるものの、やはり明確に言及しなければ「要素抜け」として減点されてしまう可能性が高いのではないでしょうか。

もう一点は A boy, who seems to be her son, … の部分。先にも述べた通りイラストの登場人物の立場は自由に決めつけてしまって構いません。いきなり Her son… と書き始めてしまって良い訳ですね。特に今回のように指定語数が少ない場合は英文をコンパクトに纏めることが重要です。

以上を踏まえてN君の答案をブラッシュアップしてみました!

Inside the room, a woman is looking at a broken vase very angrily. Her son, who is the very man who broke it, is nervously peering from behind the door trembling with fear.


その他の解答例

A woman found her favorite vase broken. She was really furious and decided to find out who had broken it. Actually, her husband had done it and was timidly watching at her from behind the door.

2015/5/29 大澤英輝

2015/05/01
 他の科目に比べ種類に乏しい受験漢文の参考書の中で、今回は東大受験生の使用率が比較的高いと思われる一冊『漢文道場』をご紹介。

 本書は国公立2次・私大対策を主眼に据えた問題集。難易度としては“標準”に設定されていますが、ここ最近の東大古典は易化傾向が進むばかりということもあり、本書レベルが完成されていればひとまずは十分と思われます。一般的な東大受験生の感覚としても、東大古典は最低限の点さえ安定するならあまり時間を割かず他教科を勉強していたいという声が多数になるだろうからです(それすら怠ってしまう or そこにまで手が回らない受験生が多いがために、より一層易化に拍車がかかるのでしょうが)。

 問題と解答とが分かれて別冊になっていますが、そのうち『問題編』は「基礎編」「練成編」「実戦編」の三部構成。「基礎編」で句形・句法をさらっと確認してから「練成編」「実戦編」での読解演習に入るという作りですが、たった10節・見開き10ページのみの「基礎編」は一長一短。基本事項の要点がとても簡潔にまとめられているだけなので、他で素地が出来上がっている人にとっては無駄に時間を取られ過ぎることなく読解演習に移れる一方、学校の漢文の授業があまり機能していないなどという人にとってはさすがに少し物足りないでしょうか。ただ、受験生が漢文の勉強に使える時間を潤沢に取れるとも思えないので、例えばひとまず「基礎編」で一通り確認しあまりにも理解不足だと感じられる項目に関してのみ『ステップアップノート10 漢文句形ドリルと演習』、『漢文ヤマのヤマ』シリーズ等の文法書で詳しく演習するといった使い方がもとから想定されているのかもしれません。他には、口語訳の例題となっている文には意訳の必要な故事成語が多く、前後の文脈が無い中の問いとしては殆ど解答不能で、ここは正直使いづらいです。

 「練成編」「実戦編」はそれぞれ20問ずつ、計40問の読解問題からなります。おおむね易から難の順に並べられている各問題に対し、課題文と問いの他に設けられている項目として「語彙チェック」「句法チェック」「出典」「概要」「考察」がありますが、漢文の問題集としては「語彙チェック」「句法チェック」の存在が非常に優秀。一般的な漢文の問題集では意味を分かっておくべき漢字・覚えておくべき重要句形は解説の中で小出しに説明されることが多く、結局記憶すべき事項が何なのか印象に残りにくくなってしまいがちなのですが、本書ではそれを単体でストレートに確認できるので、効率的に知識を補充できる仕組みが作れます。他にも、文法事項の深い話や漢文世界の常識を教えてくれる「考察」は特筆に値するでしょう。ただ、古い問題集ということもあって問題自体の質は(少なくとも東大対策という観点からすれば)そこまで素晴らしいものというわけでは無く、例えば故事成語や史実を知らないと解答不能な問題が少なくありません。強みはどちらかというと収録されている問題数の多さ、といった感じです。

 『解説編』は淡々としていてかなりアッサリめ。ここもこの参考書の大きな減点ポイントなのですが、それでも東大受験生に多く使われているというのは、東大志望ともなるとこの程度の解説で十分理解できるだけの力を皆持っているということなのでしょうか。使用を考えている人は、念のため書店で解説編を立ち読みしてみてからにしましょう。また「語彙チェック」「句法チェック」の答えも無く、問題解説の中に全体的に散りばめられているものを探すしかないのですが、さすがにこれくらいはまとめてあってほしかったところですね。

 全体として、“質より量”な本書。受験生にそれほど重要視されていない東大国語対策にそれがよく使われているこの現状を鑑みると、“経験値を積む”ことの重要性とそれを知っている東大受験生達の姿が、ちょっと見えてくる気がしませんか。



2015/5/1 石橋雄毅

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