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特集ブログ ~自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分~

 東大生や東大卒業生が、自身の合格体験を基にアドバイスをしているブログや書籍は数多くある。もちろん、有益なものも多い。
 ただし、実際に生徒指導をしていると、自身の東大合格体験はあくまでも一例でしかないことに気づく。生徒を東大に受からせるには、学科知識、教材・模試・過去問の活用法、受験戦略、学習方法のすべてを見直し体系化する必要がある。

 情報が氾濫する時代だからこそ、自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分。自らが東大合格体験者でもあり、東大受験専門の塾・予備校の講師として毎年、生徒を東大合格に導いているメンバーのみが運営する『東大入試ドットコム』の特集ブログです。

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2014/04/25
 東京大学を目指すからと言って、ただ闇雲に難しい問題集に手を出すのではいけません。東大と言えど、大事なのはまず基本から――なんてもう耳にタコができるフレーズかもしれませんが、そんな手を出してはいけない問題集の筆頭株が本書『最高峰の数学へチャレンジ』。

 別に、この本を貶したいわけではありません。むしろ、掲載されている問題はかなり面白いものばかり。扱われている問題の内容で特に気になるものをピックアップすると、

・単位円周上に有理点が無数に存在すること(=原始ピタゴラス数が無限に存在すること)の証明
・チェス盤上でナイトが盤面全体をくまなく移動できることの証明
・交通渋滞の数理モデル化
・フラクタル次元
・連分数展開
・テイラー展開
・Lpノルム
・容器内で氷結する水の盛り上がり
・リングと小球の2次元衝突
・ケプラー運動の解析

……などなど、とにかく話題は豊富だし、一問一問解き応えのある問題が並んでいます。

 解答・解説は別段丁寧という訳でもありませんが、まあ標準程度と言ったところで、本書に手が出るほどの数学力がある人なら気になることは無いでしょう。それより何より問題について見識をグッと深めてくれる『研究』が楽しい。解答例とこの研究とで、解答冊子が丁度半々くらいを占めているのではないかというくらいこってり書かれています。

 このように、数学ができる人にはとても楽しい要素の詰まった参考書です。じっくり時間をかけて問題を解き切った時の達成感は何にも替え難いですし、問題の背景に迫る意味ではA級紙にも通ずるところがありますね。それがゆえに、受験期本書にかまけていると、他が確実に疎かになります。一昔前なら東大の後期試験数学対策として使えたかもしれませんが、2014年現在この本は受験参考書というより、もはや趣味の領域の本と言わざるを得ません。入試が終わったら買うくらいの気持ちで丁度良いレベルでしょう。もし高3生に薦めるとしたら、“数学が得意”くらいではまだ足りない。入試はもう余裕で、高3の時点で大学の勉強を普段からしているくらいの人に、受験数学の感覚を忘れないよう楽しんでもらう形になるでしょう。それを聞いた上でまだどうしても手を出したいというのなら、本書で遊ぶことを息抜きとすること。

 もうひとつ誤解の無いよう補足しておくと、本書の問題全部が大学受験の役に立たないというわけではありません。面白い題材でありながら、同時に東大入試前期試験で出題されてもおかしくなく、かつ合否を分け得るレベルになる問題も確かにあります。ただ、そうでない問題も一定数存在している以上、難易度の分からない状態で問題集を解き進めざるを得ない受験生にとっては扱いにくい、ということです。

 何より強調しておきたいのは、難しそうなものを見てみようと本書を店頭で手に取って、「こんなの解けないから自分には東大なんて絶対無理だ」なんて思ってしまわないで欲しいということです。平均的な東大生にとっても本書一冊は十分過ぎるほど難しいんです。今志望大学を決める段階なら、「東大」という存在を本書を見ただけで突っぱねてしまうのではなくて、もう少しよく検討してみましょうよ。大学受験なんてせっかくの機会なんですからね。また受験勉強の真っただ中なら、遥か上位の層の人間達のことなんて考えている場合ではありません。ボーダーラインにひしめく自分のライバル達に勝つために、自分の身の丈に合ったことをコツコツとおやりなさい。いつだって上を見たらキリがないものです。



2014/04/25 石橋雄毅

2014/04/18
 『物理のエッセンス』『良問の風』に続く浜島シリーズ最後の演習書。レベルは最も高く、この二冊の問題が全部できるようなら入試でも物理は武器になるでしょう。それでいて、東大入試レベルにまで通用する高校物理の演習書の中ではおそらく最も軽いのが本書。差がつきそうな問題の定番パターンが一通りサクッと押さえられ、難関大入試にも対応し得る物理の地力がつくこと受け合いです。



 掲載されている問題の基準としては“よくある操作だけど『良問の風』に載せるには程度が高い”といった感じ。力学であれば3番(斜面上の複数回バウンド)や13番(リングと小球の複数回衝突)、22番(可動三角台の上の小物体の運動方程式)などがその代表でしょう。頻出事項の網羅性は概ね十分で、物理の問題は大体こういうことの組み合わせで解けてしまうため、先に述べた通り本書だけでも十分物理の地力がつくと言えるのですが、難関大を受験しようと思ったら、個人的な経験から言えば波動の分野だけは(新課程用の改訂で少しは増えたものの)ちょっと物足りないです。東大にしろ早慶にしろ、とりわけ波動分野の問題はまず状況把握から自分でじっくり考える必要のあることが多く、この部分のトレーニングまでは本書はカバーしていないからです。問題を解くのに必要な定番の操作を本書で学んだら、何かしらの教材で“目新しい問題に立ち向かう”練習をして入試に臨んでください。過去問演習を通してここを訓練する方法もあるでしょうね。

 構成ですが、1ページ程度の問題に、難易度を表す「Level」と「Point & Hint」が付属し、続いて解答・解説となる「Lecture」が並んでいます。いわゆる“問題篇”と“解答篇”とに分かれている訳ではなく、この辺の使い勝手は人それぞれでしょうか。難易度評価は4段階で、小問ごとの評価ときめ細やか。まあ小問ごとなので、この難易度を参考にして解く問題を選ぶというよりは、解けなかった問題の難易度を見て自分の到達度の目安とする使い方が主になるでしょう。解答・解説の質はエッセンスや風のものと同じで、豊富な図と詳しい説明から授業を聞くような感覚で各問への理解を深めることができると言うこともできますし、冗長で要所を拾いづらく、答案の書き方も分からないと評価する人もいるかもしれません。
 また、全ての問題にではありませんが、解説の後に「Q」という形で、問題への理解をより深めるアドバンスな設問が用意されている場合があります。これが本書で一番オイシイところで、なかなか難しい内容を扱っていたり定性的に問題を見る上で重要なトレーニングになったりします。お鍋の残り汁で作る雑炊といったところでしょうか。物理を武器にしていこうと考えている人には是非とも捨てないで欲しい部分ですね。この「Q」に関しては、解答・解説が巻末にまとめられています。

 平均的な受験生の感覚からすると、本書の1問を解くのに大体30分前後の時間がかかるようです。なかなか重いなという印象を受けるでしょうが、これでも必要な計算力・物理的思考力は他の同レベルの教材に比べて一番軽いくらいではないでしょうか。勘違いしないで欲しいのは、だからと言って中身が薄いという訳ではないこと。前回も述べた通り、本書と過去問だけで東大物理を磐石なものにする人もいるくらい、本書には重要な手法が沢山詰まっています。要領よく高校物理を一通りこなしていきたいのなら本書、計算力も思考力もじっくり鍛えながら学んでいきたいなら他、というスタイルの違いになるのでしょう。実際“難系”なんかに比べて挫折率は低いでしょうね。以上のことと本書を店頭で眺めてみたときのフィーリングを踏まえて、自分に合ったスタイルの参考書を選んでください。



2014/04/18 石橋雄毅

2014/04/11
 高校での化学の学習を一通り終え、いよいよ大学受験対策に向かうというとき、いきなり志望校の過去問を解きまくり始めるのは必ずしも得策とは言えません。なぜなら、過去問は学校の傍用問題集の問題とはまた違った独特の解きづらさがあるからです。また過去問演習だけでは化学の幅広い出題範囲をすべてカバーすることも難しいでしょう。そこで、学校で学んだ基礎知識の活用や理論の実践のトレーニングに役立つ問題集が、今回紹介する『化学の新演習』になります。


 著者は先日紹介した『化学の新研究』と同じ卜部吉庸。問題は計331問掲載されており、そのほとんどが実際に大学入試試験で出題された問題、またはその一部が改作された問題になっています。出題校として、国公立は東京大学、京都大学など、私立は早稲田大学や慶應義塾大学などの名前もあり、レベルはやや高め。ただ、難問や奇問ばかりが集められているのではなく、基礎的な知識や理論を問う問題から高度な知識や思考を要求する問題まで段階的に収録されているので、化学の受験勉強を始めるにはもってこいの教材だと思います。そして、この問題集を一通り解くことで相当の自信もつけることができるでしょう。

 構成は、学習指導要領のように『化学基礎』『化学』ごとに分かれているのではなく、『化学基礎』『化学』すべての単元を体系的に再配列しています。そのため、化学の基本的な内容を一通り学び終えていないと、自力で問題の取捨選択をしなければならず、扱いづらいでしょう。

 解答・解説は問題集と同じほどのページ数を備えていて、内容はかなり充実しており、いい意味で高校の学習範囲に囚われすぎることなく、読者の興味をそそるような補足説明も載っています。例えば、酸化還元の範囲での、水中のDO(溶存酸素量)を求める問題の解説では、実際に溶存酸素を求める実験の手法が載っており、高校のときにやってみたかったなぁ、と個人的に思ったり。(笑) また、無機の範囲には“シスプラチン”という聞きなれぬ化合物が登場し、医薬品として活躍していることが紹介されています。ただ、スペースの都合からか行間が狭かったり改行が少なかったりと、見やすさには難を感じます。

 難易度は、★(典型的な重要問題)~★★★(やや難しい問題や新傾向の問題)の三段階で表示されています。この難易度表示にはおそらく裏切られる受験生も多いかと思います。というのも、大問1問の中にも難易度の異なる問題があることに加え、典型的だからといって短時間に解き切ることが容易とは限りませんし、逆に難しい問題は問題文中に詳しい説明が載っていて解きやすいということも珍しくはないからです。
 他にも例えば、有機の範囲で出題されている異性体を探すだけの215番の問題は、★★の評価になっており『そこまでは難しくないのかな』と思われてしまうかもしれませんが、複雑な分子になると意外と完答するのは難しい。しかし、続く217番では、見慣れない『二重結合の酸化分解』に関する問題が出題されていますが、問題文で与えられた情報を一つ一つ丁寧に理解できれば、完答することは難しくない。1つのバロメーターで難易度評価をすることの難しさを感じます。他の問題集にも言えることですが、難易度評価はあくまで目安として活用することをおすすめします。

 冒頭でも述べたとおり、この問題集は学校の化学を一通り学び終え、入試演習を始めるのに適当な一冊になると思います。逆に言えば、まだ全範囲を学習し終えていなかったり、基礎知識が抜けていたりする状況ではなかなか歯が立たず挫折してしまいがちになるかもしれません。書店でパラパラと数問眺めてみて、★1つの問題もかなり苦労しそうだと思うなら、まずは学校の傍用問題集やより基本的な問題集で練習を積むことをおすすめします。

 化学のちょっと難しめの問題で腕試ししてみたい、入試で化学を得点源にしたいと思っている方は手に取ってみてはいかがでしょうか。



2014/04/11 川瀬響

2014/04/04
 『物理のエッセンス』レベルの基本的な操作を習得したら、次にそれを正しく運用するための練習をすることになります。これに適した演習書のひとつとして今回紹介するのが、この『良問の風』です。

 エッセンスでは一問一答の色合いが強いのに対し、こちらはひとつの設定に対しもう少し多角的に、入試問題の実情にある程度即した形で問うてくるのが違いです。例えば、エッセンスでは曲面を滑り降り飛び出していく小球の速さを求めるだけの問題がありますが、風では曲面から飛び出した後の放物運動の様子を追跡するところまでが1セット、といった感じ。一問一問の計算量も入試標準レベルには重くなっています。

 エッセンス同様「物理基礎」「物理」の区分がごちゃまぜの構成。一応「物理基礎」範囲の問題には印がついていますが、問題の質を考えてもセンターでしか物理を使わないという人に本書での演習はあまり向かないでしょう。全部やる必要がある受験生にとって単元の区分けなんて気にするに値しない些末な事ですから、高校物理の参考書は順番に解き進めていけばOK。そういう意味では本書も『物理のエッセンス』の著者である浜島清利先生が書いており、章立て・問題選定が連動しているので、両書を並行して順番に解く上での演習効果の向上も期待できます。

 別冊になっている解答・解説ですが、こちらは読み応え十分。解答と解説が別々に分けて書いてあるような重苦しいスタイルではなく、解答を書きつつ解説してある、授業を聞くような感覚で読める形になっています。かなり詳しめで、細かい補足も充実。ただしその分、東大形式の物理の答案にどれほど記述したらいいかはここでは学べません。

 そういえば新課程用に改訂されて、巻末に「論述問題」の項が追加されました。単純な現象・身近な事実に対し、言葉で説明する問題が数問並べられています。紙面の都合からか、個人的にはもう一歩物足りなさを感じる部分もあるのですが、こういったことが書かれている物理の演習書はなかなか無かったので、とても良い変更点だと思います。

 全体で見て、確かにエッセンスよりは難易度が高いと言えるかもしれませんが、それは一問を解くのに必要な操作がいくつかあるという意味で、手間がかかる・どの操作を使うべきか見抜く必要があるだけという場合が殆ど。もっと言えばこれは本書に限った話ではなく、物理の入試問題全体についても当てはまることです。高校物理の成績を安定させようと思ったらまず、問題を解く上で一番基本的な所作を完璧にできるよう練習してください。本書にはそういったオーソドックスな所作が一通りまとめられていますから、解いていくうちに「物理って、いつもやること決まってるじゃん」の境地に至れるようになるのではないでしょうか。

 しかしながら、本書はあくまで“標準”レベル。東大クラスの物理で点を稼ぐことを考えたとき、本書レベルまできっちり演習を積んでいるだけの時間的余裕はあまり無いのが実際のところです。東大物理が本書以上の事を要求してくることも考えると、抜けがちなエッセンスレベルの話を疎かにせずしっかり頭に入れ、『名問の森』レベルの問題に手が出るよう練習していく――これがひとつの王道パターンであり、要領のいい人は風レベルのステップを踏まずとも十分力をつけていく、というのもまた現実なのです。実際、東大に入ってから周りの人に「物理の参考書何使った?」と聞くと、「でしょ」「難系だけ」「25ヵ年だけ」辺りの答えが割とよく返ってきますね。あとは重要問題集もでしょうか。
 だからと言って、問題には全然太刀打ちできない・解答を読んでも理解が及ばないような参考書を延々とやり続けるのはとても賢いとは言えません。自分の力量を正しく見極められてこそ、真に力のつく演習ができるというものです。時間はかかっても風をやることに意義を感じるのならそれはきっと尊いことだろうし、それこそ“基本的にはもう少し難しい参考書を使って演習し、特に苦手な分野だけ本書も活用する”というのはひとつの知恵ですよね。一般的な話も勿論大事ですが、それが自分に合っているかどうか良く考えて、適切なレベルの参考書を、適切な形で使用してください。



2014/04/04 石橋雄毅

2014/03/21

 書店で化学の参考書を探すと、まず目につくのが本書かもしれません。何しろ分厚い。圧倒的な存在感を放っていますよね。手に取ってみると、文字は小さく、専門書を手に取っているような気分になるかもしれません。今回は、そんな化学の新研究の構成や、おすすめの用途をお伝えしたいと思います。



 本書は問題集ではありません。「教科書本文の一字一句を徹底的に詳しく研究・解説(序文より)」した参考書になります。そのため、総ページ数は800ページ近くとかなりのボリュームになっています。内容は、高校化学で扱う事項が教科書より詳しく書かれた説明文と、それを補足するやや高度な内容、また発展的な内容をトピック的に扱ったSCIENCE BOXからなっています。

 本書の全てを読破したり、理解したりする必要は必ずしもないでしょう。学校の勉強や、入試対策の中で、「この現象はどうして起こるのだろう?」とか「この化学反応はどういう仕組みで起こっているのだろう?」といった疑問の解決の際に、辞書のように役立つはずです。
 例えば、氷が水に変化するとき、体積が小さくなるのはなぜでしょうか? 水以外のほとんどの物質は固体から液体に変化すると、粒子の運動範囲が大きくなり、それに伴って体積も増加します。それなのに、水はどうして……。
 実は、この問題は2008年に東大で実際に出題された問題です。そして、仕組みはそこまで難しいものというわけでもありません。(自分で予想してみて、それから新研究などで答え合わせするのもいいかもしれません。)

 「化学のなぜ?になんか興味ない!」…そんな声も聞こえてきそうですが…。教科書は、できるだけ分かりやすくするために、反応の仕組みなどの「根本」が抜け落ちていることがあります。入試では、先程の例のように、その「根本」を知っているかどうかで難問が解けるかどうかの分かれ目になることもあります。それに、様々な化学の現象がなぜそのように発生するのか知っておくことは、無意味な暗記事項を減らすことにもつながるはずです。

 また、化学に限らず、日常の勉強の中でも、ふとしたことに疑問を持つことは大切です。疑問の答えを自分で予想したり、調べて解決したりすることで、その知識は深く定着するはずだからです。化学の新研究はそのような学習の供として役立つでしょう。

 注意されたいのは、この本は内容がかなり豊富で、一部に高校化学の範囲を逸脱した内容も含まれているということです。化学が苦手だからといって、この本を最初から最後まで読破し、理解しようとしても、その膨大な量と難易度の前に挫折してしまうでしょう。化学を苦手に思っている人は、まずは教科書レベルを理解し、教科書傍用問題集などで演習を重ね、基礎・基本を身につけることを優先するべきです。基礎・基本が定着した上で、本書を供にして入試レベルの演習に取り組むという使い方が良いと思います。

 化学は他の理科の科目と比べても、最も身近な学問といわれています。大学入試にとどまらず、広い視野で物事を捉えて、好奇心を持って学習していただければと思います。


2014/03/28 川瀬響

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