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特集ブログ ~自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分~

 東大生や東大卒業生が、自身の合格体験を基にアドバイスをしているブログや書籍は数多くある。もちろん、有益なものも多い。
 ただし、実際に生徒指導をしていると、自身の東大合格体験はあくまでも一例でしかないことに気づく。生徒を東大に受からせるには、学科知識、教材・模試・過去問の活用法、受験戦略、学習方法のすべてを見直し体系化する必要がある。

 情報が氾濫する時代だからこそ、自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分。自らが東大合格体験者でもあり、東大受験専門の塾・予備校の講師として毎年、生徒を東大合格に導いているメンバーのみが運営する『東大入試ドットコム』の特集ブログです。

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2013/08/19
初めまして! 英語を教えています、武井靖弥と言います。以後よろしくお願いします。
英語の参考書紹介ということでコラムを書かせていただくわけですが、そもそも英語の試験は皆様もご承知の通り、長文だけやっていても、また文法だけやっていても点数が取れるものではありません。そのため長文なら長文、文法なら文法として、それぞれの問題が解けるように問題集を選んでいく必要があります。そこで石橋先生とは少しタイプが異なりますが、問題のカテゴリーごとに参考書の使い方や選び方を中心に、おすすめの参考書について紹介していきたいと思います。
さて、今回は第一回ということで、単語帳について紹介していきたいと思います。


■そもそも単語は勉強するものなのか■
「単語の意味は文脈から判断できるので大丈夫!」とか「一回調べれば単語の意味は頭に入ってしまうので、単語帳は必要ない!」などという人がいます。後者ならまだしも前者は非常に危険思想です。例えば2001年度の第五問では

(4) 空所(5)を埋めるのに最も適当な語を次のうちから選び、その記号を記せ。
  (ア) recognized (イ) represented (ウ) resembled (エ) respected


という問題が出題されています。文脈がわかったところで、単語の意味がわからなくては正解できない問題です。(単語自体はかなり簡単なレベルではありますが……)

もう少し遡ると1998年度の第五問では、同じく空所補充問題で

  (ア) facts (イ) news (ウ) rumours (エ) stories


という問題が出題されています。
これも選択肢の名詞自体は基礎的なものですが、文脈がわかっても前の語とのイディオムがわからないと正解できません。
また長文読解だけならばよいのですが、東大には和訳、そして英作があります。和訳や英作は文法事項だけでなく、単語の語法のストックがないと、自分の頭でかみ砕いて訳したり、自由に英作したりすることができません。
そういった意味でも東大志望であれば、単語の対策はしっかりやっておくべき、と言えるでしょう。


■単語帳の使い方 ―まずは繰り返し― ■
単語学習の必要性はわかってもらえたかと思いますが、ではどのように学習したらよいのでしょうか。
一つ大事なことは、「同じ単語帳を使って、繰り返し覚える」ということです。たまに単語帳をとっかえひっかえして単語を覚えようとしている人がいます。新鮮さを求めて、あるいは覚えた単語の確認のためにそうしているのかもしれませんが、そもそもあまり単語が頭に入っていない人がやっても効果は高くありません。大事なことは浮気せず、繰り返し覚えることです。
また、ただインプットするだけでは、実際に使えるかどうかわからないことに加え、実は覚えた気になっているだけ、ということが多々あります。(このような人は本当に多いです。)そのため、覚えた単語をアウトプットすることが重要になります。アウトプットの仕方は書いたり、声に出したりと方法は様々ですが、テスト形式でできるとベストです。僕が現在使っている方法は、「口頭チェック」です。これは例えば僕が「follow」と言ったら、生徒が「後に続く、従う」と答えるといったような形式です。この方法の利点を挙げてみると、

①反応を速くしようとすることで、英文を読むスピードが速くなる。
⇒口頭チェックは速く終われば速いほどよいものです。速く終わる=答えるスピードが速い、ということだからです。答えるスピードが速くなれば、当然英文を読むスピードも速くなってきます。

②発音された(または発音した)単語を聞けるので、発音・アクセント問題などにも対応できる。
⇒発音・アクセント問題は文法問題としてはあまり時間をかけたくないところです。単語を覚えるついでに発音・アクセントも意識することで、自然と発音・アクセント問題に対応できるようになってきます。

③本当に覚えていないと答えられない。
⇒毎年、口頭チェックを初めてやる生徒の中には「頭が真っ白になる」という現象を経験する人がいます。これは当然緊張もあると思うのですが、「本当に記憶に残って」いないことが一因です。口頭チェックには、答えの選択肢は提示されません。自分の記憶しか頼れないので、必死で覚えるようになります。

まだまだ利点はありますが、もし家族や友人などで、一緒にやってくれそうな人がいたらぜひ活用してみてはいかがでしょうか?

これ以外にも単語帳の姉妹問題集を使うという方法もあります。例えば「システム英単語」には「システム英単語チェック問題集」という姉妹問題集があります。これを使い、書いて覚える、という方法もアリです。


■選び方とおすすめ単語帳■
以上のように、勉強の仕方を間違えなければ、どの単語帳を選んでも問題ないと思います。もちろん簡単すぎるものを選んでも仕方ありません。東大など難関大を目指すのであれば2000語程度あるものが望ましいと思います。書店などで自分で見てみて、一番合いそうなものを探してください。学校で進められているものがあればそれでもかまわないと思います。
その中でも、以下に僕のおすすめの単語帳を紹介しておきます。

「システム英単語」駿台文庫
受験生時代から、そして今教えているときも基本的には「シス単」を使っています。シス単のいいところは単語の出題頻度が挙げられていること、フレーズで覚えられるところなどいろいろありますが、最後に多義語がまとめられているところが特によいと思います。多義語は入試での出題頻度も高いし、英作でも使いやすかったりもします。単語数も2021語+多義語と、量も確保できるのでおすすめです。

「英単語ターゲット1900」旺文社
単語帳の見やすさでいえば、一番だと思っています。ただその反面単調で、飽きやすいかもしれませんが……。見開きの右側に例文も載っており、派生語も含めれば2000語は軽く突破しています。コンパクトでポケットにも入るので、通学時に活用しやすいのも利点です。

「単語王2202」オー・メソッド出版
収録されている単語の多さでいえば一番かもしれません。東大だけでなく私大文系志望者が使っているのをよく見ます。また大学生になってからもTOEICの勉強のために活用している人もいます。

「速読英単語」Z会
速読英単語は、文章の流れで覚えていけるのが特徴でしょう。単語を一つ一つ暗記していくというよりは、文章の流れの中で覚えたいという人にはおすすめです。
また速読英単語には必修編と上級編があります。東大志望者であれば上級編をおすすめしたいところですが、時間がない、あるいは高校1、2年生など非受験生にとってということならば標準編から始めるのがよいかもしれません。

他にも「キクタン」「DUO」「Data Base」など有名どころはありますが、まずは書店で自分で見てみてください。きっと自分に合ったものが見つかるはずです。

■熟語は?■
熟語についても、単語と同じ要領で学習していくのが効率的です。熟語は「すべての熟語が多義語である」、といってもいいくらい意味が多岐にわたります。全部の意味を覚えていってもきりがないので、代表的なものを覚えていきましょう。
ちなみに熟語に関する問題は東大の第五問でも出題歴がありますし、第四問(A)の語句削除問題でも解答のポイントになっていたりします。軽視されがちですが、こちらもしっかり覚えておきたいところです。
しかし単語帳に比べ、熟語帳は出版されている量が少ない印象があります。そこでおすすめの参考書を紹介しておきます。

「英語頻出問題総演習」桐原書店
文法問題集として知名度が高い、この本ですが、第2章はすべてイディオムが扱われています。そこで第2章を活用して熟語をマスターしてしまおうという戦法です。ほかの章では重要構文や文法語法の問題も扱われているので、文法学習の一環としても効率よく勉強できます。

「英熟語ターゲット1000」旺文社
こちらは英単語ターゲット1900の姉妹本となっています。レイアウトも1900の方と同じなので、1900が合う人にはおすすめできます。数も1000語以上あるので、十分入試に対応できます。

その他「Data Base」など単語と一緒に収録してある参考書もあります。

■ペースと覚え方■
単語を始めて学習する人にとっては、単語を覚えるペースや、効率よく覚えられる方法が気になるかもしれません。僕から提案したいのは、まずは「1週間に50語覚える」という方法です。そこから50語である程度ペースがつかめるようになったら70語、100語、200語とペースを上げていきましょう。(※ちなみに僕が担当している受験生には、1週間200語ペースを目安に覚えてもらっています。) そしてその覚え方は「毎日50語を1週間続ける」というものです。1週間に50語と言われると、「まず今日は1~10を覚えて、明日は11~20を覚えて…」とやる人がいますが、このやり方だと一週間後に1~10の単語を覚えている人はほとんどいないでしょう。人間の脳は記憶したものを忘れていきます。忘れないようにするためには、ある程度継続した刺激が必要です。1~50を毎日覚えることで、1週間後のパフォーマンスは確実に上がってくるでしょう。
また、初めのうちは「(英語に対応する)日本語を覚える」ことを提案します。2周目、3周目になったら「(日本語に対応する)英語を覚える」ようにすると、違う刺激が得られ、単語の定着も高まってくるはずです。


■1に「繰り返し」、2に「繰り返し」■
しかし1週間がんばって覚えた50語も、2週目に51~100を覚えているうちにいずれは忘れてしまいます。だから「繰り返し」が重要なのです。前述しましたが、一番重要なことは「1冊の単語帳を完璧に覚えること」です。例えば1~600を覚え終わったら601以降の進出単語と同時に、1~600の範囲を並行して覚えると、記憶に残りやすくなります。
単語がわかっていれば速読も達成されてきます。東大英語の難しさの一つである「時間」もクリアできるかもしれません。地味で退屈な勉強ですが、繰り返し身体で覚え、使いこなせるようになれるといいですね。




次回8/23(金)は文法書について紹介予定です。ご期待ください。

2013/08/19 武井靖弥
2013/08/16
第4回 出典:東京大学前期 1989年 理系数学 第5問

 皆さん、こんにちは。8月ももう中旬で、皆さんの勉強も今がまさに佳境でしょう。そんな時期に当たる今回は、大学で学ぶ内容をベースにした、皆さんの数Ⅲの積分練習にもなるような記事を、夏休み拡大版でお届けします!

 「空間図形の体積を求めよ」というとき、受験生の皆さんが真っ先に思い浮かべる、むしろ真っ先に思い浮かべられるようになっておくべき解法は「適当な断面で切って面積を求め積分する」というものでしょう。東大でも頻出の考え方ですね。難関大の受験業界においてはその他にも有名な解法がいくつかあります。俗に言う“バウムクーヘン分割”もその中のひとつですが、そもそも受験業界にこの手法を初めて持ち込んだのがこの東大理系数学1989年第5問だと言われています。方々で耳にすることですが、ここからも確かに東大入試が日本の大学入試全体を牽引する役割を担っていると言えますね。
 空間図形の求積手法の一つとして、特に回転体の体積を求めるときに大いに役立つ有名な“裏ワザ”が存在します。数学好きの方はご存知かもしれませんが、それが次の

パップス=ギュルダンの定理:

平面図形 S を、S を貫かない軸のまわりに1回転させたときに通過する領域の体積は、S の重心が描く軌跡の長さと S の面積の積に等しい


です。これを用いると大抵の回転体の体積はすぐに求まるのですが、高校範囲に収まらないため入試本番での使用がグレーゾーンと言われる、まさに“裏ワザ”です。しかしせっかく便利なツールがすぐそこにあったら、使いたくなってしまうのが人の性。入試では答案に正しい証明をキチンと書けば使って良いと言いますし(証明しないで使うと減点されるとの噂もあるが真偽やいかに)、今回はまずパップス=ギュルダンの定理の理解に必要な“重積分”の世界から、ちょっと背伸びして覗いてみましょう。

 高校で習う積分は、ある1つの軸の方向へ、微小な幅を持った長方形の面積を足し合わせていくイメージで紹介されたはずです。その中で養われたであろう皆さんにとってのこの「インテグラル」という記号への認識は“その計算操作を表す単なる記号”というものでしかないとは思いますが、インテグラルの本質的な意味は本来この“微小なもの・連続的なものを足し合わせる”というところにあります。そもそもの話、「“ ”は図形的にはどういう意味なのか?」を思い出してみると、“縦の長さが f(x) 、横の長さが微小な値 dx である長方形の面積 f(x)dx を、区間 [0,1] で足し合わせる”ということですよね。この意味を正確に数式に落とし込んだのが、例の極限を使った定義式


となるわけですが、積分という操作自体は本来このようにシグマを使うのと似たような、単純な事しか言っていないのです。数学的に正確に書こうとするが故の、数列っぽい考え方の設定やらゴテゴテした形の式への極限の導入やらが、初学者である高校生にとって強烈なインパクトになってしまっているだけなんですね。とりあえずここから先は、不連続なものを足し合わせるときは「∑」、連続的なものを足し合わせるときは「∫」くらいの違いなのだと割り切って読み進めてみてください。
 では、さっそく次の問題を考えてみたいと思います。

 xy 平面上に4点 O(0,0) 、A(1,0) 、B(1,1) 、C(0,1) を頂点とする正方形の板がある。この板の密度は一様ではなく、x と y についての2変数関数 ρ(x,y) で次のように表される。


(1) 板の質量 M を求めよ。
(2) 板の重心 G の座標 (X,Y) を求めよ。

 初見で皆さんにこんなものを解いてもらおうなんてつもりは勿論ありませんので、いきなり解答・解説です。上の話の流れで考えますよ。

(1)
 まず、題意の正方形を縦の長さが微小な値 dx 、横の長さも微小な値 dy である微小な大きさの無数の長方形に切り分けます。すると位置 (x,y) に置かれたこの長方形の質量は、大体 ρ(x,y)dxdy であると言えそうです。この近似をもう少し正確に議論することもできなくはないですが、話が難しくなるので今回は正確な議論をガンガン無視していきます。一応無視しても大丈夫である根拠を言っておくなら、高校で学ぶ積分の定義で長方形の面積の和と考えたときだって、本当は長方形が余る or 足りない部分があったでしょう? しかし極限を取った先ではそれが無視できると考えました。これと同じことです。
 さて、これを正方形の領域全体で全て足し合わせれば求める質量 M が得られそうです。ここで、インテグラルは“微小なもの・連続的なものを足し合わせる”記号であるということ、そして今までの積分“ ”が“ x 軸というある1つの軸の方向へ、微小な幅を持った長方形の面積を足し合わせていく操作”を表していたことを踏まえると、次のような書き方・考え方は受け入れてもらえるのではないでしょうか?


 x 軸方向、y 軸方向の2方向について積分してしまう……これが「面積分(二重積分)」です。とりあえずこれを今までの積分の知識に照らし合わせてなんとなく(勘で)計算してみれば

 

  

  

         


となりますが、実際これで正解です。今回は特に x と y の間に依存性が無いので、ちゃんと極限を使って正確に議論したとしても結局今までの積分の定義式と同じような形になるであろうことが予想されます。一方の文字についての積分の際に他方の文字を定数とみなして計算しただけの、こんな勘が通用してしまうのも妥当と言えるでしょう。上では x から先に積分していますが、今回の場合は y から積分しても、結果が上で見たのと同様に、それぞれの文字を含む部分で∫を分けて別々に計算し積をとった


となり変わりません。
 自分が大学に入って感じたことのひとつは、“インテグラルって結構適当に使っていい記号なんだ”ってことです(まあ、物理学科だからなのでしょうが……数学科の人にこんな適当な話ばかりしていたら怒られてしまいそうです)。そもそも表記からして統一されておらず、高校時代は積分操作と言えば“ ”の形で書かなければ絶対ダメだと思い込んでいたものですが、上の例題の積分の式は、大学では“ ”と書いても“ ”としても、考えている領域を暗黙の了解のうちに S として” ”と表現しても通じます( S が面積を表すのは当たり前ということで、面積分ですら” ”と書くことも)。使用するときも、慣れてきたら『んーとりあえずこの領域で全部足し合わせるんだから積分で~……』というくらいの感じで、高校時代ほど積分に対し慎重にならなくなりますね。
 本当に大雑把でしたが、でも面積分なんて要するにこういうことです。受験勉強中は「中途半端な理解で先を急ぐくらいなら、遅くても確実に理解してから進みなさい」とよく言われますが、大学以降勉強が難しくなってきたときには逆に「とりあえずわからないままでも先に進んで慣れてみて、使い方が分かってきてから改めて理解しなおす」ということの方が大事になることも往々にしてあります。
 これが受け入れられるようになると、拡張しただけの「体積分(三重積分): 」を認められるようになるまでにそう時間はかからないことでしょう。また「それ以上の拡張もできるんだろうけど、4次元以上なんて考えたところで使う機会無いんじゃないの?」という方は驚くなかれ。例えばより厳密に理想気体の状態方程式を導くことなどのできる統計力学(“力学”と言えど、化学でも分野によっては使います)では、なんと


で表される 6N 次元積分なんて途方もないものをベースに話が進んでいったりしますよ(しかも、N は分子数なのでアボガドロ定数と同じ オーダーの数)。
 積分に対する認識も大分変わってきたところかと思いますが、さらに極めつけ。面積分の領域 S は“平面”に限らずどんな“面”に対しても考えることができて、それは例えば“球の表面”や“円柱の側面”、果ては“原点を含む任意の立体の表面”なんかもOK。高校物理でも習うガウスの法則は、大学では


などと表されます。数学の道具の自由度が増すことで、様々な現象が数式で表されるようになっていくんですね。


(2)
 問題を解くにあたって、まず重心の定義が必要です。(物理選択の方は⇒こちら)

 xy 平面上の領域 S 内に存在する密度関数 ρ(x,y) をもつ2次元の物体の重心の座標 (X,Y) は次式で定義されます。




 これも、どんな次元であっても同様です。(⇒蛇足)
 これさえ分かってしまえばこの問題はもう単なる積分練習です。(1)と全く同様にして計算すれば重心が出るはずですから、手を動かしてみてください。

⇒解答
 以上、ここまで積分の新たな側面を見てきました。このような考え方は理系学問の至る所で必須となってくるので、今後のA級紙の記事にも折に触れて登場してきます。その際は今回を思い出してください。それにしても“考えている領域で連続的に変化する量について和をとる”という操作、感覚的には単純そうなのですが、これを厳密に“領域の形が決まっていなくても式を作れる”ように便利な定義を作るとなるともう途方もない話ですよね。尊い先人達が築き上げてきた偉大な理論的体系の有難みをここでも感じます。しかも、驚くべきことに積分にはもっと沢山の種類・分類が存在していて、物理の位置エネルギーの考え方などで登場してくる「経路積分(線積分)」、実数の範囲にとらわれていると直接求めることができない定積分の値を複素数にまで拡張して考えることで求めてしまう「複素積分」、不連続な関数にすら定義できてしまう「ルベーグ積分」……などなど、“和をとる”という操作に対し実に様々な考え方が開発されてきたのです。皆さんが今学んでいるのは、その壮大な積分の世界への第一歩であるということを是非知っておいてください。

 東大に合格するだけの積分の能力があるなら、あとは上のイメージを掴んでしまうだけで教養学部程度の物理科目の山はひとつ越えたようなものです。逆に、このイメージを掴めば“断面積を求めて積分したら体積が出る”という高校内容についても理解が深まることでしょう。以上の内容が高校生の皆さんにとって簡単に理解できるようなものだとは決して思っていませんが、興味のある方は是非、息抜きついでに何度も読み返してほしいかなと思います。

 最後に、ここまで余裕でついてこれたぜという天才的な皆様へ。そんなあなた達には一般的な高校生向けの積分計算の練習教材なんて面白くないでしょうから、上の内容を踏まえた、数Ⅲ積分練習の腹の足しくらいにはなるであろう問題を用意しました(冒頭で触れたパップス=ギュルダンの定理についてはこちらで解説します)。他の人よりちょっぴり刺激的な積分練習と共に、ちょっぴり刺激的な夏の終わりを迎えてもらえたら嬉しいですね。それでは、ごきげんよう。

⇒問題集のページへ

2013/08/16 石橋雄毅

2013/08/05
 皆さん、こんにちは!
 皆さんは今、東大入試を突破するために日々英語の学習に取り組んでいることでしょう。もちろん英語は大学入試では欠かすことのできない科目の一つですが、それは単なる入試のためのツールなのでしょうか?
 今回のプレゼンテーションでは主に中国での英語学習の"mania(熱狂)"の例を取り上げて、英語を学ぶことの意義をよりグローバルな観点から説いてくれます。実際に中国で英語を学ぶ学生のセンセーショナルな音声も取り入れられており、その熱狂っぷりに少し驚かされます。ではどうして中国の学生はそれほど熱狂的に英語を学ぶのでしょうか? 聞いてみましょう!

   

⇒問題はこちら
2013/08/04
 いよいよこの参考書別活用法のコーナーも3週目。東大の前期試験の過去問を扱った参考書についてまとめる最終週となる今回も、その特色・特徴を

①構成
②解答・解説の充実度
③難易度評価

の3つの観点から、東大受験参考書愛好家のひとり、ワタクシ石橋雄毅が紹介していきます!
 本記事でレビュー対象となるための要件を満たした参考書(過去問を抜粋して紹介するのではなく数年度分以上まとめて掲載した参考書)は、書店ですぐに見つかるものは今回までで全て網羅することになります。そしてその今回は、なんと全て数学の参考書。問題文の長大な他科目に比べ扱いやすい短さの数学だからこそなのかもしれませんが、それでも他の大学に比べこれほど専門の参考書が出ているというのは、それだけ東大入試の数学が“解説するに足る”問題ばかりと言うことなのでしょう。しかしそんなことよりも、何より東大受験生にとって一番点数の振れ幅の大きい科目です。「数学さえ上手く行けば受かる!」なんて受験前日に叫ぶ人も相当数いますから、それだけ慎重に、自分にあった参考書を選びたいという人も多いはず。そんな科目に対してこれだけ専門の参考書があるのは願ったり叶ったりとも言えるでしょうし、迷走する可能性が高まるとも言えるのかもしれません。そんな東大数学の“専門書”について、最終回である今回もまた今まで通り、じっくりこってり丁寧に見ていきたいと思います!


◆中経出版『人気大学過去問シリーズ 世界一わかりやすい東大の理系数学 合格講座』・
     『人気大学過去問シリーズ 世界一わかりやすい東大の文系数学 合格講座』
 数学
 他に比べ知名度は落ちますが、書店でとても目を引く黄色い表紙の中経出版の参考書。このシリーズには“東大の英語”も存在していますが、こちらは過去問を抜粋して扱っているものなので今回はレビュー対象外としています。厳密には理系数学も全問は掲載していないのですが、後述する通り概ね全て掲載しているので扱うことにしました。

 2冊とも「はじめに」の項目で本書の特色と東大数学における各単元の位置付けについて軽く述べるところから始まりますが、その後は理系数学と文系数学とで構成が若干違っています。文系数学では最初に問題だけが「問題一覧」の項目として並べられ、その後で各問題の解答・解説について順に詳しく掲載されているのですが、理系数学では初めから問題と解答・解説が一緒にまとめられています。そこでは、問題文のすぐ下の“アプローチ”の欄でその問題の概要・考え方について述べられてしまっているので、キチンと演習しようと思ったら問題文のみが掲載された他の教材を利用して、答え合わせのためにこの教材に戻ってくる、といったスタイルの方が良さそうです。ページをめくってすぐに問題以外の部分を隠して使うにしても、例えば図形の問題なんかは極力自力で読解して状況を把握するようにした方が良いので、少しでも図が目に入ってしまうようなことは避けた方が得策と言えるだろうからです。また、問題は主に単元ごと・難易度順に配列されているため、本書も時間を計って1セットを解くというよりは東大の過去問を使って普段の問題演習を行うといったことを想定された教材のようです。扱われている過去問は2001年度~2011年度までに東大で出題された、文系数学の44題全問、理系数学の66題中57問+改題1問。文系数学の巻末には、『付録』として“文系でも知っておきたい微積分の公式”“基本的な漸化式の解き方”“数学的帰納法の型”“整数方程式の定石”の4項目が掲載されています。

 解答・解説に関して。各問題に対して“アプローチ”の項で思考の過程を読者と一緒に辿り、そこで見えた答えへの道筋を“解答”で正式な答案として清書、最後に“コメント”で補足する、というのが基本的な流れになっており、“世界一わかりやすい”の看板に偽りなく、各問題が発想面から計算のコツまで相当丁寧に解説されています。高校数学の問題の解法のそもそもの部分(パラメータ表示された点の軌跡の考え方など)から話し始めているところもあるくらいで、本当に数学が苦手な人向けに書かれた本であるということは伝わってきます。ただそのレベルから解説が必要な人は、一般的にいきなり東大入試の問題で演習するよりももっと普通のレベルの問題集で基礎をしっかり固めた方が力がつくと言われますし、実際その通りだとも思うので、自分としてはこの本から基本事項を定着させようという戦略はお薦めできません。その段階はクリアした上で、それでもなお他の本の解説が高度だと感じる人はこれを選べば良いのではないでしょうか。しかしながら一般的に難問とされる問題はおろか、差がつき得るレベルの問題の解説までも、本書ではさも自然な流れで思いつく発想であるかのように書かれていることが多く感じられるので、読んで分かった気にはなるけれど実は自分でそのレベルの処理ができるようになっているわけではない、という状況が多発するであろうことが予想されます。表紙に「“合格点”がとれる実力を養成」と書いてある通り、本書でつく力は最低限合格に必要な程度が関の山と言ったところだと個人的には思っているので記憶の片隅に留めておいてください。またそのため数学がある程度できる人にとっては、簡単な問題に関しては「それくらいわかってるぞ」ということで読み飛ばしてしまう部分が多く、難しい問題に関しては結局自分の力にならないというオチになりかねないので、心構えの面で役に立つ情報が無いとは言わないまでも、本書に費やす約2000円がそれほど実りの無いものになってしまいかねません。本書を使いたいと思ったら、他の本で解説のレベルが合わなかった問題に関してのみ本書で噛み砕いて説明してもらうなど、やっぱり結局本書単体以外での使用をお薦めすることになります。

 難易度は、各小問単位で“★”(易)~“★★★”(難)の3段階に評価されています。概ね妥当だとは思いますが、強いて言えば本書も25ヵ年と同じく日常の演習としての使用を前提にしたものであるためか、本当は受験生全員にとってそれほど簡単というわけでもないだろうなという問題に“★”や“★★”がつくことがあります。また3段階評価の欠点として、“難”が「数学で他の人に差をつけることが出来得るレベルの難しさ」なのか「試験場では多くの人が解けないだろうからとっとと捨ててしまうが吉の難しさ」なのかわからないということが挙げられます。いずれにせよ、上でも述べた通りたいした問題ではないかのように解説されてしまうのですが。


 いかがだったでしょうか? 苦手と上手の差が激しい数学という教科だからこそ、本によって解説の方針も特に多種多様でした。1週目にも言った通り、同じ問題を扱っているはずの参考書でもそれぞれに特色があって、使い方が変わってくるのだということが、こうして比べてみると改めてよく見えてきましたね。もちろん、だからと言って参考書選びに悩んで時間を浪費してしまっては本末転倒です。ただ、東大受験生向けの参考書だからと安直に本に手を伸ばす前に、この記事の存在を思い出してもらえたらと思います。

 さて、参考書別活用法コーナー第1弾『東大過去問参考書の参考の書』シリーズは今回で終了です。次回8月19日(月)からは英語科の武井先生が、単語や長文、リスニング……などといった英語の個々の分野に特化した参考書について紹介してくれる予定です。ご期待ください!!
2013/08/02
第3回 出典:東京大学前期 2010年 物理 第2問

 皆さん、こんにちは。そろそろ大手東大模試も始まる頃で、皆さんの気合もより一層高まっているといったところでしょうか。そんな中わざわざ足を運んで貰える人がいるとなると、こちらも俄然やる気が湧いてきますね!

 入試物理の問題集で必ず見る、磁場中の導体レールの運動の問題。2010年度入試は東大でもこんなひねりの無い問題を出すのかと話題になったものですが、確かに導体レールの問題は解くとなると為すべき操作が大体決まってしまっていて、演習を積んで手慣れてしまった皆さんにとっては退屈に感じられるかもしれません。しかし自分にとってこの導体レールの話は高校物理の枠組みの中で最も少年心をくすぐる応用を見せてくれる問題であり、本企画A級紙の立案に多かれ少なかれ影響があったと言っても過言ではないほどです。それが退屈だなんて思われてしまうのはとても残念――なので今回は、この導体レールの問題の先にある魅力をお伝えできればと思います!

 いきなり物騒な話ですが、鉄砲や大砲の弾丸は普通どうやって飛び出しているのでしょうか? すなわち、弾丸の運動エネルギーはどこから来たものなのか、ということですが、これは勿論火薬のもつ化学エネルギーが爆発することによって弾丸の速度に変換されているのですね。とすればこの弾丸の速度を向上させようと思ったときにどんな研究をする必要があるかというと、より爆発時のエネルギーの高い火薬の調製や極力エネルギーの変換を妨げないような発射機構の改善……あたりがすぐ思いつくところでしょうか。それでも、エネルギー源が「物質の爆発」なのです。この先どんなに研究が進んだとしても、無限の化学エネルギーを蓄えた物質なんて見つかるはずがありませんし、爆発のエネルギーを100%運動エネルギーに変換することも難しいでしょう。よって弾体の発射速度には確実に光速より十分小さい上限が存在することになり、“どんなに速い弾も撃ち出すことのできる発射装置”を実現するのはこの方式では不可能であるという結論に達します。そこで何か別の方式で物体にエネルギーを与え加速させることができないか考えてみると、人類は最近安定的にエネルギーを供給する方法として電気というものを使いこなせるようになってきたのでした。この方向性でさらに探ってみましょう。
 物体を加速させるには何らかの外力を加える必要がある――というのはお馴染みのニュートンの法則ですが、電気分野で生じる強い外力のひとつに「電磁力」がありました。この力を使って物体を加速することについて、次のようなシンプルな設定で考えてみます。

 図のように水平面上に十分長い2本の導体レールを間隔 l で平行に置き、その間に磁束密度の大きさが B である一様な磁場を鉛直上向きに加えた。導体レールの上には質量 m の棒を、導体レールと直角をなすようにそっと乗せてある。いま、導体レールに図のように電源を接続し、棒に大きさ I の電流が常に流れるようにする。以下、棒以外の電気抵抗や自己誘導、及び導体レールと棒との間の摩擦を無視して考える。



 まず電池が接続されれば棒には図で上向きに電流が流れますから、電磁力がフレミングの左手の法則で図の矢印の向きに働きます。このときの電磁力の大きさ F は


 よって棒の力積の変化を考えれば、導体レールを飛び出すときの棒の射出速度 v は、電流が流れ始めてから棒がレールを飛び出すまでにかかる時間を T として



 以上のようにして、かなり単純化した場合ではありますがひとまず棒の射出速度を求める事が出来ました。この式を見れば、どうすればこの棒がより早くなるのかは一目瞭然。太さ・材質が同じ棒なら長くなるほど質量が増してしまうことに注意して、単純に I、B、もしくは T を大きくすればよいのです。ここで T を大きくすることがどういうことかというと、棒に電磁力がかかる時間を長くするということですから、それは導体レールの長さを伸ばすことに他なりません。つまり、電源の起電力を大きくすればするだけ、磁場を強くすればするだけ、導体レールを長くすればするだけ、棒の速さは際限なく速くなっていくのです。これを利用して物体を撃ち出すのが“レールガン”です。
 見てきたように、レールガンには火薬を使った銃とは違って射出速度の上限はありません。物体の速度が光速を超えることはありませんが、レールガンは理論上物体をここまで加速させることができるというのです。実は電磁気を使って物体を加速させる方式の装置はこれ以外にも幾つかあり、それらをまとめて電磁(投射)砲と呼ぶのですが、レールガンはその中でも最も高エネルギーの射出を達成します。最近の記録では、2010年末にアメリカ海軍が行った実験でレールガンが約10.4kgの砲弾を約2.7km/s(音速の約8倍!)で射出したそうですが、人間が電気という新しい力を扱えるようになって到達した世界も大分想像の及ばないところまで来たようですね。
 昔から、SF映画・小説をはじめアニメ・漫画・ゲームにも実は結構登場してきたレールガン。最近はとある作品によって一部で知名度を上げてきてはいますが、しかしこれほどシンプルかつダイナミックな装置である割には一般的にそれほど知られていないのが現状です。ここまで目にすることが少ない原因は、おそらくはレールガンが実用上まだそこまでうまくいっている訳ではないからで、例えば実際には上の設定で無視してきた他の抵抗や摩擦の影響も考えねばなりませんし、大きな電流が流れれば棒はジュール熱で高温となり抵抗値が増したり溶けたりもします。さらに棒には速度と磁場の大きさに比例する逆起電力が生じるため、この装置の性能は大きな電流を流し続けるための電源電圧によってほぼ決まりますが、高電圧や強磁場を得る技術にもまだまだ限界があります。これらの問題が劇的に解消されてくると、レールガンはもっと有名な装置になるかもしれません。

 兵器利用に関しては電源の確保の都合などから現在はまだ敬遠されがちですが、他には特に宇宙開発の分野での活躍が期待されています。未来の話ですが、例えば月面基地ができたとして、そこからロケットを飛ばすとします。今までの常識で考えればロケット打ち上げの動力源は化石燃料になるでしょうが、燃料は宇宙では簡単に手に入る代物ではありません。それに対し電気エネルギーは場所を問わず様々な方法で生み出すことができるので、ロケットをレールガンの原理で射出することができると宇宙でのエネルギーの問題がかなり緩和できそうですね。

 以上、入試問題としては淡泊ですが、その実は結構男のロマンの詰まったレールガンについてでした。これに限らず、高校の学習内容の中には面白い応用や身近に利用されているものが意外にあります。こんな感じで話が繋がってくると勉強もちょっと楽しくなってきますし、自分なんかは高校で学ぶこんな単純なことがこの不思議なことの原理となっているのかと感動を覚えたりもします。過去問参考書などの解説にはこういうこともたまに書いてあったりしますが、自分は大変楽しませてもらっていますね。皆さんも周りの様々なものに、自分が今勉強している内容を見つけてみると面白くなってくるかもしれませんよ。それでは次回、また2週間後にお会いしましょう。

2013/08/01 石橋雄毅

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