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特集ブログ ~自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分~

 東大生や東大卒業生が、自身の合格体験を基にアドバイスをしているブログや書籍は数多くある。もちろん、有益なものも多い。
 ただし、実際に生徒指導をしていると、自身の東大合格体験はあくまでも一例でしかないことに気づく。生徒を東大に受からせるには、学科知識、教材・模試・過去問の活用法、受験戦略、学習方法のすべてを見直し体系化する必要がある。

 情報が氾濫する時代だからこそ、自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分。自らが東大合格体験者でもあり、東大受験専門の塾・予備校の講師として毎年、生徒を東大合格に導いているメンバーのみが運営する『東大入試ドットコム』の特集ブログです。

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2013/07/15
 やってきました参考書別活用法のコーナー2週目。今回もまた前回に引き続き、東大の前期試験の過去問を扱った参考書について、その特色・特徴を

①構成
②解答・解説の充実度
③難易度評価

の3つの観点から、東大受験参考書愛好家のひとり、ワタクシ石橋雄毅が紹介していきます!
 東大に合格するためなら、参考書への投資くらい安いもんだ! なんて方もいらっしゃるかもしれません。ただ、少なくとも参考書に関しては、高いものが何でも良いものだとは限りません。前回言ったのと本質的に同じことですが、一番大事なのは自分が求めることがその本に書いてあるかどうかということであって、高いお金を出して買った分厚い本の大半のページが実は自分にとって不必要な情報で構成されていたなんてこともあり得るのです。これでは、お小遣いどころか貴重な時間までもが無駄になってしまいかねませんね。しかし高くて厚い本は、本屋での立ち読みでその特徴を掴むのもなかなか大変なもの……。そこでこの2週目では、受験参考書としてはちょっとお高い3種類の過去問参考書について、詳しく見てみようと思います!


◆角川学芸出版『鉄緑会 東大数学問題集』 数学
 東大受験専門の予備校として名高い鉄緑会からは、東大入試の過去問参考書としては数学・古典の2種のみが出ています。受験生には手を出すのが少々ためらわれるほどのお値段なのですが、その分いずれも他の追随をまるで許さないクオリティ。まずは数学の方から見ていきます。

 毎年出版される最新10年分の過去問を収録したものと、時々出版される1980年度入試からの過去問を全て収録したものが存在。前者が4000円強、後者は1万ウン千円……殆ど講師向けなので、以下では主に10年分のものについて記述しますが、後者は基本的に前者の各要素の分量が収録年度分だけ拡大されたようなものと思ってください。

 本書は問題が掲載されている冊子が極力薄くなるよう配慮して、『資料・問題篇』と『解答篇』の2冊に分冊されています(30年分収録しているものはさらに『解答篇』が前期試験の解答と後期試験の解答の2冊、計3冊に分かれています)。まず「資料篇」の章に関して。東大入試数学について、出題傾向の推移や頻出分野の分析、果ては数学の答案の書き方まで、20ページ以上に渡って綴られています。赤本や青本の傾向と対策に書いてあることを、紙幅を気にせず書きたいだけ書き連ねたような分量です。やはり参考になるところが多く、入試直前の余裕の無い時期ではなく、少しくらい過去問に触れて東大の問題がどういうものなのか何となく分かってきたくらいの頃に読むのが効果的かと考えます。「問題篇」では、前期の理系数学・文系数学から後期試験の数学まで、基本的に見開き1ページに収まるように収録。コピーして使いやすくしてくれている上、各年度の各問題について、現行の学習指導要領で解ける問題なのか、文系以外の数学に関しても文系範囲で解けるのかが明記されています。それどころか“(1)までなら文系範囲でも解ける”ということまで分かるようにしていたり、問題の趣旨を損なわない程度の改題を施し文系範囲でも解けるようにしていたり、本当に細かいところまで手が行き届いています。10年分の過去問の後には、さらに昔の過去問の中で特に演習効果が高いと思われるものを数セット分集めた“推奨問題”も用意されています。

 「解答篇」に関して。各年度のトビラのページには、近い年度の傾向・推移から見てその年の問題がどうだったか、セット全体として見るとどの問題はしっかり点を稼ぐべきでどの問題は皆出来が悪かったであろうかといったこと等が盛り込まれた講評と、そのセット全体として、後述の≪発想力≫≪計算量≫≪論理性≫≪時間≫の4軸がどれほど重視されていたセットだったかが一目で分かる“データ”、試験場でそのセットに立ち向かうことを考えるとどの順で問題に当たっていくのが良いのかひとつの例を示した“解答順序の一例”、そして各科類に合わせた“目標得点”が記されています。続く各問の解答は特に別解が豊富で、当該の問題に対し考え得るほぼ全ての解法について詳しく盛り込まれています。そしてどの解答にもそれぞれ採点基準が設けられており、周りに答案を添削してくれるような人がいなかったとしても自分一人だけでそれなりに妥当な採点をすることができるのが大きな特徴のひとつ。解答の列挙のみならず、どのような思考回路を辿ればその解答に至るのかを記した“指針”、一見妥当なようで実は厳密に答えを出すことができない解法などにも触れる“注”、意欲のある人向けにその背景・発展的考察にまで突っ込んだ“参考”と他大学・他年度で出題された、関連して解いておきたい“参考問題”まで取り揃えており、最後には当該の問題がその年のセットの中で見るとどのような位置づけで捉えられるか・捉えられるべきか書いた“実践上の注意点”を配置するなど磐石の態勢が敷かれています。古典問題集の前書きに書いてあることですが、本書の企画コンセプトは“完全に自習が出来る問題集”。実際その通りかもな、と感じてしまうほど、東大数学の問題集としては完成された良書だと思います。ただ東大受験指導者は、受験生一人一人に合わせどの問題を入試本番までに経験しておいた方が良いか、また本人は解説のどのレベルまで理解するべきなのか、特に苦手な分野をどう補強すべきかといったことなどを考えるところでこの問題集に対抗できるとは思っています。裏を返せば講師の介入する余地のある以上“完全な自習”の中にも本書を利用する人間の力量は不必要という訳ではないでしょうし、だからこそ自分としては本書を利用したとしてもなお、周りに自分のことを見てくれる、力のある人がいるのであればその人の力を借りた方が良いと考えますが。

 難易度評価に関して。まず各年度のセットに対して“目標得点”が設定されていると言いましたが、これも“目標”とするには確かに妥当でしょう。しかしあくまで目標なので、多くの受験生はこれより少し点数が下回っても他の教科できちんと稼ぐことで十分合格できるでしょう。また各問題に対しては、上でも少し触れましたが≪発想力≫≪計算量≫≪論理性≫≪時間≫の4つの評価軸が設定されていて、その4つについてさらにそれぞれA~Cの3段階で評価しています。評価軸が分割され基準が明解な分(その軸の要素が普通ならB、軽めならA、重めならC……ケチのつけようがない)、評価は妥当と思わざるを得ません。評価軸が分散し純粋な難易度比較ができなくなって時間配分のトレーニングに支障を来すかと思いきや、“解答順序の一例”や“実戦上の注意点”がこれを補っていて、本当に値段くらいしか非の打ちどころがありませんでした。



 次回7月18日(木)は古典編を紹介予定です。ご期待ください!
2013/07/12
第2回 出典:東京大学前期 2009年 化学 第1問Ⅰ

 皆さん、こんにちは。いよいよ勝負の夏休み! 根を詰めて勉強した後の一息に、この記事へ足を運んでもらえれば幸いです。


 「空はどうして青いのか」――身近にある疑問の中でも結構ポピュラーなものだと思いますが、これについて実際に自分で調べてみたことがある人はどのくらいいるのでしょう。実際にはそんなに簡単な話ではありませんが、こういうことに自分から興味を持ち進んで調べてみようとする姿勢が難関大合格への原動力のひとつではあると思います。そういう興味をくすぐるという点で、東大入試は問題文ひとつ取っても非常に面白い。例えば2009年の化学第1問Ⅰは次の段落から始まります。

 夜空に浮かんだ火星が赤く見えるのは,火星の地表に赤鉄鉱という鉱石が多量に含まれているからである。赤鉄鉱は酸化鉄(Ⅲ)Fe2O3を主成分とし,鉄が酸素や水と反応することによって生成する。2004年,米国の火星探査機オポチュニティは,火星の表面から採取した岩石の顕微鏡観察を行ない,液体の水の作用でできたと考えられる球状の赤鉄鉱を発見した。また,探査機スピリットによって火星の地表で針鉄鋼という鉱石も見出された。針鉄鋼は酸化水酸化鉄(Ⅲ)FeO(OH)を主成分とし,水中での化学反応により生成する。このような発見から,かつて火星には液体の水が存在し,生命誕生の機会があったと推測されている(*脚注)。

(*脚注) 2008年、米国の探査機フェニックスは,火星の地表のすぐ下に氷が存在することを確認した。

※引用元:東大入試2009年化学


 この次の段落から問題の本筋が始まりますが、内容に火星がそれほど絡んでくるわけでもなく、また上の文章を読まなかったからといって特に困るわけでもなく、メインテーマは“鉄の酸化”。その導入の為だけにこんなにも人をワクワクさせるような問題文を書いてしまうところが、地味かもしれませんが東大入試の持つ絶大な魅力のひとつだと思っています。他に入試問題でこうも“遊んでいる”大学はそうそうありません。ただ東大入試の理科は時間との勝負なので、試験時間中にこんなところをじっくり読んでいる暇など到底無いのですが……。

 「空はどうして青いのか」――ざっくり説明すれば、空気中の窒素や酸素が太陽光の中の青く見える波長の光を主に散乱するため、空には青い光ばかりが目立つことになるから、というところでしょうか。詳しく調べれば“レイリー散乱”という言葉を目にすることになると思います。そして夕焼けが赤いのは、太陽までの距離が遠くなることで太陽光の中の青い成分が自分の元に届くまでに殆ど散乱されてしまい、残った赤い光ばかりが目立つことになるからです。逆に火星の大気中には件の赤鉄鉱が塵として舞っていて、それが赤い波長の光を主に散乱するので火星の昼空は赤っぽく、夕焼けは青いという話も聞きます。インターネットなどで検索して青い夕焼けを見てみるとなかなか感動するものがありますが、そんなに難しく考えずともそもそも赤い赤鉄鉱が空を舞えばそりゃあ空は赤くなりますし、公開された画像自体加工されたものだと唱える人までいて意見は様々あるそうで、我々庶民にとっては火星はまだまだ遠い存在のようです。

 虹やプリズム、花火をはじめ、見た目の華やかさと科学的ロマンの交差点に幅を利かせる“色”――もう少し広く言うと“光の波長”という話題ですが、最先端の科学・化学では、様々な波長の光が見て楽しむ以外に重要な役割を担っています。今回はその中でも“分光法”というものを紹介します。

 高校の原子物理で扱う内容ですが、光はその振動数に比例し波長に反比例するエネルギーを持ちます。「ブルーライトが目によくない」などと最近言うのも、青という波長の短い光には他よりも沢山のエネルギーが含まれているからだということです。そのエネルギーは我々の生活からすればそれほど大きなものではありませんが、原子・分子レベルでは光の照射によって加えられるエネルギーで様々な変化が起こります。
 具体的には、例えば結合の振動状態の変化が挙げられます。原子同士の結合の様子は 2 つの物体がばねで繋がれた状況でよく近似できるのですが、ここに一定の周期で力を加え激しく振動させようと思った場合、用いる物体とばねに合わせその周期をうまく調節する必要があります。感覚的にはブランコを思い浮かべてみるとわかりやすいでしょう。ブランコを大きく揺らすには重心をタイミングよく移動させねばならず、適当に漕いでいるだけではブランコは殆ど揺れませんね。ばねの振動もこれと似たようなもので、今は扱いませんが微分方程式を使えば数式でも理解することができます。波動である光を分子に照射するというのはまさにばねで繋がれた物体に一定の周期で力を加えるようなものですから、分子の振動状態はその結合に固有の波長の光を照射したときにのみ変化し、そのために光が分子に吸収されます。この性質を逆手にとれば、様々な波長の光を未知の分子に照射していき、どの光がよく吸収されたかを調べればその分子の構造が明らかになるというわけです。
 このように、物質が特徴的な性質を示す光の波長を調べる事でその物質を解析する技術を“分光法”と言います。化学結合の振動では特に赤外線の波長の領域が活躍するため、赤外線を用いて有機化合物の官能基などを調べる方法も取られますが、これは“赤外分光法”と呼ばれます。光を照射することによる分子の変化は電子状態の遷移をはじめ他にも様々であるので、その波長帯・原理に応じ赤外分光法以外にも多様な分光法が存在します。高校で馴染み深いものだと炎色反応を調べることも分光法のひとつで、これは“発光分光法”というものに分類されます。

 以上、分光法についてでした。分光法は試料の解析の方法として強力な武器であり、現在でも物質の特定や物質の構造の決定に第一線で活躍しています。物質の正体を分析することは単に物性の研究に役立つだけでなく、それこそ東大入試が教えてくれたように火星の遍歴を知ることにも繋がってきますし、そう考えていくと皆さんが今学んでいる化学の知識の先にどれほどの可能性が秘められているか見当もつきませんね。
 そういうわけで、受験勉強の中で得られる知識は、皆さんが未来を拓く上での礎になります。とは言え、「空はどうして青いのか」――こんな身近なことさえしっかりとは説明できないほどに、高校で学ぶ知識は狭く世界は広いです。未来を拓く鍵となる知識は勿論受験勉強の中にも沢山転がっていますが、それ以外のところにも興味を持って、是非色々調べてみてほしいものです。大学とは、東大とはそういうことができる場所だと思いますし、このA級紙だって微力ながら様々な話題をお届けしていきますよ。次回もよろしくお願いします!

2013/07/12 石橋雄毅

2013/07/07
 東京大学は、言わずと知れた日本の最高学府です。そのために、書店に並ぶ“東大受験”向けの参考書の数が他の大学用のそれと比べ物にならないほど多いのは、少しでも東大受験に興味を持った皆さんもよくご存知のことと思います。とりわけ、東大の過去問を解説した本は本当に多い。東大対策という需要が高いのも勿論理由のひとつでしょうし、また月並みな表現になってしまうのが悔しいのですが、東大の問題は本当に良問ばかりなので、講師・ライターが解説の腕を見せるこの上ない晴れ舞台であるということもあるでしょう。とにかく、東大入試は受験業界に携わる皆が題材にしたいコンテンツなんですね。

 関連資料が多いのは、教える側にとっては研究がしやすくなりますから恵まれた環境と言えます。しかし受験生にとっては必ずしもそうではないでしょう。いざ東大の過去問を演習しようと思い立ち書店に足を運んだとき、どの参考書を相棒にすればいいのか、迷う時間は選択肢の数に比例します。時間の限られた受験生の皆さんには、“東大の過去問”というジャンルに絞ったとしても尚、一冊一冊吟味しているほどの余裕は無いと思います。

 そこで、この参考書別活用法のコーナーの第1弾としては、ここに足を運んでくれた人が気になっているであろう東大の前期試験の過去問を扱った参考書について、その特色・特徴を

①構成
②解答・解説の充実度
③難易度評価

の3つの観点から3週・9回にかけて、東大受験参考書愛好家のひとり、ワタクシ石橋雄毅が紹介します! ただし紙幅の都合上ここで扱うものは、過去問を抜粋して紹介するのではなく数年度分以上まとめて掲載した参考書に限るとします。東大受験対策参考書としてはまだまだ氷山の一角に過ぎないでしょうが、少しでも皆さんの相棒選びの参考になればと思います。
 第1週目では、過去問界(?)の最大手、赤本・青本と25ヵ年シリーズについて詳しく見てみましょう。それぞれの本の間にどのような違いがあるのか? よく検討して、自分に合っていそうなものを探してみてください!


◆教学社『東大の○○ 25ヵ年』 各教科
 東大入試の過去問を1科目につき25年分ずつ集めた、これまた有名な25ヵ年シリーズ。2013年現在、「英語」「英語リスニング」「理系数学」「文系数学」「現代文」「古典」と、地学を除いた理科・社会各教科の全12種類がラインナップされています。


 章立ては科目によって異なっていますが、文系科目ほど問題・解答以外の項目、例えば「本書の活用法」だとか分析だとか言った部分が充実しています。社会各教科は特に凝っていますね。逆に数学は文理共に1ページの「本書の構成」があるだけとかなり淡白ですが、唯一各問題について難易度評価をしています。

 問題の掲載の仕方は国語を除いた各教科とも、過去問を大問ごとに単元別に配列するというスタイルを取っていて、基本的に索引を見れば一応どのようなセットとして出題されたのかを俯瞰することができるようになってはいますが、“1セットを時間を計って解く”という演習の仕方は本書では明らかに想定されていません。25ヵ年シリーズは“実際の入試を使って普段の問題演習をする”ためのものだと思ってください。そのため直前期に過去問を時間を計って解こうと思っている人が本書を使う際には直近の問題に触れないよう注意する必要がありますし、むしろ東大を受験しない人にこそ積極的に使ってほしい問題集であるとすら個人的には思っています。また25年前まで遡ると問題の傾向や形式も国語や英語をはじめとして大きく変わっており、そんなに昔の問題を解いても仕方がないのでは? と思っている人もいるようですが、このように演習問題として扱うのであれば解く価値はあるのではないでしょうか。さらにこのような構成は他大学の25ヵ年シリーズにも踏襲されていますから、余力があってもっと問題演習をしたいのならそちらに手を出してみるのも悪くないかと思います(普通それほどの余力は無いでしょうが)。

 数学のみ問題編と解答編が章として分けられていますが、それ以外の科目は問題とその解答を交互に並べて掲載。この形式、特に英語に関しては問題の全訳がその問題文自体と改ページさえされず載っていたりするほどで、解いている最中に答えが目に入るのが嫌な人は嫌かもしれません。ちなみに、理科・社会には実際の解答用紙の第1問の解答欄の縮小コピーが掲載されています。


 解答・解説に関して。数学や理科は、赤本に掲載されていたものの再構成であることが殆どですが(あまり昔のものは自分にも確認できていませんが、少なくとも2000年代のものは概ねそうなっています)唯一生物に関してはその限りではなく、解答・解説の最後に当該問題についてさらに詳しい情報を述べた“研究”の欄が充実していたり、問題の末尾=解答の前にその問題を解くに当たってのヒントとなり得る“ポイント”欄が設けられていたりと日常的な演習用の問題集としての色をより濃くしているように感じられます。逆に英語を含むその他の文系科目を見ると赤本の文章を殆ど流用していない事が多いです。赤本では解説を、“その年度のその科目の問題単体”を解く上でどう考えていくか? ということで書かざるを得ないところを、25ヵ年ではその科目の問題だけを何問も解説するので、執筆者が一冊を通して独自の考え方・解答の書き方を一貫させて書くことができ、また書こうとしているようなのです。この傾向も問題演習の書としては妥当でしょう。


 先にも述べた通り、難易度評価は数学にのみ施されています。A(易)からD(難)までの4段階評価で、やや厳しめ(AかBばかりつく)。繰り返しになりますが本書は問題演習のための本なので難易度評価もそれを基準にしており、入試本番に本書のBレベルの問題で解けないものがあったとしても理Ⅲでなければ一般的には大きな問題にはならないでしょう。


 いかがだったでしょうか? 同じ過去問を取り扱った参考書でも、長所・短所は勿論実は使い方まで様々に違うのです。自分が本に求める機能は何なのか、また今過去問に手を出すその目的は何なのか、一度落ち着いて考えてみてください。それさえ決まれば、どの参考書を手に取るべきかは本記事から自ずと見えてくるでしょう。時間も参考書も、どうか効率的に使っていってくださいね! それではまた次回、1週飛んで7月15日(月)にお会いしましょう!
2013/07/04
 東京大学は、言わずと知れた日本の最高学府です。そのために、書店に並ぶ“東大受験”向けの参考書の数が他の大学用のそれと比べ物にならないほど多いのは、少しでも東大受験に興味を持った皆さんもよくご存知のことと思います。とりわけ、東大の過去問を解説した本は本当に多い。東大対策という需要が高いのも勿論理由のひとつでしょうし、また月並みな表現になってしまうのが悔しいのですが、東大の問題は本当に良問ばかりなので、講師・ライターが解説の腕を見せるこの上ない晴れ舞台であるということもあるでしょう。とにかく、東大入試は受験業界に携わる皆が題材にしたいコンテンツなんですね。

 関連資料が多いのは、教える側にとっては研究がしやすくなりますから恵まれた環境と言えます。しかし受験生にとっては必ずしもそうではないでしょう。いざ東大の過去問を演習しようと思い立ち書店に足を運んだとき、どの参考書を相棒にすればいいのか、迷う時間は選択肢の数に比例します。時間の限られた受験生の皆さんには、“東大の過去問”というジャンルに絞ったとしても尚、一冊一冊吟味しているほどの余裕は無いと思います。

 そこで、この参考書別活用法のコーナーの第1弾としては、ここに足を運んでくれた人が気になっているであろう東大の前期試験の過去問を扱った参考書について、その特色・特徴を

①構成
②解答・解説の充実度
③難易度評価

の3つの観点から3週・9回にかけて、東大受験参考書愛好家のひとり、ワタクシ石橋雄毅が紹介します! ただし紙幅の都合上ここで扱うものは、過去問を抜粋して紹介するのではなく数年度分以上まとめて掲載した参考書に限るとします。東大受験対策参考書としてはまだまだ氷山の一角に過ぎないでしょうが、少しでも皆さんの相棒選びの参考になればと思います。
 第1週目では、過去問界(?)の最大手、赤本・青本と25ヵ年シリーズについて詳しく見てみましょう。それぞれの本の間にどのような違いがあるのか? よく検討して、自分に合っていそうなものを探してみてください!


◆駿台文庫『大学入試完全対策シリーズ 東京大学』(青本) 全教科
 一般的な知名度では赤本に劣るかもしれませんが、難関大学の過去問としては赤本に並ぶ二大巨頭の片割れ・青本。過去問選びに迷うとしたら、多くの人が“赤本にするか青本にするか”というところになるでしょう。

 例年最新10年分の過去問が5年分ずつ上・下巻に分けて出版されていて、リスニングCDは上巻に収録された最新5年分の音源のみ付属。「入試ガイド」「出題分析と入試対策」「問題と解答・解説」の3章立てで構成されています。

 「入試ガイド」は東大入試の基本情報が並べられているだけなので、大学についての情報まで掲載されている赤本に比べると薄くなりますが、この程度の情報はインターネット等(勿論、当サイトでも)で最新の、しかもより詳しい情報まで簡単に調べられるので、駿台さんはむしろ本を少しでも薄くする選択をしているのかもしれません。そういう意味では、合格者からの声まで掲載し少しでも充実させようとする赤本と対照的です。

 「出題分析と入試対策」の充実度は科目によりますが、文系数学・物理・地学は例年あっさりめ。それ以外の科目についてはそれなりにまとまりのある文章が書かれていて、ここに綴られる東大入試の分析や執筆者の東大入試に対する思いの丈には駿台の先生方の個性がよく出ています。オーソドックス、それが故にやや事務的な赤本の文章に対し、青本の文章はひとつの講義を聞かされているような感覚の読み口です。章立てが「問題と解答・解説」となっている通り、本書は1年度分の全教科の問題と解答を交互に掲載するスタイルを取っています。赤本に比べ問題を解く前に解答が目に触れてしまうリスクはあるかもしれませんが、逆にパラパラと問題に目を通しすぐ解答を確認する分には見やすいとも言えます。

 解答・解説に関して。上と同じく青本の読み口の方が丁寧にかつ深い所まで“教えて”くれている印象は強いですが、ターゲット層の学力が赤本よりも高めに設定されていると感じます。例えば、英語では第1問が文章の解釈メインの問題ということで文法の解説を殆どしなかったり、物理では伝統的に入試問題そっちのけで受験レベルに収まらない解説・考察をしていたりなどです。赤本にするか青本にするかは、主に自分の実力に合わせて選ぶのが正解でしょう(勿論、個性的な講師陣の個性的な文章の読み口が肌に合わないという人もいるかもしれませんが)。ただ数学に関してだけは、赤本の解説が“発想の仕方”に大分寄って薄いため、数学が幾分苦手な人にも青本の内容を薦められます。


 難易度評価については、各教科とも「出題分析と入試対策」の項や解説中で少し触れることがある程度で、それほど重視はしていないようです。また赤本にあった“講評”のような、その年度のセットを全体的に見て感じることを述べる項目も基本的には設けられておらず、「出題分析と入試対策」で触れる先生も中にはいる、くらいのものです。しかもこの項目は基本的に毎年更新されてしまうので、各年度の講評を見ようと思ったら各年度版の青本を入手せねばならず、“普通”はできません。自分のように古本漁りをしてまで楽しもうという気概があるのなら話は別ですが。



 次回7月7日(日)には、教学社の25ヵ年シリーズを紹介予定です。ご期待ください!
2013/07/01
 東京大学は、言わずと知れた日本の最高学府です。そのために、書店に並ぶ“東大受験”向けの参考書の数が他の大学用のそれと比べ物にならないほど多いのは、少しでも東大受験に興味を持った皆さんもよくご存知のことと思います。とりわけ、東大の過去問を解説した本は本当に多い。東大対策という需要が高いのも勿論理由のひとつでしょうし、また月並みな表現になってしまうのが悔しいのですが、東大の問題は本当に良問ばかりなので、講師・ライターが解説の腕を見せるこの上ない晴れ舞台であるということもあるでしょう。とにかく、東大入試は受験業界に携わる皆が題材にしたいコンテンツなんですね。

 関連資料が多いのは、教える側にとっては研究がしやすくなりますから恵まれた環境と言えます。しかし受験生にとっては必ずしもそうではないでしょう。いざ東大の過去問を演習しようと思い立ち書店に足を運んだとき、どの参考書を相棒にすればいいのか、迷う時間は選択肢の数に比例します。時間の限られた受験生の皆さんには、“東大の過去問”というジャンルに絞ったとしても尚、一冊一冊吟味しているほどの余裕は無いと思います。

 そこで、この参考書別活用法のコーナーの第1弾としては、ここに足を運んでくれた人が気になっているであろう東大の前期試験の過去問を扱った参考書について、その特色・特徴を

①構成
②解答・解説の充実度
③難易度評価

の3つの観点から3週・9回にかけて、東大受験参考書愛好家のひとり、ワタクシ石橋雄毅が紹介します! ただし紙幅の都合上ここで扱うものは、過去問を抜粋して紹介するのではなく数年度分以上まとめて掲載した参考書に限るとします。東大受験対策参考書としてはまだまだ氷山の一角に過ぎないでしょうが、少しでも皆さんの相棒選びの参考になればと思います。
 第1週目では、過去問界(?)の最大手、赤本・青本と25ヵ年シリーズについて詳しく見てみましょう。それぞれの本の間にどのような違いがあるのか? よく検討して、自分に合っていそうなものを探してみてください!


◆教学社『大学入試シリーズ 東京大学』(赤本) 全教科
 過去問と言えば真っ先にこれを思い浮かべるという人も多い定番中の定番。内容もオーソドックスなことがしっかり書かれていて、これといったこだわりなく適当に本書を選んだとしても後悔するようなことにはそうそうならないでしょう。

 掲載されているのは「大学情報」「傾向と対策」「問題」「解答」で、リスニング用のCDも付属。毎年、「大学情報」の項の最後に合格者からのアドバイスが収録されているのが特徴と言えば特徴。「傾向と対策」は各教科十分丁寧に書いてあります。

 「問題」は、基本的には実際の問題用紙を尊重して掲載していますが、大問が変わってもあえて改ページを施さず極力レイアウトを詰めるようにしていたり、最近は解答の載っている部分と別冊に分けたりと分厚く使いづらくなるのを少しでも解消する努力をしているようです。しかしそれでもまだまだそれなりの厚さは残ったままなので、この冊子をそのまま使って時間を計り過去問演習とするのは、個人的にはあまり推奨できません。実際の問題用紙がもとになっているとはいえ、むしろレイアウトが詰まった分途中計算を書き込んだりするのにも不向きですしね。そもそも、時間を計っての過去問演習は極力本番の状況に近づけて行うのが最良だと自分は考えているので、問題用紙はインターネットで公開されている実際のものを用意するのが自分としての理想ではあります。

 また例年7~9年分程度の問題を収録していますが、リスニング音源はそれより少ない年度しか収録されていなかったり、リスニングスクリプトが問題と一緒に掲載されていたりします。しかし解答が省略されているとはいえ、英語以外の外国語の入試問題まで収録しているのは赤本くらい。


 「解答」に関して。さすが過去問参考書の定番となっている赤本だけあって、解答・解説も基本的にオーソドックス。各所でよく紹介される解法・別解についてきちんと触れられていますが、マイナーなものや誤答しやすい解法に関する細かい注意についてはやや薄め。解説は、数学に関してはやや飛ばし気味で高校数学をある程度理解している人がどう着想を得ていくかという指針を手短に書いてあるだけのことが多いですが、他の教科については問題設定を順に追って整理したり解答するにあたって必要な情報をまとめたりしてくれています。それでも全体的に赤本の理系科目の解説は他の参考書よりもあっさりしている印象を受けます。


 各教科の解説の最後に“講評”の項が用意されていて、その年度のセットを全体的に見るとどの問題は取れなくてはならないかとか、例年の東大入試に比べてどうかとかいったことが書かれています。読みまくっていればそれなりに東大入試の内容に詳しくなりますが、それは講師や入試オタク向けの話。受験生はそこに書かれている“やや難”だとか“易”だとかいった評価を参考にし、どの問題はできるべきだったかを振り返るのに使って欲しいです。ただしここで言われる“標準”はあくまで東大入試としての“標準”で、見ていると赤本の目標ラインは各教科での合格者平均くらいありそうです。皆多少なりとも得手不得手のある中、全教科で合格者平均を達成しているような人はかなり高得点の層にいると思われますから、そこで言われている通りにいかなかったとしても落ち込み過ぎないようにしてください。また英語にのみ“解答の指針”の欄が設けられていて、どのような心構えでその年のセットに臨み時間配分すべきかといったことの参考になり得ることが書いてあります。



 次回7月4日(木)には、駿台文庫『大学入試完全対策シリーズ 東京大学』(青本)を紹介予定です。ご期待ください!
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