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特集ブログ ~自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分~

 東大生や東大卒業生が、自身の合格体験を基にアドバイスをしているブログや書籍は数多くある。もちろん、有益なものも多い。
 ただし、実際に生徒指導をしていると、自身の東大合格体験はあくまでも一例でしかないことに気づく。生徒を東大に受からせるには、学科知識、教材・模試・過去問の活用法、受験戦略、学習方法のすべてを見直し体系化する必要がある。

 情報が氾濫する時代だからこそ、自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分。自らが東大合格体験者でもあり、東大受験専門の塾・予備校の講師として毎年、生徒を東大合格に導いているメンバーのみが運営する『東大入試ドットコム』の特集ブログです。

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2016/09/10
 毎年出版される最新10年分の過去問を収録したものと、時々出版される1980年度入試からの過去問を全て収録したものが存在。前者が4000円強、後者は1万ウン千円……後者は殆ど指導者向けなので、以下では主に10年分のものについて記述しますが、後者は基本的に前者の各要素の分量が収録年度分だけ拡大されたようなものと思ってください。


 本書は問題が掲載されている冊子が極力薄くなるよう配慮して、『資料・問題篇』と『解答篇』の2冊に分冊されています(30年分収録しているものはさらに『解答篇』が前期試験の解答と後期試験の解答の2冊、計3冊に分かれています)。まず「資料篇」の章に関して。東大入試数学について、出題傾向の推移や頻出分野の分析、果ては数学の答案の書き方まで、20ページ以上に渡って綴られています。赤本や青本の傾向と対策に書いてあることを、紙幅を気にせず書きたいだけ書き連ねたような分量です。やはり参考になるところが多く、入試直前の余裕の無い時期ではなく、少しくらい過去問に触れて東大の問題がどういうものなのか何となく分かってきたくらいの頃に読むのが効果的かと考えます。

 「問題篇」では、前期の理系数学・文系数学から後期試験の数学まで、基本的に見開き1ページに収まるように収録。使いやすくしてくれている上、各年度の各問題について、現行の学習指導要領で解ける問題なのか、文系以外の数学に関しても文系範囲で解けるのかが明記されています。それどころか“(1)までなら文系範囲でも解ける”ということまで分かるようにしていたり、問題の趣旨を損なわない程度の改題を施し文系範囲でも解けるようにしていたり、本当に細かいところまで手が行き届いています。10年分の過去問の後には、さらに昔の過去問の中で特に演習効果が高いと思われるものを数セット分集めた“推奨問題”も用意されています。


 「解答篇」に関して。各年度のトビラのページには、近い年度の傾向・推移から見てその年の問題がどうだったか、セット全体として見るとどの問題はしっかり点を稼ぐべきでどの問題は皆出来が悪かったであろうかといったこと等が盛り込まれた講評と、そのセット全体として、後述の≪発想力≫≪計算量≫≪論理性≫≪時間≫の4軸がどれほど重視されていたセットだったかが一目で分かる“データ”、試験場でそのセットに立ち向かうことを考えるとどの順で問題に当たっていくのが良いのかひとつの例を示した“解答順序の一例”、そして各科類に合わせた“目標得点”が記されています。

 続く各問の解答は特に別解が豊富で、当該の問題に対し考え得るほぼ全ての解法について詳しく盛り込まれています。そしてどの解答にもそれぞれ採点基準が設けられており、周りに答案を添削してくれるような人がいなかったとしても自分一人だけでそれなりに妥当な採点をすることができるのが大きな特徴のひとつ。
 解答の列挙のみならず、どのような思考回路を辿ればその解答に至るのかを記した“指針”、一見妥当なようで実は厳密に答えを出すことができない解法などにも触れる“注”、意欲のある人向けにその背景・発展的考察にまで突っ込んだ“参考”と他大学・他年度で出題された、関連して解いておきたい“参考問題”まで取り揃えており、最後には当該の問題がその年のセットの中で見るとどのような位置づけで捉えられるか・捉えられるべきか書いた“実践上の注意点”を配置するなど磐石の態勢が敷かれています。

 古典問題集の前書きに書いてあることなのですが、本書の企画コンセプトは“完全に自習が出来る問題集”。実際その通りかもな、と感じてしまうほど、東大数学の問題集としては完成された良書だと思います。ただ東大受験指導者は、受験生一人一人に合わせどの問題を入試本番までに経験しておいた方が良いか、また本人は解説のどのレベルまで理解するべきなのか、特に苦手な分野をどう補強すべきかといったことなどを考えるところでこの問題集に対抗できるとは思っています。裏を返せば講師の介入する余地のある以上“完全な自習”の中にも本書を利用する人間の力量は不必要という訳ではないでしょうし、だからこそ自分としては本書を利用したとしてもなお、周りに自分のことを見てくれる、力のある人がいるのであればその人の力を借りた方が良いと考えますが。


 難易度評価に関して。まず各年度のセットに対して“目標得点”が設定されていると言いましたが、これも“目標”とするには確かに妥当でしょう。しかしあくまで目標なので、多くの受験生はこれより少し点数が下回っても他の教科できちんと稼ぐことで十分合格できるでしょう。また各問題に対しては、上でも少し触れましたが≪発想力≫≪計算量≫≪論理性≫≪時間≫の4つの評価軸が設定されていて、その4つについてさらにそれぞれA~Cの3段階で評価しています。評価軸が分割され基準が明解な分(その軸の要素が普通ならB、軽めならA、重めならC)、評価は妥当と思わざるを得ません。評価軸が分散し純粋な難易度比較ができなくなって時間配分のトレーニングに支障を来すかと思いきや、“解答順序の一例”や“実戦上の注意点”がこれを補っていて、本当に値段くらいしか非の打ちどころがありませんでした。



石橋雄毅

2016/09/10
 シリーズの他の科目と同じく『資料・問題篇』と『解答篇』に2分冊されていますが、まずは「資料篇」から見ていきます。“東大入試古典の出題形式・出典傾向”“答案の書き方”など、序盤の大局的な構成は数学と同じです。それに続いてまとめられているデータの詳しさが尋常でなく、かつて出題された問題が“現代語訳”“条件付訳”“内容説明”“心情説明”“理由説明”“その他”のどれに分類されるものなのかを小問単位で総覧。また出典をジャンルごと・時代ごとに整理するなど、非常に細かいです。

 続く“古文作品ジャンル別読解法”では出典作品が説話なのか随筆なのかといったことを知ったら持つべき、問題を解く上での先入観が書いてあるのですが、例えば数学であれば“東大の整数問題は頭を捻る必要のある難しい問題であることが多い”“東大文系数学の微積分の方程式の問題は本当に単純な計算問題であることが多く、出たらまず落とせない”などの各頻出単元に対する先入観をよく目にしますし、自分で過去問に当たっていくと実感としても湧いてきますよね。その古典版がまとめられているのはあまり見ませんし、しかし実際に受験生にとって役立つ情報ではあると思うので、一見の価値アリです。そして最後に“古文単語集成”“漢文基本句法”が収録されていて、前書きの通り本当に本書と辞書さえあれば、完全に自習が出来るよう構成されています。

 “古文篇”と“漢文篇”に分けられた「問題篇」について。こちらも数学と同じく、出来る限り1題が見開きに収まるよう配慮されていて使いやすいです。東大古典では重要な、解答欄の長さも問題にきちんと記されています。惜しむらくは、後述する難易度評価が古文篇・漢文篇のトビラページの裏に一覧として掲載されていることで、問題を解く前にはその難易度をあまり知るべきではないと思っているため、寧ろこれは解答篇に掲載した方が良かったのではないかと思っています。


 「解答篇」について。やはり充実度は随一。課題文の一節一節について、これほど詳しい解説を添える参考書は本書をおいて他に無いでしょう。ただ古文はあまりにも国文を好き過ぎる人が書いているきらいがあるので、“出典解説”に並ぶ日本古典文学の刊行事情、その作品への東大教員の関わり方、過去の出題の系譜との考察……などなどのマニアックな知識から感じられる熱い情熱は、大の国文好き・及び入試好き以外のどれほどの受験生に届くのか少々心配になります。また本文に関して本当に一節単位で解説をするので、“本文解説”の項目は必然的に長大になり、受験生、特に理系学生にとってはこれを全て読破するのにはそれなりの苦痛も伴うと思います。数学でもそうですが、この手の解説書は必要な部分だけしっかり読もうとすればそれで充分だと言えるでしょう。

 その長い“本文解説”の後、“解答例”“採点基準”“設問解説”と続きますが、これも数学同様きちんと参考配点を掲げている点はかなり重要かつ貴重です。25ヵ年の国語などでは与えられた解答と自分の答案とを見較べて違いを自分で判断し正確な自己採点を行うことを良しとしているようですが、そんなことが最初からできる受験生はおらず、そもそもそれができるような力を養うために問題演習をしているのです。自分で自己採点ができるようになるための指針たる採点基準をあえて用意しない姿勢は、参考書にとって決して美点とはなりえないと自分は考えます。そういう意味で、本書の持つ意義はこの部分だけでも非常に大きいでしょう。さらに最近では“答案例”も付いてきて、実際このくらいの答案を書くとこういう減点を食らうよ、ということまでわかるようになっています。古文も漢文も、最後は“現代語訳例”(漢文はさらに“書き下し文”も)で締めくくられます。


 難易度評価に関しては、各大問について、古文9軸、漢文8軸で評価。内訳は、古文は“問題の評価”として≪難易度≫≪記述力≫≪時間≫≪完成度≫の4軸、“学習の効果”として≪語彙≫≪文法≫≪敬語≫≪常識≫≪主体≫の5軸。漢文は“問題の評価”の4軸は同じで、“学習の効果”として≪語彙≫≪句法≫≪常識≫≪主体≫の4軸となっています。ここからさらに各々の軸について5段階で評価とかなり細かくなっている上に、このような評価を行っている他の参考書が無いため比較が出来ないので妥当性の判断が難しいのですが、だからこそやはりこれを参考となるひとつの目安として受け入れるべきではあるでしょう。≪(問題の)完成度≫なんて評価を聞かされてもどうすりゃいいんだよ、という話ではありますが。

 全体として、本書は数学よりも少々マニアック過ぎるところがあります。そのため、高いお金(5000円強)を払って買ったはいいものの受験までに読むのはこの分厚い本の半分程度、なんてことが十分に考えられる一冊ではあるのですが、それでも他にはない有益な情報が詰まっていることもまた確かです。そこは、受験生であるあなた自身の、入試における古典の位置づけの重要度から財布の重みと相談して判断してください。



石橋雄毅

2016/09/10
 遂に鉄緑会から物理問題集が発刊。基本的なスタイルは既刊の数学・古典・化学と変わらず、『資料・問題篇』と『解答篇』の2分冊。項目立て・クオリティも基本的には今まで通りで、安心して頼りにできます。


 「資料篇」は“東大入試物理の分析”“解答にあたっての注意点”から成ります。わずか見開き計3ページですが、特に後者では私自身も生徒指導で強くこだわる「1点でも多く取りに行くための手の動かし方」がかなり具体的に述べられており、受験生にとって侮れない内容に違いないでしょう。前者は割とどんな東大過去問参考書にも書いてあるような内容を少し詳しめにといった感じでした。

 続く「問題篇」は直近10年分の過去問に加え、もっと過去のもので演習するに相応しいセットを5回分も掲載。『東大化学問題集』同様、実際の問題冊子に似せたレイアウトが採用されていて演習の際の臨場感はタップリ。

 本書はさらにその後のオマケの「巻末付録」がとても充実していて、“テーマ講義”として「入試問題を解く上で知っていると有利になるものの,多くの参考書,問題集で取り上げられていない事柄14」(“本篇の構成”より引用)が144ページにもわたって解説されており(「問題篇」は141ページ!)、これだけでも相当の参考書であると言えます。ちなみに、その14個のテーマは次の通り。

微分方程式/仕事とエネルギー/円運動・惑星運動/重心運動と相対運動/気体分子運動論/熱力学第一法則/ドップラー効果/単スリット/コヒーレンス/静電場の性質/ガウスの法則とコンデンサー/コンデンサー・コイルを含む直流回路/電磁誘導/荷電粒子の運動

見る人が見れば、先の文句も納得の濃ゆい項目立てとなっていますが、一部単元はかなりハイレベルであり、人によっては深入りし過ぎぬよう注意が必要です。また、このテーマ講義でも随所に“確認問題”として「問題篇」未収録の東大の古い過去問や他大の問題が用意されていて、いよいよ単なる東大過去問参考書の域を超えてきたように思われます。最後に、化学に続き物理にも“解答用紙サンプル”が収録。(一応、解答用紙はここにもありますよ、という宣伝はさせてくださいね……?笑)

 「解答篇」には「問題篇」の15回分の問題に対する解答・解説が掲載。各セットのトビラページにその年度の“出題テーマと難易度”“目標得点”が書いてありますが、この物理問題集ではⅠ・Ⅱ類とⅢ類のそれぞれに大問ごとにまで目標点数が用意されています。この点数は、合格する上で必要な点数としては妥当でしょう。

 各問の解答・解説は“解答例”“配点”“採点基準”“指針”“解説”から構成されています。解説は詳細かつ丁寧、図も豊富で、誰にとっても理解できるように書かれていると感じますし、一方で“参考”といった形で付された踏み込んだ内容が知的好奇心を刺激してくれることもしばしば。圧巻なのは豊富に用意された“参考問題”。解説されている問題の類題としてまた別の東大の過去問が引用されたり、解説されている問題をより深く理解するために、その問題設定を活かして作ったオリジナル問題が置かれたりしています。この問題群は、直前期に物理を鍛え抜こうと思った時役に立つであろう良問ばかりだと思います(レイアウトの都合上少し扱いづらいのが玉に瑕)。

 難易度評価については、トビラページでの大問ごとの目標得点に加え、解説ページの“配点”で、小問ごとに☆~☆☆☆の3段階で実施されています。絶対評価というよりは、その問題の小問の中での相対評価で決められているようなので、どの設問が壁になるか・どこまで解けていれば及第点なのかは一目で分かります。

 総じて、鉄緑会から出た他の科目の本同様、東大物理に対し他の追随を許さない圧倒的情報量を提供してくれていると言えます(収録されている東大の過去問なんて、参考問題を含めたら3問×15セットどころではない!)。一方で他の科目にあった冗長な印象もなく、値段の高さにさえ目をつぶれば、東大合格に向けあと一歩というところ以上の物理の学力を持つ人になら誰にでも(東大志望でなくても)薦められる一冊であると思いました。



石橋雄毅

2016/09/10
 基本的なスタイルはシリーズの他の科目と変わらず、『資料・問題篇』と『解答篇』の2分冊。項目立ても基本的には今まで通りですが、化学はそのひとつひとつに対してよりこだわって作り込まれている印象を受けます。

 「資料篇」は“東大入試化学の分析” “合格点到達のための戦略” “答案作成の戦術と技法” “解答にあたっての注意点” から成りますが、ここに並んでいるのはこのテの詳しい分析にありがちな、受験生にとってうまく役立てるのが難しいような細かい話ではなくて、ともすれば卑近とも受け取れてしまうような、本当に実戦的な心構え・技術ばかり。とりわけ“答案作成の戦術と技法”は書く側が東大化学を本当に心から楽しんで書いているなというのがよく伝わってきて、自分は真面目にふざけると呼んでいますが、こういうことができるのってその分野を楽しんで研究し続けてきた人だけだと思うんですよね。本書で語られる“逆T字分割戦略”を見て、自分は本書への信頼をとても厚いものにしました。

 続く「問題篇」は直近10年分の過去問に加え、さらに過去のもので演習するに相応しいセットを4つ掲載し合計14回分から構成。実際の問題冊子と殆ど変わらないレイアウトを採用することで演習効果を高めようとする姿勢も市販の参考書ではなかなか見られない大きな特徴です。学習指導要領の変更に伴う単位系の違いにまで対応してくれていて、もう至れり尽くせりという感じ。「巻末付録」として“無機化学重要反応式集” “元素周期表” “解答用紙サンプル”が収録されていますが、この『資料・問題篇』だけでも満足感は相当なものでしょう。(一応、解答用紙はここにもありますよ、という宣伝はさせてくださいね……?笑)


 「解答篇」には「問題篇」の14回分の問題に対する解答・解説が掲載。各セットのトビラページにその年度の形式面・内容面における特徴を述べた講評と“出題テーマと難易度”“目標得点”が書いてあり、時間を計っての演習後はここで自分の感覚を一般的な東大合格者のものへと整えていくことになります。各問の解答は基本的に“配点” “指針” “解答” “解説” “参考” “類題” “手書き答案” などから構成。特筆すべきはまず濃厚な“解説”。設定の咀嚼、取り組む上での注意点から誤答・不十分な答案の指摘まで東大化学を隅々まで味わうことができるでしょうし、一般的な参考書では流されてしまうような細かい知識、“類題”も含め多数勉強になる所があると思います。ただし本文に散見される、東大本試問題文の作り込みの甘さの指摘から出題ミスの疑惑まで、ちょっとでも気になる所があれば積極的に考察して詰めていく姿勢は、東大に進むような切れ者にあるべき姿だと思いますし大好きなのですが、本書を使う受験生にとっては手取り足取りに過ぎる情報量に逆に振り回される要因となりかねないので、無用に時間を遣い過ぎる事だけは無いように注意しましょう。

 それと“手書き答案”。方々で使いづらいと評される東大理科の解答用紙をどう使うのか――その一例を示した貴重な資料ですが、方法が“答案作成の戦術と技法”で語られているとはいえ時間の無い中答案をこれだけスマートにまとめ切るには相当の練度が必要になると感じます。受験生にとってこの部分にエネルギーをかけることがどれだけ価値あることなのかはやや疑問。自分はこの資料を、ひとつの作品として鑑賞するだけで終わってしまいそうです。『解答篇』の「巻末付録」としては“有機構造決定の重要手法”が収録されていますが、先の“無機化学重要反応式集”同様よくまとまっているという印象。


 難易度評価は本書ではそれほどには重要視されていないようですが、ひとまず試験場の受験生にとって十分妥当なラインを突いていると思います。ただし掲載されているのは予備校の解答速報同様大問ごと(ⅠⅡの単位まで)の難易度評価ですが、せっかく端々で「設問別にはア~ウよりも続くエ、オの方が簡単なこともある」のようなことを述べているので、欲を言えばそのレベルでの評価までしてほしかったところです。


 総じて、鉄緑会から出た他の科目の本同様、東大化学に対し他の追随を許さない圧倒的情報量を提供してくれていると言えます。化学の問題をこれほど一問一問じっくりと扱っている参考書はなかなか見ませんから、そういう意味では東大対策に限らず純粋に化学の参考書として重宝する一冊だと自分は感じました。しかしながら、一応丁寧にわかりやすい形で書かれてはいますが、その分だけ長文有り余談も有りですから、化学の実力がまだ全然足りていない人が読むと情報に溺れてしまうかもしれません。本を必要な部分だけ取捨選択して読んで役立てるといったことができる、知識は最低限あるけど化学の点が伸びない、という受験生になら、値段に見合った価値を提供してくれるであろう一冊です。むしろ、鉄緑会の本全てに言えることですが、受験が終わって時間があるときにじっくり読み込みたくなるような本ですね。



石橋雄毅

2016/09/10
 高校生向けの数学雑誌と言えばモチロン“大数”。高校数学の殿堂が東大数学を放っておくはずもなく、『入試の軌跡』として10年分の数学の過去問をまとめたものを毎年6月号の増刊として出版しています。ちなみに、東大の他には京大・センター試験・私大医学部の入試の軌跡が例年刊行されており、また今ではもうありませんがかつては東工大・阪大・阪府大・慶応大・早稲田大・理科大のものもありました。

 掲載されているのは、各年度についての問題、解答と「受験報告」「フォローノート」、最後のまとめとして「10年の総括」「私の受験生時代」「東大の学科紹介」「実力判定テスト」。元が雑誌であるため問題文はかなり詰められており、文理合わせて例年9問前後ある東大数学の問題が見開きの1ページ半あるかないかのスペースに収まっています。答えが直後にあるのが嫌な人は嫌かもしれませんが、このコンパクトさが使いやすいという人もいるでしょう。解答も1年分に対し3~4ページ程度なので、後期試験の問題まで掲載されているにも関わらず他の過去問参考書に比べ圧倒的な薄さを誇ります。また、現行課程範囲外の問題にはそれと分かるように印がついています。

 本書一番の特色のひとつ「受験報告」について。毎年東大を受験した大数読者が編集部に送っている、“試験場でどのように感じどのように取り組んだか”の報告と出来具合が収録されているのですが、これが入試本番の臨場感・緊張感たっぷり。試験場では“いつも通りやる”ことがいかに難しいかよくわかります。書くのが皆さんと同じ受験生な訳ですから、プロが書くような講評より遥かに共感できる部分が多く、時間の使い方や試験場で必ず取るべき問題の取捨選択の面でもきっと参考になることでしょう。ただし、大数の読者には概して数学が得意な人が多いので、多くの受験生はこの欄に掲載されている人達よりも出来が悪いであろうことを覚えておいてください。

 以上までの内容は本誌に掲載されていた内容の再録となっていて、「フォローノート」でそのとき書き切れなかったことを補足。補足事項としては別解や各問題の図形的解釈、大学以降の内容に繋がる関連事項や高度な考察、例題の紹介などが主です。最後に“V作戦”という欄が設けられていて、その年のセットを総括しています。

 「10年の総括」では出題内容の傾向について詳しく分析。これに関しては赤本や青本よりも詳しいと言えますが、問題内容以外のことにはあまり触れられていないので試験の体裁といった基礎情報は予め他で仕入れておく必要があります。「私の受験生時代」「東大の学科紹介」は、現役東大生・大学院生に表題の内容について、1人につき丸々1ページを使ってインタビュー。最後に大数オリジナルの東大模試「実力判定テスト」1セットで締めくくります。


 上でも書いた通り、解答・解説は東大数学文理合わせた1年分につき大体3~4ページ。他に類を見ないほどコンパクトかつスマートに書かれていて、こういうものの方が良いという人もいれば早い論理展開に着いていけない人もいるでしょう。「フォローノート」の補足には青本以上に突っ込んだ内容が書いてあることもしばしば。


 難易度評価は、各問についてまずA(基本)からD(難問)までの4段階。その上でその解答目安時間も設定されています。1セットについての講評としては110字程度の“寸評”と先の“V作戦”を掲載。個人的にはこの大数の評価を一番信頼していて、試験場で受験生が当該のセットを目の当たりにした時に感じる感覚として最も妥当な判定だと思います。大数ではDと評価されている問題が25ヵ年でBと評価されていることもザラにありますがこれはやはり方針の違いによるもので、例えば1998年の理系数学第5問は計算がなかなか重い問題なので、試験場で解き切るには努力を要するので大数はDと評価、でも普段の学習の中ではこれくらい完遂してほしいという意味で25ヵ年はBと評価したのだと考えられます。


石橋雄毅

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