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特集ブログ ~自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分~

 東大生や東大卒業生が、自身の合格体験を基にアドバイスをしているブログや書籍は数多くある。もちろん、有益なものも多い。
 ただし、実際に生徒指導をしていると、自身の東大合格体験はあくまでも一例でしかないことに気づく。生徒を東大に受からせるには、学科知識、教材・模試・過去問の活用法、受験戦略、学習方法のすべてを見直し体系化する必要がある。

 情報が氾濫する時代だからこそ、自身の合格体験を吐き出すだけのブログでは不十分。自らが東大合格体験者でもあり、東大受験専門の塾・予備校の講師として毎年、生徒を東大合格に導いているメンバーのみが運営する『東大入試ドットコム』の特集ブログです。

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2016/09/10
 毎年『全国大学数学入試問題詳解』を発刊している聖文新社が、その創刊50年を記念して主要大学の数学入試問題50年分を大学ごとに次々と本にしました。本書は勿論そのトップバッター。大きめの書店でしか見ませんが、50年分ともなるとさすがに貫禄の佇まいです。構成の様子に入る前にまず言っておきたいことがひとつ。それは、本書のユーザーは主に高校・予備校教師だということです。そりゃあ、東大の数学を50年分も解くだけの時間的余裕なんて殆どの受験生が持ち合わせていないでしょう。それよりは、講師が生徒指導の為に、この669題の良問の中からどの問題を演習用に使うか選ぶための“図鑑”的な使い方の方がよっぽど実用的でしょうし、編集部側もおそらくはそのような想定でいるようで、「はしがき」には“私たち高校・予備校教師が~~”と書いてあります(読者を含まない、筆者たちとの意味での“私たち”とも取れましたが、自分は文脈から読者を含んだ“私たち”だと考えます)。

 それでもここに本書について述べるのは、実際に自分の周りに本書を全て解いて入試に臨んだ同級生がいたこと(かなり稀な例ですが)、余所で本書の特徴について述べたレビューを自分はあまり見たことが無いこと(大半が、「東大入試ってやっぱりスゲー!」というものばかり)の2点から。本書を改めて“受験参考書”として見るとどのような特徴が浮き彫りになるのか、まとめてみます。


 「はしがき」1ページで東大入試数学50年の雑感を述べ、次ページで本書の構成についてまとめた後は基本的に問題と解答のみ収録。特徴的なのはそのまとめ方で、まず「年度別問題編」として50年分の入試問題を全て年度順に掲載。ここで言う“全て”とは、前期試験の文系数学・理系数学、後期試験は勿論のことセンター試験の前身の共通一次試験が始まるよりももっと前に行われていた大学個別の一次試験の問題も含めての“全て”です(が、一次試験の中には一部省略されているものもあります)。問題文はびっちり詰められ見渡しやすくなっており、新訂版になって試験時間が最初のページに記されていたので、時間を意識しながらの問題演習が気軽にできるようになっています。

 1956年から2005年までの50年分の問題の後には、「項目別解答編」が続きます。ここでは、その50年分の問題が単元ごと・難易度順に解答と共に再配置。学習指導要領が50年の間に何度も変わっていますので、ここの単元は聖文新社独自の分類になっています。それぞれで掲載順が違うと扱いが面倒なのではと思うかもしれませんが、一応双方向の行き来がすぐにできるような記載は施されています。この構成から、本書は過去問をセットとして解くことも、また25ヵ年のように純粋に演習問題として使うことも、いずれにも対応しているということが言えます。


 解答は、略解とまでは言わないまでもかなり淡泊で解説の類はほぼ皆無。50年分もの問題を2度も掲載してこの厚さなのですから、解答の充実度はお察しください。勿論最低限必要なことは端的に書かれていますので、数学の得意な人にはこれで良いのかもしれません。


 先にも述べた通り「項目別解答編」で問題を単元ごと・難易度順に配置していますが、これはなんとも珍しい配列で、少なくとも東大数学を1セット解く上で、単元ごとの難易度の情報はあまり役に立ちません。1セットの中に同じ単元の問題が含まれることは、2012年度入試のような例外でもなければ滅多にありませんから、一通り解いて振り返ってみたところで結局どの問題は取るべきでどの問題は取れなくても良かったのか、ということがなんとなくしか分からないためです。しかし通常の問題演習をするという観点からした場合には、苦手な単元を頭から解いていけば少しずつレベルアップしていけるというメリットがありますので、単元ごと・出題年度順の配列を取っている25ヵ年に比べればよっぽど効果的に思われます。


 以上全ての性質を鑑みても、やはり本書は数学講師が東大入試を研究・生徒指導に活用するための1冊としての利便性が特に際立っている印象を受けますね。本書を全て解いたと豪語する私の友人は、理Ⅲを目指して高1からずっと受験勉強をしてきたという人物で、他の科目の過去問も25ヵ年全て解いたという猛者です。制限時間の切羽詰まった通常の受験生にとっては、本書を全部解くだけの時間を他の科目の勉強時間に充てた方が利益が大きい可能性が高いことを改めて強調しておきます。



石橋雄毅

2016/09/10
 『大学への数学』読者はお馴染み、安田亨先生の著書。理系編と文系編の2種類が存在していて、かつては共に2000~2009年度入試までの10年分の問題を収録していましたが近年“増補版”として2012年度入試までの13年分の問題を掲載したものが出版されました。ただし2013年現在の受験生の学習指導要領から外れている複素数平面の問題は、1999年度以前に出題された現行課程範囲内の良問に差し替えられています。


 のっけから独特の安田節・独自の情報満載の「はじめに」「本書の利用法」の後、すぐに「問題編」「解答編」が続きます。問題の配列は単元ごとで、本書もまた日常的な演習を前提にした参考書であると考えられます。単元内の掲載順に特に規則性は見つかりません。“場合の数・確率”の項では概ね易→難の配置になっているのに対し、“数と式など”の項では東大入試史上最も簡単と言われた問題が先頭に来ていないことなどから、単元別に前から順に解くと解説などの面で読者が学習しやすいだろうと著者が判断した配列になっているのかと思います。ただし、「解答編」の解説は基本的に一問一問が独立した構成になっているので、基本的にはどこから手を付けても問題ありません。また各問題文には、出題年度とその年の問題番号が記されています。

 こうして章立てを一通り見ると、他の参考書に比べ学科の内容以上の情報がまとめられたページに乏しいように感じます。ただ、自分もそれほど多くの受験生がそんなところにまできちんと目を通しているとは思っていませんし、むしろ本書のようにそういった情報が各問の解説の中に分散して取り入れられている方がもしかしたら受験生の目に触れやすいのではないでしょうか。そういう意味で、これは“生徒の目線に合わせる”という本書の企画意図が正しく反映された結果なのかもしれません。


 「解答編」に関して。各問題とも、“考え方”“解答”“注意”から構成。このタイプの問題はまずどのように考えるべきか? といったことに始まり、模範的な答案を付した後細かいテクニックや別解の検討、高度な知識や東大の入試作問委員会への批判(!)で締めくくります。この“考え方”“注意”が安田節全開で、読む人によっては独特の言い回しなどにイライラするかもしれませんが、他では見ない実戦的な情報の宝庫となっています。大数を買うほどの数学好きにはひとつの講義としても楽しめる事でしょうし、もっと根本的な話として“考え方”にあるような地に足着いた考え方さえ定着すれば、タイトルの通り試験中に“東大数学で1点でも多く取る”ための力を発揮することができるようになること請け合いでしょう。

 とは言え、無論基本操作ができることは前提です。当たり前ですが、難関大の入試ならどんな教科でも基本操作を身に着けて初めて土俵に上がれます。ひとつひとつの操作もおぼつかないのに、勘違いして“東大数学で1点でも多く取る方法”なんて言葉にすがっても、本書の解説はそのレベルにまでは対応してくれないのでご注意を。


 難易度評価は、本書では特に行われていません。解説にもよっぽどのことがなければ簡単とも難しいとも書かれていませんが、“一般的な評価がこうだからこの問題はできるべきだ”ではなく“試験場でこの問題を見た時に、どう点をかき集めるか”を大切にする本書のコンセプトからすれば当然のこととも言えます。



石橋雄毅

2016/09/10
 他に比べ知名度は落ちますが、書店でとても目を引く黄色い表紙の中経出版の参考書。2冊とも「はじめに」の項目で本書の特色と東大数学における各単元の位置付けについて軽く述べるところから始まりますが、その後は理系数学と文系数学とで構成が若干違っています。文系数学では最初に問題だけが「問題一覧」の項目として並べられ、その後で各問題の解答・解説について順に詳しく掲載されているのですが、理系数学では初めから問題と解答・解説が一緒にまとめられています。そこでは、問題文のすぐ下の“アプローチ”の欄でその問題の概要・考え方について述べられてしまっているので、キチンと演習しようと思ったら問題文のみが掲載された他の教材を利用して、答え合わせのためにこの教材に戻ってくる、といったスタイルの方が良さそうです。ページをめくってすぐに問題以外の部分を隠して使うにしても、例えば図形の問題なんかは極力自力で読解して状況を把握するようにした方が良いので、少しでも図が目に入ってしまうようなことは避けた方が得策と言えるだろうからです。

 また、問題は主に単元ごと・難易度順に配列されているため、本書も時間を計って1セットを解くというよりは東大の過去問を使って普段の学習を行うといったことを想定された教材のようです。扱われている過去問は2001年度~2011年度までに東大で出題された、文系数学の44題全問、理系数学の66題中57問+改題1問。文系数学の巻末には、『付録』として“文系でも知っておきたい微積分の公式”“基本的な漸化式の解き方”“数学的帰納法の型”“整数方程式の定石”の4項目が掲載されています。


 解答・解説に関して。各問題に対して“アプローチ”の項で思考の過程を読者と一緒に辿り、そこで見えた答えへの道筋を“解答”で正式な答案として清書、最後に“コメント”で補足する、というのが基本的な流れになっており、“世界一わかりやすい”の看板に偽りなく、各問題が発想面から計算のコツまで相当丁寧に解説されています。高校数学の問題の解法のそもそもの部分(パラメータ表示された点の軌跡の考え方など)から話し始めているところもあるくらいで、本当に数学が苦手な人向けに書かれた本であるということは伝わってきます。ただそのレベルから解説が必要な人は、一般的にいきなり東大入試の問題で演習するよりももっと普通のレベルの問題集で基礎をしっかり固めた方が力がつくと言われますし、実際その通りだとも思うので、自分としてはこの本から基本事項を定着させようという戦略はお薦めできません。その段階はクリアした上で、それでもなお他の本の解説が高度だと感じる人はこれを選べば良いのではないでしょうか。

 ただし注意点として、一般的に難問とされる問題はおろか、差がつくと言われるレベルの問題の解説までも、本書ではさも自然な流れで思いつく発想であるかのように書かれていることが多く感じられることが挙げられます。読んで分かった気にはなるけれど実は自分でそれと同様の問題が解けるようになっているわけではない、という状況に陥らないように、注意して下さい。

 またそのため数学がある程度できる人にとっては、簡単な問題に関しては「それくらいわかってるぞ」ということで読み飛ばしてしまう部分が多く、難しい問題に関しては結局自分の力にならないというオチになりかねないので、心構えの面で役に立つ情報が無いとは言わないまでも、本書に費やす約2000円がそれほど実りの無いものになってしまいかねません。本書を使いたいと思ったら、他の本で解説のレベルが合わなかった問題に関してのみ本書で噛み砕いて説明してもらうなど、やっぱり結局本書単体以外での使用をお薦めすることになります。


 難易度は、各小問単位で“★”(易)~“★★★”(難)の3段階に評価されています。概ね妥当だとは思いますが、強いて言えば本書も25ヵ年と同じく日常の演習としての使用を前提にしたものであるためか、本当は受験生全員にとってそれほど簡単というわけでもないだろうなという問題に“★”や“★★”がつくことがあります。また3段階評価の欠点として、“難”が「数学で他の人に差をつけることが出来得るレベルの難しさ」なのか「試験場では多くの人が解けないだろうからとっとと捨ててしまうが吉の難しさ」なのかわからないということが挙げられます。いずれにせよ、上でも述べた通りたいした問題ではないかのように解説されてしまうのですが。



石橋雄毅

2016/09/10
 本書は2014年度~2009年度までの6年分の“理系数学”の問題についての解説集。加えて、新課程に配慮し東大がもっと昔に出題した複素数平面の問題3問(2005理系・1999文系・2003理系)と、人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」のちょっとした成果も収録しています。編者として「SAPIX YOZEMI GROUP」「東大入試問題研究会」となっていますが、東大入試問題研究会のその他の活動についてはネットで少し調べてみた限りでは掴めませんでした。


 改めて本書の構成について。赤本的な「出題内容&学習アドバイス」2ページに続けて、最近6ヵ年の出題内容分析(殆ど代ゼミの解答速報の問題分析)から本書は始まります。本書の説明書きによれば、後者は“解法の手掛かりが見つけられない場合には、ヒントとして利用しても効果的”とのこと。その後、2014年度の問題から順次、問題と“解答例”、そして解説に当たる“View Point”が1問につき1ページ程度ずつ掲載されていきますが、問題のページに小問ごとの“予想配点”が付されているのが小さいけれど本書の特徴。予想配点を掲載している参考書はそれほど多くはありません。また、1年度分の問題がセットで書かれているようなページは用意されていないので、本書も時間を計りながら解くことは考えられていなさそうです。

 これを2009年度まで淡々と連ねた後、「付録」として複素数平面の問題3問についても同様の構成で並べ、最後に「ロボットは東大に入れるか」の成果で締めくくられます。このプロジェクトに関する詳しい説明はこちらのサイトをご覧になっていただければと思いますが、本書には実際に人工知能“東ロボくん”が東大数学の問題を解いていくプロセスまで掲載。その方面に詳しくないので自分には雰囲気しか分からないのですが、書かれているのは表面的なことだけで肝心の専門的な部分は省略されているようなので、人工知能――もっと広くすれば情報の分野に興味がある東大受験生が、その分野の雰囲気を少しでも知る上で役に立ちそうといった感じでしょうか。


 解答・解説に関して。個人的にはあまり満足できるものではないかなと感じています。今までにも見てきたように東大数学の関連書籍は現状特に多いです。その中で各書の特色を出せるところがあるとしたらそれはやはり解説の充実度が一番だろうというのが普通に考えられることだと思いますが、本書はその解説の部分が大変薄い。東大数学だけについて扱った本の解説で、全教科について扱っている赤本と同程度の解答・解説しか載せなければ、物足りなさを感じてしまうのは自明の理。良い“View Point”を書く執筆者もいるだけに、その質が本全体に無いのが惜しまれます。

 分析に付されている難易度評価は、今までの代ゼミの解答速報の際の評価が概ね採用されているようでした。ただ、数問ほどは発表当時の形から修正されており、数年経っての思い直したのか代ゼミ以外の執筆者から意見があったのかなどと邪推が捗ります。

 総じて、やはり数多ある他の東大数学の過去問参考書に比べ解説に個性が無いのが痛い。本書で一番興味深いのは正直東ロボくんの部分というレベル。“研究”というからには、もう少し徹底的にやってしまって欲しかったところです。



石橋雄毅

2016/09/01


受験勉強を結構根を詰めてやってきたけど、たまには息抜きしたい。
でも勉強の内容から思い切り離れてしまうのはちょっと罪悪感を感じる…
こんなジレンマにかられる方もいらっしゃることと思います。(あれ、僕だけですか?)

そんな時にオススメなのが、面白いけどためになる本を読むことです。国語だと「古典の息抜きに『あさきゆめみし』を読んだ」というお話をたまに聞きます。


その日本史版として最適な本が今回ご紹介する『謎とき日本近現代史』です。最近は一般の方向けに「歴史を知るのに良い本」としても取り上げられる機会が度々あり、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

著者は大学で日本史専攻→有名予備校で東大対策含めた日本史講座を担当してきた日本史学習のプロ。親しみやすい語り口ながらも大学入試に通じる知識や歴史の見方が散りばめられています。

本書は、明治〜昭和時代の歴史的な出来事がどのようにして起きたのかを考察する形式で進みます。取り上げられているテーマは以下の9つ。

 ①日本はなぜ植民地にならなかったか    ②武士はなぜ自らの特権を放棄したか
 ③明治憲法下の内閣はなぜ短命だったか   ④戦前の政党はなぜ急成長し転落したか
 ⑤日本はなぜワシントン体制を受け入れたか ⑥井上財政はなぜ失敗したか
 ⑦関東軍はなぜ暴走したのか        ⑧天皇はなぜ戦犯にならなかったのか
 ⑨高度経済成長はなぜ持続したか

大体のテーマは小中高の歴史学習で既に聞いたことがあると思います。しかし、それらについて「なぜそうなった?」「どのように起きた?」と聞かれるとなかなか答えるのが難しいのではないでしょうか。

本書を読んでいくと、「こうした問いを持って歴史上の出来事を見ることが歴史を知る・勉強することなのか…」ということが良く分かってきます。そして、実はこの姿勢こそが東大日本史で問われている力なのです(と個人的に思っています)。

東大過去問を解き進めている方であれば「あれ、過去問で似たような問題を見たことがあるぞ」と思われる方もいるかもしれません。実際、③⑥などは過去にほぼ同じテーマが入試問題になっています。そうした意味でも、東大日本史志望者にとって本書は必読書と言っても良いでしょう。

使うタイミングや方法は様々あるでしょう。
過去問で類似テーマを解いたら答え合わせ的に読むも良し、センター試験間際などで二次試験対策が手薄になる時期に読むのも良いでしょう。近現代史学習が遅れている方は現在の学習と並行して読み進めてしまっても良いかもしれません。

勿論、高1高2の方が「東大日本史ってどうなんだろう?」ということを知るために手始めに読むのもオススメです。

新書系でより東大入試の問題に特化した書籍も別にあります。それについては、また別の機会にご紹介したいと思います。



2016/09/01 根本

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