第11回を迎えました。今回は、パズル要素の強い設問のある問題を選びました。一風変わった問題なので戸惑うかもしれませんが、東大生物では時々この手の問題は出題されますので、その練習のためにも「論理的に考えること」を意識して解いてみてほしいです。
A
この問題は、絶対に得点できなければいけない知識問題です。
葉緑体の起源はシアノバクテリアが原始的な真核生物に共生したものと言われています。共生説と呼ばれる考え方です。ちなみに、ミトコンドリアは好気性細菌が共生して生じたものと考えられていますね。
植物において未分化な細胞はどこにいるかと言えば、もちろん分裂組織ですね。茎頂分裂組織と根端分裂組織という2つの分裂組織がありますから、これらを答えればよいです。
(解答)
(1)共生
(2)茎頂分裂
(3)根端分裂
(2と3は順不同)
B
これも、Aと同様ぜひ答えたい、教科書レベルの知識問題です。
原子の地球において、シアノバクテリアが酸素を作り出したことで、酸素を用いた呼吸によってエネルギーを得るという新しい代謝方法が生じました。この酸素が水中のみならず大気中に蓄積することで、生物が陸上に進出できるようになったのですね。
ちなみに、酸素が大気中に蓄積したことが生物の陸上進出に果たした役割にはもうひとつあります。それは、オゾン層を形成することで陸上に降り注ぐ紫外線を遮断した、ということです。これも教科書の知識なので、必ずおさえておきましょう。
(解答例)
酸素を用いた呼吸によってエネルギーを得る陸上生物。(25字)
C
これも知識問題ですが、AやBよりは少し答えるのが難しいかもしれません。
植物には葉緑体のほかにアミロプラストや有色体、白色体などの色素体が存在します。これらからひとつを答えればよいでしょう。
(解答)
アミロプラスト、有色体、白色体などからひとつ
D
シグマ因子という物質が登場しました。問題文には、PEPというRNAポリメラーゼを構成する因子のひとつ、という説明しかありませんので、問題を読みながらシグマ因子の果たす役割を推測して解答する必要があります。
まず、「PEPのサブユニットであるシグマ因子は、特定の遺伝子の(6)を認識し、これによってPEPは遺伝子の(6)に結合する。」とあります。RNAポリメラーゼは遺伝子のプロモ―ターに結合しますので、(6)はプロモーターが入るでしょう。
また、「PEPが転写を開始するときには、シグマ因子はPEPから解離し、コアは遺伝子DNAの配列をもとに4種の(7)を基質としてRNAを合成する。」とあります。RNAポリメラーゼは4種類の塩基を持ったヌクレオチドを結合させていき、RNAを合成します。よって(7)はヌクレオチドが入るでしょう。
(解答)
(6)プロモーター
(7)ヌクレオチド
E
実験1の結果を見てみましょう。タンパク質PはⅠ、Ⅱ、Ⅲという3つの領域から構成されており、細胞内では葉緑体に局在しています。領域Ⅰを削除したタンパク質Pは、細胞質に局在します。一方、領域ⅡまたはⅢを削除したタンパク質Pは、正常なタンパク質Pと同様葉緑体に局在します。このことから、領域Ⅰはタンパク質Pが葉緑体に局在するのに必要な領域であることがわかりますね。
もっと詳しく言えば、タンパク質Pは核遺伝子にコードされているので、合成された段階ですでに細胞質にいるはずです。よってタンパク質Pが葉緑体に局在するためには、細胞質から葉緑体に移動する必要があるわけです。つまり、領域Ⅰはタンパク質Pが細胞質から葉緑体に移動するのに必要な領域である、と言えます。
(解答例)
タンパク質Pを細胞質から葉緑体へ移動させる機能。(24字)
F
実験2において、リンコマイシンという原核生物の翻訳のみを阻害する物質を添加した培地で植物を発芽させています。植物は真核生物なのでなんの影響もないだろう、と思われますが、実際には子葉の緑化と子葉細胞での葉緑体形成を抑制するようです。
一見ありそうもない現象ですが、Fの問題文に「色素体のリボソームは、シアノバクテリア由来の原核生物型のものである」とあることで謎が解けます。つまり、葉緑体内のリボソームにはリンコマイシンが作用する、ということです。これは、リンコマイシンの作用によって色素体遺伝子の発現が抑制された、と考えることができます。
そこで再度実験2の結果を見てみると、リンコマイシンを添加した培地で発芽させた種子では子葉の緑化と子葉細胞での葉緑体形成が抑制されています。通常、植物の葉が緑いろをしているのは葉緑体が原因なので、子葉の緑化が抑制されているのは葉緑体形成が抑制されたことが原因と考えられます。つまり、実験2の結果からは、リンコマイシンの作用によって子葉での葉緑体形成が抑制されたと考えられます。これは、色素体遺伝子が葉緑体形成を促進する働きをもつことを示していますね。
(解答例)
色素体遺伝子は葉緑体の形成を促進する働きを持つ。(24字)
G
(a)
rpoAの破壊株ではタイプAの遺伝子の転写産物が検出されていません。rpoAはPEPのコアサブユニットの1つなので、rpoAの破壊株ではPEPが正常に機能していないと考えられます。このことから、PEPはタイプAno遺伝子を転写する働きを持つことが推測できます。また、破壊株ではNEPは正常に機能していると考えられるので、破壊株でも転写が確認できるタイプBの遺伝子はNEPによって転写されたと考えるのが妥当でしょう。
(解答)
(8)B
(9)A
(b)
さて、この問題が今回の肝です。冒頭で言った通り、パズル的要素の強い問題です。
この問題のアプローチの方法として、「選択肢を見ずにまずは考えられる事象を想定し、そのあとでそれに沿うように選択肢を選ぶ」やり方と、「最初から選択肢を見て、結果に合うように選択肢を並び替える」やり方があります。どちらでもできますが、前者では思考するのにかなりの時間を要してしまいます。東大の理科は時間との勝負ですので、今回は後者のやり方を採用します。
まず選択肢を俯瞰すると、(オ)「NEP遺伝子が発現する」→(イ)「NEPの働きで、タイプBの遺伝子が転写される」と続きそうだと推測できます。
NEPの働きでタイプBの遺伝子の1つであるrpoB遺伝子が転写されます。rpoBはrpoAと同様にPEPのコアサブユニットの1つをコードした遺伝子ですので、 (イ)→(ア)「PEPのサブユニット遺伝子が発現し、核遺伝子にコードされたシグマ因子と複合体を形成する」と続きそうですね。
問題文の下線部(ウ)より、PEPはサブユニットとシグマ因子が複合体を形成することでRNAポリメラーゼとして機能する、とありますから、(ア)のあとにはPEPが正常に働くようになった、という旨の文が続くのが妥当と考えられます。よって、(ア)→(エ)「PEPの働きで、タイプAの遺伝子が転写される」となります。
タイプAの遺伝子は光合成に関わる機能を持つことが表2-4からわかりますから、(エ)→(ウ)「光合成に関わっている遺伝子の発現が起こり、核遺伝子にコードされたタンパク質と協調して光合成機能を発揮する」と続くことが分かりますね。
以上のように考えていけば、正解へたどり着くでしょう。
(解答)
(オ)→(イ)→(ア)→(エ)→(ウ)
いかがでしたでしょうか?最後の問題は考え方が独特で少し難しかったかもしれません。しかし、
「与えられた情報から考えられる答えを論理的に導く」という考え方を習得するにはとても良い練習になると思います。ぜひ、自身でもじっくり考えてみてください。
解答例まとめ
A (1)共生 (2)茎頂分裂 (3)根端分裂 (2と3は順不同)
B 酸素を用いた呼吸によってエネルギーを得る陸上生物。(25字)
C アミロプラスト、有色体、白色体などからひとつ
D (6)プロモーター (7)ヌクレオチド
E タンパク質Pを細胞質から葉緑体へ移動させる機能。(24字)
F 色素体遺伝子は葉緑体の形成を促進する働きを持つ。(24字)
G (a) (8)B (9)A (b) (オ)→(イ)→(ア)→(エ)→(ウ)
2016/7/7 宮崎悠介