他に比べ知名度は落ちますが、書店でとても目を引く黄色い表紙の中経出版の参考書。このシリーズには“東大の英語”も存在していますが、こちらは過去問を抜粋して扱っているものなので今回はレビュー対象外としています。厳密には理系数学も全問は掲載していないのですが、後述...
いよいよこの参考書別活用法のコーナーも3週目。東大の前期試験の過去問を扱った参考書についてまとめる最終週となる今回も、その特色・特徴を
①構成
②解答・解説の充実度
③難易度評価
の3つの観点から、東大受験参考書愛好家のひとり、ワタクシ石橋雄毅が紹介していきます!
本記事でレビュー対象となるための要件を満たした参考書(過去問を抜粋して紹介するのではなく数年度分以上まとめて掲載した参考書)は、書店ですぐに見つかるものは今回までで全て網羅することになります。そしてその今回は、なんと全て数学の参考書。問題文の長大な他科目に比べ扱いやすい短さの数学だからこそなのかもしれませんが、それでも他の大学に比べこれほど専門の参考書が出ているというのは、それだけ東大入試の数学が“解説するに足る”問題ばかりと言うことなのでしょう。しかしそんなことよりも、何より東大受験生にとって一番点数の振れ幅の大きい科目です。「数学さえ上手く行けば受かる!」なんて受験前日に叫ぶ人も相当数いますから、それだけ慎重に、自分にあった参考書を選びたいという人も多いはず。そんな科目に対してこれだけ専門の参考書があるのは願ったり叶ったりとも言えるでしょうし、迷走する可能性が高まるとも言えるのかもしれません。そんな東大数学の“専門書”について、最終回である今回もまた今まで通り、じっくりこってり丁寧に見ていきたいと思います!
◆中経出版『人気大学過去問シリーズ 世界一わかりやすい東大の理系数学 合格講座』・
『人気大学過去問シリーズ 世界一わかりやすい東大の文系数学 合格講座』 数学
他に比べ知名度は落ちますが、書店でとても目を引く黄色い表紙の中経出版の参考書。このシリーズには“東大の英語”も存在していますが、こちらは過去問を抜粋して扱っているものなので今回はレビュー対象外としています。厳密には理系数学も全問は掲載していないのですが、後述する通り概ね全て掲載しているので扱うことにしました。
2冊とも「はじめに」の項目で本書の特色と東大数学における各単元の位置付けについて軽く述べるところから始まりますが、その後は理系数学と文系数学とで構成が若干違っています。文系数学では最初に問題だけが「問題一覧」の項目として並べられ、その後で各問題の解答・解説について順に詳しく掲載されているのですが、理系数学では初めから問題と解答・解説が一緒にまとめられています。そこでは、問題文のすぐ下の“アプローチ”の欄でその問題の概要・考え方について述べられてしまっているので、キチンと演習しようと思ったら問題文のみが掲載された他の教材を利用して、答え合わせのためにこの教材に戻ってくる、といったスタイルの方が良さそうです。ページをめくってすぐに問題以外の部分を隠して使うにしても、例えば図形の問題なんかは極力自力で読解して状況を把握するようにした方が良いので、少しでも図が目に入ってしまうようなことは避けた方が得策と言えるだろうからです。また、問題は主に単元ごと・難易度順に配列されているため、本書も時間を計って1セットを解くというよりは東大の過去問を使って普段の問題演習を行うといったことを想定された教材のようです。扱われている過去問は2001年度~2011年度までに東大で出題された、文系数学の44題全問、理系数学の66題中57問+改題1問。文系数学の巻末には、『付録』として“文系でも知っておきたい微積分の公式”“基本的な漸化式の解き方”“数学的帰納法の型”“整数方程式の定石”の4項目が掲載されています。
解答・解説に関して。各問題に対して“アプローチ”の項で思考の過程を読者と一緒に辿り、そこで見えた答えへの道筋を“解答”で正式な答案として清書、最後に“コメント”で補足する、というのが基本的な流れになっており、“世界一わかりやすい”の看板に偽りなく、各問題が発想面から計算のコツまで相当丁寧に解説されています。高校数学の問題の解法のそもそもの部分(パラメータ表示された点の軌跡の考え方など)から話し始めているところもあるくらいで、本当に数学が苦手な人向けに書かれた本であるということは伝わってきます。ただそのレベルから解説が必要な人は、一般的にいきなり東大入試の問題で演習するよりももっと普通のレベルの問題集で基礎をしっかり固めた方が力がつくと言われますし、実際その通りだとも思うので、自分としてはこの本から基本事項を定着させようという戦略はお薦めできません。その段階はクリアした上で、それでもなお他の本の解説が高度だと感じる人はこれを選べば良いのではないでしょうか。しかしながら一般的に難問とされる問題はおろか、差がつき得るレベルの問題の解説までも、本書ではさも自然な流れで思いつく発想であるかのように書かれていることが多く感じられるので、読んで分かった気にはなるけれど実は自分でそのレベルの処理ができるようになっているわけではない、という状況が多発するであろうことが予想されます。表紙に「“合格点”がとれる実力を養成」と書いてある通り、本書でつく力は最低限合格に必要な程度が関の山と言ったところだと個人的には思っているので記憶の片隅に留めておいてください。またそのため数学がある程度できる人にとっては、簡単な問題に関しては「それくらいわかってるぞ」ということで読み飛ばしてしまう部分が多く、難しい問題に関しては結局自分の力にならないというオチになりかねないので、心構えの面で役に立つ情報が無いとは言わないまでも、本書に費やす約2000円がそれほど実りの無いものになってしまいかねません。本書を使いたいと思ったら、他の本で解説のレベルが合わなかった問題に関してのみ本書で噛み砕いて説明してもらうなど、やっぱり結局本書単体以外での使用をお薦めすることになります。
難易度は、各小問単位で“★”(易)~“★★★”(難)の3段階に評価されています。概ね妥当だとは思いますが、強いて言えば本書も25ヵ年と同じく日常の演習としての使用を前提にしたものであるためか、本当は受験生全員にとってそれほど簡単というわけでもないだろうなという問題に“★”や“★★”がつくことがあります。また3段階評価の欠点として、“難”が「数学で他の人に差をつけることが出来得るレベルの難しさ」なのか「試験場では多くの人が解けないだろうからとっとと捨ててしまうが吉の難しさ」なのかわからないということが挙げられます。いずれにせよ、上でも述べた通りたいした問題ではないかのように解説されてしまうのですが。
いかがだったでしょうか? 苦手と上手の差が激しい数学という教科だからこそ、本によって解説の方針も特に多種多様でした。1週目にも言った通り、同じ問題を扱っているはずの参考書でもそれぞれに特色があって、使い方が変わってくるのだということが、こうして比べてみると改めてよく見えてきましたね。もちろん、だからと言って参考書選びに悩んで時間を浪費してしまっては本末転倒です。ただ、東大受験生向けの参考書だからと安直に本に手を伸ばす前に、この記事の存在を思い出してもらえたらと思います。
さて、参考書別活用法コーナー第1弾『東大過去問参考書の参考の書』シリーズは今回で終了です。次回8月19日(月)からは英語科の武井先生が、単語や長文、リスニング……などといった英語の個々の分野に特化した参考書について紹介してくれる予定です。ご期待ください!!