プライド高き東大受験生の皆様は「ゴロなんて……」と馬鹿にするかもしれませんが、本書は大学受験用の古文単語帳として最も知名度の高いもののひとつ。どんなものか一応見てみる分には損は無いでしょう。
本書はそのタイトルが示す通り、大学入試で重要な古文単語565語を、ひとつひとつインパクトの強いゴロで紹介していきます。“インパクト”には特にこだわっているとのことで、ゴロのイメージを表した挿絵をほぼ全単語に用意するという気合の入れよう。ちょっと無理矢理なゴロも多い中565語もの単語を一週間で覚えられてしまうという触れ込みにも納得ですが、結果全体的なシュールさ込みで、コンビニ向け廉価本みたいな雰囲気と言うか、あまり高校までに出会うことが少ないであろう類の一冊となっています。
収録語数について。いま世に出ている古文単語帳は、300語前後のものと600語前後のものとで概ね二極化しており、そういう意味では本書は後者の中で比較的少ない部類のものとなりますが、前書きによれば500語程度で大学入試古文単語を95%カバーできるとのこと。逆に通説として、理系は300語前後で十分という話もありますが、“大量の暗記が苦にならない”ことが本書最大の強みであることを考えれば、語数的には文理問わず薦められる単語帳であると言えるでしょう。
しかしその一方、各単語にある“ゴロ化されていないもう一つの意味”のようなものは、自分で何とかして覚えるしかないという弱みもあります。“弱み”という言葉に対して、「他の単語帳と条件が同じになっただけなんだから弱みではないだろう」という反論もあるでしょうが、人によってはゴロを覚えただけで満足してしまう可能性が高い分、この点は紛れもなく本書の弱みだと自分は考えます。東大を目指す上で本気で本書を使うなら、当然覚えたゴロも記憶の引っ掛かりにしつつ、ゴロ化されていない他の重要な意味もキッチリ覚えておくだけの自律心も重要になると思います。
また、本書はやっぱりどうしてもゴロばかりに目が行きがちですが、重要単語に付されている補足情報は意外にしっかりしています。漢字でどう書くかはもちろんのこと、そこから単語の成り立ちを見たり、類似語との使い分けを見たり……とゴロが無くてもこれだけである程度まとまった本になるレベル(しっかりし過ぎて、例えば『うつつ』について、『漢字で「現」とあてて覚えるとまず間違えることはない。』と書いてありますが、それならそもそもゴロにする意味は……? 覚えにくい単語だけゴロで覚えるという使い方もあるかもしれませんね)。加えて当該の単語を使った例文、さらにその文中にある単語に関係ない文法の解説まで掲載。巻末には文法や古典常識もまとめられていて、細かい部分での充実度はバッチリです。
ゴロやシュールな挿絵、下ネタなどと、人によっては受け入れ難い、ある種“ふざけた”一冊なのかもしれませんが、こういうものは結局何が一番自分にとってタメになるかで判断してください。見た目が云々とか言ってカッコつけてる場合ではなく、自分が東大に受かる上で必要なものはなりふり構わず使っていく! くらいの気持ちで物事を捉えるようにしていきましょう。毛色が合う合わないは当然あるとしても、先入観で目を曇らせた食わず嫌いが一番勿体ないですよ。
2014/06/06 石橋雄毅