本書は2014年度~2009年度までの6年分の“理系数学”の問題についての解説集。加えて、新課程に配慮し東大がもっと昔に出題した複素数平面の問題3問(2005理系・1999文系・2003理系)と、人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」のちょっとした成果も収録しています。編者として「SAPIX YOZEMI GROUP」「東大入試問題研究会」となっていますが、東大入試問題研究会のその他の活動についてはネットで少し調べてみた限りでは掴めませんでした。
改めて本書の構成について。赤本的な「出題内容&学習アドバイス」2ページに続けて、最近6ヵ年の出題内容分析(殆ど代ゼミの解答速報の問題分析)から本書は始まります。本書の説明書きによれば、後者は“解法の手掛かりが見つけられない場合には、ヒントとして利用しても効果的”とのこと。その後、2014年度の問題から順次、問題と“解答例”、そして解説に当たる“View Point”が1問につき1ページ程度ずつ掲載されていきますが、問題のページに小問ごとの“予想配点”が付されているのが小さいけれど本書の特徴。予想配点を掲載している参考書はそれほど多くはありません。また、1年度分の問題がセットで書かれているようなページは用意されていないので、本書も時間を計りながら解くことは考えられていなさそうです。
これを2009年度まで淡々と連ねた後、「付録」として複素数平面の問題3問についても同様の構成で並べ、最後に「ロボットは東大に入れるか」の成果で締めくくられます。このプロジェクトに関する詳しい説明は
こちらのサイトをご覧になっていただければと思いますが、本書には実際に人工知能“東ロボくん”が東大数学の問題を解いていくプロセスまで掲載。その方面に詳しくないので自分には雰囲気しか分からないのですが、書かれているのは表面的なことだけで肝心の専門的な部分は省略されているようなので、人工知能――もっと広くすれば情報の分野に興味がある東大受験生が、その分野の雰囲気を少しでも知る上で役に立ちそうといった感じでしょうか。
解答・解説に関して。個人的にはあまり満足できるものではないかなと感じています。今までにも見てきたように東大数学の関連書籍は現状特に多いです。その中で各書の特色を出せるところがあるとしたらそれはやはり解説の充実度が一番だろうというのが普通に考えられることだと思いますが、本書はその解説の部分が大変薄い。東大数学だけについて扱った本の解説で、全教科について扱っている赤本と同程度の解答・解説しか載せなければ、物足りなさを感じてしまうのは自明の理。良い“View Point”を書く執筆者もいるだけに、その質が本全体に無いのが惜しまれます。
分析に付されている難易度評価は、今までの代ゼミの解答速報の際の評価が概ね採用されているようでした。ただ、数問ほどは発表当時の形から修正されており、数年経っての思い直したのか代ゼミ以外の執筆者から意見があったのかなどと邪推が捗ります。
総じて、やはり数多ある他の東大数学の過去問参考書に比べ解説に個性が無いのが痛い。本書で一番興味深いのは正直東ロボくんの部分というレベル。“研究”というからには、もう少し徹底的にやってしまって欲しかったところです。
石橋雄毅