さて、第3回となりました。今回は、性染色体と連鎖に関する問題です。例によって、高校生物の教科書には出てこないような事例を用いた考察問題です。問題文をしっかり読み、ヒントをすべて拾っていきましょう。
なお今回は、たとえばX染色体にA遺伝子とB遺伝子がある場合は、X(A,B)と表記することにします。
A
性染色体にある遺伝子による遺伝は、伴性遺伝です。事例としては、キイロショウジョウバエの白眼、ヒトの赤緑色覚異常や血友病などがあります。これは教科書の知識なので、すらっと解答できてほしい問題です。
(解答)
性染色体にある遺伝子による遺伝…伴性遺伝
事例…キイロショウジョウバエの白眼、ヒトの赤緑色覚異常や血友病などからひとつ
B
(a)
交配1では、X(r)Y(R)とX(r)X(r)とを交配しています。一見、R遺伝子しか調べていないように見えます。しかし、問題は「どの2つの遺伝子の間の組み換えを調べているか」というものです。これはどういうことでしょうか?
そこで、問題文をよく読んでみます。すると、「yの近傍には体の色に関わる2つの遺伝子RとLがある」「yはRとLの間に位置する」とあります。つまり、R遺伝子の近くに、y遺伝子があるのです。よって、交配1では、R遺伝子とy遺伝子の間の組み換えを調べているとわかります。y遺伝子はY染色体にしかなく、また優性や劣性の対立遺伝子もないため、わざわざ遺伝子型として表記する必要がなかったから、X(r)Y(R)としか書かれてなかったんですね。
さて、交配1の結果生じた組み換え体はどのような表現型を持つかを考えます。X(r)Y(R)の個体が減数分裂をして、組み換えが生じた結果できる配偶子の性染色体は、X(R)またはY(r)となります。かけ合わせるX(r)X(r)の個体からは、X(r)を性染色体として持つ配偶子しか生じません。よって、組み換え体の遺伝子型はX(r)Y(r)またはX(R)X(r)となることがわかります。したがって、組み換え体が雄なら体色が赤くならず、雌なら赤くなります。
(解答例)
調べている遺伝子…y遺伝子とR遺伝子
組み換え体の表現型…雄なら体色が赤くならず、雌なら赤くなる。
(b)
空欄10と11は、(a)で考えた通り、X(r)Y(r)とX(R)X(r)で決まりです。
ここでは、交配2について考えます。交配2では、R遺伝子とL遺伝子との間の組み換えについて検討しています。
まず、表1-1は検定交雑の結果なので、かけ合わせるのは劣性ホモの遺伝子型を持つ個体です。よって、空欄12はX(r,l)X(r,l)とわかります。
調べた個体の遺伝子型はX(r,l)Y(R,L)なので、この個体から生じる配偶子のうち、組み換えの結果生じる配偶子の遺伝子型は、X(R,l)、Y(r,L)、X(r,L)、Y(R,l)の4つです。これらの配偶子と、遺伝子型がX(r,l)である、かけ合わせた個体からの配偶子によって、組み換え体ができます。よって空欄13と14には、X(r,l)X(R,l)とX(r,l)Y(r,L)が入ります。
(解答)
10、11…X(r)Y(r)、X(R)X(r)
12…X(r,l)X(r,l)
13、14…X(r,l)X(R,l)、X(r,l)Y(r,L)
C
(a)
この問題のポイントは、「ふ化する前に、個体の遺伝子型としての性を区別する」というところにあります。ふ化する前なので、たとえば生殖器を見て「この個体は雄だ、雌だ」などと議論することはできないわけです。また、この問題で出てきている遺伝子の話ならば、体色が赤色かその他の色かは判断材料には使えません。なぜなら、「赤い体色になるかは受精後1ヶ月たたないと判別できない」と問題文に書いてあるからです。
では、ふ化前に性別を判断するには、何を見ればいいのでしょうか?そこでもう一度問題文を読むと、「白色素胞は受精後2日で現れ、顕微鏡で観察できる」とあります。これが使えそうです。つまり、X染色体とY染色体で白色素胞に関する遺伝子であるL遺伝子が異なり、白色素胞が形成されているかいないかで雌雄が班別できる、という方向性で考えるわけです。
そこで問題なのは、X染色体とY染色体のどちらにL遺伝子があって、どちらにl遺伝子があるか、ということです。もしL遺伝子がX染色体、l遺伝子がY染色体にあるとすると、雌はX(L)X(L)、雄はX(L)Y(l)となり、両方とも白色素胞を持つことになるので、これではだめです。
では逆に、L遺伝子がY染色体に、l遺伝子がX染色体にあるとするとどうでしょうか。その場合、雌はX(l)X(l)、雄はX(l)Y(L)となり、雌は白色素胞を持たず、雄は持つことになります。これなら、ふ化前に顕微鏡下での観察で雌雄判別ができそうですね。
(解答)
遺伝子型…X染色体:l 、Y染色体:L
表現型…雌:白色素胞を持たない、雄:白色素胞を持つ
(b)
(a)で登場したL遺伝子と、X染色体とY染色体とを区別するy遺伝子は近傍に存在するため、組み換えが起こります。まずは、表1-1から、このふたつの間の組み換え価を求めましょう。
交配1から、R遺伝子とy遺伝子の間の組み換え価が11/6395=0.172%であることがわかります。また、交配2から、R遺伝子とL遺伝子の間の組み換え価が102/4478=2.278%であることがわかります。R遺伝子、L遺伝子、y遺伝子は以下のような位置関係にあるので(問題文に「yはRとLの間に位置する」とあることは、問題B(a)で確認しましたね)、L遺伝子とy遺伝子の間の組み換え価は、2.278%-0.172%=2.106%であることがわかります。
さて、ここでこれを答えにしてはいけません。聞かれているのは、「色の表現型と遺伝子としての性はどのくらいの確率で一致するか」です。つまり、「組み換えが起こらず、白色素胞を持たなければ雌、持てば雄という判断ができるのは、どのくらいの確率か」ということです。よって、答えは100-2.106≒97.9%です。
(解答)
97.9%
いかがでしたでしょうか?伴性遺伝の問題はただでさえ複雑なのに、そこに連鎖が絡む問題でした。遺伝が苦手な人にとっては、手も足もでない問題だったかもしれません。
しかし、伴性遺伝とは何か、連鎖とは何か、その仕組みを理解していれば、決して難しい問題ではありません。
今回難しかったのは、
問題文をしっかり読んで解答のヒントを見つけないと、正解までたどり着けないという点です。例えば問題B(a)では、R遺伝子、y遺伝子、L遺伝子がその順で互いに近くに存在しているという状況から、遺伝子が決定できました。また、問題C(a)では、体色は受精後1ヶ月経たないとわからないが、白色素胞は受精後2日で観察できるようになるという記述から、L遺伝子を解答の足掛かりとして見つけることができたわけです。
このように、問題文にはどんな形でヒントが隠れているかわかりません。文章が長くて一見読みづらそうな問題文でも、一字一句逃さないという意識をもって取り組んでください。
(解答まとめ)
A 性染色体にある遺伝子による遺伝…伴性遺伝
事例…キイロショウジョウバエの白眼、ヒトの赤緑色覚異常や血友病などからひとつ
B(a) 調べている遺伝子…y遺伝子とR遺伝子
組み換え体の表現型…雄なら体色が赤くならず、雌なら赤くなる。
(b) 10、11…X(r)Y(r)、X(R)X(r)
12…X(r,l)X(r,l)
13、14…X(r,l)X(R,l)、X(r,l)Y(r,L)
C(a) 遺伝子型…X染色体:l 、Y染色体:L
表現型…雌:白色素胞を持たない、雄:白色素胞を持つ
(b) 97.9%
2015/10/29 宮崎悠介