受験対策

平成29年度東大入試講評

今年の東大入試(前期)が実施されました。
受験生の方はお疲れ様でした。


 さて、かく言う私・石橋雄毅も、例年東大入試は自分の解ける科目全部――文系国語・理系数学・文系数学・物理・化学・英語の6つだけですが――を解くのですが、何らかの形で役にも立つことがあるかもしれませんし、今年も解いて思ったこと・気付いたことを軽く書いてみようと思います。


■国語■

第一問、漢字はやはり3問でしたがそれ以上に、2行説明問題まで3問に減少していたのに目を奪われました。問題数が減った分、答えるべき内容がいつにもましてやや入り組んでいて、体感的な負担はそれほど減ったようには感じられませんでしたが、東大国語が改革の度に問題数を減らしていくのが気になります。

第二問の古文は源氏物語。語彙のレベルが例年に比べ高く、主体の判別もかなり慎重に行わなければならない上に、なお全体の展開を見抜けなければ方向性すら外してしまうような設問もあって、特に理系はかなり苦労することになったのではないでしょうか。

一方、第三問の漢文はかなり読みやすい文章でした。解答に必要な語彙・設問への答え方で点差は開くでしょうが、受験漢文の基礎教材の最初の方の文章に使われていてもおかしくないくらいの平易さであったと言えます。模試にしろ本番にしろ、東大古典は古文と漢文の2つで難易のバランスが取れていることが多いです。

文系のみ解く第四問の方の現代文は、かなり平易な文章になりました。傍線が引かれている箇所も、前半2つは説明する上で特に悩むところもなさそうなところでしたが、最後の設問にだけはいつもの第四問らしい難しさが存分に感じられました。


■理系数学■

ここ最近は易化の流れが続いていましたが、今年はそれに輪をかけて簡単だったと言えます。第6問以外は、例年であればどれも“取るべき問題”に分類されるようなものばかりでした(その第6問も、そこそこ実力があればきちんと解ききれる程度のもの)。だからと言って、もちろん入試で5完しなければ受からないということには決してならないのですが、高得点の争いにはなったことでしょうし、実際、昨日発表された合格最低点は例年に比べかなり高くなっていました。

「易化」と感じた要素としては、計算量が少なく、典型問題が多い≒高度な発想力があまり要らなかったことが挙げられます。例年の東大理系数学を象徴するもののひとつ、数Ⅲのヘビーな微積分が全然なかったことが特徴的で、いつも以上に計算ミスが命取りとなったことでしょうし、第3問・第4問については、どこかの問題集で見かけてもおかしくないような普通の設定でした。

その他のトピックスとしては、昨年の文系数学で初登場した『結論のみを書けばよい』という指示が、今年もありました。ここ最近、面白みのある問題が少ないのが残念ですね……


■文系数学■

昨年も十分やりやすかった文系数学ですが、今年はそれと同等かそれ以上の簡単さになりました。ちょっと歯ごたえがあるとすれば第2問くらいでしょうが、十分な数学力がある人にとってはどの問題も計算量・発想力ともに控えめの易しいセットだったでしょう。

第4問が理系との共通問題で、第3問は理系と同じ設定で小問だけ変えられていました。これによって、理系数学では場合分けが難しかった問題に、うまい方法を与える誘導がつけられました。


■物理■

新課程に入って3年目ですが、未だ原子物理からの出題は無し。今年は力学・電磁気・熱の3題構成で、昨年かなり増加した分量は減少し、例年並みに戻りました。全体的に、大問の中の個々の設問が独立していて、どっしりとした大きなストーリーに立ち向かっていく感じがあまりなくなってきているのが昨年からの傾向で、ちょっと寂しいです。

第1問、Ⅰ・Ⅱは基本的で落とせない一方、Ⅲはいきなり難しくなります。例年のように、もっと誘導をジェンガのように積み上げてくれていた方が全体として楽しい問題になるだろうに……。

第2問も実質独立した3問からなる構成。最近、東大では物理の定性的な直観力を問う問題が目立ちますが、個人的にはどれも良い問題だと感じています。Ⅲは、東大に向けた物理の学習には、やはり最低限の微分は理解しておく必要があるのだと感じさせられる問題でした。

第3問は、図の見た目がゴチャゴチャしているものの、3問の中で最もオーソドックスな問題でした。


■化学■

こちらもビックリするぐらい簡単になり、どれも標準的な問題集で見たことのあるような問題ばかりでした。問題も簡単なら分量も少なめで、理系の合格最低点のインフレに拍車をかけたことでしょう。

目を引いたポイントとしては、有機化学が第1問になり、そこではローマ数字による大問内の分割がありませんでした。有機の問題数を減らした分、解答欄を広々と使えるよう配慮した配置を行ったのでしょう。私のように、まず真っ先に第3問を見て有機がなくなった! と驚いた人も少なくない?笑


■英語■

分量・難易度共に例年通りでした。

(A)の問題文は今年も「次の英文の要旨を,○字の日本語にまとめよ」。作問者は大体2年ごとに変わるというウワサなので、来年に注目です。1(B)はまたまた一昨年のような文補充問題に戻りました。いろいろ試しているんでしょうか?

今年の2(A)の自由英作のテーマは、“あなたがいま試験を受けているキャンパスに関して、気づいたことを説明しなさい”。英語力とは関係なしに、こういう問題で何を書こうかなかなか決められない東大生はそこそこいる印象です。笑 2(B)は与えられた短い手紙に対する返答を書かせる問題。最近、英作の出題のバリエーションが大分豊かなので、柔軟に対応できるようにしておかなければなりません。

3のリスニングはいつも通り。4(A)も昨年同様“誤った箇所を含む下線部を選べ”でしたが、課題文がやや長くなり、間違いを探すのは昨年より大変になりました。

4(B)の和訳と5の長文も例年通り。こうして見てみると、よく冒険してみる大問とずっと変わらない大問とがあって、少しずつ東大入試として完全な形を目指しているのでしょう。



……とまあこんな感じでしょうか。より詳しくは大手予備校4社が続々と分析していますのでそちらを見てみると良いでしょう。

 ただ、こう言ったところで何なのですが、この手の情報を受験生本人が上手く活用することはなかなか難しいです。形式を知るのにちょっと読むくらいはいいでしょうが、ガッツリ読んだからと言ってどれだけ役に立つかというと普通はスズメの涙ほどのような気がしています。

 そこで自分はどう考えているかと言いますと、これらの情報は“自分で過去問を解いた後”に読めばより有益だと思っています。難易度評価は東大受験生としてどの程度が標準なのかを示す指標になりますし、問題のポイントも端的にまとめられていて考え方の筋道を掴むには丁度良い事も。全社読み比べることまではオタクでなければしなくてよいので、自身の過去問演習の際思い出してみてください。(ちなみに現在、河合塾・東進ハイスクールでは2007年以降の分析が公開されています。)


 毎年恒例、予備校各社の数学・物理の解答速報の読み比べですが、今年は理系科目が全体的に簡単だった分、目を引いた解答というものがあまりありませんでした。

 ただし、内容に関しては例年通り、数学の解説の情報量は河合塾のものが一番で、物理は代ゼミが一番親切かと思いますので、参考にしてみてください。

 実際、時間が無い中作られる解答速報からは各予備校講師陣の底力が垣間見えます。解説が少ないのでこれだけで勉強する人はいないでしょうが、細かい部分での工夫が参考書に載っているものよりも尖っていたりしますから、何かしらの形でこの記事が学習の助けになりましたら幸いです。それでは。

2017/03/21 石橋雄毅

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