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東大生物2012年度第1問:胚発生における背側決定機構

 第4回となる今回は、発生に関する問題を扱います。東大生物において、発生は頻出分野ですが、「発生はニガテだ」という人が多いのも事実だと思います。今回の問題を通して、発生の問題に少しでも慣れていただければ幸いです。

では、問題を見ていきましょう。








A
 周辺組織を、神経などへの分化に誘導する部位のことを、形成体(オーガナイザー)とよびます。これは基本中の基本の知識ですね。

(解答)
形成体(オーガナイザー)



B
灰色三日月環とは、受精後の受精卵で表層回転が起きることによって精子進入点の反対側に生じる色の薄い部分のことです。灰色三日月環を含む側が将来背側になって、精子進入点は腹側になる、というのは知っておいてほしい知識です。そして、灰色三日月環と原口背唇部の位置は一致します。

 また、問題文を見ると、「背側決定因子が表層回転して原口背唇部の位置に移動する」とあります。つまり、表層回転することによって、背側決定因子が灰色三日月環の位置に移動する、とわかります。
 この背側決定因子がないと、背側構造が形成されず、正常に発生しないことが考えられます。つまり、2細胞期のイモリ胚の割球を分離したとき、両割球に背側決定因子が含まれていれば、両割球は正常に発生するが、背側決定因子が一方のみに偏って配分されてしまうと、両割球のうち片方は正常に発生するが、もう片方は正常に発生しないだろうと推測できますね。

 まさしくこれが答えで、灰色三日月環を含む部分が均等に両割球に配分されるかされないかの違い、ということになります。

(解答例)
灰色三日月環が第一卵割で両割球に分配されれば分離後正常に発生するが、分配されない割球ができるとその割球は正常に発生しないから。(63字)



C
 実験結果からAタンパク質のはたらきを推定する問題です。実験内容は、「Aタンパク質をコードする伝令RNAであるA RNAを、将来腹側になる箇所に注入すると、その箇所に二次胚が形成された」というものでした。

 この実験を詳しく解釈していきましょう。まず、「A RNAを注入する」と、注入された箇所でRNAからタンパク質が翻訳されるはずですから、「A RNAを注入する」=「Aタンパク質を注入する」と考えることができます。また、二次胚とは、本来の胚とは別にできる構造体のことを指します。つまり、本来の胚である一次胚から別の体が生えているような状態になるわけですね。A RNAは将来腹側になる箇所に注入されました。すると、その箇所に二次胚ができたということは、「腹側になるはずだったのに、A RNAを注入されたことによって背側になってしまった」ということになります。
 以上から、「Aタンパク質をコードする伝令RNAであるA RNAを、将来腹側になる箇所に注入すると、その箇所に二次胚が形成された」=「Aタンパク質を将来腹側になる箇所に注入すると、その箇所に背側の構造が形成された」と言い換えることができます。ここまでわかれば、「Aタンパク質は背側構造の形成を促進する働きがある」ということがわかりますね。

ちなみに、「促進」や「抑制」という言葉は生物を解く上でとても便利な言葉です。大体、生体内の物質はなにかしらの反応などを促進したり抑制したりするものですから。「○○という物質を入れたら□□という反応が起きた」という実験があれば、「○○は□□の反応を促進する」とすぐに言うことができます。記述問題を解答する際にも、難しく考えすぎず、シンプルに「促進」「抑制」などという言葉を使っていきましょう。

(解答例)
A RNAを注入すると将来腹側になる箇所に二次胚が形成されたことから、Aタンパク質は背側構造の形成を促進する働きを持つ。(60字)



D
 Cで検討したとおり、Aタンパク質は背側構造の形成を促進する働きがあります。つまり、二次胚を形成する働きを持ちます。また、Bたんぱく質については、「背側の決定を阻害する効果がある」とあります。つまり、二次胚の形成を阻害する、と考えられます。
 また、「Bタンパク質はAタンパク質のはたらきに対して影響を与えるが、Aタンパク質はBタンパク質のはたらきに影響を与えない」とあります。これはつまり、「Aタンパク質による二次胚形成促進作用より、Bタンパク質による二次胚形成阻害作用のほうが優位であり、Bタンパク質によってAタンパク質のはたらきが抑制される」ということですね。

 さて、ここで問題に戻ると、一定量のA RNAに対してB RNAを少しずつ増やして混合し、胚の腹側割球に注入するとどうなるか、です。Aタンパク質のはたらきを抑制するBタンパク質の量が少しずつ増えれば、二次胚がだんだん形成されにくくなる、と推測できます。そのような結果を反映しているグラフを探すと、(1)が合致しますね。これが正解です。

 ちなみに、(2)~(6)はなにが違うのかを検討します。(2)は(1)の反対の結果を示しているものなので当然間違いです。(3)と(4)は、Aタンパク質やBタンパク質が頭部肥大胚の形成に関わっているなどという内容は今回の問題文には全く出てきていないため、間違いです。(5)と(6)は、今回はA RNAとB RNAの混合液を腹側に注入しているため、背側構造の大きさには影響しないので間違いです。(背側構造が小さくなるのは、B RNAが胚の背側割球に注入された場合です。腹側割球に注入された場合は、目立った変化が起こらないと問題文に書いてあります。引っかからないようにしましょう!)

(解答)
(1)



E
 問題文によると、Aタンパク質とBタンパク質はともに胚全体に分布しています。つまり、そのままでは胚全体でAタンパク質のはたらきがBタンパク質によって抑制されているはずです。しかし、実際には背側構造が形成されるわけです。このことから、将来背側になる箇所では、Bタンパク質のはたらきが抑制されているのだと考えられますね。

 では、Bタンパク質のはたらきを抑制している正体はなんなのでしょうか?Aタンパク質はBタンパク質のはたらきに影響しないと問題文に書いてある以上、ほかの因子が関与していることがわかります。
 そこで問題文を見ると、「背側化因子が胚の表層回転により移動し、これによりAタンパク質が胚内で偏って機能する」と書いてあります。つまり、背側化因子によってAタンパク質が働けるようになり、そこが背側になったということです。これは、背側化因子がBタンパク質のはたらきを抑制することによってAタンパク質が働けるようにした、と考えられます。
 以上から、解答は以下のようになります。

(解答例)
背側化因子は、Bタンパク質のはたらきを抑制することで、Aタンパク質のはたらきを促進する。(44字)






いかがでしたでしょうか?発生の分野が苦手な人が多い理由として、「さまざまな物質や細胞の相互作用を考えねばならず、複雑である」ことがあげられるかと思います。しかし、問題文に書いてあるヒントや実験結果を組み合わせていけば答えにたどり着けることが、今回の問題を通して実感していただければ幸いです。複雑な問題になりがちな分野だからこそ、東大生物の面白さである「パズル的要素」が強調されていて、私は個人的には好きな問題です。(笑)


(解答例まとめ)
A 形成体(オーガナイザー)
B 灰色三日月環が第一卵割で両割球に分配されれば分離後正常に発生するが、分配されない割球ができるとその割球は正常に発生しないから。(63字)
C A RNAを注入すると将来腹側になる箇所に二次胚が形成されたことから、Aタンパク質は背側構造の形成を促進する働きを持つ。(60字)
D (1)
E 背側化因子は、Bタンパク質のはたらきを抑制することで、Aタンパク質のはたらきを促進する。(44字)


2015/11/12 宮崎悠介

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