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東大生物2012年度第3問:植物の分布

 第5回を迎えました。今回は、植物の分布に関する問題を扱います。高い文章読解能力が問われる問題ですので、読み飛ばさないよう、一文一文理解しながら読み進んでください。








A
マツ類が陽樹であることは知識として知っておくべきところですね。オオシラビソやトウヒが陽樹か陰樹かを知っている受験生は少ないと思いますが、「反対に」と書いてあることから、オオシラビソとトウヒは陰樹であることがわかります。ここまでは知識問題です。
 
さて、6はハイマツが山のどこに分布しているかを問われています。図3-4(B)を見ると、ハイマツはa線とb線がかなり近いです。A線は、緯度1°ごとの、ハイマツが分布する山の最低標高を結んだ線です。b線は、それらの山においてハイマツが分布している最低標高を結んだ線です。このふたつの線が近いということは、「山の標高≒ハイマツが分布している標高」ということになります。つまり、ハイマツは山の頂上付近に分布している、ということがわかりますね。

 7は、ハイマツがどのような気候に生育しているかを答えます。これも、知識として知っている受験生はほとんどいないでしょう。そこで問題文を読むと、「オオシラビソという高木に成長する樹木」とあり、また「ハイマツは高標高地に生える代表的な低木」とあります。高木と低木では、低木の方が標高の高い地点に分布します。生物用語でいえば、日本のバイオームの垂直分布において、低木は高山帯に、高木はそれより標高の低い亜高山帯や山地帯、丘陵帯に分布します。標高が高くなると気温は低くなるので、ハイマツの方がオオシラビソよりも寒冷な気候に生育しているといえます。
 ちなみに、オオシラビソは亜高山帯に分布しています。

(解答)
4…陽
5…陰
6…頂上
7…寒冷

B
 「オオシラビソの生育に適していると考えられる気温の範囲であるにも関わらず、この種が分布しない理由」についての考察として不適切なものを答える問題です。選択肢をひとつずつ見ていきましょう。

(1)今回の問題は、オオシラビソが生育している本州中部~東北地方が舞台です。温暖帯でないことは明らかであり、「温暖帯の気候下では生育できない」というのは今回の考察としては的外れです。よって不適切であり、答えのひとつです。
(2)(3)下線部には、「現在の気候条件や、種としての水平分布域の変遷などからさまざまな説が唱えられてきた」とあります。積雪量や風の強さは「現在の気候条件」を反映した考察であり、適切です。
(4)オオシラビソは陰樹です。極相林は陰樹のみで構成されるのは基本知識ですから、この考察はおかしいことに気づきます。よって不適切であり、もうひとつの正解です。
(5)未だ分布域を拡大中という考えは、「水泳分布域の変遷」という視点からの考察と言え、下線部の説明と合致します。よって適切です。


(解答)
(1)、(4)

C
 花粉分析には、地中に埋まっている花粉を使うことが問題文に書いてあります。しかし、花粉は有機物であり、またとても小さいです。簡単に分解されて消えてしまいそうですよね。だから、少しでも花粉の保存状態の良いだろうと思われるところで花粉分析をすることが必要だと考えられます。

 ここまで思考が及べば、あとは「湿性遷移の過程にある湿地」と「花粉の保存状態が良いこと」とを結びつけようとします。そもそも、地中の有機物は微生物などの「分解者」によって分解されます。つまり、有機物を分解するのは生物です。下線部(エ)に記されている地域は標高が高いので低温であることが考えられます。低温なら、生物の活動は抑えられていそうですね。また、湿地なら、地中には水分が多く含まれていると考えられます。つまり、乾いた土よりも空気の乏しい、もっと言うなら、酸素が乏しい土壌環境であると言えます。酸素が少ないことも、微生物の活動を抑える要因となりそうですね。

 以上、「低温な気候である」ことと、「酸素の乏しい環境である」ことを盛り込んで、解答します。

(解答例)
高標高地は低温な気候であり、また湿地は酸素の乏しい土壌環境であるため、花粉が分解されず保存されている可能性が高いため。(59字)

D
 「オオシラビソの垂直分布は、約3500年前は約300~400m高い方にずれていた」という情報から、約3500年前の気候を推定します。オオシラビソの生育に適している気候条件は約3500年前から変わっていないとすると、現在オオシラビソが分布している標高における現在の気温と、そこから300~400m高い標高における約3500年前の気温が等しいということになります。標高が100m高くなると気温が約0.6℃低くなるので、300m~400m高い標高では約2℃気温が低くなります。よって、約3500年前の平均気温は現在より約2℃高かったと考えれば、オオシラビソが約3500年前は現在より300~400m高い標高に生育していた理由になりそうですね。

(解答)
(1)


E
 Dで、約3500年前はオオシラビソの生育に適した標高は現在より300~400m高かったことがわかりました。そしてその後、平均気温が徐々に下がるにつれて、オオシラビソの生育する標高も低くなり、現在の標高に達したと考えられます。

 ここまでわかってしまえば、「a線とb線の間に頂上の標高がある山にオオシラビソが生育していない理由」は明白ですね。つまり、a線より低い標高の山は、約3500年前は標高が低すぎて、オオシラビソが生育できる気候環境ではなかったのです。その後、オオシラビソの生育できる標高が下がってきたとはいえ、もともといなかったのですから、オオシラビソの種が山に飛んでこない限り、a線より低い山にオオシラビソは生育し得ないわけです。

(解答例)
約3500年前はオオシラビソの垂直分布が現在より300~400m高かったため、a線とb線の間に頂上の標高がある山にはオオシラビソが生育していなかったから。(69字)





いかがでしたでしょうか?「さまざまな知識を総動員して解く」というような問題ではありませんでしたが、解きにくい問題だったのではないでしょうか。記事の冒頭でも書きましたが、今回の問題は「文章読解能力が問われる」問題でした。a線やb線がなにを表しているのか、それらはどのような関係にあるのか、a線とb線が300~400mの差を保って平行になっているのはどのような意味があるのか……すべて問題文の情報をもとに考え、導かなければいけません。
 今回の問題で、問題文をちゃんと読むことがどれだけ重要か、実感していただけたら幸いです。みなさん、たとえ問題文が長くて読みたくなくても、文字を拒絶する脳に鞭を打って、最後まで読んでくださいね。(笑)

(解答例)
A 4…陽、5…陰、6…頂上、7…寒冷
B (1)、(4)
C 高標高地は低温な気候であり、また湿地は酸素の乏しい土壌環境であるため、花粉が分解されず保存されている可能性が高いため。(59字)
D (1)
E 約3500年前はオオシラビソの垂直分布が現在より300~400m高かったため、a線とb線の間に頂上の標高がある山にはオオシラビソが生育していなかったから。(69字)

2015/11/26 宮崎悠介

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