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東大生物2010年度第1問:抗体とがん細胞

 第13回となりました。今回は、免疫に関する問題です。問題文はモノクローナル抗体に関するもので、読むだけでも勉強になりますので、ぜひ取り組んでみてください。
 なお、今回扱う問題は文2に関するものですが、文1の情報も必要なため、併せて掲載しています。








A
 B細胞は、骨髄中の造血幹細胞から分化した細胞が、脾臓で成熟して誕生します。また、B細胞やT細胞などのリンパ球はリンパ節などのリンパ組織に多く常在しています。このことから、正解は容易に選べます。

 胸腺はT細胞の成熟に関わる組織ですので、今回は選んではいけません。これはひっかからないようにしたいですね。

(解答)
(1)、(2)


B
 遺伝的に胸腺の形成不全を示すヌードマウスでは、どのような異常が起きているのでしょうか? Aでも確認した通り、胸腺はT細胞の成熟に関わる組織です。この胸腺が欠如したヌードマウスには、成熟したT細胞が存在しません。つまり、T細胞を起点とした免疫系が機能しない、ということになります。

 さて、ここで問題文に戻ります。「がん細胞が抗原の場合、抗体のFab部分で抗原と結合した抗体のFc部分がマクロファージの受容体と結合することで、マクロファージの食作用が容易になり、細胞が排除される」とあります。つまり、がん細胞を排除するには、そのがん細胞に対する抗体が作られ、抗体ががん細胞に結合することが必要となります。

 ヌードマウスではT細胞が存在しないため、T細胞のひとつであるヘルパーT細胞を起点とする体液性免疫が成立しません。つまり、ヌードマウスにヒトのがん細胞Xを注射しても、Xに対する抗体を作ることができず、結果としてXの排除に至らなかった、と考えられます。

 ちなみに、完全に余談ですが、ヌードマウスは体毛がないためにその名前が付けられました。実は胸腺の形成に関わる遺伝子と発毛に関わる遺伝子の遺伝子座が近く、このふたつに同時に異常が起きているため、胸腺を失い、かつ体毛がないという表現型になっているそうです。なんとも面白い(?)実験動物ですね。

(解答例)
 ヌードマウスは胸腺の形成不全を示すため、成熟したT細胞が存在しない。このため、体液性免疫が機能しないので、がん細胞Xに対する抗体を作ることができないから。(77字)


C
 Bで確認したように、抗体によってがん細胞が排除されるためには、①抗体のFab部分が抗原と結合すること、②抗体のFc部分がマクロファージの受容体と結合すること、の2つが必要です。mab1-Fabやmab1-Fc、およびそれらが等量混合されているものでは、①と②を同時に達成することができません。よって、精製したmab1を注射した場合のみ、最も強くXの増殖を抑制すると考えられます。

(解答例)
(4)
 がん細胞Xを排除するには、抗体が抗原に結合し、かつマクロファージの受容体にも結合することが必要だから。(51字)






 いかがでしたでしょうか? 今回は問題数は少なかったですが、免疫分野のオーソドックスな問題だったと思います。正攻法で解ける良問でした。東大生物は例年イジワルな問題は少なく、与えられた情報を正しく処理する方法を身につけていれば案外すんなり解答にたどり着けます。今回の問題は東大生物の中では簡単な部類になりますが、しっかり正解できたでしょうか?


解答まとめ
A (1)、(2)
B ヌードマウスは胸腺の形成不全を示すため、成熟したT細胞が存在しない。このため、体液性免疫が機能しないので、がん細胞Xに対する抗体を作ることができないから。(77字)
C (4) がん細胞Xを排除するには、抗体が抗原に結合し、かつマクロファージの受容体にも結合することが必要だから。(51字)

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