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東大生物2016年度第2問:種子の発芽に関与する代謝経路とその変異体

 第14回を迎えました。今回は、与えられた情報から実験結果を考察し、教科書の知識と併せて解答する問題を選定しました。大変面白い問題だと思うので、ぜひ取り組んでみてください!
 なお、AとBは知識問題なので、今回は外しました。








C
 問題文によると、変異体xおよびyは通常の培地では生育できないのに対し、ショ糖を添加した培地では正常に生育できたようです。これは、変異体xおよびyはショ糖を与えられると、それをエネルギー源として利用して生育できる、と解釈できます。では、野生株はショ糖を加えていない培地でも正常に生育できるのはなぜでしょうか?

 リード文によると、シロイヌナズナの種子には糖新生経路が備わっているようです。これは、同様にリード文に説明がありますが、解糖系を逆に動かして有機酸から糖を合成する経路です。光合成ができなくても糖を生成することができるということは、これをエネルギー源として利用して生育することができる、ということです。つまり野生株は、子葉に貯蔵されている脂肪を代謝し、糖新生経路を経て糖を生成することで、これをエネルギー源として生育できる、と考えられます。すると、変異体xおよびyは脂肪から糖を生成する過程のどこかに異常があり、ショ糖を添加されないと生育できない、と説明できますね。

(解答例)
野生株は子葉に存在する脂肪を炭素源として糖新生経路を介して糖を生成できるため、これをエネルギー源として利用できるから。(59字)


D
 これは化学の知識ですが、脂肪は脂肪酸3分子がグリセリンに結合してできたものです。また、リード文から、β酸化経路により脂肪酸から炭素2個が切り出されてアセチルCoAが合成されることがわかります。

 ここまでの情報が拾えれば、あとは簡単です。炭素数16のパルミチン酸1分子から合成されるアセチルCoAは16÷2=8分子なので、パルミチン酸だけを脂肪酸として結合している脂肪から合成されるアセチルCoAの総分子数は8×3=24分子です。

(解答)
24


E
 まず、実験内容を整理します。実験4では、ショ糖が添加してある培地にインド―ルブタン酸(IBA)を添加した場合としていない場合における、野生株、変異体xおよびyの根の伸長を調べています。IBAがないとすべての株で根は正常に伸長しますが、IBAがあると変異体xのみ根が正常に伸長し、野生株および変異体yは根の伸長に異常が見られるようです。

 また問題文より、IBAがβ酸化経路により代謝されると、アセチルCoAだけでなくインドール酢酸(IAA)も生じる、とあります。IAAは生物受験者なら知っての通り、オーキシンと呼ばれる植物ホルモンです。

 ここで、問題に一度戻りましょう。聞かれていることは、「変異体xとyで、β酸化経路が正常に機能しているかどうか」です。これはどう判断できるでしょう?IBAがβ酸化経路によって代謝されることによってIAAが生じる、というヒントがありますから、「β酸化経路が正常に機能している」=「β酸化経路によってIAAが生じている」=「IAAがなんらかの影響を及ぼしている」と考えられます。つまりIBAを添加した培地において、IAAの影響が見られる場合はβ酸化経路が正常に機能しており、逆にIAAの影響が見られない場合はβ酸化経路が正常に機能していない、と判断できそうです。

 実験4の結果に戻ると、IBAを添加した培地において、野生株は根の伸長に異常が見られます。野生株はβ酸化経路が正常に機能しているとすると(野生株は変異体ではないですから、備わっているべきものはすべて備わっているとして考えます)、IBAを添加した培地において根の伸長に異常が見られる場合、β酸化経路が正常に機能していると判断できます。

 このように考えれば、変異体xはβ酸化経路が正常に機能しておらず、変異体yは正常に機能しているとわかります。よって正解は(3)です。

 ここで問題なのが、理由の記述です。変異体yではなぜIBAの添加によって根の伸長に異常が見られるのでしょうか?今までの議論から、この異常がIAAによるものであることは明白です。「IAA(オーキシン)」と「根」といえば、生物受験者ならピンとくるでしょう。そう、「根、芽、茎におけるオーキシンの感受性の違い」です。植物体を構成する根、芽、茎は、この順にオーキシンの感受性が高いです。オーキシンは本来植物の成長促進に働く植物ホルモンで、根は薄い濃度のオーキシンでその効果が現れます。しかし、オーキシンの濃度が濃すぎると逆に根は成長が阻害されてしまう、ということが知られています(これは教科書の知識ですので、みなさんご存知ですね)。

 つまり、変異体yでIBAの添加により根の伸長が阻害されたのは、β酸化経路が正常に機能してIAAが生じたことにより、高濃度のIAAが根に作用したから、と考えるとしっくりきますね。

(解答例)
(3)
根は高濃度のIAAにより伸長が阻害される性質をもつ。変異体yの根においてβ酸化経路が正常に機能したことにより高濃度のIAAが生じたから。(64字)





 いかがでしたでしょうか?Eでは教科書の知識と併せて考察してみました。このような、与えられた情報と教科書の知識を組み合わせて正答を導く気持ちよさは、東大生物の特徴のひとつです。みなさんはどこまでできたでしょうか?

解答例まとめ
C 野生株は子葉に存在する脂肪を炭素源として糖新生経路を介して糖を生成できるため、これをエネルギー源として利用できるから。(59字)
D 24
E (3)、根は高濃度のIAAにより伸長が阻害される性質をもつ。変異体yの根においてβ酸化経路が正常に機能したことにより高濃度のIAAが生じたから。(64字)

2017/2/23 宮崎悠介

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