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東大過去問参考書の参考の書 ~角川学芸出版『鉄緑会 東大古典問題集』~

 こちらも数学と同じく『資料・問題篇』と『解答篇』に分冊。ただしこちらは2013年現在10年分のものしか出版されていないようです。まずは「資料篇」から。“東大入試古典の出題形式・出典傾向”“答案の書き方”など、序盤の大局的な構成は数学と同じです。それに続いてまとめ…
 やってきました参考書別活用法のコーナー2週目。今回もまた前回に引き続き、東大の前期試験の過去問を扱った参考書について、その特色・特徴を

①構成
②解答・解説の充実度
③難易度評価

の3つの観点から、東大受験参考書愛好家のひとり、ワタクシ石橋雄毅が紹介していきます!
 東大に合格するためなら、参考書への投資くらい安いもんだ! なんて方もいらっしゃるかもしれません。ただ、少なくとも参考書に関しては、高いものが何でも良いものだとは限りません。前回言ったのと本質的に同じことですが、一番大事なのは自分が求めることがその本に書いてあるかどうかということであって、高いお金を出して買った分厚い本の大半のページが実は自分にとって不必要な情報で構成されていたなんてこともあり得るのです。これでは、お小遣いどころか貴重な時間までもが無駄になってしまいかねませんね。しかし高くて厚い本は、本屋での立ち読みでその特徴を掴むのもなかなか大変なもの……。そこでこの2週目では、受験参考書としてはちょっとお高い3種類の過去問参考書について、詳しく見てみようと思います!


◆角川学芸出版『鉄緑会 東大古典問題集』 古典
 こちらも数学と同じく『資料・問題篇』と『解答篇』に分冊。ただしこちらは2013年現在10年分のものしか出版されていないようです。まずは「資料篇」から。“東大入試古典の出題形式・出典傾向”“答案の書き方”など、序盤の大局的な構成は数学と同じです。それに続いてまとめられているデータの詳しさが尋常でなく、かつて出題された問題が“現代語訳”“条件付訳”“内容説明”“心情説明”“理由説明”“その他”のどれに分類されるものなのかを小問単位で総覧。また出典をジャンルごと・時代ごとに整理したりなどちょっとやり過ぎなのではと思うくらいで、ここまで来ると一体どれほどの受験生が活用できる資料なのでしょうか。この辺は正直講師向きです。一方、続く“古文作品ジャンル別読解法”では出典作品が説話なのか随筆なのかといったことを知ったら持つべき、問題を解く上での先入観が書いてあるのですが、例えば数学であれば“東大の整数問題は頭を捻る必要のある難しい問題であることが多い”“東大文系数学の微積分の方程式の問題は本当に単純な計算問題であることが多く、出たらまず落とせない”などの各頻出単元に対する先入観をよく目にしますし、自分で過去問に当たっていくと実感としても湧いてきますよね。その古典版がまとめられているのはあまり見ませんし、しかし実際に受験生にとって役立ち得る情報ではあると思うので、一見の価値はあるかもしれません。最後に“古文単語集成”“漢文基本句法”が収録されていて、前書きの通り本当に本書と辞書さえあれば、完全に自習が出来るよう構成されています。“古文篇”と“漢文篇”に分けられた「問題篇」について。こちらも数学と同じく、出来る限り1題が見開きに収まるよう配慮されていて使いやすいです。東大古典では重要な、解答欄の長さも問題にきちんと記されています。惜しむらくは、後述する難易度評価が古文篇・漢文篇のトビラページの裏に一覧として掲載されていることで、個人的に問題を解く前にはその難易度をあまり知るべきではないと思っているため、寧ろこれは解答篇に掲載した方が良かったのではないかと思っています。

 「解答篇」について。数学同様やはり充実度は随一。課題文の一節一節について、これほど詳しい解説を添える参考書は本書をおいて他に無いでしょう。ただ古文はあまりにも国文を好き過ぎる人が書いているきらいがあるので、“出典解説”に並ぶ日本古典文学の刊行事情、その作品への東大教員の関わり方、過去の出題の系譜との考察……などなどのマニアックな知識から感じられる熱い情熱は、大の国文好き・及び入試好き以外のどれほどの受験生に届くのか少々心配になります。また本文に関して本当に一節単位で解説をするので、“本文解説”の項目は必然的に長大になり、受験生、特に理系学生にとってはこれを全て読破するのにはそれなりの苦痛も伴うと思います。数学でもそうですが、この手の解説書は必要な部分だけしっかり読もうとすればそれで充分だと言えるでしょう。その長い“本文解説”の後、“解答例”“採点基準”“設問解説”と続きますが、これも数学同様きちんと参考配点を掲げている点はかなり重要かつ貴重です。25ヵ年の国語などでは与えられた解答と自分の答案とを見較べて違いを自分で判断し正確な自己採点を行うことを良しとしているようですが、そんなことが最初からできる受験生はおらず、そもそもそれができるような力を養うために問題演習をしているのです。自分で自己採点ができるようになるための指針たる採点基準をあえて用意しない姿勢は、参考書にとって決して美点とはなりえないと自分は考えます。そういう意味で、本書の持つ意義はこの部分だけでも非常に大きいでしょう。さらに最近では“答案例”も付いてきて、実際このくらいの答案を書くとこういう減点を食らうよ、ということまでわかるようになっています。古文も漢文も、最後は“現代語訳例”(漢文はさらに“書き下し文”も)で締めくくられます。

 難易度評価に関しては、各大問について、古文9軸、漢文8軸で評価。内訳は、古文は“問題の評価”として≪難易度≫≪記述力≫≪時間≫≪完成度≫の4軸、“学習の効果”として≪語彙≫≪文法≫≪敬語≫≪常識≫≪主体≫の5軸。漢文は“問題の評価”の4軸は同じで、“学習の効果”として≪語彙≫≪句法≫≪常識≫≪主体≫の4軸となっています。ここからさらに各々の軸について5段階で評価とかなり細かくなっている上に、このような評価を行っている他の参考書が無いため比較が出来ないので妥当性の判断が難しいのですが、だからこそやはりこれを参考となるひとつの目安として受け入れるべきではあるでしょう。≪(問題の)完成度≫なんて評価を聞かされてもどうすりゃいいんだよ、という話ではありますが。

 全体として、本書は数学よりも少々マニアック過ぎるところがあります。そのため、高いお金(5000円強)を払って買ったはいいものの受験までに読むのはこの分厚い本の半分程度、なんてことが十分に考えられる一冊ではあるのですが、それでも他にはない有益な情報が詰まっていることもまた確かです。そこは、受験生であるあなた自身の、入試における古典の位置づけの重要度から財布の重みと相談して判断してください。



 次回7月21日(日)は、現在市販されているものの中で最も東大入試を古くまで遡ることができる参考書・聖文新社『東京大学数学入試問題50年』を紹介予定です。ご期待ください!
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