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東大過去問参考書の参考の書 ~聖文新社『東京大学数学入試問題50年』~

 毎年『全国大学数学入試問題詳解』を発刊している聖文新社が、その創刊50年を記念して主要大学の数学入試問題50年分を大学ごとに次々と本にしました。本書は勿論そのトップバッター。大きめの書店でしか見ませんが、50年分ともなるとさすがに貫禄の佇まいです。構成の様子に入る前にまず言っておきたいことがひとつ。それは、…
 やってきました参考書別活用法のコーナー2週目。今回もまた前回に引き続き、東大の前期試験の過去問を扱った参考書について、その特色・特徴を

①構成
②解答・解説の充実度
③難易度評価

の3つの観点から、東大受験参考書愛好家のひとり、ワタクシ石橋雄毅が紹介していきます!
 東大に合格するためなら、参考書への投資くらい安いもんだ! なんて方もいらっしゃるかもしれません。ただ、少なくとも参考書に関しては、高いものが何でも良いものだとは限りません。前回言ったのと本質的に同じことですが、一番大事なのは自分が求めることがその本に書いてあるかどうかということであって、高いお金を出して買った分厚い本の大半のページが実は自分にとって不必要な情報で構成されていたなんてこともあり得るのです。これでは、お小遣いどころか貴重な時間までもが無駄になってしまいかねませんね。しかし高くて厚い本は、本屋での立ち読みでその特徴を掴むのもなかなか大変なもの……。そこでこの2週目では、受験参考書としてはちょっとお高い3種類の過去問参考書について、詳しく見てみようと思います!


◆聖文新社『東京大学数学入試問題50年』 数学
 毎年『全国大学数学入試問題詳解』を発刊している聖文新社が、その創刊50年を記念して主要大学の数学入試問題50年分を大学ごとに次々と本にしました。本書は勿論そのトップバッター。大きめの書店でしか見ませんが、50年分ともなるとさすがに貫禄の佇まいです。構成の様子に入る前にまず言っておきたいことがひとつ。それは、本書のユーザーは主に高校・予備校教師だということです。そりゃあ、東大の数学を50年分も解くだけの時間的余裕なんて殆どの受験生が持ち合わせていないでしょう。個人的には25年分だって全部は必要ないだろうと思っているくらいです。それよりは、講師が生徒指導の為に、この669題の良問の中からどの問題を演習用に使うか選ぶための“図鑑”的な使い方の方がよっぽど実用的でしょうし、編集部側もおそらくはそのような想定でいるようで、「はしがき」には“私たち高校・予備校教師が~~”と書いてあります(読者を含まない、筆者たちとの意味での“私たち”とも取れましたが、自分は文脈から読者を含んだ“私たち”だと考えます)。それでもここに本書について述べるのは、実際に自分の周りに本書を全て解いて入試に臨んだ同級生がいたこと(かなり稀な例ですが)、余所で本書の特徴について述べたレビューを自分はあまり見たことが無いこと(大半が、「東大入試ってやっぱりスゲー!」というものばかり)の2点から。本書を改めて“受験参考書”として見るとどのような特徴が浮き彫りになるのか、まとめてみます。

 「はしがき」1ページで東大入試数学50年の雑感を述べ、次ページで本書の構成についてまとめた後は基本的に問題と解答のみ収録。特徴的なのはそのまとめ方で、まず「年度別問題編」として50年分の入試問題を全て年度順に掲載。ここで言う“全て”とは、前期試験の文系数学・理系数学、後期試験は勿論のことセンター試験の前身の共通一次試験が始まるよりももっと前に行われていた大学個別の一次試験の問題も含めての“全て”です(が、一次試験の中には一部省略されているものもあります)。また試験時間といった細かな体裁は書かれていません。問題文はびっちり詰められていて見渡しやすく、コピーもしやすそうです。1956年から2005年までの50年分の問題の後には、「項目別解答編」が続きます。ここでは、その50年分の問題が単元ごと・難易度順に解答と共に再配置。学習指導要領が50年の間に何度も変わっていますので、ここの単元は聖文新社独自の分類になっています。それぞれで掲載順が違うと扱いが面倒なのではと思うかもしれませんが、一応双方向の行き来がすぐにできるような記載は施されています。この構成から、本書は過去問をセットとして解くことも、また25ヵ年のように純粋に演習問題として使うことも、いずれにも対応しているということが言えます。残念ながら、昔の問題の制限時間は本書からはわかりませんが。

 解答は、略解とまでは言わないまでもかなり淡泊で解説の類はほぼ皆無。50年分もの問題を2度も掲載してこの厚さなのですから、解答の充実度はお察しください。勿論最低限必要なことは端的に書かれていますので、数学の得意な人にはこれで良いのかもしれません。

 先にも述べた通り「項目別解答編」で問題を単元ごと・難易度順に配置していますが、これはなんとも珍しい配列で、少なくとも東大数学を1セット解く上で、単元ごとの難易度の情報はあまり役に立ちません。1セットの中に同じ単元の問題が含まれることは、2012年度入試のような例外でもなければ滅多にありませんから、一通り解いて振り返ってみたところで結局どの問題は取るべきでどの問題は取れなくても良かったのか、ということがなんとなくしか分からないためです。しかし通常の問題演習をするという観点からした場合には、苦手な単元を頭から解いていけば少しずつレベルアップしていけるというメリットがありますので、単元ごと・出題年度順の配列を取っている25ヵ年に比べればよっぽど効果的に思われます。

 以上全ての性質を鑑みても、やはり本書は数学講師が東大入試を研究・生徒指導に活用するための1冊としての利便性が特に際立っている印象を受けますね。本書を全て解いたと豪語する私の友人は、理Ⅲを目指して高1からずっと受験勉強をしてきたという人物で、他の科目の過去問も25ヵ年全て解いたという猛者です。制限時間の切羽詰まった通常の受験生にとっては、本書を全部解くだけの時間を他の科目の勉強時間に充てた方が利益が大きい可能性が高いことを改めて強調しておきます。


 いかがだったでしょうか? どれも個性的な参考書で値段に見合うだけの価値をそれぞれに有しているといったところでしたが、逆にその厚さの分だけ増える不必要な情報量はクセと呼ぶべきデメリットでもあり、結局その参考書の長所を活かし切れるかどうかは実際に使用する皆さんにかかっています。以上の記事を読んで、これなら自分はうまく使えそうだ! というものがあったなら、是非書店へ足を運んでみてください。ただ繰り返しますがお忘れなく、実際に大事になるのはやはり、その本に本当に自分の求めることが書いてあるかどうか? ということです。どんなに情報が豊富でも、どんなに値段が高くても、そこに必要性が無いならばその本は合格に近づく1冊ではないのですから。それではまた来週。
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