受験対策

平成27年度東大入試講評

今年の東大入試(前期)が実施されました。
受験生の方はお疲れ様でした。


 さて、かく言う私・石橋雄毅も、例年東大入試は自分の解ける科目全部――文系国語・理系数学・文系数学・物理・化学・英語の6つだけですが――を解くのですが、何らかの形で役にも立つことがあるかもしれませんし、今年も解いて思ったこと・気付いたことを軽く書いてみようと思います。


■国語■

第1問、文理共通の現代文はえらく哲学的で抽象的。ここ数年の課題文が非常に理解しやすいものばかりだっただけに、久々のこの抽象度の高さには多くの受験生が準備不足で苦労したのではないでしょうか。設問も進んでいくにしたがってどんどん答え辛くなっていき、満足いく(五)の答案を書けた人はどれほどいたのか……。おまけに漢字が3問まで減ってしまい、ボーナスも少なくなりました。
第2問の古文は久々の作り物語。文理共通の設問「雪ふるさとはなほぞこひしき」の理由説明は、何をどこまでどう答えることを求められているのか判断しづらく、各予備校の解答速報も大きく割れています。
第3問もいつも通り漢文。2006年からずっと課題文は基本的に文理共通ですが、今年は理科の問題で文科にはあった段落が一つ消えていました。問題の質としては標準的でしたが、昨年同様求められる語彙レベルがやや高かったように感じます。
文系のみ解く第4問の方の現代文は第1問とは対照的に、例年に比べ読みやすく・答えやすくなりました。いつも通りのエッセイには違いないのですが、うまく説明するとなると困ってしまうようなものでなく、明快な猫達とのエピソード、そしてそこから思ったこと。設問も比較的軽め。第1問と第4問とでプラマイゼロで、総じて文科は例年並み、理科はやや難化と言っていいのではないでしょうか。


■理系数学■

新課程入試に入るときの東大数学は大抵いつも共通範囲からですが、今回もその例に漏れずでした。難易度は昨年と大差なく、出題内容も通過領域の標準的な問題・確率漸化式を利用する問題・計算量が多いだけの微積の問題・一般項を求めず漸化式を処理していくことが主体の数列の問題が昨年同様といった感じ。出題担当者が2年毎に変わっているのではないかとかそういうことは置いといて、直近の過去問の演習は必ずしておきましょうねという話です。
話題性で言えば間違いなく第5問。こういう“誰にでも考えられる、だけど東大レベルの入試問題として機能する”ような問題は、出てくる度にとても素敵と感じます。一方、ヘビーな空間図形の問題は今年も無し。こちらはちょっぴり残念。


■文系数学■

ここ数年必ず1問はあった“絶対に落とせない”問題が姿を消し、どれも標準かそれ以上の難度。数学が苦手な人にはとても厳しくなりました。小問が少ないのも点の取り辛さに拍車をかけ、逆に数学が得意な人には大変有利に働いたことでしょう。第1問は東大数学としては新傾向。
あと第4問、理系で「サイコロ」だったものをほぼ「コイン」に変えただけの問題ですが、それで文系用に簡単になったとはとても思えないのですが……。


■物理■

新課程入試に入りましたが、原子物理からの出題はやはり無し。例年通り力学・電磁気・熱の3題構成でしたが、熱力学は2011年度以来4年ぶりの出題。2006年以降から見ると「熱・波・熱・熱・波・熱・波・波・波・熱」となったわけですが、これを見てもヤマを張るような学習法はとても東大を目指す受験生としての姿勢ではないと言えるでしょうね。
今年とりわけ楽しかったのは第2問後半。数式処理で手いっぱいになって終わってしまうのは大変勿体ない! それと第1問、「大きさと向きをそれぞれ求めよ」で大きさ 0 はちょっとどうにかなりませんでしたかね……。重心から見た相対運動と重心そのものの運動を別々に考える良い教材が増えたのは嬉しいのですが。最後に第3問のリード文終わり、浮力と水圧の公式をわざわざ与えてくれる、夏の東大模試のような優しさはどこから来たのか?


■化学■

昨年大問題になった理化学研究所のSTAP細胞騒動を受けて、東大理学部では夏休み終盤に急遽「研究倫理」なる授業が開講、来年度からは必修科目になるとか。第3問Ⅱ問シはまさにそこで扱ったような問題で、タイムリーだなあと眺めておりました。笑
さて内容ですが、こちらも分量の多さ・難易度共に例年通り。ただ、東大らしい“題材の目新しさ”がやや薄まった印象です。近年激しかった有機での高分子推しも、やっと下火になりました。他に特筆するなら、第2問Ⅱ問コや第3問Ⅰ問エのような、実験操作を自分で具体的に書かせるような設問が目立ったことでしょうか。穴埋めや正誤判定のぬるま湯で育った人間には、いざ自分の文章でゼロから書けと言われても難しいものです。


■英語■

今年からマークシート導入。怯えた受験生も多かったでしょうが、結局いつも通りの形式でしたね。難易度も分量も例年並みですが、4(A)の設問数が3問になり、安心できる記号問題の割合がちょっぴり減ってしまいました。
注目の英作はイラスト説明とことわざについてになりましたが、「あなたが思ったことを述べよ」はなかなか厄介な指示。ここ最近の英作文では、受験生自身の考え方を述べさせることにも重きを置かれているようでしたが、かつてこの形式の問題文が「下の絵に描かれた状況を自由に解釈し、○○~△△語の英語で説明せよ。」で成り立っていたことを踏まえるに、今回の指示は内容的にも時間的にもちょっと無理矢理詰め込んだ気がしてなりませんが……作問者側には当時何らかの反省があったのでしょうか。



……とまあこんな感じでしょうか。より詳しくは大手予備校4社が続々と分析していますのでそちらを見てみると良いでしょう。
 ただ、こう言ったところで何なのですが、この手の情報を受験生本人が上手く活用することはなかなか難しいです。形式を知るのにちょっと読むくらいはいいでしょうが、ガッツリ読んだからと言ってどれだけ役に立つかというと普通はスズメの涙ほどのような気がしています。
 そこで自分はどう考えているかと言いますと、これらの情報は“自分で過去問を解いた後”に読めばより有益だと思っています。難易度評価は東大受験生としてどの程度が標準なのかを示す指標になりますし、問題のポイントも端的にまとめられていて考え方の筋道を掴むには丁度良い事も。全社読み比べることまではオタクでなければしなくてよいので、自身の過去問演習の際思い出してみてください。(ちなみに現在、河合塾では2005年以降の、東進ハイスクールでは2007年以降の分析が公開されています。)


 最後に、自分はオタクなので(笑)、予備校各社の分析は勿論解答速報も全部読み比べています。その解答速報の中で、数学と物理に関しとりわけ目立っていたものをピックアップして紹介します!

(※国語と英語は評価が割れるため、化学はほぼ答えだけの掲載のため除外しました。ご了承ください。)



◆理系数学第2問・文系数学第4問……代々木ゼミナール
おそらく一番出題者の想定する解法に即した、スッキリした漸化式を立てていたように感じます。他はガチャガチャと数列を立て過ぎ。ですが、試験場ではそういった“なりふり構わない”姿勢も大事ではあります。

◆理系数学第5問……河合塾
実用性が薄いとはいえ、2進法を活かした考え方について述べた【参考】が読み物として大変タメになります。一般的な受験生は自分が受けた東大入試の答えなんて、合格していたら解答速報でくらいしか目にしないんでしょうから、急いでいる中でもこういうことをしてくれるところは大変教育的で良いなあと思いますね。執筆者は楽しんで書いているだけかもしれませんが。

◆理系数学第5問……駿台予備校
その[注]に何のイミがあるんだ……という駿台さんの crazy なトコロ、僕は大好きですよ!!笑

◆物理第2問Ⅳ(3)(4)……東進ハイスクール
“相対速度・相対加速度”に明確に言及した、一番丁寧な解説を書いていたのは東進かなと思います。“相対”に言及していたのは他に河合塾だけですが、それが無いと単なる式の処理だけに終始することになって、物理としてはちょっと味気ない……それくらい見て解れよ、ということなのでしょうが。


時間が無い中作られる解答速報からは各予備校講師陣の底力が垣間見えます。解説が少ないのでこれだけで勉強する人はいないでしょうが、細かい部分での工夫が参考書に載っているものよりも尖っていたりしますから、何かしらの形でこの記事が学習の助けになりましたら幸いです。それでは。

2015/02/28 石橋雄毅

list page 

ソーシャルボタン

公式Twitterアカウント