受験対策

平成28年度東大入試講評

今年の東大入試(前期)が実施されました。
受験生の方はお疲れ様でした。


 さて、かく言う私・石橋雄毅も、例年東大入試は自分の解ける科目全部――文系国語・理系数学・文系数学・物理・化学・英語の6つだけですが――を解くのですが、何らかの形で役にも立つことがあるかもしれませんし、今年も解いて思ったこと・気付いたことを軽く書いてみようと思います。


■国語■

第一問、難しかった去年よりは読みやすくなり、ここ最近のレベルに戻ったように感じました。ただ、設問には書きづらい部分もあり、ものによっては書くことが見つからず解答欄が普段の練習にはないほど余ってしまったという人も少なくないでしょう。受験生にとって悲報か朗報か、漢字は3問でもう固定なのでしょうか……?

第二問の古文はまた物語。ストレートな和歌の解釈の問題もありましたが、全体として今年の東大国語で一番取り組みやすい問題でした。今年はセンター試験の古文も簡単でしたから、例年の傾向を見て古文を捨てていた人は痛い目を見ることになったでしょう。

一方、第三問の漢文は難しかったと思います。特に(二)が並の受験生(特に理系)には難しかったろうし、そこがわからないと話がどこか別の方向に飛んで行ってしまいやすくなったと思います。枝問という形で現代語訳を課したのは新傾向。漢詩は2011年から実に5年ぶりの出題でした。

文系のみ解く第四問の方の現代文は昨年に比べかなり難しくなり、これはこれで例年のレベルに戻りました。2009年第一問の「白」が東大国語の書きづらい問題として比較的受験生の思い出に残りやすいのもあって、「今年は青か~」と思いながら解いていました(笑)


■理系数学■

新課程入試に入った年の翌年の東大数学は大抵新課程を意識した出題となりますが、昨年同様今回もその例に漏れずでした(条件付き確率、空間図形、複素数平面、整数(?))。十年近く後になるでしょうが、次に課程が変わるときには出題単元の予想がしやすくなりますね(笑)

難易度は標準的で、昨年と同程度。例年一題くらいはある、これは絶対自力じゃ解けないなあというような問題は今年は無かったように感じますが、第5問の小問が誘導じゃないのには意表を突かれ、そういう意味で(3)の泥沼にはまった人もいたと思います。第2問が今年の慶應薬学部の問題の設定とほぼ同じというのにもビックリ。

また、昨年無かった空間図形の問題が復活したなと思ったら、座標空間が2問もあって復活し過ぎ! と思いました。ただ、いずれもそこまでヘビーではありませんでした。

全体として、これぐらいの難易度が最も差が開くだろうな、というようなものになっていたと思います。


■文系数学■

昨年の難しさに反省してか、グッと取り組みやすくなりました。駿台は第3問を「センター試験レベルの問題」と評していますが、確かに穴埋めにしたらセンター試験みたいな設定の問題だなと思いました。このセットで得点が40点に満たなければ、大きな痛手となったことでしょう。

理系との完全な共通問題はありませんでしたが、確率の第2問は設定が同じで小問が違う、図形と方程式の第1問は雰囲気だけ似ている、といった状況でした。第4問の『結論のみを書けばよい』との指示は、東大では珍しい。


■物理■

新課程入試に入って2年目になりますが、原子物理からの出題は無く、力学・電磁気・波動の3題構成でした。全体として、難易度は例年並みだけれど答えなければならないものの数が非常に多くなったように感じました。化学もあわせて、非常に時間の厳しい試験でした。

第1問Ⅲ、重心から見た相対運動と重心そのものの運動を別々に考えるのは昨年の第1問と同じテーマ。第1問Ⅱ(3)のグラフを選ばせる問題にも、昨年の第2問に通ずるものを感じます。

第2問は東大物理では珍しく、ⅠとⅡとで設定が全く別の問題。物理的状況は全く違うけれど、数式としては似たような形になる、という話の取り合わせでした。中でもⅠは東大には珍しい本格的な交流回路。交流を捨てていた受験生も多いでしょうが、どうか穴の無い勉強を。

一方、第3問は2003年第3問と同じような内容を含む問題でした。ただ、答えるべきものの数が圧倒的に増えて、2003年よりもいろいろなことを手広くやっている感が強かったはず。時間を気にせずじっくり解いて学びたい問題です。


■化学■

飛び抜けて尖ったものがあったわけではないものの、分量・難易度共に厳しくなった印象。点を稼ぐと決めた問題にいかに全力を注げたがカギとなります。

昨年は「東大らしい“題材の目新しさ”がやや薄まった印象です」と書きましたが、今年は第2問Ⅱ・第3問Ⅱといった形で復活。いかにも東大化学といった感じの問題で、ワクワクしました(そんな時間的余裕は無いのですが)。

また、昨年に引き続き「研究倫理」的な問題が出題されました。選択肢を読んで明らかにおかしいものを選ぶだけのこのような問題を出題することに、選抜試験としての役割は殆ど無いのでしょう。ただ、東大がこのような問題を出題するというただその一点に於いて、少しでも日本の高校生の学問への意識の下地を作るきっかけとなればということなのだと考えます。そういう意味では、“ただ時間を食うだけの問題”だなんて評してしまうのはおこがましい――解く側からしたら実際そうなんですけどね(笑)


■英語■

東大英語における毎年の多少の仕様変更はもう織り込み済みとするならば、基本的には分量・難易度含め例年通りでした。

長らく「次の英文の内容を,○字の日本語に要約せよ」で固定だった1(A)の問題文が、今年は「次の英文の要旨を,○字の日本語にまとめよ」と微妙に変化したのですが、講評でそこに触れる予備校が多くて笑いました。それだけ東大英語は注目されているということですね。1(B)は再び段落を整序する形に戻りましたが、ダミーが無いのが有難い……!

2(A)はここ最近と変わらず与えられた画像について思うことを述べる英作で、2(B)が新傾向の「次の文章を読んで,そこから導かれる結論を第三段落として書きなさい」。英作は実に出題のバリエーションが豊富ですね。

3のリスニングはいつも通りで、4(A)“誤った箇所を含む下線部を選べ”は東大英語初、そしてこれまたいつも通りの4(B)の和訳と5の長文、といったセットでした。



……とまあこんな感じでしょうか。より詳しくは大手予備校4社が続々と分析していますのでそちらを見てみると良いでしょう。

 ただ、こう言ったところで何なのですが、この手の情報を受験生本人が上手く活用することはなかなか難しいです。形式を知るのにちょっと読むくらいはいいでしょうが、ガッツリ読んだからと言ってどれだけ役に立つかというと普通はスズメの涙ほどのような気がしています。

 そこで自分はどう考えているかと言いますと、これらの情報は“自分で過去問を解いた後”に読めばより有益だと思っています。難易度評価は東大受験生としてどの程度が標準なのかを示す指標になりますし、問題のポイントも端的にまとめられていて考え方の筋道を掴むには丁度良い事も。全社読み比べることまではオタクでなければしなくてよいので、自身の過去問演習の際思い出してみてください。(ちなみに現在、河合塾では2006年以降の、東進ハイスクールでは2007年以降の分析が公開されています。)


 最後に、自分はオタクなので(笑)、予備校各社の分析は勿論解答速報も全部読み比べています。その解答速報の中で、数学と物理に関しとりわけ目立っていたものをピックアップして紹介します!

(※国語と英語は評価が割れるため、化学はどの予備校もほぼ答えだけの掲載のため除外しました。ご了承ください。)



◆理系数学第1問……河合塾
計算途中で出てくる関数の正負を視覚的に捉えることができるということを唯一指摘。河合塾の数学の解答速報はただ解答がひとつだけあればよいだろうというようなものではなく、毎年非常に細かいところにまで注意が行き届いていて質が高いです。

◆理系数学第4問……河合塾
この問題に対し3通りの別解を用意。上にも書いた通り、河合塾は東大数学の解答速報にかなり力を注いでいるようです。

◆物理第3問……代々木ゼミナール
物理は3問とも代ゼミが一番詳しく、別解も豊富に解説していましたが、中でも第3問の解答速報は非常に充実していました。時間の無い中、よくしっかり図まで作ってくるなと感心します。


時間が無い中作られる解答速報からは各予備校講師陣の底力が垣間見えます。解説が少ないのでこれだけで勉強する人はいないでしょうが、細かい部分での工夫が参考書に載っているものよりも尖っていたりしますから、何かしらの形でこの記事が学習の助けになりましたら幸いです。それでは。

2016/03/02 石橋雄毅

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