「点」ではなく「線」で学べ―「勉強に全てを捧げた1年」を通して見えてきたもの

東大生たちが語る“東大を目指す理由”と“合格への道”――勉強法、受験での失敗談、そして合格後のリアルな学生生活まで。これから東大を目指すあなたに、合格までの道のりをリアルに伝えます。

東大に入ってよかったと思うことはありますか?

東大に入って良かったと感じることは、「周りのレベルが高い」ということです。私の周りでも、官僚志望の人、法曹志望の人、それぞれ目指す進路は異なりますが、各々がそれぞれの軸をしっかり持って、それぞれ目標を高く掲げて努力しています。例えば、早くも大学2年生の夏に行われた省庁の説明会やインターンに参加していた同級生もいますし、在学中の予備試験合格を目指して大学1年生の頃から勉強を始めていた法曹志望の友人もいます。

私は、成長のために最も重要な要素は「環境」であると感じているので、このような刺激的な環境にいられることは東大の最大の魅力の一つだと感じています。周囲の人が現状に甘んじて努力をしない集団にいるのと、周囲の人が常に上を目指して努力している集団にいるのとでは、自分の意識も変わってきますよね。

とはいえ、東大は常に競争的で張り詰めた雰囲気なのかというと、そんなことはありません。私は東大が身近ではない環境で高校生まで育ってきたので、東大に入る前は、東大生といったら四角四面な人間が多いのではないかと思っていた部分もありましたが、実際に入学して交流してみると、思っていた以上に社交的で明るい人が多かったです。そういった意味では、入る前に抱いていたイメージとは良い意味でギャップがあったといえるかもしれません。

また、官僚を志望している私にとって、志を同じくする仲間が東大には多くいるというのも東大の魅力です。東京にあるという立地のおかげで、官庁訪問や説明会にも足を運びやすいです。そういったイベントは基本的に東京で開かれるので、地方にいるのと比べて、それらに参加するハードルはかなり低いと思います。

出身の飯舘村の桜

あなたが受験勉強の経験から得た学びが、大学進学後に生きたと思う場面について教えてください。

私が受験勉強を通して学んだことのなかで、大学進学後も生きていると感じるものは、「体系的に知識を学ぶ」という思考およびその技術です。そしてそれは、大学進学後にも間違いなく生きています。

「体系的に学ぶ」というのは、知識をバラバラに覚えるのではなく、一つの体系として有機的に押さえるということです。例えば「教科書に出てくる単語を一つ一つひたすら覚える」「一問一答だけをただ繰り返す」といったやり方で知識をバラバラに覚えてしまうと、知識同士のつながりが抜け落ちてしまいますし、そうやってバラバラに覚えた知識というのはすぐに忘れてしまいやすいものです。そうではなく、知識どうしの関連性を確認しながら覚えることで、知識と知識を結び、忘れないようにすることができます。世界史を例にとるなら、「事象Aと事象Bが関連して、その結果事象Cに繋がった」というような「流れ」をとらえることを意識していました。つまり、知識を点として覚えるのではなく、点と点を繋いで一つの線として覚えることが、「体系的に知識を覚える」ということなのです。

例えば、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時期は、実は多くの法令の制定などがあった時期で、ごちゃごちゃしているので、苦手としている受験生も多い分野です。「第一次世界大戦が終わって、なんだかよく分からないうちに第二次世界大戦が始まってしまった」と思う人もいるかもしれません。しかしここで、流れをつかむことができれば、知識を整理して頭に入れることができます。具体的には、「第一次世界大戦を経て多額の賠償金を課せられ、抑圧されたドイツにおいて、国民の不満を後ろ盾としてファシズムが台頭し、周囲の国々へ宣戦布告をした結果、第二次世界大戦に突入した」、このような捉え方をしたほうが、はるかに覚えやすくなるはずです。

このノウハウは、大学進学後に大学の勉強や公務員試験の勉強に取り組む際にも生きていると感じます。

あなたが受験生時代に、実践していたこだわりの学習法があれば教えてください。

私の得意科目は社会だったので、その勉強において特に意識していたことを述べたいと思います。実は私が世界史を本格的に勉強したのは1年間だけなのですが、その1年間の勉強を経て、本番では60点中、40点台後半の点数を取ることができました。

私が意識していたことは、「出題者の意図をしっかり読み取る」ということでした。これは東大の社会を攻略するにあたって特に大事なポイントです。ここでは世界史を例にとりますが、東大世界史の問題は「前振り」が長いです。最終的な問いとしては「この時代の概説を述べよ」くらいのことだったとしても、そこに至るまでの前振りの文章が非常に長い。2023年度入試まで存在していた第一問の大論述はわかりやすい例で、設問の文章がとても長いですよね。ここをしっかり読むことが大事で、その部分から、「出題者は何を書いてほしいと思っているのか」ということを読み取ることが大切なのです。

さらにもう一つ、「誰かに説明する」というのはとても効率的な学習法の一つです。誰かに説明をするのはその内容を自分がよく理解していないとできませんし、説明をする過程で他の人からの質問も飛んでくるので、それに答えるのも良い勉強になります。この“誰かに説明する”という学習法の有効性については、耳にしたことがある方も多いかもしれませんが、それを実際に日常的な学習の中で実践できている人は、意外と少ないのではないでしょうか。読んでくださっている高校生の皆さんにも、「誰かに説明する」という学習法はぜひ取り入れてほしいなと思います。

イタリア旅行での写真です(ピサの斜塔とピザ)

受験生時代の勉強の方法に反省点はありますか?あなたが今受験生時代に戻ったなら、どのように受験勉強をやり直しますか?

私は数学が苦手科目だったので、数学の勉強には反省点があります。私は受験生時代、数学に関して、テスト前に解法を丸暗記するというような、今思うと全く再現性のない勉強をしてしまっていた部分がありました。こうした勉強法は一時しのぎのものでしかないので、受験では通用しません。そうではなくて、もう少し本質を捉えた勉強ができていればよかったと感じます。具体的には、「なぜこの解法を使うのか」といった解答の道筋の立て方を理解することに時間を使えばよかったです。ただ、解法の丸暗記はよくないとはいっても、ある程度、問題の類型に応じた解法のパターンを認識することは大切です。そのため、もしも私がもう一度数学の勉強をやり直すとしたら、まずは基本問題をたくさん解き、その解法パターンを体に染み込ませることから始めます。その後、その組み合わせによって応用問題に取り組む、というような段階を踏んだ学習をすると思います。

また、私は1浪して東大に合格したのですが、現役時代は本当に覚悟を決めて受験に取り組めていたわけではなかったという感覚があります。現役のころは、十分な量の勉強をすることができていませんでした。しかし、1浪のときは、本当に全てを捧げる覚悟で勉強に打ち込むことができました。「人生の中で、今が全力で勉強をする最大の機会であり、今全力で努力できなければ今後もできないだろう」と感じていたからです。

私の地元は福島で、東京に比べて中学受験をする人の数も少なく、高校受験もあまり激しいわけではなかったので、正直なところ、それほど腰を据えて勉強せずとも高校まで合格してしまっていました面がありました。そのため、現役のときは、その認識のまま「大学受験もなんとかなるだろう」と少し思ってしまっていました。ところが本番の入試で不合格になってしまい、自分の中でスイッチが入りました。実は、志望校を東大に設定したのも浪人してからです。「せっかく目指すんだったら目指せる一番高いところを目指そう」という気持ちでした。

受験生時代に意識していたことや、大切にしていた考え方を教えてください。

私が受験生時代に大切にしていたことは、「とにかく疑問点をそのまま放置しない」ということでした。特に浪人時代に入ってからですが、その日生じた疑問点は、講師の方に質問するなどしてその日のうちに解消するということを意識していました。解消しないまま放置してしまった疑問点がたとえ1日1個だったとしても、それが積み重なると膨大な数になり、最終的にはその教科のことが全くわからないという状態になってしまいます。そうならないように、わからないことの芽は早めに摘んでおくことが大切なのではないかと感じます。

受験戦略については、苦手な数学に関しては最低限必要な勉強をするにとどめ、その代わり他の科目、特にその中でも得意だった社会科目で点数を稼いで総合点で勝負する、という戦略をとりました。

今振り返っても、私としてはこの戦略が当時取れるなかで最適な戦略だったのではないかと思います。数学があまりにも苦手だったので、その状態から勉強してもあまり点数は伸びなかったのではないかと感じているからです。

このような戦略の成果もあり、浪人時代の模試などでは良い成績を取れることが多かったですが、それに対して満足感を覚えることはあまりなく、むしろ「浪人しているのだからこのくらいできなくては」という強迫観念のようなものを持っていました。もしかしたら、それが良い方向に働いたのかもしれません。

イタリアでの旅行の写真です

最後に、受験生に向けたアドバイスをお願いします。

大学は高校に比べてとても自由で、自分でさまざまなことを学べる場所ですが、その中でも東大は、前期教養学部や進振りといった制度の存在によって、「自分の興味のある分野を自由に追求する」という学問の本来のあり方がとてもよく体現された環境だと感じています。ですので、皆さんの中で、もし何か興味があることや取り組んでみたいことがある方は、ぜひ東大に挑戦してみてください!

とはいえ、特に現在地方に住んでいる方にとっては、東大での生活を具体的にイメージするのは難しいかもしれません。やはり、東大の雰囲気を肌で感じるためには、実際に一度キャンパスに足を運んでみるのがおすすめです。自分が東大のキャンパスで学んでいる姿を思い描いたり、「今度は自分が高校生を迎える側になりたい」と思ったりする機会になるかもしれません。

実は私自身も、高校1年生のとき、学校行事の一環として「希望者を募って五月祭に行く」という企画があり、それに参加していました。

このように、東大の雰囲気を体感することで、進学へのイメージが具体的になり、学習のモチベーション維持にもつながります。ですから、五月祭などの機会を活用し、ぜひ一度東大のキャンパスに足を運んでみてください!

この記事の著者/編集者

今野悠真   

名前:今野 悠真(こんの ゆうま)
「悠真」の「悠」には「悠々と生きてほしい」、「真」には「真実を求めなさい」という両親の想いが込められています。

出身地:福島県相馬郡飯舘村(いいたてむら)
一般的に想像される「村」のイメージそのままの村、といった印象で、小さなコミュニティならではの人の温かみを感じられるような村です。幼少の頃は、地元の神社で例年行われる例大祭という祭りに参加していました。非日常感を感じられて楽しかったと記憶しています。

出身高校:福島県立福島高等学校
福島市に位置する県立高校です。制服がなく、イベントにも生徒ひとりひとりが熱心に取り組むような自由な校風の中で、仲間たちと自由闊達な交流を育むことができました。高校から一緒に東大に進学した同期とは、今でも親交が続いています。

大学・学部:東京大学法学部第一類(法学総合コース)
東京大学法学部のなかの、第一類と呼ばれるコースで法学を学んでいます。第一類コースからは、法曹というよりも官公庁あるいは民間に進む人が多く、私自身も将来の進路としては官僚を考えています。一生の仕事として、自分の人生を捧げたいと思える職業は何かと考えたときに、「国家を支える仕事がしたい」という気持ちが強かったからです。
法学部では民法、刑法などさまざまな学問を学んでいますが、その中でも特に、刑法の学習に面白さを感じています。
例えば、殺人罪についてです。一般的には、「人を殺したらそれは全て殺人罪だろう」と思うのではないでしょうか。私も、法学部に入る前はそう考えていました。しかし、実際には、殺人罪が成立するためには「主観的要件」「客観的要件」の両方が満たされている必要があります。つまり、「殺意を持って」「明確な因果関係を伴う行為によって」殺人を行わなければ、殺人罪は成立しません。事実として殺人を犯してしまったとしても、その人が殺意を持っていたと認められなければ、殺人罪にはならず、傷害致死罪など別の罪によって裁かれることになるわけです。
このように、自分がもともと抱いていた「犯罪」というものに対する観念が覆されるような学びができる点が面白いなと感じています。


所属団体:法律相談所
大学の、法律相談所というサークルに所属しています。地域の方から、法律に関わる事項、たとえば近所トラブルや賃貸借契約などに関するお困りごとの相談を受け、それに対して助言をさせていただくという活動を行なっています。今年の五月祭(東大本郷キャンパスで行われる学校祭)では、模擬裁判という、劇の一種のような発表活動に携わりました。私は、シナリオパートの一員として、模擬裁判で使う裁判関連資料の準備などを行いました。本番の日には、多くの観客の方が模擬裁判を見にきてくれて、エンディングまで集中して見てくれていました。多くの人にとって法律、裁判というものは普段縁遠いものですが、この機会を通して少しでも法律に興味を持っていただくことができたなら幸いです。

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