謙虚な姿勢で、基本を大切に―文科三類首席合格者が語る、受験勉強の本質

今回インタビューを行ったのは、東京大学経済学部経営学科に所属する谷口夢奈(たにぐちゆうな)さんです。2022年度の東大入試で、谷口さんは文科三類に首席合格を果たされました。そんな谷口さんが大切にされていた受験勉強への取り組み方や、そこから得られた学びについて、お話を伺うことができました。

東大入学後について

東大を目指したきっかけは何でしたか?

実は、はっきりした動機が最初からあったわけではありませんが、勉強を続けているうちに気持ちが固まっていきました。私の学校では高2のときに文理選択があり、その時点ではまだ東大に行くことは決めていなかったのですが、「文系クラスの成績上位者は東大を目指すもの」という空気があったことから、自然と東大を目指すようになったんです。

そこからは気持ちが大きく揺らぐことはなく、最終的には文Ⅲへの出願を選びました。理由は、文学部への進学を当時は希望していたことと、文Ⅰよりも合格最低点が少し低い傾向があったからです。

東大に入ってよかったと思うことは何ですか?

東大生であることで「信頼してもらいやすい場面がある」ということです。例えば塾講師のアルバイトをしているときも、東大生であることで安心して任せてもらえることもありますし、就活でもその肩書きが信頼に繋がる場面がありました。

周りの東大生にどのような人が多いと思いますか?

コミュニケーション能力が高い人が多いな、と思います。東大生といえば勉強だけ、というイメージが持たれがちだと思いますが、少なくとも私の周りは社交的で話しやすい人が多いです。東大では、入学後すぐに、「オリエンテーション旅行」といってクラスメイトと旅行に行く行事があるのですが、その時から和やかでフレンドリーな雰囲気があって、すぐに打ち解けることができました。

また、人を「勉強ができる・できない」で判断する人が少なく、それぞれの個性や興味を尊重する空気があります。多様な価値観を認め合う雰囲気があるのは、東大の大きな魅力だと感じました。

勉強面に関する特徴でいうと、周りに言われて勉強するのではなく、自分で勉強を進められる人が多いです。周りの東大生を見ていて、そういった主体性はすごく感じる部分ですね。例えば、歴史が好きでとことん研究している人の話を聞くと、その膨大な知識量と熱量の大きさに圧倒されます。自分が同じようにやりたいとまでは思わなくても、そうした仲間から日々刺激を受けられるのはとても貴重です。

総じて、東大生は本当に多様で、存在自体が私にとって刺激になっています。

受験生時代について

入試本番の点数を差し支えなければ教えてください。

まず、共通テストの点数は合計840点でした。そして2次試験の結果は、国語71点、英語98点、数学42点、日本史45点、世界史48点でした。

谷口さんの各科目の得点(東大二次試験)

科目得点/満点
国語71/120
英語98/120
数学42/80
日本史45/60
世界史48/60

国語については特に印象深い体験があります。私は高校の現代文の先生に大変お世話になったんですね。その先生は東大出身で、東大入試の国語を何十年分も研究しており、過去問から読み取れる「東大が大切にしている考え方」や「繰り返し問われている概念」を教えてくださったんです。おかげで、国語の問題に対して"東大が何を求めているのか"を意識しながら答案が書けるようになりました。

東大入試が終わった後、私の答案は予備校の模範解答とは違う部分があったので不安もあったのですが、その先生の解答と照らし合わせると多くが一致していました。結局、蓋を開けてみると納得のいく点数が取れていたのは、本質を理解するための指導を先生から受けられたからだと感じています。

受験勉強を始めた時期や、受験期間中の生活リズムについて教えてください。

私の場合、ある時期から受験勉強に向けてスイッチを切り替えたという意識は特にありません。中学1年生の頃から定期テスト対策をしっかりと頑張ることを積み重ねた結果、自然と受験に向けた土台ができていった形です。受験期になっても塾に通うことはなく、基本的には学校の授業や先生の指示に従って勉強していました。過去問も含め、与えられた課題を着実にこなすことで、結果的に受験勉強にもつながっていたと思います。

生活リズムについては、できるだけ安定させることを意識していました。私の場合、受験期のルーティンは以下のようなものでした。

・睡眠時間はできるだけ6時間以上確保(なるべく23時半には就寝)
・朝は5時半に起きて、始発電車で登校
・登校後、始業までの時間を自習に活用

このように、自分の体調を大事にしながら、日々の勉強を着実に積み重ねていくことを意識していました。

受験生時代に意識していたことや、大切にしていた考え方を教えてください。

まず大切にしていたのは、過去問を何度も解き直すことです。特に国語や日本史では、東大の問題には特有の傾向があり、過去問を通じてその形式に体を慣らすことが欠かせません。一度解いて終わりにするのではなく、繰り返し向き合うことで、出題者が何を重視しているのかが見えてきます。

英語に関しても、私は市販の問題集より、過去問の英文を精読することを優先しました。東大の英文には、「省略や挿入が多い」といった独特の傾向があるのですが、過去問を通してそのようなスタイルの英文に慣れることで、だんだんと読めるようになっていきました。

もう一つ大切にしていたのは、苦手科目をつくらないことです。得意科目だけで逃げ切ろうとすると、試験本番でその科目の難易度が大きく上下したとき、一気に不利になってしまいます。私は、好きだった日本史や世界史に時間を割きすぎないように注意し、むしろ嫌いな数学を優先的に勉強するようにしていました。毎日手帳に学習計画を立て、まず数学から取り組むことをルーティンにすることで、バランスを崩さずに勉強することができました。

このような工夫によって苦手科目をつくらなかったことが、安定した成績につながったのではないかと思います。

受験期に使っていた手帳です。その日の学習予定を書き出し、終わったら横線で上書きするというように、to do リスト的に利用していました。

受験生時代に実践していた、こだわりの学習法があれば教えてください。

私が特にこだわっていたのは国語です。国語では、実際に答案を書く練習を重視していました。東大の国語は解答用紙の行数が限られているので、その中でいかに簡潔かつ的確にまとめられるかが重要になります。そのためには、語彙力を高め、文章のまとめ方を身につけることが欠かせません。私の場合、過去問を解き、模範解答と自分の答案を照らし合わせることで、必要な語彙や解答のまとめ方を体得していきました。

また、国語は、数字で答えが決まる数学や理科とは性質が異なるため、ときには「模範解答よりも自分の答案の方が正しいのでは?」と思うこともあるでしょう。
そうしたときには、まず模範解答や先生の意見を素直に受け入れることを意識していました。自分では気づかない間違いも多いので、知識や経験のある人の意見を取り入れることで、解答力は確実に伸びます。もちろん、全てを鵜呑みにする必要はありませんが、信頼できる情報に素直に向き合う姿勢は、受験勉強で非常に大切だと思います。

受験生時代の勉強の方法に反省点はありますか?

高校生活や受験勉強を振り返って今なら変えたい点は、メンタル面でしょうか。必要以上に周りのことを気にしていたところがあって、優秀な人と自分を比べては、「落ちるかもしれない」「自分が受かるわけがない」と不安になったりしていました。

もちろん、同級生とは切磋琢磨できる良い関係であることが多かったですが、一方で、他人を気にしすぎるあまりストレスが大きくなっていたのは事実です。もし当時の私にアドバイスできるのであれば、「他人は気にしすぎなくていい」と伝えたいですね。

メンタルに関して当時工夫していたこととしては、悩みを家族や友人に話してしまうことです。ついネガティブな考えが浮かんでしまいそうになるときにも、誰かに話すことで気持ちの整理をすることができました

受験生時代、挫折しそうになった経験があれば、教えてください。

「挫折」というよりは「スランプ」に近い経験ですが、私は共通テストの1週間前に、突然国語の点数が伸びなくなったことがありました。何度解いても150点前後しか取れず、問題を解く時の感覚を急に見失ってしまったんです。

一般的には「スランプの教科からは一度離れる」ことが勧められることもありますが、私は逆に国語に向き合う時間を増やすことにしました。その時期は毎日演習に取り組み、原因を探りながら勉強を続けました。

結局、本番では176点という結果になりました。完全に復調したわけではなかったですが、それでも一時期よりは良い結果となりました。

私の経験から言うと、スランプに陥ったときも、逃げずに向き合うことで学べることが多いと思います。できない状態に向き合うことで自分の弱点が明確になり、点数も少しずつ回復していくことがあるのです。

谷口さんのご経験について

首席合格を達成された要因について、ご自身ではどのように分析されていますか?

やはり先生のおかげ、学校のおかげですね。先生や学校から勧められたことを実行し続けたことが、最終的に納得のいく結果を出せた最大の要因だと考えています。

私が素直に先生や学校からの助言を受け入れるようになった背景には、中学時代の経験が大きく影響しています。私は中学受験では志望校にぎりぎり滑り込めるくらいの点数でしたし、入学後の小テストでも成績は振るわなかったんですよね。そんなとき、5月末に最初の定期テストを迎えたのですが、その際に先生から「定期テストが一番大事」とアドバイスをいただいたことで、定期テストに向けて集中して勉強しました。その結果、予想以上の成績を取ることができ、しっかり頑張ることで結果がついてくるという実感を得ることができました。さらに、その後も毎回の定期テストに向けて勉強を続けているうちに、外部模試でも結果を出せるようになってきたんですね。「定期テストの勉強を続けることは、受験に向けて実力をつけるためにも間違っていなかったんだ」と思えた瞬間でした。

私は、受験で使う科目はもちろん、副教科や受験で使わない理系科目も含め、学校でやることはすべてきちんとこなすようにしていました。こうした取り組みは、後々の受験勉強にも非常に役立ったと感じています。知識面でアドバンテージになったのはもちろん、何よりも、やるべきことを確実にこなすという習慣が身についたことが大きかったと思います。

私の場合、目標として、やるからには毎回のテストで100点を目指したいという意識は常にありました。しかし、重要なのは点数そのものではなく、試験後、失点してしまった部分の理由をしっかり分析することだと思っています。決して解きっぱなしにすることなく、なぜできなかったのかを振り返り、次に同じミスを繰り返さないようにする。このプロセスこそが大切だと考えていました。

勉強の「量」と「質」では、どちらをより重視されていましたか?

どちらも大切ではありますが、私は「量」よりも「質」を重視していました。ただし、最初から効率の良い勉強ができるわけではないので、量をこなす中で質を上げていくというイメージです。

実際に私も、 最初はあれもこれもと言われたもの全てに取り組んでいたんですけど、その中で「これはやらなくていい」「これはやった方がいい」「このやり方はこうした方がいいな」ということを自分なりに考えて、少しずつ効率よく勉強することができるようになっていきました。

例を挙げるとすると、学校では、授業の中でプリントが配布されることがありますよね。その内容をきれいにノートにまとめ直すという勉強法もありましたけど、それよりは最初から授業プリントに書き込む方が効率が良いと気づく、という感じです。授業の中で何を重点的に聞くか、先生のどの発言をメモするかという判断も、繰り返していくうちに自然とできるようになりました。

受験勉強に対して、他の東大生と比べても多くの時間や労力を投じて取り組まれてきたのではないかと思いますが、今その経験が活きていると感じることはありますか?

受験勉強を通して身につけた「長時間机に向かう体力」は、私が大学入学後に取り組んだ公認会計士の勉強でも本当に役立ちました。たぶん、長時間の勉強というのはやろうと思っていきなりできることではなくて、徐々に身につけていく必要がある習慣なんですよね。これを、中高のうちに身につけられたことは本当に大きな財産になっていると思います。

私の場合、長時間勉強できるようになったのは、中学校に入学してからでした。周りの友達が定期テスト前にしっかり勉強している姿を見て、「自分もできるはずだ」と思えるようになったことが大きかったです。周囲の環境が、勉強に向かう習慣を身につけるきっかけになったと思います。

谷口さんの、勉強に対するモチベーションの源はどこにあったのですか?

私の場合、勉強に対するモチベーションの源は、純粋に「いい成績を取りたい」という気持ちにありました。誰かに褒められたいとかではなく、ただ単に成績が良いと嬉しいという感覚です。そして、シンプルに、よい成績を取るためには勉強するしかないわけです。もちろん、「勉強したくないなあ」というような気持ちになる日もありましたけど、それが「じゃあ勉強やめるか」「勉強しないでおくか」という考えにつながることはなかったですね。勉強は辛いときもありますけど、その積み重ねが結局は良い成績に導いてくれるものなので。

また、私の場合、最後までモチベーションを保つことができた理由として、周りにいてくれた優秀な友人たちの存在も大きかったです。良い成績を取って慢心することはなく、むしろ「落ちてしまうかもしれない」という不安と常に戦っていました。例えば、私のクラスには東大文Ⅰ志望の非常に優秀な友人や理Ⅲを受けるクラスメイトもいたのですが、彼らに比べて点数を取れないことがあると落ち込みました。

今思うと、この厳しい環境が勉強の原動力になったのだと思います。周囲が非常に優秀で、良いライバルに恵まれていたからこそ、自然と自分の目線も引き上げられて、高いレベルを目指す習慣がついていったと思います。

将来はどのような進路に進まれるのですか?

将来については、まずは公認会計士試験に合格して、監査法人に就職したいと思っています。そして最終的には、その中でリーダーシップを取れる立場になって活躍したいという思いがあります。

このように考えるようになったきっかけの一つは、高校時代の経験です。私自身は高校時代に文化祭の調整係をやっていて、先生やみんなのやりたいことの調整をするのが大変でしたけど、楽しくもありました。その経験もあって、将来的にはリーダーとしての立場、いわゆる管理職的な立場で仕事の采配をしていきたいと思っています。実社会でも、当事者間のやりたいことの違いが問題になることはあると思うんですけど、そういう場面でも自分の裁量で物事を進められるのは面白そうだなと考えています。

最後に、受験生に向けたアドバイスをお願いします。

個人的には、「素直さ」の大切さを強調したいです。先生や学校の言うことに常に従った方がよいわけではないでしょうが、たとえば定期テストに真面目に取り組むことや、先生のアドバイスをなるべく聞くようにすることは大事だと思っています。なにか納得がいかないことがあるときにも、すぐに拒絶するのではなく、まずはその真意を聞いてみる、ということも大切かもしれませんね。

基本的なことではありますが、やはり大切なことは、信頼できる周りの人を適切に頼りつつ、まずは目の前のことをしっかりやる、ということです。

私自身のことを振り返ってみても、受験勉強の経験で今後に活かせそうなことは、知識面では「英語が少し話せるようになった」というくらいですけど、一番はやはり素直さだと思っています。社会人になってからのことを考えても、柔軟に周りの人の意見を取り入れられる人の方が好かれやすいし、積極的に学んで成長していける人が求められると思うので、その練習としても、受験勉強を通して良い意味での「素直さ」という素養を磨くのは大事だなと思います。

                                                 (取材・文章:中川天道)

この記事の著者/編集者

谷口 夢奈   

・出身
福岡県大野城市の出身です。昔、日本が白村江の戦い(663年)に大敗したのち、大陸からの侵攻に備えるために築いた山城があることで有名です。小学生のときには、課外活動でその山城にハイキングに行ったこともあります。

・出身高校
久留米大学附設高等学校に通っていました。校則は厳しすぎず、緩すぎずという感じで、どちらかというと部活よりも勉強に重点を置く校風でした。私は部活動には所属せず、文化祭の実行委員を3年間務めていました。文化祭は1日目が校内での出店、2日目が地域のホールでの合唱やパフォーマンスで構成されており、私は1日目の責任者を担当していました。当時はコロナ禍での開催だったため、感染症対策をしっかり行いながら、生徒のやりたい企画を先生に認めてもらうための交渉が大変でした。しかし一方で、その経験は、調整力や粘り強さを身につける良い機会にもなりました。

・学部・学科
東京大学経済学部経営学科に所属しています。大学3年生の6月以降は、主に公認会計士試験に向けた勉強に注力してきました。大学生活も折り返し地点を迎え、将来の進路をより具体的に考えるようになったことをきっかけに勉強を始めたんです。現在の目標は、公認会計士試験に合格し、監査法人でキャリアをスタートさせることです。

・所属する団体
五月祭(毎年5月に本郷キャンパスで開かれる学園祭)の常任委員会に所属していました。オープニングセレモニーの企画として、他のメンバーと協力しながらダンスや書道パフォーマンスの準備を行った経験が、とても楽しい思い出として印象に残っています。

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