二次得点の常識 物理

東大物理の出題傾向・対策について見ていきます。それを踏まえ、最後には現実的な目標得点についても考えたいと思います。

出題内容・配点

東大の物理は、化学・生物・地学いずれかの科目と合わせて2科目150分で解答します。出題内容は以下の通りです。

  出題内容 配点(推定)
第1問 力学 20点
第2問 電磁気 20点
第3問 波動・熱力学 20点

ただし、2023年度は第1問にて原子核の電磁場中での運動を題材とした力学が出題されるなど、分野融合的な出題が特徴的でした。今後もこの傾向が続くかどうかは注意してみていく必要があります。

以下で、各大問の出題傾向・対策について見ていきます。

第1問の傾向と対策

分厚い理科の問題冊子の一番初めを飾るのは力学です。特に単振動と保存則の出題が目を引きます。近年は慣性力に関する出題もよく見られます。

第1問でしっかり得点を積み重ねていくためには、まずは基礎事項を固めていくことが最重要です。たとえば、力のつり合いや運動方程式を正しく立式できるようになること、仕事とエネルギーの関係や力積と運動量の関係を理解すること、力学的エネルギー保存則や運動量保存則の適用条件をきちんと押さえて正しく使うこと、慣性系(運動の第1法則が成り立つ座標系)と非慣性系(運動の第1法則が成り立たない座標系)の区別をつけること、単振動の運動の特徴を理解すること(運動の様子の定性的な理解や等速円運動との関係)などが挙げられます。教科書や問題集の理解・活用がまずは何より大切です。

ただ、それだけでは高得点を取れないのも事実。物体の運動を様々な視点から観察する力や、数学的な考察力も問われていると言えるでしょう。基礎事項がある程度固まってきているのであれば、過去問を通じて、こうした力にも磨きをかけていって下さい(どこまでを基礎事項と捉えるかには議論の余地があるかもしれません)。

第2問の傾向と対策

第2問は電磁気からの出題です。コンデンサーの極板間引力に関する問題、導体棒の運動、電磁場中での荷電粒子の運動、交流回路の問題など出題は多岐に渡ります。山を張らずに各分野について理解を深めていくことが重要でしょう。太陽電池やネオンランプなどの見慣れない素子を含む回路の問題も見られます。問題集でもなかなか手の届きづらいところですが、きちんと問題文を読めば理解できるように設定されています。基礎事項を固めたうえで過去問演習を積んでいくという方針で、大きな問題は無いと思います。

また、大学入試においては、微分・積分は使わずとも解ける問題が出題されますが、特に電磁気においては微分・積分を活用できた方がスピーディに解くことのできる問題もよく見られます(もちろん、電磁気に限らず物理全般に言えることでもあります)。大学以降の物理においては微分・積分を活用していくことになるので、「余裕がある」「興味がある」という人は、そこまで理解を深めておくとオトクです。具体的には、電流と電気量の関係や交流回路の問題などは、微分・積分を活用することで理解が深まるかもしれません。

第3問の傾向と対策

第3問は波動もしくは熱力学からの出題です。近年は、必ずしも隔年で波動・熱力学が出題されるわけではなく、波動が3年連続で出題されたり熱力学が2年連続で出題されたりと、不規則な出題傾向が続いています。「今年は波動が出題されるはずだ!」などと山を張らずに、どちらの分野もしっかり準備しておいてください。

熱力学の場合は、高校物理におけるこの分野の性質上、答えまでの道筋は比較的見通しやすいと言えるでしょう。気体の状態方程式・熱力学の第1法則を活用していくことが基本方針になります。仕事とエネルギーの関係を押さえることもポイントの1つです。また、分子運動論に関する出題も見られます。難易度の高い問題では、1つの気体について熱力学の第1法則を立てるのではなく、複数の系で熱力学の第1法則を立てることを要求されることがあります。

波動の場合は、特に干渉・屈折・ドップラー効果の問題が出題される傾向が多いです。熱力学と比較すると、見慣れない状況設定の問題が多く、題意を把握することがまずは重要になります。だからこそ、(そろそろしつこいですが、)公式の適用などで時間を取られないように、基礎事項は完璧な状態にしていくことが大切です。

原子については、大問すべてにわたって出題されることは、今までほとんどありません。各大問において、その知識を少々問われる程度です。難易度の高いことで話題となった2023年度の第1問についても、原子に関する問題ではありましたが、力学の基礎事項が押さえられていれば解答にはたどり着けます(その要求水準がかなり高かったのですが)。公式などを覚えるというよりも、その原理・考え方などを理解する学習が重要でしょう。

参考得点

・得意なら目指してみよう……52点
・標準的な目標……40点
・苦手でもここまでは……30点
・本番で大失敗……18点

一昔前であれば、「得意な人は55点を目指そう!」と言えたのですが、近年は問題量が増加傾向にあり、また2023年度のような出題が今後続く可能性を考えると、悩ましいところです。ただ、化学と比較すればより短時間で高得点を獲得しやすいとはいえると思います。そして、本番で焦った時に大量失点につながりやすいのも物理だと言えるでしょう。何とか大問1つは最後の方まで解ききり、残りの大問も取れる所をかき集めるなどして、足掻いて下さい。特に、問題の状況設定の把握・各大問の初めの問題の解答は十分すぎるくらい慎重に進めることが肝要です。

また、以下は化学と同様のアドバイスになりますが、過去問演習を実施するたびに振り返りを丁寧に行ってください。「この問題どうして解かなかったんだ!」という経験を次に活かすことが重要です。理科2科目の試験時間の中で、どの問題は解くべきなのか、どの問題は後回しにすべきなのか、判断する練習を積み重ねて下さい。物理といえども、大問の後半の問題が実は解きやすかった、ということも少なくありません。

本番は特に緊張して冷静な判断ができなくなることも考えられます。予め「第1問は20分以上かけない」「物理は60分経ったら途中でも化学に移る」など、ルールを決め、その通りに行動する練習も大切かもしれません。

以上を踏まえて、現実的な目標設定・入試対策を進めていってください!

おまけ

東大の問題は、物理の面白さを垣間見ることのできる問題設定もよく見られます。たとえば、1998年度の第1問は宇宙ステーション(どちらかというと、スペースコロニーの方がイメージが近いかも)の中でボールを投げたらどんな運動をするのかを考察する問題。投げられたボールは、地球上でしか暮らしたことのない人にはあまり想像がつかないような運動をすることが、問題を通じて理解できます。

また、倒立振子やブランコなどの身近な題材、光ピンセットなど近年ノーベル物理学賞として話題になった題材なども取り上げられていて、限られた試験時間の中でただ解くだけではもったいないと感じるような問題も少なくありません。過去問を解く際には、ただ答えを出して終わらせるだけでなく、ぜひそこまで興味を持っていただきたい...! 受験生にはなかなかそんな余裕は無いことも承知しつつ、お伝えさせていただきます。

(当サイトでも、A級紙という形で、東大の面白い問題を紹介しておりますので、ぜひ参考にしてみてください。)

この記事の著者/編集者

川瀬響   

東大入試ドットコム編集長

東京大学 工学部卒
東大をはじめ難関大学を志望する中学生・高校生・高卒生の学科および生活指導を行っています。
担当科目:数学・化学・物理・生物

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