二次得点の常識 化学

東大化学の出題傾向・対策について見ていきます。それを踏まえ、最後には現実的な目標得点についても考えたいと思います。

出題内容・配点

東大の化学は、物理・生物・地学いずれかの科目と合わせて2科目150分で解答します。出題内容は以下の通りです。

  出題内容 配点(推定)
第1問 有機化合物・高分子化合物 20点
第2問 無機物質・理論化学 20点
第3問 理論化学 20点

2016年度入試までは、第1問と第3問の出題内容が逆で、第1問が理論化学、第3問が有機化合物・高分子化合物でした。2017年度~2019年度は第1問と第2問がⅠ・Ⅱと分かれていなかったこともありましたが、2020年度以降は各大問がⅠ・Ⅱと分かれており、実質大問が6つある構成となっています。

以下で、各大問の出題傾向・対策について見ていきます。

第1問の傾向と対策

東大化学の最初を飾るのは有機化学です。大学入試の化学で有機から始まるのは珍しいです。ぱっと思い浮かぶのは他に横浜国立大学・昭和大学医学部など...。なぜ高校では最後に学ぶ有機化学が、東大では最初に置かれているのかは気になるところですが...。

有機化学の出題内容は、構造決定・芳香族の反応・糖類やアミノ酸の反応・合成高分子化合物の性質など多岐に渡ります。特に現役生は高分子化合物の対策は疎かになりがちですが、安易に捨てない方が賢明でしょう。マルコフニコフ則やオゾン分解など教科書の発展的内容からの出題も見られます。問題集でしっかり対策を積むことが重要です。2023年度の第1問Ⅱは配座異性体の安定性に関する問題でしたが、2009年度の第3問Ⅱと類似の出題内容でした。過去問の対策も効果的であると言えます。

また、分子の立体構造と化学的性質・物理的性質を絡める問題も頻出です。たとえば、シス-トランス異性体(シス-2-ブテンとトランス-2ブテン、マレイン酸とフマル酸など)の反応性(安定性)の違い、融点や沸点の大小の違いなどもよく確認しておきましょう。

東大化学において有機化学への向き合い方は難しく、特に近年は構造決定において難問が増えてきている印象です。構造決定は思考を要する部分もありますので、予めどれだけ時間をかけるべきか決めておき、時間が来たらいったん切り上げる選択を取ることも重要です。

第2問の傾向と対策

第2問は無機化学を中心とした出題ですが、それに関連して理論化学の内容も多く聞かれますので、第3問と厳密な区別は難しいです。金属イオンの分離、化学平衡・電離平衡、反応の速さ、電池・電気分解、化学反応と熱といった内容がよく出題されています。

この分野においては物質の性質を、理由を含めて理解しながら学習することが重要です。例えば、物質の融点や沸点の大小、化学結合、分子の形、酸と塩基・酸化還元といった性質を、電子配置やイオン化エネルギー、電気陰性度と関連付けながら頭に入れていく学習が効果的です。化学反応式を書かせる問題が多いことも特徴です。これも、化学反応式を丸暗記するのではなく、その反応がどういう仕組みで進んでいるのか(中和反応なのか、酸化還元反応なのか)を理解しながら頭に入れることが重要です。酸化還元反応であれば、半反応式からイオン反応式・化学反応式を組み立てる練習も大切でしょう。(よく無機化学は暗記だ、などと言われます。ある程度の暗記が必要なことを否定はしないものの、理論を踏まえれば覚えるべきことはそんなに多くないと思います。丸暗記しようとする前に「なぜなのか」と疑問を持ち、理論を楽しんで勉強してほしいものです。)

第2問は、上記を踏まえた問題演習を積むことができていれば、比較的努力が報われやすいとも言えます。できるかぎり短い時間で(20~25分ほどで)解ききれるように過去問演習も活用しながら練習を積んでみてください。

第3問の傾向と対策

第3問は理論化学が中心の出題となっています。個人的には第3問が一番東大らしさを感じる面白い出題内容だと思います。近年は環境問題を意識した出題が多く、特に二酸化炭素を題材とした内容は頻出。また、かつて理論化学がまだ第1問だった頃は、ファラデーやアレニウスの論文を題材とした出題もあり、話題になりました。

出題内容は、第2問との厳密な区別は難しいのですが、酸と塩基・酸化還元の実験、気体の性質、溶液の性質、固体の構造、化学平衡、化学反応と熱といった内容がよく出題されています。高校化学の内容を逸脱することは無いのですが、見慣れない題材を基に考えさせる問題も多く(火山のマグマの組成、二酸化炭素の海洋への貯蔵、触媒の表面積の計算)、問題文をよく読んで題意を把握することも重要になります。そういった問題においても安定的に得点を積み重ねるためには、まずは教科書の基本事項の定着が最優先。基本事項が疎かでは、そこから思考を積み重ねていくことができないからです。そのうえで、過去問など問題演習を通して、知識を使いこなす練習を積んでいくことが必要となります。

第3問は、第2問と比較すると問題文の読解量・計算量も重めのことが多いです。化学の基本的な内容が定着している人であれば時間をかければ解ける問題も多いかと思いますが、試験時間は限られていることを考えると、第1問同様、予めどれだけ時間をかけるべきか決めておくべきでしょう。

参考得点

・得意なら目指してみよう……50点
・標準的な目標……40点
・苦手でもここまでは……30点
・本番で大失敗……20点

教科書や問題集で基本事項を積み重ねることができていれば、化学は比較的得点が安定しやすい科目と言えます。物理のように大問の前半で躓いてしまい後半の問題を全て落とす、みたいなことがあまり起こらないからです。順当に勉強を積み重ねていければ、30点~40点を目指すことは決して無謀なことではありません。また、本番で頭が真っ白になってしまったとしても、解ける問題をかき集めることで20点は死守したいところです。

一方で、50点を超すとなると難易度が一気に上がるでしょう。「スピード」「正確性」の高度な両立が要求されてくるからです。有機化学の構造決定では、問題文から分かる情報を素早く整理し、候補を絞り込むことが必要になります。理論化学では、制限時間内で題意を素早く掴んで立式し、複雑な計算もミスなく合わせ切ることが要求されてきます。こればかりは、人一倍の努力を積み重ねていくしかありません。他の科目の状況も踏まえて、現実的な目標設定をしていくことが大切です。

過去問演習を実施するたびに振り返りを丁寧に行ってください。「この問題どうして解かなかったんだ!」という経験を次に活かすことが重要です。理科2科目の試験時間の中で、どの問題は解くべきなのか、どの問題は後回しにすべきなのか、判断する練習を積み重ねて下さい。

本番は特に緊張して冷静な判断ができなくなることも考えられます。予め「第1問は25分以上かけない」「物理は60分経ったら途中でも化学に移る」など、ルールを決め、その通りに行動する練習も大切かもしれません。

以上を踏まえて、現実的な目標設定・入試対策を進めていってください!

この記事の著者/編集者

川瀬響   

東大入試ドットコム編集長

東京大学 工学部卒
東大をはじめ難関大学を志望する中学生・高校生・高卒生の学科および生活指導を行っています。
担当科目:数学・化学・物理・生物

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