何よりも、求められている人物像を把握しようー推薦入試を勝ち抜いた体験談

お話を伺ったのは、東大文学部に推薦で合格を果たした乾 将崇(いぬい まさたか)さん。推薦入試を受けた際のエピソードについてのお話や、これから挑戦を考えている受験生へのアドバイスをお聞きしました。

なお本記事は、乾さんにインタビューした内容のうち推薦入試に関連する話題を抜き出したものです。インタビュー記事本編もぜひご覧ください。
勉強によって新たな自分自身を発見しようー「実践」と「探究」を重ねて見えてきたもの
「豊かな人生」のための東京大学での学び

推薦入試で東大を目指そうと思ったきっかけを教えてください。

元々は、一般入試の方で東大を目指していたんですね。冠模試などの判定も良く、基本的にA判定でした。推薦を考えたきっかけは、高3のときに高校の先生に勧められたことでした。一般入試のための勉強に割くための時間が減ることをおそれて最初は断ったのですが、一度推薦入試の募集要項を読んだことをきっかけに、応募してみようと思うようになりました。募集要項の内容が興味深くて、自分とも合う部分があるんじゃないかと思ったんです。

この記事を読んでくれている方の中には、推薦入試の利用を考えていらっしゃる方もいるかもしれないですが、そういう方は必ず一度、募集要項に目を通してみてください。

募集要項を読めば、東大がどんな人物を求めているのかがわかりますよね。求められているものに合致する素質を自分自身が持っているのか、あるいは出願までの残り期間で醸成することができるのかを考えて、推薦入試に出願するか決めることをお勧めします。

推薦入試の対策はどのようなことをされましたか?

まず、私が最重要視していたのは、「東大が求めていることを把握し、それを表現する」ということです。この点は一般入試と全く変わらないですよね。推薦入試でも一般入試でも、まずは設問があって、受験生がそれを満たしている答案を書けているかどうかをさまざまな形で問われているわけです。一般入試の設問が募集要項に置き換わり、一般入試の答案が小論文や面接に置き換わっただけだと思うようしました。

そして、東大が求めている人物像というのは、募集要項から確認できる。そこから逆算すると、小論文や面接の各質問に対する回答の方向性は自ずと定まってきますよね。だから、推薦入試のコツを問われたら、「しっかりと募集要項を読み、求められている人物像を把握する」ということに尽きます。

あとは結局のところ、面接というのは「人と人との関係」なので、熱意を伝えるということはやはり重要だと思います。大事なのは、自分の実績のアピールよりもむしろ、「東大に入ってこういうことをしたい!」という強い思いですよね。

そのことを前提とした上で、面接対策として私が実践していたことは、自分のことをあまりよく知らない相手に自分のやってきたことを説明してみることでした。これが学校の教員とかだと、自分が本番話す予定の内容をあらかじめよく知っているので、前提をしっかり説明しなくても話が通じてしまうわけです。でも本番の面接官とは共通認識は醸成されていないわけですから、それではいけない。あまり共通認識がない相手に説明をすることで、説明力が磨かれますし、自分の中での理解も深まります。私の場合には、親戚に説明して、練習をしていました。

大学入学後も、積極的に自分の学びを発信する機会を設けています(写真は講演会)。

推薦入試に向けて特別な行動をしたことがあれば教えてください。

私がやったのは、推薦合格者と実際に会ってみることでした。そうすると、彼らの知識や成果のレベル感を知ることができます。ネット上にある情報からだけでは、実際にどういう人が推薦で合格しているかのリアルなイメージは持ちにくいですよね。現実の推薦合格者の水準を、肌感覚として理解できるようになるので、合格者と実際に会ってみるのは非常におすすめです。実際の推薦生と会う機会は、オンライン上の推薦説明会というイベントでありますから、ぜひ参加してみてください。

推薦入試当日のエピソードを教えてください。

正直なところ、当日の手応えは全くありませんでした。でも、当日気づいたこともあります。東大教授の高校生に対する期待値は、高校生が想定するそれとは異なるかもしれない、ということです。当日面接に来る高校生に対して東大教授が持っている期待値は、現実の高校生の標準的なレベル感よりも高いかもしれないし、低いかもしれない。だから、普通の高校生に対して、「こんなことも知ってるの?」という反応をするかもしれないし、逆に「こんなことも知らないの?」という反応をするかもしれない。とにかく、面接官である大学教授の常識は高校生の常識とは違うかもしれないということは知っておいた方がいいと思います。

つまり何が言いたいかというと、面接はどれだけ知識を持っているかの勝負ではないんですね。先ほどから強調しているように、「大学が求めている人間像に合っていることを伝える」「熱意を伝える」ということが重要なんだということです。

推薦合格者へのアドバイスをお願いします。

「好き」と「得意」の違いは、よく考えておいてほしいです。推薦入試では、自分が当該学問を本当に好きかどうかが問われるからです。

私は高校時代国語が非常に得意で、東大模試で全国1位を取ったこともありました。それで、私は国語が「好き」なんだと思っていました。しかし、大学に入って国文学などの授業を受ける中で、実は国語が「好き」というわけではなかったのだと気づきました。国語は私にとってあくまでも「得意な教科」であって、「好きな教科」ではなかったわけです。

よく考えてみると、一口に「好き」とはいっても、その「好き」はさらに細分化できるわけです。例えば、国語が好きとはいっても、実際には国語に含まれる要素のうち論理的思考が好きなのかもしれない。そうであれば、その人は実は「国語」というよりも論理学や哲学をやった方がいいのではないか、となりますよね。だから、自分は教科のどの要素が好きなんだろう、本当に教科そのものが好きなんだろうか、ということは、特に推薦入試を受ける方はよく考えておいてほしいなと思います。

さらに、「好き」であることと「分かる」「理解できる」ことは別であるということも付け加えたいと思います。あまり分からないが好きな教科というのがあってもいいですし、それを大切にすることがあってもいいかもしれません。例えば、古文は一般的に嫌われがちな科目ですが、それはなぜかというと、「わからない」科目だからだと思います。でも、本当はわからなくて当然なんです。なぜなら、現代人とは違う思考や習慣を持った昔の人々が書いた文章なのだから。だから、数学を解くときのような感覚で理解しようとするのではなくて、「わからない」という前提で古文に向き合ってみるとよいのではないでしょうか。分からなくてもいいという前提から始まって、それでもし古文がよく分からないけれども好きということになるなら、そういう向き合い方もあるのだろうと思います。それが、古文を好きになるための第一歩であるかもしれません。卑近な例でいうと、友達が言っていることに対しては、理解できないと嫌ですよね。それは、友達とは分かり合えるという前提で会話しているからです。でも、外国に行って、道の現地の人から"Hi!"と声をかけられたら、「そういう感じでコミュニケーションをとるんだ、面白いな」となるでしょう。それと似ているかもしれませんね。


(編集部より)最後までお読みいただき誠にありがとうございます。冒頭にご案内しました通り、乾さんへのインタビュー記事本編に関しても、ぜひお読みいただければ幸いです。
勉強によって新たな自分自身を発見しようー「実践」と「探究」を重ねて見えてきたもの
「豊かな人生」のための東京大学での学び

(取材・文章:中川天道)

この記事の著者/編集者

乾将崇   

出身:大阪府柏原市
歴史的観点から見ると渡来人が多かった地域であり、飛鳥時代の国際色豊かな史跡がさまざまなところで見つけられる場所です。

出身高校:清風高校
大阪にある中高一貫の男子校です。設立者の強い仏教教育の理念があり戦中に建てられた学校なのですが、戦後においても、その根本的な指導方針は引き継がれていると感じます。校則が厳しい学校として有名です。

学部・学科:東京大学文学部人文学科
インド哲学研究室に所属しています。普段の授業は、サンスクリット語で書かれた文献の翻訳に重点を置いた演習の形式です。インド哲学は他の文系学問と比べるとマイナーな分野かもしれませんが、全く新しい言語を学んでそれをベースに学問をするわけですから、学生も学習能力や意欲の高い人が多い印象があります。
ただし、テキストの翻訳をすること自体は、今後生成AIやNLP(自然言語処理)などの技術を用いて行うべき領域になってくるので、より理論的な研究をしていきたいというのが個人的なテーマ、問題意識です。

所属団体:東大観世会
観世流の能のサークルに所属しています。私は高校時代から古典が好きだったので、その世界観に触れられる伝統芸能である能にはずっと興味がありました。

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