正解のない世界を生き抜くための力とは何か

本記事は、こちらの記事の続編です。3部作の完結編となる今回は、炭谷さんに受験生へのメッセージを伺いました。

「自分は正しいと思った瞬間に、成長は止まる」。情報が溢れる現代社会で、私たちが「偏った正解」に飲み込まれないための具体的な処方箋を伺います。今まさに受験という壁に挑む皆さんに贈る、人生を自らの手で「正解」に変えていくための力強いメッセージ。

「自分は正しい」と思った瞬間に、成長は止まる

社会に出てから、私が最も重要だと感じているのは、「自分は間違っているかもしれない」という前提に立ち続けることです。

どれほど論理を積み上げても、どれほど自信があっても、自分の考えを「100%正しい」と信じて疑わなくなった瞬間に、人の意見は聞こえなくなり、新しい情報も入ってこなくなります。つまり、学びが止まってしまうのです。

もちろん、自分なりの根拠を持って意見を持つことは大切です。しかし同時に、「何パーセントかは間違っているかもしれない」という余白は、必ず残しておく。だって、あの大谷翔平選手ですら3割バッターで、7割は打ち損じるんです。人間である以上、100%正しいことなどあり得ません。

さらに最近は、SNSや動画メディアの影響も非常に大きいと思っています。アルゴリズムは、閲覧履歴からユーザーの思考を汲み取った上で、その人にとって心地よい情報ばかりを届けてきます。さらにはAIだって、こちらの考えに迎合してきますよね。AIも結局ビジネスなので、お金を払ってもらうためにユーザーを気持ちよくさせてくれるんですよ。

そうすると、知らず知らずのうちに視野がどんどん狭くなっていく。自分の考えと近い意見だけを聞いて、「自分で考えているつもり」になってしまいます。でも実際には、自分で判断しているわけではなく、偏った情報によって判断させられている状態なんですよね。洗脳と言っていいかもしれない。

そんな時代だからこそ、私は今、「狩猟的な情報収集」が必要だと説いています。

流れてくる情報を待つのではなく、自ら獲物を狙うように、能動的に動く。あえて自分とは真逆の意見を調べ、異なる背景を持つ人の話を聞きに行く。

私自身、留学生との交流やデンマークでの経験を通じて、日本では当たり前の価値観が、実は極めて限定的な見方だったことに気づかされました。世界には、アメリカ的な価値観もあれば、ヨーロッパ的、あるいはアラブ的な価値観もあるのです。

「自分は相当に偏っている」と自覚すること。 その謙虚さを持って、自らの足で新しい世界を見に行く姿勢こそが、正解のない時代を切り拓く武器になるのです。

主体的な選択が人生を変えていく

最後に、記事を読んでくれている受験生の皆さんに伝えたいことがあります。

それは、「目の前のことに、全力を尽くしてほしい」ということです。例えば今の目標が勉強であるなら、それに本気で向き合うことは大切です。なぜなら、その努力の過程で得たものは、将来どこかで必ず繋がり、生きてくるからです。

受験勉強を頑張ったとしても、最終的に必ず合格できるとは限りません。でも仮にそこで失敗したとしても、それを決してネガティブに捉える必要はないと思うんです。私自身、大学院時代の留学失敗は大きな挫折でしたが、そのおかげでマッキンゼーという未知の世界に出会い、今の自分があります。だから、大切なのは結果そのものよりも、「起きた出来事に対して、自分がどう向き合い、次の一手をどう選ぶか」です。

もし不安や疑問に立ち止まりそうになったら、一人で悩み続けるのではなく、動いてみてください。自分から情報を集め、誰かの話を聞き、行動を起こす。私が留学に失敗したときも、自ら動いて情報を集める中で、次に進むべき道が見えてきました。行動こそが、次の段階に進むための手段なのです。

そして実は、どこの大学に行っても、どんな進路を選んでも、意味のある経験は必ずできるんです。でも、そうなんだけど、そのためには主体性が大事。だから、いろいろな人の意見を聞きながらも、最後は「自分で決める」ということを大事にしてほしいですね。どこかに「正解」を求めて周りに流されるのではなく、自分の人生を、自分らしく選び取る。そして選んだ道を、自らの努力で「正解」にしていく。

その覚悟を持って本気で取り組んだ経験こそが、大学生活、そしてその先の長い人生を支える本当の財産になるはずです。
皆さんの挑戦を、心から応援しています。

語り手

炭谷俊樹

1960年、兵庫県神戸市生まれ。東京大学に進学後、大学院まで物理学を専攻。自然科学の厳密な思考訓練を土台に、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてコンサルタントとして活躍し、企業や組織の変革に携わる。
戦略コンサルティングの現場で経験を積む中で、2年間、北欧事務所に勤務しデンマークに在住。そこで出会った、一人一人の個性を受け入れて自立心を伸ばす教育の形に感銘を受けるとともに、従前の日本型教育への問題意識を抱き、次第に教育分野へと活動の軸足を移す。
1996年、ラーンネット・グローバルスクールを立ち上げ、既存の学校教育の枠組みにとらわれない、新しい学びの在り方を実践してきた。
1997年には、大前研一氏らとともに株式会社大前・アンド・アソシエーツを設立。
現在は神戸情報大学院大学の学長を務め、ICT・探究・実践を重視した高等教育の推進に尽力。2019年には「探究コネクト」の設立に参画し、共同代表として探究学習の普及と社会実装に向けた発信・ネットワークづくりを行っている。
著書に『第3の教育』『ゼロからはじめる社会起業』など。

取材・執筆

中川 天道

名前:中川 天道(なかがわ てんどう)
「天道」とは、「自然に定まっている物事の道理」を意味します。「物事の道理を理解し、王道に背かないように生きてほしい」と両親がつけてくれた名前です。

出身地:北海道札幌市
実は、札幌の地下鉄は東京の地下鉄のように鉄の車輪でレールの上を走るのではなく、自動車のようにゴム製のタイヤで走行します。これは非常に珍しい方式で、採用しているのは日本全国の中でも札幌市営地下鉄だけです。
この方式のメリットとしてよく挙げられるのが、「走行時の騒音が少ない」という点です。しかし、実際に利用していた私の感想としては、むしろ東京の地下鉄よりもうるさく感じました(笑)。
ぜひ、札幌を訪れた際には一度乗ってみて、この独特の地下鉄を体験してみてください。

出身高校:北嶺(ほくれい)高等学校
私は高校時代、学校附属の寮で生活していました。学校のすぐ横に寮があったため、中学・高校時代の毎日の通学時間はほぼ0分でした。

大学・学部:東京大学法学部
入学したのは文科三類でしたが、進振りで法学部に進みました。前期教養課程の2年間で学んだことを踏まえて進路に対する考えも変わるので、進振りで進学学部の幅が広いのは非常にありがたい制度だと感じます。実際、私の周囲にも、文科三類から農学部に進学した人や、理科二類から医学部に進学した人がいて、多様な進路選択が可能であることを実感しています。

部活等:法律相談団体
現在私は、法律相談を行う団体に所属し、地域の皆様が現実に直面する、法律に関する課題への対応に取り組んでいます。法的観点からより的確なアドバイスを提供できるようになることを目指し、主に民法の知識を深めるために学習を続けています。

マイニュース

今回インタビューを行ったのは、ラーンネット・グローバルスクール創設者の炭谷俊樹(すみたに・としき)さんです。炭谷さんは東京大学大学院を卒業後、コ…

東京大学の学園祭「駒場祭」の公式ウェブサイトです。第76回駒場祭は「灯ととき」をテーマに、11月22日(土)〜24日(月・休)の3日間、駒場Iキ…

東京大学文学部インド哲学研究室の乾将崇さんは、推薦入試で合格後、学問に励む傍ら古文参考書の自作・配布や仏教研究など多方面で活躍。高野山での修行やインド留学など行動力も豊かで、そのバイタリティや知的好奇心の背景、受験期から現在までの考えを語ってくれました。

東京大学2024年度過去問