なぜ私が「点数をつけない学校」を作ったのか

本記事は、こちらの記事の続編です。炭谷さんが、現在、学びの場面において何を大切にされているのかを伺いました。

コンサルティングファームの第一線で活躍し、新卒採用にも携わることになった炭谷さん。しかし、そこで目にしたのは、高い能力を備えながらも、「自分の言葉」を持てずにいる東大生たちの姿でした。高学歴な若者でも、学びの方向性を間違えると、空虚さを抱えてしまう。「正解を出す能力」だけでは戦えなくなる、これからのAI時代で活躍するために必要な力の本質に迫ります。

日本の教育に対して抱いた違和感

マッキンゼーでのデンマーク勤務を終えて帰国した私は、日本の教育が「正解を早く求める」能力のみを重視しすぎているのではないかという問題意識を持つようになりました。

そのきっかけとなったのが、デンマークからの帰国後に経験した、マッキンゼーでの新卒採用業務です。東大生をはじめとした、いわゆる高学歴の学生が多く面接に来るわけですけど、彼らは、就活本に載っている「正解の回答」をなぞっているような、表面的な回答に終始していました。私が聞きたいのは「あなたはどんな人間なの?」「どんなコンサルになりたいの?」ということなんですけど、聞いても答えられないんです。

つまり、東大まで出ておきながら、自分の考えをまともに自分の言葉で話すことすらできない若者が多いという現実に直面したんですね。今の日本の教育が、あるべき姿なはずはないのではないか、という違和感を非常に強く感じました。

日本では、全員が同じことをして、それを同じテストによって測ることによって、画一的な教育をしていたわけですよ。でもそれって、工業時代の大量生産のアナロジーですよね。そこに、子どもたち本人の意思の尊重というものは全くないんです。だから、私はそうじゃなくて、「一人ひとりが主体的に学び、自分の人生を自分で選び取る教育」を実現したいと考えるようになりました。

心からの関心に基づいた、主体的な学習を

私が目指しているのは、「自分自身の関心を軸にした、主体的な学習」を普及させることです。学習を始める目的はいろいろあっていいけど、結局自分の関心とか、自分のしたいことが中心にないとうまくいかないと思っています。誰かに押し付けられてやるのではなくてね。

実は、私が設立した「ラーンネット・グローバルスクール」では、デンマークと同じように、子供たちに点数をつけません。評価のためではなく、自分の内側から湧き出る「知りたい」という好奇心に従って学ぶ方が面白いし、学びも深まるからです。

もちろん、受験生が点数を完全に無視することは難しいでしょう。また、私は競争そのものを否定するつもりもありません。「上を目指したい」という意欲はエネルギーにもなりえます。

しかし、その根底に自分のやりたいことがなければ、待っているのは息苦しさだけです。親に言われたから、あるいはそれが「正解」に見えるルートだからというだけで動いていると、いつか必ず限界が来ます。

注意してほしいのは、「自分のやりたいことをやる」といっても、それは「好き勝手やっていい」ということとは違います。自分の好きなことを追求するためには、時に厳しい自己規律やスキルの習得も必要です。でも、根底に「やりたい」という意志があれば、その過程さえも楽しみに変えていける。それが、本当の意味での主体的な学びです。

AI時代の人間に求められることとは

学校教育や受験勉強を通して身につく「論理的思考力」や「早く正解を導き出す力」も、確かに貴重なスキルです。しかし、これらは今やAIが最も得意とする領域であることを忘れてはいけません。

AI時代に求められるのは、与えられた問いに正解することではありません。解決すべき課題が何かを見極め、適切な問いを設定する能力です。

今の時代はAIとかネット検索もあるから、良い問いさえ立ってしまえば、その答えを出すことは圧倒的に簡単になってきているんですね。

皆さんの中には、東大に入るために頑張って勉強している人が多いかもしれない。それ自体は素晴らしいことだけど、「答えのある問題に速く正確に回答する」というだけならば、AIとかネット検索を使えばいいだけだから、東大生じゃなくても全然できるんです。

だから、合格をゴールにして、決められた答えに速くたどり着くことだけを目指してはいけません。

現状にどんな疑問を持ち、何に対する答えを出すべきだと考えるのか。AIにはできない「問いを立てる力」こそを、これからの自分の強みに据えてほしい。それこそが、皆さんが東大という場所を最大限に活用し、その先の世界を切り拓くための鍵になるはずです。

人との繋がりを大切に

ただ実は、東大生って、あまり東大生同士でつるまないんですよ。東大卒業後に人脈が広がったかという点については、実はあまり感じたことはないっていう東大生が多いんじゃないですかね。でも本当はそれではだめで。最近私は慶應の人たちと仕事をすることが多いんですけど、そこで彼らの人脈の力を実感しています。私が見る限り、慶應では人と人をつなぐ仕組みがうまく機能していて、そこで情報や資金、人が循環しているのを感じます。結果的にそれが慶應生の視野の広さにも繋がっていますしね。

東大はどちらかというと独立独歩型の人が多く、ネットワークとして動く仕組みはあまり強くない。そこはもう少し、学べる余地があるのではないかと思います。だから、これから東大を目指す皆さんには、自分の殻に閉じこもるのではなく、外の世界、そして周囲の人との繋がりを大切にする意識を持ってもらえればと思います。

(次へ続く)

語り手

炭谷俊樹

1960年、兵庫県神戸市生まれ。東京大学に進学後、大学院まで物理学を専攻。自然科学の厳密な思考訓練を土台に、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてコンサルタントとして活躍し、企業や組織の変革に携わる。
戦略コンサルティングの現場で経験を積む中で、2年間、北欧事務所に勤務しデンマークに在住。そこで出会った、一人一人の個性を受け入れて自立心を伸ばす教育の形に感銘を受けるとともに、従前の日本型教育への問題意識を抱き、次第に教育分野へと活動の軸足を移す。
1996年、ラーンネット・グローバルスクールを立ち上げ、既存の学校教育の枠組みにとらわれない、新しい学びの在り方を実践してきた。
1997年には、大前研一氏らとともに株式会社大前・アンド・アソシエーツを設立。
現在は神戸情報大学院大学の学長を務め、ICT・探究・実践を重視した高等教育の推進に尽力。2019年には「探究コネクト」の設立に参画し、共同代表として探究学習の普及と社会実装に向けた発信・ネットワークづくりを行っている。
著書に『第3の教育』『ゼロからはじめる社会起業』など。

取材・執筆

中川 天道

名前:中川 天道(なかがわ てんどう)
「天道」とは、「自然に定まっている物事の道理」を意味します。「物事の道理を理解し、王道に背かないように生きてほしい」と両親がつけてくれた名前です。

出身地:北海道札幌市
実は、札幌の地下鉄は東京の地下鉄のように鉄の車輪でレールの上を走るのではなく、自動車のようにゴム製のタイヤで走行します。これは非常に珍しい方式で、採用しているのは日本全国の中でも札幌市営地下鉄だけです。
この方式のメリットとしてよく挙げられるのが、「走行時の騒音が少ない」という点です。しかし、実際に利用していた私の感想としては、むしろ東京の地下鉄よりもうるさく感じました(笑)。
ぜひ、札幌を訪れた際には一度乗ってみて、この独特の地下鉄を体験してみてください。

出身高校:北嶺(ほくれい)高等学校
私は高校時代、学校附属の寮で生活していました。学校のすぐ横に寮があったため、中学・高校時代の毎日の通学時間はほぼ0分でした。

大学・学部:東京大学法学部
入学したのは文科三類でしたが、進振りで法学部に進みました。前期教養課程の2年間で学んだことを踏まえて進路に対する考えも変わるので、進振りで進学学部の幅が広いのは非常にありがたい制度だと感じます。実際、私の周囲にも、文科三類から農学部に進学した人や、理科二類から医学部に進学した人がいて、多様な進路選択が可能であることを実感しています。

部活等:法律相談団体
現在私は、法律相談を行う団体に所属し、地域の皆様が現実に直面する、法律に関する課題への対応に取り組んでいます。法的観点からより的確なアドバイスを提供できるようになることを目指し、主に民法の知識を深めるために学習を続けています。

マイニュース

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東京大学2024年度過去問