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河合出版『名問の森 物理「力学・熱・波動Ⅰ編」「波動Ⅱ・電磁気・原子編」』

 『物理のエッセンス』『良問の風』に続く浜島シリーズ最後の演習書。レベルは最も高く、この二冊の問題が全部できるようなら入試でも物理は武器になるでしょう。それでいて、東大入試レベルにまで通用する高校物理の演習書の中ではおそらく最も軽いのが本書。差…
 『物理のエッセンス』『良問の風』に続く浜島シリーズ最後の演習書。レベルは最も高く、この二冊の問題が全部できるようなら入試でも物理は武器になるでしょう。それでいて、東大入試レベルにまで通用する高校物理の演習書の中ではおそらく最も軽いのが本書。差がつきそうな問題の定番パターンが一通りサクッと押さえられ、難関大入試にも対応し得る物理の地力がつくこと受け合いです。



 掲載されている問題の基準としては“よくある操作だけど『良問の風』に載せるには程度が高い”といった感じ。力学であれば3番(斜面上の複数回バウンド)や13番(リングと小球の複数回衝突)、22番(可動三角台の上の小物体の運動方程式)などがその代表でしょう。頻出事項の網羅性は概ね十分で、物理の問題は大体こういうことの組み合わせで解けてしまうため、先に述べた通り本書だけでも十分物理の地力がつくと言えるのですが、難関大を受験しようと思ったら、個人的な経験から言えば波動の分野だけは(新課程用の改訂で少しは増えたものの)ちょっと物足りないです。東大にしろ早慶にしろ、とりわけ波動分野の問題はまず状況把握から自分でじっくり考える必要のあることが多く、この部分のトレーニングまでは本書はカバーしていないからです。問題を解くのに必要な定番の操作を本書で学んだら、何かしらの教材で“目新しい問題に立ち向かう”練習をして入試に臨んでください。過去問演習を通してここを訓練する方法もあるでしょうね。

 構成ですが、1ページ程度の問題に、難易度を表す「Level」と「Point & Hint」が付属し、続いて解答・解説となる「Lecture」が並んでいます。いわゆる“問題篇”と“解答篇”とに分かれている訳ではなく、この辺の使い勝手は人それぞれでしょうか。難易度評価は4段階で、小問ごとの評価ときめ細やか。まあ小問ごとなので、この難易度を参考にして解く問題を選ぶというよりは、解けなかった問題の難易度を見て自分の到達度の目安とする使い方が主になるでしょう。解答・解説の質はエッセンスや風のものと同じで、豊富な図と詳しい説明から授業を聞くような感覚で各問への理解を深めることができると言うこともできますし、冗長で要所を拾いづらく、答案の書き方も分からないと評価する人もいるかもしれません。
 また、全ての問題にではありませんが、解説の後に「Q」という形で、問題への理解をより深めるアドバンスな設問が用意されている場合があります。これが本書で一番オイシイところで、なかなか難しい内容を扱っていたり定性的に問題を見る上で重要なトレーニングになったりします。お鍋の残り汁で作る雑炊といったところでしょうか。物理を武器にしていこうと考えている人には是非とも捨てないで欲しい部分ですね。この「Q」に関しては、解答・解説が巻末にまとめられています。

 平均的な受験生の感覚からすると、本書の1問を解くのに大体30分前後の時間がかかるようです。なかなか重いなという印象を受けるでしょうが、これでも必要な計算力・物理的思考力は他の同レベルの教材に比べて一番軽いくらいではないでしょうか。勘違いしないで欲しいのは、だからと言って中身が薄いという訳ではないこと。前回も述べた通り、本書と過去問だけで東大物理を磐石なものにする人もいるくらい、本書には重要な手法が沢山詰まっています。要領よく高校物理を一通りこなしていきたいのなら本書、計算力も思考力もじっくり鍛えながら学んでいきたいなら他、というスタイルの違いになるのでしょう。実際“難系”なんかに比べて挫折率は低いでしょうね。以上のことと本書を店頭で眺めてみたときのフィーリングを踏まえて、自分に合ったスタイルの参考書を選んでください。



2014/04/18 石橋雄毅

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