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東大生物2015年度第3問:生態系を題材とした考察問題

さて、第2回を迎えました。前回は、ある遺伝子をノックアウトしたマウスを用いた実験考察問題を扱いましたね。

今回は、少し特殊な問題を扱います。知識問題とも、実験考察問題とも言えない、「東大生物にはこんな問題もでるのか」という興味深い問題です。しかし、「与えられた情報をもとに論理的に考える力」を問われている、ということに変わりはありません。

それでは、問題を見ていきましょう。







A

さきほど、「今回の問題は知識問題でも実験考察問題でもない」と言いましたが、この問題は知識問題の色が濃いです。

図3-2に出てくるイトミミズ、ユスリカ、トンボ、アメリカザリガニが系統的にどういう関係にあるのか、という問題です。これらの動物がどう分類されるのかは、知っておいてほしい知識です。

イトミミズは環形動物、ユスリカ、トンボ、アメリカザリガニは節足動物です。さらに、ユスリカとトンボは、昆虫です。アメリカザリガニは、甲殻類です。ということは、ユスリカとトンボが系統学的に一番近い関係にある、と言えます。つまり、問題のaとbには、ユスリカとトンボが入ると考えられますね。すると、両者に次に近い関係にあるのは、同じ節足動物であるアメリカザリガニなので、cにはアメリカザリガニが入ります。そして、残ったdにイトミミズが入るので、答えは(2)とわかります。

ちなみに、ヒトデは棘皮動物です。このように、動物の分類が出題されることは意外とあります。しかし、この手の問題で問われる動物はたいてい決まっているので、代表的な動物名のみ覚えておけば対応できます。

「この問題、正直わかりませんでした・・・」という人は、今すぐ教科書を開いて、動物の分類名(○○動物門)と代表的な動物名を確認してくださいね。


B

まずは、問題文が意図していることを整理します。
図3-2で、オオクチバスからトンボ幼虫に向かって、「消費が与える負の影響」という矢印が伸びています。これは、「オオクチバスがトンボ幼虫を捕食する」ことを指していると考えられます。このオオクチバスを駆除すると、捕食者がいなくなるのでトンボ幼虫は増えそうな気がしますが、実際には減少する可能性がある、と問題文で言っています。理由は、「オオクチバスの捕食がトンボ幼虫に与える直接的な負の影響よりも、ある2つの間接的な正の影響の総和の方が強い」から、と書いてあります。

つまり、「オオクチバスがトンボ幼虫に与える、トンボ幼虫の生存にとって有利に働く2つの正の影響がある。この正の影響がとても大きいので、オオクチバスによって食べられるという負の影響を受けてもなお、トンボ幼虫はため池で生存することができる。オオクチバスを駆除すると、捕食される危険がなくなるが、正の影響が同時に消えてしまうので、そのことがトンボ幼虫にとって痛手で、結果としてトンボ幼虫はさらに減少することになる」ということです。

そして、問題で聞いているのは、この正の影響とはなにか、です。つまり、「オオクチバスがトンボ幼虫に与えている正の影響」を答える問題です。

そこで図3-2を見てみると、トンボ幼虫はアメリカザリガニに捕食されており、またアメリカザリガニは、トンボ幼虫に正の影響を与えている水草をも捕食しています。つまり、トンボ幼虫は、アメリカザリガニから直接的に、また間接的に負の影響を与えられているわけです。
しかし、アメリカザリガニはオオクチバスによって捕食されています。まさしくこれが答えであり、要はオオクチバスはアメリカザリガニを捕食することで、トンボ幼虫に正の影響を与えているのです。

よって、答えは以下のようになります。

(解答例)
オオクチバスがアメリカザリガニを捕食することによる、トンボ幼虫の被食量の減少。(39字)
オオクチバスがアメリカザリガニを捕食することによる、環境形成作用を持つ水草の被食量の減少。(45字)


C

アメリカザリガニの個体数を減らす、駆除以外の有効な方法を答えます。
一般に、ある生物の個体数を減らす方法として、どのようなものがあるかを考えます。

ぱっと思いつくものとしては、

①罠や狩猟による駆除
②天敵に捕食させることによる駆除
③住処の破壊
④食物の排除

といったところでしょうか。このなかで、どれが答えとして適切かを考えます。

そこで問題文を見てみると、「在来生物への影響がもっとも少ないと考えられる駆除以外の有効な方法」とあります。この条件にあてはまるものはどれでしょうか。

まず、①以外の方法と言われているので、①は除外します。
②は、確実にアメリカザリガニの個体数は減るでしょうが、ほかの在来生物をも捕食してしまう可能性があります。
③は、確実にほかの在来生物の個体数も減少してしまうので、この問題の答えとしては論外ですね。
④は、①~③と比較すると、ほかの在来生物への影響が少なそうなので、答えの可能性としては一番高いでしょう。(ほかの在来生物への影響がないわけではないでしょうが、「影響がもっとも少ないと考えられる」という条件には当てはまりそうです。)

そこで、④について検討します。図3-2によると、アメリカザリガニはトンボ幼虫、水草、イトミミズ・ユスリカ幼虫、雑木林の落葉をエサにしています。このうち、トンボ幼虫、水草、イトミミズ・ユスリカ幼虫は在来生物そのものなので、排除してはいけませんね。よって、可能性として考えられるのは、「雑木林の落葉」です。ため池は里山にあるので、落葉は量としてはかなり多いでしょうし、これを排除すればアメリカザリガニが食べることのできるエサは激減すると考えられます。

以上から、「落葉を排除すること」、「ため池に落葉が溜まらないようにすること」が、「在来生物への影響がもっとも少ないと考えられる駆除以外の有効な方法」と言えます。

よって、答えは以下のようになります。

(解答例)アメリカザリガニの食物を減らすために、ため池やその周辺から雑木林の落葉を排除し、またため池に落葉が溜まらないように管理する。(62字)





いかがでしたでしょうか?知識問題でも、実験考察問題でもない、独特な雰囲気をもつ問題でした。東大生物には、時としてこのような問題が出題されることもあります。
今回の問題のポイントとしては、「与えられた文章と図から、いかに必要な情報を抽出し、論理的に解釈できるか」だと言えます。知識は必要なく、純粋に与えられた情報のみから正答を導く、パズルのような問題です。
なので、東大生物では、たとえ問題文や図が長くて読み飛ばしたくなっても、そこをぐっとこらえてすみずみまで見渡すことが重要です。

今回のような問題は特殊なので、ほとんどの人が経験したことのない出題だったと思います。過去問や模試、入試本番でも今回のような問題が出る可能性は十分ありますから、「こんな問題やったことない!」と焦ることなく、冷静に考えられるようになることが大切です。

東大生物に出てくるような問題は、受験生の誰もやったことのない問題ばかりですから。

(解答例まとめ)
A (2)
B オオクチバスがアメリカザリガニを捕食することによる、トンボ幼虫の被食量の減少。(39字)
  オオクチバスがアメリカザリガニを捕食することによる、環境形成作用を持つ水草の被食量の減少。(45字)
C アメリカザリガニの食物を減らすために、ため池やその周辺から雑木林の落葉を排除し、またため池に落葉が溜まらないように管理する。(62字)


2015/10/15 宮崎悠介

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