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東大生物2016年度第3問:生物と生態系

 第12回の更新を迎えました。受験生の皆さんは、過去問を解き始めたころでしょうか?
 今回は、2016年度第3問から問題を抜粋しました。実験考察、という感じではないですが、東大生物に取り組むうえで重要な考え方をする問題が含まれていますので、みなさんも一緒に考えてみてください!












A
 ケルプが浅場に多く、深場に少ない理由を考察する問題です。「浅場の方が光が届くため、ケルプの生育に適しているから」という理由が問題文に与えられています。さて、ほかにどのような理由が考えられるでしょうか?
 これは東大生物の問題なので、妄想でなんとなく答える、というような解答ではありません。必ず問題文にヒントがあります。

 そこで問題文を読んでみると、「ケルプをウニが食べ、ウニをラッコが食べるという食物連鎖が存在する」ことが記述してあります(空欄1には食物連鎖が入ります)。さらに、「ラッコが果たした役割を踏まえて」説明しなさい、という丁寧なヒントもついています。
 ここから、「深場ではラッコがウニを捕食できず、ウニによる食害でケルプが少ないが、浅場ではラッコがウニを捕食するため、ケルプが食害を受けにくくなっている」と考えられますね。

(解答例)
浅場になるほど、ラッコがウニを捕食しやすくなるためウニの個体数が減少し、ケルプがウニによる食害を受けにくくなり繁殖できるから。(63字)


B
 Y島での生物群集の量がX島より少ない理由を説明する問題です。Y島はX島と比べて、「ラッコがほとんどいない、ケルプが繁茂していない、サンゴモが多い、ウニが高密度に生息している」という違いがあることが書かれています。続けて、サンゴモがケルプと比べて、「背の高い群落を形成することはない」という違いがあることも書かれています。
 ケルプが繁茂しているX島には生物が多く生息し、代わりにサンゴモが多く茂っているY島では生物が少ないのはなぜでしょうか?

 X島、Y島の様子を想像してみましょう。X島では、ケルプが背の高い群落を形成しており、まるで海の中に森ができているような光景が広がっていると考えられます。一方、Y島ではサンゴモが海底に生い茂り、野原のようになっているのではないでしょうか。

 ここまで想像できれば、「X島ではケルプの群落が多くの生物の生息場所となりうるため生物多様性が広がるが、Y島ではサンゴモはそのような群落を形成しないために生物数が少なくなっている」と推測できますね。
 問題では「Y島での生物群集の量がX島より少なくなる理由として考えらえる、ケルプとサンゴモの違い」を説明せよ、となっています。その点に注意して解答しましょう。

(解答例)
ケルプは背の高い群落を形成することにより、多くの生物の生息場所として機能するため、複数の生物種が存在することになる。(58字)


C
 キーストーン種が存在する場合の、生物多様性と生態系機能の関係を答える問題です。今回の記事では示していませんが、文1で「生物多様性が高くなるほど生態系機能は高くなる」という記述があります。従って、(1)~(3)に解答は絞られます。ではその中のどれが正解か?

 キーストーン種とは、「生態系のバランスを保つのに重要な役割を果たす生物種」のことです。このキーストーン種がいなくなったらどうなるか、を考えてみましょう。その定義の通り、生態系のバランスが崩れ、生態系機能は大きく損なわれることが想像できますね。つまり、「たった1種の生物がいなくなるだけで、生態系機能が大きく低下する」ということです。これを反映しているグラフとしては(2)が適切ですね。

 ちなみに、今回の考え方のように、なにかの重要性を知りたくなった場合、それが無くなったという状況を作る、または思考実験をすれば良いのです。遺伝子欠損生物を用いた実験は生物の問題で良く取り上げられる題材ですが、これも「ある遺伝子の働きを知りたいから、その遺伝子を持たない生物を作ってどうなるか見てみよう!」という発想から来た考え方ですね。

(解答)
(2)


D
 これは単純な計算問題ですので、是非とも正解したい問題です。
 シャチが一年に必要なエネルギーは200000×365kcal、ラッコを一頭捕食して得られるエネルギーは30×1000×2×0.7kcalなので、シャチ一頭が一年に必要なラッコの頭数は、200000×365 / 30×1000×2×0.7=1738頭です。

(解答)
1738頭


E
 ラッコのみをシャチが定住した場合、ケルプ、ウニ、ラッコの個体数の推移はどうなるかを考える問題です。

 これまでラッコが食物連鎖の頂点でしたが、その上にシャチが来ることになります。すると、ラッコが捕食されるようになり、ラッコの個体数が減少すると考えられます。すると、ラッコに捕食されていたウニは増加し、ケルプはさらに食害を受け個体数が減少します。

 このように考えれば、ラッコが減少→ウニが増加→ケルプが減少、という風に個体数が変化していくことがわかります。これを反映しているグラフは、(4)のみですね。

(解答)
(4)






 いかがでしたでしょうか?今回のポイントは、「与えられた情報からその場の状況を的確にイメージすること」、「何かの働きや重要性を知りたいときは、それがなかった場合を考えること」でした。これは、東大生物を解くうえでとても重要な考え方ですので、過去問演習などでぜひ実践してみてください!

解答まとめ
A 浅場になるほど、ラッコがウニを捕食しやすくなるためウニの個体数が減少し、ケルプがウニによる食害を受けにくくなり繁殖できるから。(63字)
B ケルプは背の高い群落を形成することにより、多くの生物の生息場所として機能するため、複数の生物種が存在することになる。(58字)
C (2)
D 1738頭
E (4)
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