高校生向けの数学雑誌と言えばモチロン“大数”。高校数学の殿堂が東大数学を放っておくはずもなく、『入試の軌跡』として10年分の数学の過去問をまとめたものを毎年6月号の増刊として出版しています。ちなみに、東大の他には京大・センター試験・私大医学部の入試の軌跡が例...
いよいよこの参考書別活用法のコーナーも3週目。東大の前期試験の過去問を扱った参考書についてまとめる最終週となる今回も、その特色・特徴を
①構成
②解答・解説の充実度
③難易度評価
の3つの観点から、東大受験参考書愛好家のひとり、ワタクシ石橋雄毅が紹介していきます!
本記事でレビュー対象となるための要件を満たした参考書(過去問を抜粋して紹介するのではなく数年度分以上まとめて掲載した参考書)は、書店ですぐに見つかるものは今回までで全て網羅することになります。そしてその今回は、なんと全て数学の参考書。問題文の長大な他科目に比べ扱いやすい短さの数学だからこそなのかもしれませんが、それでも他の大学に比べこれほど専門の参考書が出ているというのは、それだけ東大入試の数学が“解説するに足る”問題ばかりと言うことなのでしょう。しかしそんなことよりも、何より東大受験生にとって一番点数の振れ幅の大きい科目です。「数学さえ上手く行けば受かる!」なんて受験前日に叫ぶ人も相当数いますから、それだけ慎重に、自分にあった参考書を選びたいという人も多いはず。そんな科目に対してこれだけ専門の参考書があるのは願ったり叶ったりとも言えるでしょうし、迷走する可能性が高まるとも言えるのかもしれません。そんな東大数学の“専門書”について、最終回である今回もまた今まで通り、じっくりこってり丁寧に見ていきたいと思います!
◆東京出版『大学への数学 入試の軌跡/東大』 数学
高校生向けの数学雑誌と言えばモチロン“大数”。高校数学の殿堂が東大数学を放っておくはずもなく、『入試の軌跡』として10年分の数学の過去問をまとめたものを毎年6月号の増刊として出版しています。ちなみに、東大の他には京大・センター試験・私大医学部の入試の軌跡が例年刊行されており、また今ではもうありませんがかつては東工大・阪大・阪府大・慶応大・早稲田大・理科大のものもありました。
掲載されているのは、各年度についての問題、解答と「受験報告」「フォローノート」、最後のまとめとして「10年の総括」「私の受験生時代」「東大の学科紹介」「実力判定テスト」。元が雑誌であるため問題文はかなり詰められており、文理合わせて例年9問前後ある東大数学の問題が見開き1ページ半あるかないかのスペースに収まっています。答えが直後にあるのが嫌な人は嫌かもしれませんが、このコンパクトさが使いやすいという人もいるでしょう。解答も1年分に対し3~4ページ程度なので、後期試験の問題まで掲載されているにも関わらず他の過去問参考書に比べ圧倒的な薄さを誇ります。また、現行課程範囲外の問題にはそれと分かるように印がついています。本書一番の特色のひとつ「受験報告」について。毎年東大を受験した大数読者が編集部に送っている、“試験場でどのように感じどのように取り組んだか”の報告と出来具合が収録されているのですが、これが入試本番の臨場感・緊張感たっぷり。試験場では“いつも通りやる”ことがいかに難しいかよくわかります。書くのが皆さんと同じ受験生な訳ですから、プロが書くような講評より遥かに共感できる部分が多く、時間の使い方や試験場で必ず取るべき問題の取捨選択の面でもきっと参考になることでしょう。ただし、大数の読者には概して数学が得意な人が多いので、多くの受験生はこの欄に掲載されている人達よりも出来が悪いであろうことを覚えておいてください。以上までの内容は本誌に掲載されていた内容の再録となっていて、「フォローノート」でそのとき書き切れなかったことを補足。補足事項としては別解や各問題の図形的解釈、大学以降の内容に繋がる関連事項や高度な考察、例題の紹介などが主です。最後に“V作戦”という欄が設けられていて、その年のセットを総括しています。「10年の総括」では出題内容の傾向について詳しく分析。これに関しては赤本や青本よりも詳しいと言えますが、問題内容以外のことにはあまり触れられていないので試験の体裁といった基礎情報は予め他で仕入れておく必要があります。「私の受験生時代」「東大の学科紹介」は、現役東大生・大学院生に表題の内容について、1人につき丸々1ページを使ってインタビュー。最後に大数オリジナルの東大模試「実力判定テスト」1セットで締めくくります。
上でも書いた通り、解答・解説は東大数学文理合わせた1年分につき大体3~4ページ。他に類を見ないほどコンパクトかつスマートに書かれていて、こういうものの方が良いという人もいれば早い論理展開に着いていけない人もいるでしょう。「フォローノート」の補足には青本以上に突っ込んだ内容が書いてあることもしばしば。
難易度評価は、各問についてまずA(基本)からD(難問)までの4段階。その上でその解答目安時間も設定されています。1セットについての講評としては110字程度の“寸評”と先の“V作戦”を掲載。個人的にはこの大数の評価を一番信頼していて、試験場で受験生が当該のセットを目の当たりにした時に感じる感覚として最も妥当な判定だと思います。大数ではDと評価されている問題が25ヵ年でBと評価されていることもザラにありますがこれはやはり方針の違いによるもので、例えば1998年の理系数学第5問は計算がなかなか重い問題なので、試験場で解き切るには努力を要するので大数はDと評価、でも普段の学習の中ではこれくらい完遂してほしいという意味で25ヵ年はBと評価したのだと考えられます。
次回8月1日(木)は『大学への数学』でおなじみ・安田亨先生の『東大数学で1点でも多く取る方法』を紹介予定です。ご期待ください!