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現代数学社『入試問題研究 大学数学への道 ――受験だけの数学で終らせないために――』

 “理系なら、数学は受験で終わりじゃない。”がキャッチコピーの、「大学で学ぶ数学」と「大学入試の数学」とを架橋することを目指した一冊をご紹介。
 コンセプトは当HP特集ブログA級紙と基本的に同じ。「はじめに」から抜粋すると、“学生たちは,入試会場ではパン食い競争のように…
 “理系なら、数学は受験で終わりじゃない。”がキャッチコピーの、「大学で学ぶ数学」と「大学入試の数学」とを架橋することを目指した一冊をご紹介。

 コンセプトは当HP特集ブログA級紙と基本的に同じ。「はじめに」から抜粋すると、“学生たちは,入試会場ではパン食い競争のように目の前の問題に喰いつかなければならないので,その問題の背後にある理論に思いを馳せるような余裕は当然ありません.しかし,試験の準備のために机上で学ぶ学生には,各論のアラカルトというよりも,少しでも意味の読み取れるストーリーを提供した方が,受験勉強が知的好奇心に彩られた豊かなものになるのではないかと考えています.”とのことで、かつて様々な大学の入試で出題されてきた、大学で学ぶ数学をモロに背景にした問題をもとに、様々なテーマについて紹介されています。目を引く節のサブタイトルをざっと持ってくれば、

・アステロイドとΒ関数
・多項式近似とテイラー展開
・ロピタルの定理とε-δ論法
・凸関数とイェンセンの不等式
・チェビシェフ展開とフーリエ級数
・3次方程式とカルダノの方法
・フェルマーの小定理と公開鍵暗号
・ペル方程式と二次体
・数列の母関数と二項定理
・マルコフ連鎖
・カオスとフラクタル

とまあこんな調子で、それぞれ突っ込み過ぎない範囲でその分野の面白いところを知ることができるようになっています。贅沢。
 A級紙との違いは出典を東大に限らないところですが、特に問題はありません。また東大を出典とした問題も多数収録されていますが、年度まで明記されているのでセットでの過去問演習がまだの人でも対応可能です。

 もともと本書は、雑誌『理系への数学』(2013年4月号より『現代数学』に改名)において連載された記事を再録したものとなっています。この雑誌のターゲットは現在、高校生というよりはそれより一段上の、もっと一般的な数学好きとなっているため、本書の作りは普通の受験参考書的なそれとは少々勝手が違うのですが、『大学への数学』とはまた別の方向性の本書の空気感がむしろ肌に合うという人も結構いるのではないかと思います。掲載されている記事自体の幅は広く、高校生でも十分読めるであろうものはそれなりにあるはずなので、余裕のある人は一度手に取ってみても良いかもしれませんね。

 改めて大学受験の中での位置づけを確認すると、本書は“受験数学のテクニック”的なものに飽き飽きしてしまった数学好きに贈る本です。これを読んで入試の点数をアップさせるというよりは、高校数学が十分できるようになってきた中で数学へのモチベーションを上げていこうだとか、息抜きのためだとかいった使い方がメインになるでしょう。無論、こういった背景知識が入試で功を奏する場合もありますし、そういうことを授業で扱うところもあるのを考えれば、本書はそれらを網羅的に扱った受験参考書であると見なすこともできるでしょう。
 ちなみに大学数学的な記法にさえ耐えられれば、数学的な難しさはそれほどでもないので、“数学は好きだけど苦手……”といった人でも読めると思います。『最高峰の数学へチャレンジ』とは対極的といったところでしょうか。

 さらに俯瞰したところから言うなら、受験前はともかく入試を終えて東大入学を控えた理系の皆さんには、本書は万人に薦められる一冊です。キャッチコピーの通り、“理系なら、数学は受験で終わりじゃない。”受験だけの数学で終らせないために、入学前の大切な期間で是非大学数学と向き合う心構えを作っておいて欲しいですね。

 だからまず、受験以前の数学で終らないように頑張ってください!笑



2014/10/3 石橋雄毅

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