過去問と言えば真っ先にこれを思い浮かべるという人も多い定番中の定番。内容もオーソドックスなことがしっかり書かれていて、これといったこだわりなく適当に本書を選んだとしても後悔するようなことにはそうそうならないでしょう。
掲載されているのは「大学情報」「傾向と対策」「問題」「解答」で、リスニ…
東京大学は、言わずと知れた日本の最高学府です。そのために、書店に並ぶ“東大受験”向けの参考書の数が他の大学用のそれと比べ物にならないほど多いのは、少しでも東大受験に興味を持った皆さんもよくご存知のことと思います。とりわけ、東大の過去問を解説した本は本当に多い。東大対策という需要が高いのも勿論理由のひとつでしょうし、また月並みな表現になってしまうのが悔しいのですが、東大の問題は本当に良問ばかりなので、講師・ライターが解説の腕を見せるこの上ない晴れ舞台であるということもあるでしょう。とにかく、東大入試は受験業界に携わる皆が題材にしたいコンテンツなんですね。
関連資料が多いのは、教える側にとっては研究がしやすくなりますから恵まれた環境と言えます。しかし受験生にとっては必ずしもそうではないでしょう。いざ東大の過去問を演習しようと思い立ち書店に足を運んだとき、どの参考書を相棒にすればいいのか、迷う時間は選択肢の数に比例します。時間の限られた受験生の皆さんには、“東大の過去問”というジャンルに絞ったとしても尚、一冊一冊吟味しているほどの余裕は無いと思います。
そこで、この参考書別活用法のコーナーの第1弾としては、ここに足を運んでくれた人が気になっているであろう東大の前期試験の過去問を扱った参考書について、その特色・特徴を
①構成
②解答・解説の充実度
③難易度評価
の3つの観点から3週・9回にかけて、東大受験参考書愛好家のひとり、ワタクシ石橋雄毅が紹介します! ただし紙幅の都合上ここで扱うものは、過去問を抜粋して紹介するのではなく数年度分以上まとめて掲載した参考書に限るとします。東大受験対策参考書としてはまだまだ氷山の一角に過ぎないでしょうが、少しでも皆さんの相棒選びの参考になればと思います。
第1週目では、過去問界(?)の最大手、赤本・青本と25ヵ年シリーズについて詳しく見てみましょう。それぞれの本の間にどのような違いがあるのか? よく検討して、自分に合っていそうなものを探してみてください!
◆教学社『大学入試シリーズ 東京大学』(赤本) 全教科
過去問と言えば真っ先にこれを思い浮かべるという人も多い定番中の定番。内容もオーソドックスなことがしっかり書かれていて、これといったこだわりなく適当に本書を選んだとしても後悔するようなことにはそうそうならないでしょう。
掲載されているのは「大学情報」「傾向と対策」「問題」「解答」で、リスニング用のCDも付属。毎年、「大学情報」の項の最後に合格者からのアドバイスが収録されているのが特徴と言えば特徴。「傾向と対策」は各教科十分丁寧に書いてあります。
「問題」は、基本的には実際の問題用紙を尊重して掲載していますが、大問が変わってもあえて改ページを施さず極力レイアウトを詰めるようにしていたり、最近は解答の載っている部分と別冊に分けたりと分厚く使いづらくなるのを少しでも解消する努力をしているようです。しかしそれでもまだまだそれなりの厚さは残ったままなので、この冊子をそのまま使って時間を計り過去問演習とするのは、個人的にはあまり推奨できません。実際の問題用紙がもとになっているとはいえ、むしろレイアウトが詰まった分途中計算を書き込んだりするのにも不向きですしね。そもそも、時間を計っての過去問演習は極力本番の状況に近づけて行うのが最良だと自分は考えているので、問題用紙はインターネットで公開されている実際のものを用意するのが自分としての理想ではあります。
また例年7~9年分程度の問題を収録していますが、リスニング音源はそれより少ない年度しか収録されていなかったり、リスニングスクリプトが問題と一緒に掲載されていたりします。しかし解答が省略されているとはいえ、英語以外の外国語の入試問題まで収録しているのは赤本くらい。
「解答」に関して。さすが過去問参考書の定番となっている赤本だけあって、解答・解説も基本的にオーソドックス。各所でよく紹介される解法・別解についてきちんと触れられていますが、マイナーなものや誤答しやすい解法に関する細かい注意についてはやや薄め。解説は、数学に関してはやや飛ばし気味で高校数学をある程度理解している人がどう着想を得ていくかという指針を手短に書いてあるだけのことが多いですが、他の教科については問題設定を順に追って整理したり解答するにあたって必要な情報をまとめたりしてくれています。それでも全体的に赤本の理系科目の解説は他の参考書よりもあっさりしている印象を受けます。
各教科の解説の最後に“講評”の項が用意されていて、その年度のセットを全体的に見るとどの問題は取れなくてはならないかとか、例年の東大入試に比べてどうかとかいったことが書かれています。読みまくっていればそれなりに東大入試の内容に詳しくなりますが、それは講師や入試オタク向けの話。受験生はそこに書かれている“やや難”だとか“易”だとかいった評価を参考にし、どの問題はできるべきだったかを振り返るのに使って欲しいです。ただしここで言われる“標準”はあくまで東大入試としての“標準”で、見ていると赤本の目標ラインは各教科での合格者平均くらいありそうです。皆多少なりとも得手不得手のある中、全教科で合格者平均を達成しているような人はかなり高得点の層にいると思われますから、そこで言われている通りにいかなかったとしても落ち込み過ぎないようにしてください。また英語にのみ“解答の指針”の欄が設けられていて、どのような心構えでその年のセットに臨み時間配分すべきかといったことの参考になり得ることが書いてあります。
次回7月4日(木)には、駿台文庫『大学入試完全対策シリーズ 東京大学』(青本)を紹介予定です。ご期待ください!