選んだ道を正解にする-挑戦と失敗の中で見つけた「正解」の創り方

本記事はこちらの記事の続編となります。

後編となる本記事では、何故レベルの高い大学柔道で勝負する道を選択したのか、中高時代の様々な活動と涙を流すほどの経験。そして彼が持つ「選んだ道を正解にする」という彼なりの人生観に迫ります。記事の最後には、東大を目指す受験生に向けたメッセージも掲載しています。

東大に入って良かったことは何ですか

東大に入学して最も良かったと感じているのは、「自分の確固たる軸を持っている人」がたくさんいる環境です。

東大には自分なりの人生観や軸をしっかり考えて生きている人が集まっています。そういう人たちと話すのは純粋に面白くて、日々たくさんの刺激を受けています。

例えば、将来の目標を見据えて、それの達成のためにブレずに勉強を頑張っている人もいます。また僕のクラスメイトには、思い立って突然休学し、単身でインドへ行ってしまうような同級生もいます。最初はかなり驚きましたが、彼なりに考え抜いた末の行動であり、その圧倒的な行動力には大きな刺激を受けました。僕が所属する柔道部の主将は、部員のことやチームの優勝のことを誰よりも真剣に考えて行動している人です。大学に入学して柔道を続けるか迷っていた自分が、「この人についていき、柔道を続けたい」と心から思えた存在です。

このように、自分の軸を持って本気で生きている人たちと出会い、刺激をもらえる環境に身を置けたことが、東大に入学して最も良かったと感じる部分です。

柔道部での活動について教えてください

実は大学に入学した直後は柔道部に入る気はなかったんです。

僕は年長の時から12年間柔道を続けており、小学生の時は団体戦で全国大会に行く等、結構しっかりやっていたんです。でも中高時代は学校の柔道部があまり盛んでなかったことや僕自身が他の活動に力を入れていたこともあり、かなり中途半端にやってしまっていました。

それに、東京の大学柔道は強豪校が集まる非常にレベルの高い世界です。中高時代にあまり柔道をやってこなかった自分がその中で戦っても、勝つのはとても難しい。自分は「勝てない競技は続けたくない」と思っていたので、東京大学で本気で柔道をすることに対してためらいを感じていました。

でも柔道部からかなり熱心に勧誘され、チームのために誰よりも真剣に柔道と向き合う主将や先輩たちの姿を目にして、「柔道のことは大好きだし、12年も続けてきているのだから中高でやり切れなかったまま終わりたくない」という思いが出てきました。「勝てない競技は続けたくないと言ったけれど、挑戦もせずに勝てないと決めつけることはただの諦めではないか?」と。

彼らの本気の姿勢に触れて、「ここで諦めるのは違うんじゃないか。ここでやめてしまうのは柔道から逃げることになってしまう、そんな自分は許せない」という思いが生まれ、東大の運動会柔道部への入部を決めました。

ひとたびやると決めたからには後悔することがないよう全力で取り組みたいと思っています。そして大学柔道では大きく2つのことを成し遂げたいと思っています。

一つは東大柔道部が最も重きを置く「七帝戦」での3連覇です。七帝戦は北海道、東北、東京、名古屋、京都、大阪、九州の旧帝国大学7校が集まる1年に1度の大会です。僕は今2年生なのであと3回出場機会があるのですが、そこで東大柔道部を優勝に導けるような強い選手になりたいです。

そしてもう一つ、これはとてもハードルの高い目標なのですが、それは東京学生柔道優勝大会を勝ち抜き、全日本学生柔道優勝大会に出場することです。東大では過去30から40年の間に一人しか出ていないようなレベルの大会で、国士舘大学や東海大学のような、幼少期から柔道漬けで強豪校を経てきた全国トップクラスの選手たちと対等に戦えなければ出場は叶いません。中高時代に開いてしまった大きなギャップをこの4年間で埋めなければならないため、非常に困難な道のりであることは覚悟しています。

七帝戦での試合前の写真です。

練習以外の時間も柔道の動画を見て研究する姿が印象的ですが、何故そこまでの熱意をもって取り組めるのですか

それができる一番の理由はやはり「柔道が好きだから」ですね。

それに加え、大学の4年間で劇的に強くなるためには「考えて柔道をする」ことが不可欠だと思っています。これまでは感覚や勢いで好きな技ばかりかけることが多かったのですが、それでは成長に限界がある。だからこそ自分がどういう試合展開を作れるのか想定しながら、「考えて戦う」ことが必要だと感じています。そのための礎を築く時間が、僕にとっては練習外での動画研究です。

また僕がここまで柔道に没頭できる理由のひとつに、「七帝戦」という大会の持つ特別さがあります。

僕はよく箱根駅伝を見るのですが、七帝戦には「駅伝に近い魅力」があると感じています。七帝戦は15人制の勝ち抜き団体戦で行われます。畳の上に上がれば一対一の孤独な戦いですが、自分の戦う姿勢がチーム全体を鼓舞し、次の選手へとたすきが繋がっていく。そんな魅力に惹きつけられています。

昨年、北海道で行われた七帝戦では、東大男子は初日で敗退し、5位という悔しい結果に終わりました。事前の評価では「優勝も狙える」と言われていただけに、1年生ながらその厳しさを肌で感じました。

しかし、その敗北という悔しい経験から這い上がり、「次こそ絶対に優勝を勝ち取る」とすごい熱量で稽古に励む先輩たちの姿を目の当たりにし、自分自身も成長し続け、東大柔道部の勝利に必ず貢献したいと強く感じています。


注)インタビュー後に行われた七帝戦において、中井さんも出場され、東大柔道部の男子は53年ぶりの優勝、女子は連覇を達成されました。インタビューで語っていた「七帝戦優勝」という目標を早くも実現した中井さん。今後、彼がさらに大きな目標へ挑戦する姿にも期待が高まります。


 

部活動と学業などの他の活動との両立はどのようにされているのですか

学業や部活などの「両立」についてですが、僕自身は「すべてを同時にこなす」という感覚はあまり持っていません。むしろ、「その時々で一番大切なことを一つに絞り、そこに集中して取り組む」というのが僕のやり方です。

例えば、去年の五月祭(学園祭)の時期がそうでした。僕は五月祭でクラス企画の責任者を務めていたのですが、本番直前の1週間は勉強や柔道は現状を落とさない程度にとどめ、五月祭に全力を注ぎました。

すべてを同時に100%で続けようとすると、結局どれも中途半端になってしまいます。だからこそ、その時期ごとに「今、一番力を注ぐべきことは何か」と優先順位を明確に決めて取り組むようにしています。そうやってメリハリをつけて動くことこそが、結果的にすべての活動をやり切り、中途半端に終わらせない「本当の意味での両立」に繋がっているのだと思います。

これまでの活動について教えてください

中高時代は「とにかくいろいろ挑戦してみる」という姿勢で、模擬国連や日中青年会議、文化祭の実行委員、ビジネスコンテストなど、様々な活動に取り組みました。それぞれから得た学びは、今の自分の大きな財産になっています。

高2の夏に参加した「日中青年会議」では、教育によって価値観が形成されることを実感し、「物事を背景まで考える視点」を学びました。そこでは、日本、中国本土、香港、台湾の学生が香港に集まり、社会問題について議論したのですが、互いの国の教科書を持ち寄って比較した際、日本の教科書にはあまり載っていない日中戦争における具体的な被害の実態が、中国の教科書には鮮明に描かれていることを発見しました。また外国の学生たちとの対話を通じて、「教育がいかに人々の価値観を形成しているか」を強く実感することもできました。SNSなどで「あの国の人はこうだ」と断定するのは簡単ですが、その裏にある背景に教育が大きく関わっているのだと学びました。

日中青年会議に参加したときの写真です。

また、高2の時に文化祭の代表を務める中で、「人を信頼して頼る」ことの重要性を学びました。この年は、新型コロナウイルスが5類に移行した直後で業務量が異常に膨れ上がり、直前はドタバタを極めました。最初は「自分でやった方が早い」と一人で抱え込もうとしていたのですが、物理的に時間が足りなくなり、限界を迎えていました。そこから周囲を信頼して仕事を任せるようにシフトしたことで、なんとか組織として機能させることができました。初めて「人を信頼して頼る」という経験をして、これは大学での学祭(五月祭)のクラス責任者になったときもすごく活きましたね。

ただ、すべての活動が順風満帆だったわけではありません。高校生の時に参加した模擬国連は、かなりの「交渉力」が必要なものになっていました。しかし、周りに自分よりも交渉力がある人がたくさんいたこともあり「自分には向いていない」と挫折し、途中でフェードアウトしてしまったこともありました。

そして何より悔しかったのが、高2の3月に出場したビジネスコンテスト「キャリア甲子園」です。企業の課題に対してプレゼンを行う大会で、僕たちのチームは準決勝まで進みました。スライドの完成度も高かったので、このまま決勝で優勝することができると本気で信じていたのですが、圧倒的な実力を持つチームを前にして、準決勝で敗れ去ってしまいました。

これが僕の高校時代の最後の課外活動になる予定だったこともあり、敗退が決まった時にすごく泣いてしまったんです。色々な活動に手を出してきたのに、結局どれ一つとして思い描いていたような成果を得られないまま終わってしまった。その事実がたまらなく悔しかったのです。

翌日は部活を休み、一日中部屋で色々考えていました。そこでふと気づいたんです。「確かに、一つの分野で一番になることはできなかった。でも、これだけ色々な活動に全力で取り組み、考え抜いてきた人間は、周りを見渡しても自分しかいないんじゃないか」と。

理想としていた「優勝した一番の自分」と「現実の自分」の間にはギャップがありました。しかし、ここまで必死にもがいて頑張ってきた自分を肯定し、「着飾らないありのままの自分」を受け入れることができたんです。一番になれなかった自分」ではなく、「ここまで全力で挑戦してきた自分」を認められたこと。それが、高校生だった僕にとって最も大きな精神的成長だったと思います。

中井さんの大切にしている人生観について教えてください

まず僕の人生観として「つまらない人生は送りたくない」というものがあります。

興味を持ったものには挑戦し、周囲の人から「あいつ、すごいことやってるな」と思われるようなスケールの大きな人生を送りたい。他者からの評価だけを気にしているわけではありませんが、「多くの人に自分の生き方を知ってもらいたい」という思いが根底にあって、これが僕の様々な活動に挑戦する原動力になっています。

しかし、高校時代に様々な活動へ全力で打ち込み、時には挫折を味わう中で、この考え方は少しずつ進化していきました。「他者からの評価」や「一番という結果」ばかりではなく、もっと自分の内面に目を向けられるようになったんです。

そうした経験を経て、今の僕が大切にしている人生観があります。それは「選んだ道を正解にする」ことです。

この「正解にする」というのは必ずしも結果を残さなければならないという意味ではありません。自分がこれを選んだのは間違いではなかったと、自分自身を納得させてあげることです。

「正解にする」ためには一度自分が決断したことに対して、後悔が残らないくらい徹底的に努力することが必要だと思っています。そうすることで最後に自分自身を納得させてあげる。

ビジネスコンテストで負けて大号泣し、考え抜いた末にありのままの自分を受け入れることができたのも、「自分はここまでやってきた。思うような結果が出せなかったとしても、自分がしてきたこの努力と成長に意味があったのだ」と、自分自身を心から納得させられるほど本気で取り組めていたからだと思います。ここまでの努力がなかったら後悔ばかりが残り、次の挑戦につなげることすらできなかったでしょう。

だからこそ、大学で柔道部に入るか迷った時も、答えは自然と決まったのだと思います。

もしあの時、中高で柔道を中途半端にしてしまったまま「大学の柔道では戦えない」とやめてしまっていたら、必ず後悔が残り、自分の選択を「正解」とは言えなかったでしょう。けれど僕は大学で柔道部を選びました。だからこそ、その選択を自分の手で「正解」にしなければならないと思っています。

学祭で自クラスのケバブを食べている写真です。

将来はどんなことをしたいですか

将来は工学部の都市工学科に進学したいと考えており、卒業後はデベロッパー(開発事業者)の仕事に就きたいと思っています。

僕には北海道の長万部(おしゃまんべ)町にルーツがあります。だからこそ、いわゆる「過疎地域」と呼ばれる場所を、しっかりと持続可能な街として再生させたいという強い思いがあります。都市を機能的に発展させるだけでなく、地方の課題に対しても、街づくりというアプローチから様々な解決策を提示していくような仕事をしたいです。

大学生活のうちは、柔道部として「七帝戦優勝」と「全日本大会出場」を追いかけつつ、学業にも励み、多くの人と出会い、本を読み、幅広い教養を身につけていきたいと思っています。今は正直、かなり柔道に多くの時間を注いでいますが、それも自分の選んだ道です。この大学生活を後で振り返ったとき、「この選択で正解だった」と胸を張って言えるように生きていきたいです。

これから東大を目指す高校生に向けて、メッセージをお願いします!

今の受験生の多くは、「進学選択の制度があるから」「日本で一番賢い大学だから」といった理由で東大を目指していると思います。それ自体は全く悪いことではありませんし、立派な動機だと思います。

しかし、受験勉強をこなす中で、少しだけでもいいから「大学に入ってから自分はどういう人間になりたいのか」「どんな仕事を通じて社会に貢献していきたいのか」を真剣に考えてみてほしいと思います。

理由の一つは、将来やりたいこととのミスマッチを防げるからです。僕自身、今の「街づくり」という目標に気づいたのは東大入試のわずか1週間前でした。それまではあまり考えずに情報系の学部を併願していたため、もし東大に落ちていたら、自分の関心と全く違う学問を4年間学ぶところでした。「もっと早くから、目の前の点数だけでなく自分の将来としっかり向き合っておくべきだった」と今でも思います

早くから「自分が何になりたいのか」を立ち止まって考えておけば、こうしたミスマッチは確実に減らせます。  

それに、このことを考えている人と考えていない人とでは、たとえ東大に合格したとしても、合格した瞬間が人生のピークになってしまう「東大までの人」になるのか、それとも合格をスタートラインとして、そこからさらなる成長を遂げる「東大からの人」になるのか。その後の人生が大きく変わってしまうと思います。

そして何より、「自分が将来どうなりたいか」を自分の頭で考えることは、選んだ道を「正解」にするための原動力になると思います。誰かに言われたからではなく、自分で決断した目標があるからこそ、その道を正解に変えていくための努力ができると思います。

皆さんにはぜひ、合格を掴み取り、その先の未来を切り拓く「東大からの人」になれるよう頑張ってほしいです。そして皆さんが自分で選択した道を、自分自身の努力で「正解」にしていってください。心から応援しています。 

 


(編集部より)中井さんには、合格を見据えた「物理・地学」選択の戦略や具体的な勉強法、勉強において挫折した経験やそれをどのようにして乗り越えたのかなどについてもお話をいただいております。ぜひこちらもお読みください。

「地学」の受験戦略と、悔しさから見つけた自分の武器


 

語り手

中井陸人 東京大学 教養学部 理科一類 2年

出身:愛知県大府市生まれ、北海道長万部町育ち 3歳の時に愛知県大府市から引っ越し、その後11年間を人口約5000人の北海道長万部(おしゃまんべ)町で過ごしました。函館と札幌の中間に位置し、内浦湾に面するこの町は、大きな商業施設もなく、時間の進みがゆっくりで「どこか別ののどかな外国に来ているのではないか」と感じるほど自然豊かな環境でした。幼少期は、自分の想像できないことが起きるとすぐに泣いてしまう「泣き虫少年」でしたが、5、6歳から柔道を始めたことで心身ともに鍛えられました。

出身高校:海陽中等教育学校 JR東海、中部電力、トヨタ自動車などの企業が「未来のリーダーを育成する」という方針のもと設立した全寮制の学校で中高6年間を過ごしました。柔道部での活動に加え、文化祭の代表やビジネスコンテスト、模擬国連など多岐にわたる課外活動に取り組んでいました。

学部・学科:教養学部理科一類

所属団体:東京大学 運動会柔道部 現在は男女合わせて約30名で活動する運動会柔道部に所属しています。一般的な立ち技主体の柔道ではなく、寝技を中心とする「七帝柔道」の大会(七帝戦)での優勝を目標に日々稽古に励んでいます。

取材・執筆

松岡 弘樹

氏名:松岡弘樹 
弘はお婆ちゃんからもらった字。樹は樹木のように大きく強い人間になってほしいという願いから名付けられました。

出身地:兵庫県 西宮市 香櫨園
南に10分歩けば瀬戸内海、北に20分自転車をこげば六甲山があり、春に満開となる桜で囲まれた夙川に沿った、そんな自然豊かな町で育ちました。東京のビルが建ち並ぶ町並みで過ごしていると地元ののどかな雰囲気を思い出し、ノスタルジーに浸ってしまうことがよくあります。夙川の桜並木は驚くほど美しいので、4月に是非訪れてみてほしいです。

出身高校:甲陽学院高校
山の上にある、毎日20分登山をしてようやくたどり着く高校で、よく高校にはイノシシが出ます。でも自然の中で校則に縛られずのびのびと学生生活が送れ、卒業式でも皆が仮装してくるような、自由な学校です。

学部学科:教養学部理科一類
自分が何をやりたいかを明確に決められないまま受験する大学を決める時期になってしまったので、自分が勉強していて最もわくわくする分野を広く学べる理科一類を選びました。昔から何かを作るのが好きなので、建築士になりたい、製品開発をしてみたい、ロボットを作りたい、など今も将来を決められずにいます。

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