「地学」の受験戦略と、悔しさから見つけた自分の武器
2026.08.10
今回インタビューを行ったのは東京大学理科一類2年生の中井さんです。中高時代は様々な課外活動に全力で打ち込みながら、大学受験においては物理・地学を選択し東京大学理科一類に現役で合格。現在は運動会柔道部に所属し鍛錬を重ねています。
本インタビューは全2回に分けてお届けします。第1回となる本記事では、合格を見据えた「物理・地学」選択の戦略や具体的な勉強法、勉強において挫折した経験やそれをどのようにして乗り越えたのかなどについてお話を伺いました。
東大を目指したきっかけは何ですか
僕が東京大学を目指し始めたのは、高校1年生の時です。きっかけは模試の志望校を書く際に「どうせなら、日本で一番賢い大学を目指そう」と思ったことです。もともと理工系の分野に興味があったため、理科一類を選びました。中高一貫校の中で中だるみすることなく勉強を続けていたので、「このまま頑張れば手が届くかもしれない」という位置にいたことも大きかったです。
また、当時の僕はまだ将来の興味関心が明確に定まっていませんでした。そのため、入学後に1年半かけて幅広い教養を学び、その上で自分の進路(専門)を決められる東大独自の「進学選択(進振り)」制度に強い魅力を感じたことも、東大志望の背中を押してくれました。
理科の選択科目ではなぜ地学を選択したのですか
僕が地学を選択したのは、純粋な「興味」と、受験を考えた時の「戦略」の2つの面で、自分に合っていると考えたからです。
もともと中学から授業で地学に触れる機会があったのですが、本格的に興味を持ち始めたのは「科学の甲子園」がきっかけです。学校代表として僕が地学枠を担当することになり、独学で対策を進めるうちに、地学の純粋な面白さに気がつきました。
そのような形で勉強を続けていたことに加え、ちょうどその時期に理系地学の授業が開講されたため、あわせて受講してみました。すると地学がある程度できるようになり、「これなら受験でも使える」というレベルになってきたんです。
周りと同じように化学を選ぶこともできましたが、化学は暗記量が多く完成までに時間のかかる科目です。感覚的には、地学は化学の3分の1ぐらいの勉強量で済みます。受験のために化学を1から勉強するよりも、すでに自分の中で勉強が進んでいて負担も少ない地学を選んだ方が、理にかなっていると考えました。地学で浮いた時間を他の科目に注ぎ込むことで、受験までの限られた時間を最も有利に使えると判断し、地学選択を決意しました。

地学選択に不安はありませんでしたか
学年で地学選択をしたのが僕一人だったということもあり、親からの反対もありましたが、自分自身はそこまで不安、心配になったことはありませんでした。
不安に思っていなかった理由のひとつに、上の学年に実際に物理・地学選択で京大に受かった人や、東大に受かった人がいたことがあります。
ですが何よりも大きな理由は、自分の選択を信じていたことです。自分の興味と戦略を考えた時に「化学を選ぶよりも地学を選択する方が自分にとって合理的だ」という確信がありました。科目選択の時に自分でしっかり考えて、自分で導き出した結論だからこそ信じることができたのだと思います。
反対していた親に対しても「自分で考えて決めたことだから、ちゃんと自分で責任を持ってやります。」と伝えて、最後は納得してもらいました。
地学を使えない大学も併願校として受験しましたが、こちらも自分なりに戦略を立てて挑みました。私立大学の理工学部は「物理・化学」での受験が一般的ですが、僕は早稲田大学の理工学部(応用物理学科)を受験しました。この学科は化学の配点が低いため、受験において化学の対策は必要最低限にとどめ、その分を英語・数学・物理の3科目でカバーして乗り切るという作戦です。
地学はどのように勉強していたのですか
まず、東大の地学は論述主体の形式になっています。そして地学の検定教科書は、実は1社からしか出版されていません。
つまり対策は非常にシンプルで、この「唯一の検定教科書」を徹底的に読み込んで理解し、どんな問題でも自分の言葉で論述できるようにすることが最も重要になってきます。
自分の場合はまず自力で教科書を読んで理解する。そして問題演習を行い、その中で重要だと思った箇所をWordに打ち込みオリジナルの「論述問題まとめノート」を作成していました。最終的に30ページほどになったそのノートを徹底的に読み込むというスタイルで勉強していました。
まとめノートを読み返すことで自分に足りていない知識、地学において重要な箇所を何度も総ざらいし復習することができ、知識を体系的に整理することができました。さらに、自分の言葉でまとめ直すというこのプロセス自体が、東大入試で求められる「地学の重要なポイントを自分の言葉で説明する」という論述のトレーニングにもなっていたんです。
学校の環境も自分から積極的に有効活用していました。本番の東大の試験と同じ形式の地学の問題集が進路指導室にたくさん置いてあったので、先生に頼んで印刷してもらい、それらを解いたりもしていました。本試験の過去問も含めると全部でおよそ40回分の2次試験型の問題演習をこなしましたね。
この「知識を整理し、自分の言葉で論述し、演習を繰り返す」というサイクルを繰り返したことで、本番でも自分の言葉で落ち着いて解答を組み立てる力が身につきました。 その結果、本試験では60点中49点と自分の納得いく点数を取ることができました。
地学の面白さを教えてください
地学という科目の魅力は、「日常生活で目にする現象の仕組みが、科学的に理解できるようになること」にあると思います。
例えば、「大気が不安定」や「エルニーニョ現象」といった言葉は天気予報等で耳にすることがあると思います。なんとなく知っているつもりでも、地学を学ぶとこれらの厳密な定義やメカニズムがはっきりと分かるようになります。
「大気が不安定」という状態も、実は高度に対する「気温の減率(気温の下がり方)」によって定義されています。この「気温の減率」が大きいと強い上昇気流が発生しやすくなり、これが積乱雲や強風を生み出し、結果として「天気が崩れる」という現象につながるわけです。
このように、学んだ知識がそのまま周囲の自然環境の理解に直結し、理科を最も身近に感じられること。それこそが、地学を学ぶ最高の面白さだと言えます。
他の科目の勉強法についても教えてください
英数国をはじめ、どの科目でも共通して意識していたのは、「学校の授業時間の中でできるだけ理解しきること」です。特別なことはせず、授業内に内容をできるだけ吸収し、夜の学習時間でしっかり復習するというオーソドックスな勉強を徹底していました。
中でも地理に関しては、こうした基本に加えて自分なりのこだわりの勉強法がありました。
地理の勉強では、先生の過去の定期試験の問題を分析して自作の「予想問題集」をWordで作っていました。予想問題を作るためには、「どの知識が大切なのか」などといった出題者側の視点に立つ必要があるので、「ここがとても大事だな」と考えながら取り組むことができ、より効率的で理解度の深い知識の定着に繋がると思います。
こういう形で勉強していたので自然と質の高いインプットができており、共通テストでの地理に関しては不安は一切なかったですね。知識の定着度が高かったため模試でも90点以上をキープできていました。本番は少し失敗してしまったものの、それでも85点で踏みとどまることができました。

昔の自分にアドバイスするとしたらどのような言葉をかけますか
とにかく上を目指し続けろとアドバイスしたいですね。
高校3年生の当時は、自分なりに十分努力しているつもりでした。しかし今思えば、頭のどこかに「まあ受かるだろう」という油断があり、自分の限界まで追い込み切れていなかったと感じています。
具体的には、英語、古文・漢文への向き合い方には改善の余地があったと思います。実はこの2科目はあまり好きではなく苦手意識があったため、本格的な対策をつい後回しにしてしまっていました。そしていざ全範囲を学び終えて本格的な受験対策に入る段階で、改めて基礎を固め直すことをせず、闇雲に問題演習に進んでしまったため、成績が全然安定しなかったんです。結果、本番の試験でもこれらの主要科目であまり点数が伸びず、地学に助けられる形となり決して余裕とは言えない合格でした。
当時はやることはやっていたつもりでしたが、後になって得点開示を見てみると、「実はもっとできたことがあったのではないか」と感じています。だから高校3年生の時、全力で勉強したかと聞かれると、素直に「はい」とは言えないんです。
受験生時代というのは、100パーセント勉強に集中できる、人生の中でも数少ない貴重な機会だと思います。だからこそ、当時の自分にはその時間を最後まで使い切り、持てる力をすべて出し切ってほしかったという思いがあります。
例えば理科一類を目指しながらも、仮想の目標として理科三類を設定してみるというように、後になって「もっとやっておけば良かった」と思わないよう、より上の目標を持って取り組む姿勢が必要だったと思っています。 目標より少し高い場所を目指し続けることが、結果的に自分の力を最大限引き出すことにつながります。だからこそ昔の自分には、「現状の成績に満足せず、もっと上を目指し続けろ」と伝えたいですね。
挫折した瞬間というのはありますか
これは明確に一つあって、それが共通テストの自己採点が終わった後になります。
結果としては930点で全く悪い点数ではなく、むしろ、そこそこ取れたかなって感じの点数ではありました。
しかし当時の僕がライバル視していた同級生がいるんですけど、その人に負けてしまったんです。その同級生は僕から見るといわゆる天才型の人間で、受験直前になって一気に成績を上げてきたんです。実際、1週間前に解いた共通テストパックでは僕がその人に100点差以上つけて勝っていたのに、本番では20点ぐらいの差をつけられて負けてしまった。
自分としては早い段階からコツコツ勉強してきたつもりだったのですが、直前の追い込みで一気に仕上げてきた彼にあっさりと逆転されてしまった。「地頭の違い」をまざまざと見せつけられた気分で、すごく悔しかったです。
実はこの時の気持ちを自分なりに消化できたのは、大学に入学した後になります。
もちろん、東大に入ると彼のような人はもっと増える訳です。自分よりも賢い人がたくさんいて遅れを取ってしまうんじゃないかと、不安に思うこともありました。
そこで僕は、誰にも負けない、自分の得意科目を作ろうと考えました。具体的には1年生の前期に第2外国語であるスペイン語を結構ちゃんと勉強したんです。結果、スペイン語という新たな言語をしっかりと身につけることができ、成績という目に見える形でも自分の納得できる結果をだすことができました。
自分よりも地頭がいい人はたくさんいるような環境の中でもしっかりと努力して一つの結果を残すことができ、スペイン語という新たなスキルも獲得することができた。
その時に気づいたのは、「地頭の差」ばかりを気にする必要はないということです。周りを見渡しても、必ずしも入試で上位だった人ばかりが良い成績を取っているわけではなく、大学ではその科目にしっかりと向き合い、努力した人が結果を出していました。
自分より才能のある人はこれからもたくさんいるでしょう。でも、目標を設定して地道に努力を重ねれば、成長し結果を残すことはできる。他人がどうであっても、自分は自分の力で前に進むことができる。そう実感できたことで天才型の人たちに対する劣等感は自然となくなっていきました。
(編集部より)中井さんには、中高時代の様々な活動や大学で柔道部を選んだ理由、また挑戦を続ける中井さんが大切にしている人生観などについてもお話をいただいております。ぜひこちらもお読みください。
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