高校での化学の学習を一通り終え、いよいよ大学受験対策に向かうというとき、いきなり志望校の過去問を解きまくり始めるのは必ずしも得策とは言えません。なぜなら、過去問は学校の傍用問題集の問題とはまた違った独特の解きづらさがあるからです。また過去問演習だけでは化学の幅広い出題範囲をすべてカバーすることも難しいでしょう。そこで、学校で学んだ基礎知識の活用や理論の実践のトレーニングに役立つ問題集が、今回紹介する『化学の新演習』になります。
著者は先日紹介した『
化学の新研究』と同じ卜部吉庸。問題は計331問掲載されており、そのほとんどが実際に大学入試試験で出題された問題、またはその一部が改作された問題になっています。出題校として、国公立は東京大学、京都大学など、私立は早稲田大学や慶應義塾大学などの名前もあり、レベルはやや高め。ただ、難問や奇問ばかりが集められているのではなく、基礎的な知識や理論を問う問題から高度な知識や思考を要求する問題まで段階的に収録されているので、化学の受験勉強を始めるにはもってこいの教材だと思います。そして、この問題集を一通り解くことで相当の自信もつけることができるでしょう。
構成は、学習指導要領のように『化学基礎』『化学』ごとに分かれているのではなく、『化学基礎』『化学』すべての単元を体系的に再配列しています。そのため、化学の基本的な内容を一通り学び終えていないと、自力で問題の取捨選択をしなければならず、扱いづらいでしょう。
解答・解説は問題集と同じほどのページ数を備えていて、内容はかなり充実しており、いい意味で高校の学習範囲に囚われすぎることなく、読者の興味をそそるような補足説明も載っています。例えば、酸化還元の範囲での、水中のDO(溶存酸素量)を求める問題の解説では、実際に溶存酸素を求める実験の手法が載っており、高校のときにやってみたかったなぁ、と個人的に思ったり。(笑) また、無機の範囲には“シスプラチン”という聞きなれぬ化合物が登場し、医薬品として活躍していることが紹介されています。ただ、スペースの都合からか行間が狭かったり改行が少なかったりと、見やすさには難を感じます。
難易度は、★(典型的な重要問題)~★★★(やや難しい問題や新傾向の問題)の三段階で表示されています。この難易度表示にはおそらく裏切られる受験生も多いかと思います。というのも、大問1問の中にも難易度の異なる問題があることに加え、典型的だからといって短時間に解き切ることが容易とは限りませんし、逆に難しい問題は問題文中に詳しい説明が載っていて解きやすいということも珍しくはないからです。
他にも例えば、有機の範囲で出題されている異性体を探すだけの215番の問題は、★★の評価になっており『そこまでは難しくないのかな』と思われてしまうかもしれませんが、複雑な分子になると意外と完答するのは難しい。しかし、続く217番では、見慣れない『二重結合の酸化分解』に関する問題が出題されていますが、問題文で与えられた情報を一つ一つ丁寧に理解できれば、完答することは難しくない。1つのバロメーターで難易度評価をすることの難しさを感じます。他の問題集にも言えることですが、難易度評価はあくまで目安として活用することをおすすめします。
冒頭でも述べたとおり、この問題集は学校の化学を一通り学び終え、入試演習を始めるのに適当な一冊になると思います。逆に言えば、まだ全範囲を学習し終えていなかったり、基礎知識が抜けていたりする状況ではなかなか歯が立たず挫折してしまいがちになるかもしれません。書店でパラパラと数問眺めてみて、★1つの問題もかなり苦労しそうだと思うなら、まずは学校の傍用問題集やより基本的な問題集で練習を積むことをおすすめします。
化学のちょっと難しめの問題で腕試ししてみたい、入試で化学を得点源にしたいと思っている方は手に取ってみてはいかがでしょうか。
2014/04/11 川瀬響