「正解」の外で見つけた、本当の学び
2026.02.14
今回インタビューを行ったのは、ラーンネット・グローバルスクール創設者の炭谷俊樹(すみたに・としき)さんです。炭谷さんは東京大学大学院を卒業後、コンサルティング業界を経て、現在は教育分野を中心に幅広く活動されています。
本インタビューは全3回の連載としてお届けします。第1回となる本記事では、炭谷さんが東大、そしてマッキンゼーでの経験を通じて得られた学びについてお話を伺いました。心からの興味を軸にすると、見える世界が変わる―炭谷さんのお話は、受験勉強に励む方にとっても、多くの示唆を与えてくれるはずです。
「物理学で世界を解明できる」と信じていた学生時代の挫折
私が東大を目指したのは、子どもの頃から物理学者への強い憧れがあったからです。アインシュタインのようなトップクラスの物理学者になりたい、と。
一つの数式や法則で森羅万象を説明できる世界——そんな"究極の「正解」"を追い求めることに、何より魅力を感じていました。
しかし、大学、大学院と進むにつれ、現実は思っていたほどシンプルではないことに気付き始め、次第に行き詰まりを感じるようになりました。「このまま東大という箱の中にいては、先が見えない」。そう考えた私は、環境を変えるために海外への留学を決意し、アメリカの大学2校に申し込みました。
ところが、結果は惨敗。両方の大学から拒絶されてしまったのです。
これは、私にとって非常にショックな出来事でした。自分の実力のなさ、そして「物理さえやっていればいい」という視野の狭さを突きつけられた瞬間だったのです。
今振り返れば、当時の私は「留学に行くための準備」を、相手が求める水準で全くできていなかったんですね。
この挫折をきっかけに、私は就職活動を始めることを決めました。物理を完全に諦めたわけではありませんが、一度、これまでとは違う場所で自分の視野を広げてみたいと思うようになったんです。
「東大生なら誰でもいい」という企業への違和感
当時、私の周りの東大生の多くは、誰もが知る日本の大企業に就職していました。当時は、「東大卒」という看板さえあれば、引く手あまたの状況だったんです。
でも、私はそこに強い違和感を覚えていました。東大生というだけで、大して人柄も確かめることなく採用している。これから一緒に働く人がどんな考えを持ち、どんな価値観で仕事をするのか見極めずに採用するのは、おかしいのではないかと感じていました。
また、大企業で働く人も、当時の私にはあまり魅力的に思えませんでした。「自分が何をしたいのか」「どう生きたいのか」を考えずに、世間の評価という「正解」をなぞって就職している人が多かったように感じたんです。話をしていても、どこか借り物の言葉で語っているような、そんな物足りなさを感じていました。
そうしたなか出会ったのが、当時日本ではまだ無名だった、コンサルティング会社のマッキンゼーでした。
実はマッキンゼーでアルバイトをする機会があったのですが、そこで働く人たちはみんな、自分の意見を持ち、生き生きと活動していたんです。私は直感的に、「この会社は面白い」と感じました。
マッキンゼーは、採用時にしっかり人を見るんですよね。何度も何度も面接をして、「あなたはどういう人なのか」「何を考え、どう行動するのか」を徹底的に問う。学歴ではなく、その人自身の中身を本気で評価する姿勢に、私は信頼感を覚えたのです。
ただ、マッキンゼーに入った当時は、「炭谷は気が狂った」と言われましたね。物理学者を目指していると思っていたら、突然就活を始め、それも大企業ではなく当時無名の外資企業に行くことになるわけですから。
でも、私に迷いはありませんでした。なぜなら、自分自身で100以上の企業を調べ、10以上に実際に足を運び、徹底的に調査した末に「自分で選んだ」という納得感があったからです。

コンサルで知った「正解」の限界
マッキンゼーには10年間在籍しましたが、そこでの経験は私の考え方を根本から変えてくれました。一言で言えば、「世の中は論理だけでは動かない」という気付きです。
コンサルタントの仕事は、クライアントが抱える課題に対し、膨大なデータを集めて分析し、論理的にも科学的にも「正しい答え」を導き出すことです。しかし、どれほど完璧な提案をしても、現場の人々が納得してくれるとは限りません。
物理学や受験勉強のように「一つの正解」に慣れすぎていて、人間の心の複雑さや多様さを本当の意味で理解できていなかったのだと思います。
正しい答えを出すことを追求してきた私にとって、これは大きな衝撃でした。それと同時に、理屈を超えた先にある「人間そのもの」への興味が湧いてきたのです。
この世界は勉強ほどシンプルではない。でも、だからこそ面白いんだと気がつきました。
デンマークでの衝撃
私が教育に携わるようになった最大のきっかけは、入社7年後に経験した、デンマークでの海外勤務でした。
デンマークでの経験は私にとって本当に衝撃でした。そこでは、日本のように、人を偏差値や数字で評価する文化がほとんどなかったんです。彼らの生き方の中心にあるのは、「他人より上か下か」という外的なモノサシではありません。「自分はどう生きたいのか」「この社会とどう関わりたいのか」という、自分自身の内側から湧き出る情熱でした。
自分がどう社会に関わっていきたいのかがまず先にあって、それに従って生き方を選択する。例えば、人の病気を治したいなら医者になればいいし、お菓子を作って人を喜ばせたいならパティシエになればいいと、そういう世界。そこには職業の貴賤も、学歴の上下もありません。自分の意志で選び、自分の足で立っているからこそ、誰もが驚くほどいきいきと、力強く働いていました。
その姿に触れたとき、それまで自分が当たり前だと思ってきた競争や評価の軸が、一気に崩れた感覚がありました。
「正解」を求めて東大に入り、論理を武器にマッキンゼーで戦ってきた。でも、本当に豊かな人生を送るために必要なのは、その先にある「自分は何のために学ぶのか」という納得感だったのです。
このデンマークでの衝撃が、私を教育の道へと突き動かす決定的な原動力となりました。
(次へ続く)









