東大卒弁護士が考える、「伸びる人」の条件——知的資本の蓄積を大切に
連載:「継続」「経験」「信頼」を資産に――重松英さんインタビュー
2026.07.29
本記事は、こちらの記事の続編です。
今回は、重松さんに受験生へのメッセージを伺いました。
小さな差がどんどん積み重なり、最終的には大きな差として現れる受験勉強の中で、少しでも早い段階から意識しておくべきことは何か。貴重なお話を伺うことができました。
【知的資産を蓄積するということ】
私は、人間の能力にも、「差が差を生む」という資本主義的な側面があると考えています。
資本主義の仕組みでは、あらかじめ多くの資金を持っている人がさらに多くを獲得し、経済格差がどんどん広がっていくという性質があります。例えば同じ利回りの投資をしても、元本が大きい方が利益額も大きくなりますよね。
実は、同じことが人間の能力にも言えます。
能力資本を持っている人は、そうでない人に比べ、新しいものに触れたときに読み取れる情報量が増えます。同じ本を読んでも、同じ経験をしても、そこから吸収できるものが大きくなるんです。その結果、時間が経つほど差が広がっていきます。
ですから、人生の早い段階から、自分自身の能力資本を蓄積していくことが大切です。
最初は小さな積み上げに過ぎなくとも、それはいずれ大きな差となって現れるのです。
【「国語力」が、知的能力の土台である】
では、高校生や受験生にとって、特に意識的に伸ばすべき能力資本は何か。私は、それは「国語力」だと思っています。
ここで言う国語力は、単に「国語の試験で高得点を取る力」というだけではなく、もっと広い意味です。ある文章や文脈から、何を読み取れるか。ある発言の背景に、何があるのかを理解できるか。そして、自分の考えを適切な言葉で表現できるか。そうした力全体を指しています。
弁護士として仕事をしていると、この意味での国語力の高低が、その人の能力とかなり密接に関連していると感じます。そして、おそらくこれは弁護士に限った話ではありません。どんな仕事であっても、結局はコミュニケーションの連続だからです。
あらゆるサービスや仕事は、突き詰めれば「相手のニーズにどう応えるか」という話になります。そして、そのためにはまず、相手自身が認識できていないものも含めて相手のニーズを正しく読み取らなければなりません。相手が何を考えているのか、何に困っているのか、どんな感情を抱いているのかを理解する必要があります。
そのためには、まずは人の話を聞き、それを正しく理解する力が必要です。さらにそれだけではなく、「言われたこと」から「言われていないこと」を読み取る、すなわち文脈を理解して相手の意図を汲む力が欠かせません。
さらに言えば、これからの時代は「答えを出すこと」以上に「問いを立てること」が重要になっていくでしょう。
「答えを出すこと」、すなわち既存の知識や正解を探すことの価値は、AIの進歩によって相対的に下がっていきます。一方で、本当に価値があるのは、「何を問題として捉えるべきか」「どこに本質的な課題があるのか」を見抜く力です。
筋の良い問いを立てるためには、周囲と同じ情報を見ていても、そこからより多くを読み取らなければなりません。その力の根底にも、やはり国語力があるのです。
【「国語力」は受験にも通ずる】
いま、社会で活躍するための必須能力としての「国語力」についてお話ししてきました。そして実は、受験勉強で学ぶ国語においても、いまお話ししてきたような能力は問われているんです。
国語の試験で問われる内容も、学年が上がるにつれて高度になっていきますよね。小学校や中学校までの国語の試験は、「文章の中から答えを探すゲーム」のような側面があります。
しかし、東大のような難関大学の国語では、それでは通用しません。ただ字面を追うだけではなく、文脈の理解も加えて、筆者の主張を正しく解釈する力が問われます。この力は、私が今まで重要性を強調してきた「国語力」そのものです。
だからこそ、受験で使う国語を本当の意味でしっかり勉強すれば、その中で培った力を、自分の財産として実生活でも役立てることができます。逆に、高い国語力を日々の生活の中で身につけることができれば、それが受験にも役立つかもしれませんね。
【経験を資産に】
知的資産を築くという観点から考えたときに非常に重要なもの、それは「経験」です。実際に経験したことは腑に落ちますし、自分の血肉になります。また、自分の言葉で語れるようになるため、他人に対する説得力も増します。
だからこそ、若いうちにさまざまな経験をすることには大きな価値があります。
もっとも、一人の人間が経験できることには限界があります。そこで重要になるのが読書です。本を読むということは、他人の人生経験を借りることでもあります。自分では経験していない出来事や考え方に触れ、自分の視野を広げることができます。
そしてここで重要になるのが、先ほど述べた「国語力」です。同じ経験をしても、同じ本を読んでも、その全員が同じだけ成長できるわけではありません。高い国語力によって、同じ本や経験からでもより多くの示唆を引き出し、それを「自分ごと」として捉えられる人が大きく成長します。
経験から学び、本から他人の経験を借り、人との対話によって考えを深める。知的資産とは、突き詰めればそうした経験の蓄積なのだと思います。













