【A級紙】 #07 等角螺旋の弧長 ~極方程式と図形的考察~

シリーズ「A級紙」は、皆さんが高校までで学習している内容が大学ではどんな風に現れるのか、また実際の研究でどのように使われているのか、生活にどのように溶け込んでいるのかといった話題を、東京大学の数学・物理・化学の入試問題に(無理矢理)絡めてちょっとだけでも知ってもらい、勉強をより一層楽しんでもらおうという連載です。

前回は直交座標での弧長の公式を紹介しましたが,今回は極座標表示されたグラフの弧長について考えます。
公式は次の通りです。

極方程式 $r = r(\theta) \quad (\alpha \leq \theta \leq \beta)$ で与えられる曲線の長さ $s$ は

$\hspace{5mm} s = \displaystyle\int_{\alpha}^{\beta} \sqrt{r^2 + \left( \displaystyle\frac{dr}{d\theta} \right)^2} \, d\theta$

と表せる。

極方程式で表される曲線の長さの公式

なぜこのように求められるのか,前回同様に考えてみましょう。
※厳密な証明ではなく,上のような形になる理由の考察です。

曲線上の 2 点を結ぶ,図の赤線部の長さ $\Delta s$ は,三平方の定理より

$$
\begin{align}
\Delta s &= \sqrt{\left( r \sin \Delta \theta \right)^2 + \left( r ( \theta + \Delta \theta ) - r ( \theta ) \right)^2}
\end{align}
$$

と求めることができます。$\Delta \theta$ が十分小さい量であるとき $\sin \Delta \theta \simeq \Delta \theta$ が成り立つことも踏まえると,

$$
\begin{align}
\Delta s &\simeq \sqrt{\left( r \Delta \theta \right)^2 + \left( r ( \theta + \Delta \theta ) - r ( \theta ) \right)^2} \\
&= \sqrt{r^2 + \left( \displaystyle\frac{r ( \theta + \Delta \theta ) - r ( \theta )}{\Delta \theta} \right)^2} \, \Delta \theta \\
&= \sqrt{r^2 + \left( \displaystyle\frac{\Delta r}{\Delta \theta} \right)^2} \, \Delta \theta
\end{align}
$$

が成り立ちます。ここで $\Delta \theta \to 0$ の極限をとれば赤線の長さは微小となり,ほぼ 2 点間を結ぶ曲線の長さに等しいと見なせるようになるから,$\theta = \alpha$ から $\theta = \beta$ まで $\theta$ を連続的に変化させて $\Delta s$ を足し合わせたものが $s$ であると考えれば,さきの公式が得られます。

こうした公式のお陰で様々なグラフの長さを求めることができるようになるわけですが,逆にこれが無ければ曲線の長さは求められないのかというと,もちろんそういう訳ではありません。
特にグラフが何か特徴的な図形的性質をもっているとき,その性質を上手く利用することで公式を用いずとも曲線の長さを求められる場合があります。

このことを体現した問題が東大理系数学 2007 年第 2 問。
これもまた表面的には計算問題なのですが,中身をよく見てみれば実にうまいこと曲線の長さを求めています。
計算練習のつもりで次の問題を解き,これを実感してみることにしましょう。


問 題

$n$ を $2$ 以上の整数とする。平面上に $n+2$ 個の点 ${\rm O}, \, {\rm P}_{0}, \, {\rm P}_{1}, \, \cdots, \, {\rm P}_{n}$ があり,次の 2 つの条件をみたしている。

① $\angle{{\rm P}_{k-1} {\rm O} {\rm P}_{k}} = \displaystyle\frac{\pi}{n} \, (1 \leqq k \leqq n),$
 $\, \angle{{\rm O} {\rm P}_{k-1} {\rm P}_{k}} = \angle{{\rm OP_{0} P_{1}}} \, (2 \leqq k \leqq n)$

② 線分 ${\rm OP_{0}}$ の長さは $1$,
  線分 ${\rm OP_{1}}$ の長さは $1 + \displaystyle\frac{1}{n}$ である。

線分 ${\rm P}_{k-1} {\rm P}_{k}$ の長さを $a_{k}$ とし,$s_{n} = \displaystyle\sum_{k = 1}^{n} a_{k}$ とおくとき,$\displaystyle\lim_{n \to \infty} s_{n}$ を求めよ。

2007年度 東京大学 理系数学 第2問 より。

解 説

$\triangle{}{\rm O P_{0} P_{1}} \sim \triangle{}{\rm OP_{1}P_{2}} \sim \cdots$($\sim$ は相似を意味する)となるため,相似比を考えることで

$a_{k} = {\rm P_{0}P_{1}} \times \left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right)^{k-1}$

を得る。また余弦定理より

${\rm P_{0}P_{1}} = \sqrt{1 + \left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right)^2 - 2 \left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right) \cos \displaystyle\frac{\pi}{n}}$

であるから

$$
\begin{align}
&\displaystyle\lim_{n \to \infty} s_{n} \\
&= \displaystyle\lim_{n \to \infty} {\rm P_{0}P_{1}} \cdot \displaystyle\sum_{k = 1}^{n} \left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right)^{k-1} \\
&= \displaystyle\lim_{n \to \infty} \left\{ \left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right)^n - 1 \right\} \\
&{} \hspace{10mm} \cdot n \sqrt{1 + \left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right)^2 - 2 \left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right) \cos \displaystyle\frac{\pi}{n}} \\
&= \displaystyle\lim_{n \to \infty} \left\{ \left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right)^n - 1 \right\} \\
&{} \hspace{10mm} \cdot \sqrt{n^2 + \left( n + 1 \right)^2 - 2 \left( n^2 + n \right) \cos \displaystyle\frac{\pi}{n}}
\end{align}
$$

という式で求めることができる。ここで

$\displaystyle\lim_{n \to \infty} \left\{ \left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right)^n - 1 \right\} = e - 1$

であり,

$$
\begin{align}
&{} n^2 + \left( n + 1 \right)^2 - 2 \left( n^2 + n \right) \cos \displaystyle\frac{\pi}{n} \\
&= 2 n^2 \left( 1 - \cos \displaystyle\frac{\pi}{n} \right) + 2n \left( 1 - \cos \displaystyle\frac{\pi}{n} \right) + 1 \\
&= 4n^2 \sin^2 \displaystyle\frac{\pi}{2n} + 4n \sin^2 \displaystyle\frac{\pi}{2n} + 1 \\
&= \pi^2 \cdot \displaystyle\frac{\sin^2 \displaystyle\frac{\pi}{2n}}{\left( \displaystyle\frac{\pi}{2n} \right)^2} + \displaystyle\frac{\pi^2}{n} \cdot \displaystyle\frac{\sin^2 \displaystyle\frac{\pi}{2n}}{ \left( \displaystyle\frac{\pi}{n} \right)^2} + 1 \\
&\to \pi^2 + 1 \quad (n \to \infty)
\end{align}
$$

となるから,

$\displaystyle\lim_{n \to \infty} s_{n} = \underline{(e - 1) \sqrt{\pi^2 + 1}}$

となる。


このように,曲線をたくさんの線分の集まりで近似し,その分割を限りなく細かく分割することにより,曲線の長さを求めることができます。

上の東大の問題では単に線分の長さの極限を問われているだけで,それが曲線長であることや,それ以外の発展事項については触れられていません。(入試問題ですから当然ですね。)

そこで,上の問題に発展事項をたくさん載せて,改題してみました。

興味のある人はこちらの問題にもチャレンジしてみましょう!


追 加 問 題

追加問題(注意:それっぽい見た目にしていますが,(2) 以降は東大の入試問題ではありません。

追 加 問 題 の 略 解

(1) 先述の通り。

(2)

面積比を考えることで $b_{k} = \triangle{{\rm OP_{0}P_{1}}} \cdot \left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right)^{2(k-1)}$ を得る。$\triangle{{\rm OP_{0}P_{1}}} = \displaystyle\frac{1}{2} \cdot 1 \cdot \left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right) \cdot \sin \displaystyle\frac{\pi}{n}$ であるから

$$
\begin{align}
&{} \displaystyle\lim_{n \to \infty} t_{n} \\
&= \displaystyle\lim_{n \to \infty} \triangle{{\rm OP_{0}P_{1}}} \cdot \displaystyle\sum_{k = 1}^{n} \left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right)^{2(k-1)} \\
&= \cdots ({\rm やや面倒ですが自分で計算してみましょう!}) \\
&= \displaystyle\frac{1}{4} \pi (e^2 - 1) \quad \cdots 答
\end{align}
$$

(3)

点 ${\rm P}_{k}$ の極からの距離は ${\rm OP}_{k} = \left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right)^{k}$,偏角は $\theta = \displaystyle\frac{k\pi}{n}$(ただし,$0 \leq k \leq n$ より $0 \leq \theta \leq \pi$)で表せる。よって $k$ を消去し,$r$ と $\theta$ の関係を表せば

$r = \left\{ \left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right)^n \right\}^{\frac{\theta}{\pi}} \to e^{\frac{\theta}{\pi}} \quad (0 \leq \theta \leq \pi) \quad \cdots 答$

(4), (5)

与えられた積分に (3) の結果式 $r = e^{\frac{\theta}{\pi}}$ を代入して計算すれば,(1), (2) と合わせて問題文の式が成り立つことが示される。


おまけ: $n$ の値と折れ線の様子

せっかくの視覚化の機会なので,ちょっと作図してみました。

段々なめらかになって,ある曲線に収束する様子が確かめられますね。もちろん,その曲線は $r = e^{\frac{\theta}{\pi}}$
点 ${\rm P}_{n}$ の位置を見ることで,自然対数の底 $e$ の定義式にある $\left( 1 + \displaystyle\frac{1}{n} \right)^n$ は,$n$ について単調に増加するということにも気がつきます。

この記事の著者/編集者

この連載について

最新記事・ニュース

more

2023年度は大幅な難化により話題となった東大物理。合格するための学習のポイントを、今までの傾向と対策を踏まえて確認していきます。また、現実的な目標得点についても考えていきます!

東大化学、合格のためには何点を目指すべきなのでしょうか。東大化学の傾向と対策を踏まえながら、現実的な目標得点について考えていきます!

30回 ―これは、東大受験に関係するであろう模試の年間実施回数です。当然ですが、これをすべて受験するのはお勧めしません。東大合格を目指すうえで、特にどの模試を受験するべきなのか、考えます!

目標とすべき点数はどれくらい? 東大が発表している合格者データを確認! 二次試験   合格最低点 二次試験   合格平均点 第一段階選抜 合格最…

斎藤 匡洋 1Picks

実はアドミッションポリシーで明確に示されている 「どうやったら東大に入れるか?」という疑問は、東大受験を考える方なら誰でもお持ちだと思います。そ…

斎藤 匡洋 1Picks

前の記事:模試受験の心得【受験前】 模試は受験したらそれで終わりではありません。むしろ大切なのは模試の受験後,それをどう活かすかです。せっかく受…

 模試はあくまでも“模擬”試験であってその結果で人生が左右される訳ではありません。「どうせ模試なんだし今の実力を試すために特別な対策をせずに特攻…