【東大数学分野別解説】#06 論証が重要な "数列"

この連載では,東大数学の過去問の中から学びの多そうなものを分野別に解説していきます。単に正解を述べるだけでなく,問題を解く際のアプローチや補足事項も添えるので,初見の問題への対応力も磨けることでしょう。

分野別過去問解説です。今回は数列に関する問題を 2 問ピックアップしました。
最後に東大数学の数列の問題の特徴,傾向についても述べます!

問題1

まずは 2005年 理系 第1問。

東京大学 2005年 理系 第1問

問 題 1 の 解 答

(1)

まず,$f(x)$ を微分すると,$\dfrac{1 - \log x}{x^{2}}$ となるので $a_{1} = 1, \, b_{1} = -1$ とすることで問題の主張が成立する。次に,$n=k$ のときに $f^{(k)} (x) = \dfrac{a_{k} + b_{k} \log x}{x^{k+1}}$ と表せると仮定すると,もう一度微分することで,

$$
\begin{align}
f^{(k+1)}(x) &= \dfrac{\dfrac{b_k}{x} \cdot x^{k + 1} - (k + 1) x^{k} \cdot (a_{k} + b_{k} \log x)}{x^{2k+2}} \\
&=\dfrac{b_k-(k+1)a_k-(k+1)b_k\log x}{x^{k+2}}
\end{align}
$$

となる。よって,

$a_{k+1} = - (k+1)a_{k} + b_{k}, \quad b_{k+1} = - (k+1) b_{k}$

とすると,$n = k + 1$ のときも問題の主張が成立する。よって,数学的帰納法により題意は示された。そして,求める漸化式は $\underline{a_{n+1} = - (n+1) a_{n} + b_{n}, \quad b_{n+1} = - (n+1)b_{n}}$ である。

(2)

まず $b_{n+1} = - (n+1) b_{n}$ を繰り返し用いると,

$$
\begin{align}
b_{n} &= -n b_{n-1} =(-1)^{2} n(n-1) b_{n-2} = \cdots \\
&=(-1)^{n-1} n! b_{1} =(-1)^{n} n!
\end{align}
$$

となり $b_n$ が求まった。あとは,

$a_{n+1} = -(n+1) a_{n} + b_{n} = - (n+1) a_{n} + (-1)^{n} n!$

を用いて $a_{n}$ を求めればよい。漸化式の両辺を $(-1)^{n+1} (n+1)!$ で割ると,

$\dfrac{a_{n+1}}{(-1)^{n+1}(n+1)!}=\dfrac{a_n}{(-1)^nn!}-\dfrac{1}{n+1}$

よって,$\dfrac{a_{n}}{(-1)^{n} n!} = c_{n}$ とおくと $c_{n+1}=c_{n} - \dfrac{1}{n+1}$ となる。

この式を繰り返し使うと,

$$
\begin{align}
c_{n} &= - \dfrac{1}{n} + c_{n-1} = \cdots \\
&= - \left( \dfrac{1}{2} + \dfrac{1}{3} + \cdots +\dfrac{1}{n} \right) +c_{1} = - h_{n}
\end{align}
$$

となる。よって,$a_{n} = (-1)^{n} \, n! \, c_{n} = \underline{(-1)^{n+1} \, n! \, h_{n}}$ である。


問 題 1 の ポ イ ン ト ・ 補 足

  • (1) は微分するだけの簡単な問題です。(2) は漸化式を解くだけの問題です。$a_{n}$ を求める部分でひと工夫必要ですが,さほど難しくはありません。
  • (2) で "$h_{n}$ を用いて" とあるので,漸化式を解いたときに $h_{n}$ が登場することで安心できます。(1) の計算の検算にもなります。このように出てきた答えに自信が持てる問題は見直しに時間をかけず,別の問題に時間を使いましょう。
  • 数列(漸化式)がメインの問題というのは東大ではあまり出題されません。メインは整数や確率で,それを表現する手段として数列(漸化式)を用いる,という問題は多いです。この問題は珍しく数列がメインの問題でしたね。

問 題 2

続いて 2011年 理系 第2問(3) です。

東京大学 2011年 理系 第2問(3)

問 題 2 の 解 答

$p$ を $q$ で割った商を $A_{1}$,余りを $B_{1}$ とすると,

$p=A_{1} q + B_{1} \quad (0 \leq B_{1} < q)$

よって,$a_{1}$ は $\dfrac{p}{q} = A_{1} + \dfrac{B_{1}}{q}$ の小数部分,つまり $\dfrac{B_{1}}{q}$ である。

以下このような操作を繰り返す。すなわち,$B_{i} = 0$になるまで "$B_{i-2}$ を $B_{i-1}$ で割った商を $A_{i}$,余りを $B_{i}$ とする" という操作を $i = 2$ から繰り返す。ただし,$B_{0}=q$ とした。
割り算の定義より

$B_{i-2} = A_{i} B_{i-1} + B_{i} \quad (0\leq B_{i} < B_{i-1})$

となる。$a_{1}$ の場合と同様に(帰納的に)$a_{k} = \dfrac{B_{k}}{B_{k-1}} \, (k=1, \, 2, \, \cdots)$ であることが分かる。

さて,$q = B_{0} > B_{1} > \cdots > B_{i}$ なので,上記の操作は遅くとも $i = q$ で終了する($q$ 以下の正の整数は $q$ 個しかないため)。つまり,ある $q$ 以下の正の整数 $N$ が存在して $B_{N} = 0$ となる。よって $a_{N} = 0$。
したがって,$a_{N+1}, \, a_{N+2}, \, \cdots$ も $0$ になる(数列の定めかたにより一度 $0$ になるとそれ以降も全て $0$ になる)ので題意は示された。


問 題 2 の ポ イ ン ト ・ 補 足

  • 有理数の連分数展開が有限回で終わるという有名な定理を証明させる問題です。Euclid の互除法になじみがあれば解きやすいでしょう。東大の問題はこのように何らかの数学(今回は連分数展開)が背景にあることも多いです。
  • 数列メインの問題というより,数列は道具でメインは整数,論証の問題です。解答をきちんと書くのがけっこう大変な問題です。

まとめ〜東大数列の傾向〜

  • 問題 1 の補足でも述べたように,数列をメインとする問題は東大ではあまり出題されません(ただし,2015年には数列をメインとする問題が出題されています)。整数・確率などの分野の問題を解く際の道具として使うことが多いです。
  • 道具としての数列を使いこなすにあたって "漸化式を立てる,そしてそれをきちんと解く" というのが非常に重要になります。また,シグマ計算を素早くできることも重要です。
  • "数列に関連する道具" としては数学的帰納法も非常に重要です(様々な分野の問題で頻出)。
  • 漸化式を解く問題では答えに $n=1, \, 2$ を代入して検算しましょう。つまらない計算ミスを防ぐことができます。

この記事の著者/編集者

林俊介   

東大生講師によるオンライン家庭教師の運営をしたり,登録者22,000 人超えの YouTube チャンネルで大学入試問題の解説をしたりしています。

2019年 東大物理学科卒
Twitter: @884_96

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