A級紙

#01【A級紙】レールガンの正体を高校物理で紐解く

シリーズ「A級紙」は、皆さんが高校までで学習している内容が大学ではどんな風に現れるのか、また実際の研究でどのように使われているのか、生活にどのように溶け込んでいるのかといった話題を、東京大学の数学・物理・化学の入試問題に(無理矢理)絡めてちょっとだけでも知ってもらい、勉強をより一層楽しんでもらおうという連載です。
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話題になった「ひねりのない問題」

入試物理の問題集で必ず見る、磁場中の導体レールの運動の問題。
2010年度入試は東大でもこんなひねりの無い問題を出すのかと話題になったものです。

確かに導体レールの問題は解くとなると為すべき操作が大体決まってしまっていて、演習を積んで手慣れてしまった皆さんにとっては退屈に感じられるかもしれません。

しかし自分にとってこの導体レールの話は高校物理の枠組みの中で最も少年心をくすぐる応用を見せてくれる問題であり、本企画A級紙の立案に多かれ少なかれ影響があったと言っても過言ではないほどです。

それが退屈だなんて思われてしまうのはとても残念
―なので今回は、この導体レールの問題の先にある魅力をお伝えできればと思います。

出典:東京大学前期 2010年 物理 第2問

“どんなに速い弾も撃ち出すことのできる発射装置”

―導体レールの「奥」には、どんな興味深い話題が有るんですか。

いきなり物騒な話ですが、鉄砲や大砲の弾丸は普通どうやって飛び出しているのでしょうか?

すなわち、弾丸の運動エネルギーはどこから来たものなのか、ということですが、これは勿論火薬のもつ化学エネルギーが爆発することによって弾丸の速度に変換されているのですね。

とすればこの弾丸の速度を向上させようと思ったときにどんな研究をする必要があるかというと、より爆発時のエネルギーの高い火薬の調製や極力エネルギーの変換を妨げないような発射機構の改善……あたりがすぐ思いつくところでしょうか。

それでも、エネルギー源が「物質の爆発」なのです。

この先どんなに研究が進んだとしても、無限の化学エネルギーを蓄えた物質なんて見つかるはずがありませんし、爆発のエネルギーを100%運動エネルギーに変換することも難しいでしょう。

よって弾体の発射速度には確実に光速より十分小さい上限が存在することになり、“どんなに速い弾も撃ち出すことのできる発射装置”を実現するのはこの方式では不可能であるという結論に達します。

 

―火薬などを使った発射装置には限界がある、と。

そこで何か別の方式で物体にエネルギーを与え加速させることができないか考えてみると、人類は最近安定的にエネルギーを供給する方法として電気というものを使いこなせるようになってきたのでした。

この方向性でさらに探ってみましょう。

電気を使った発射機構「レールガン」

物体を加速させるには何らかの外力を加える必要がある
―というのはお馴染みのニュートンの法則ですが、電気分野で生じる強い外力のひとつに「電磁力」がありました。

この力を使って物体を加速することについて、次のようなシンプルな設定で考えてみます。

図のように水平面上に十分長い2本の導体レールを間隔\(l\)で平行に置き、その間に磁束密度の大きさが\(B\)である一様な磁場を鉛直上向きに加えた。導体レールの上には質量\(m\)の棒を、導体レールと直角をなすようにそっと乗せてある。いま、導体レールに図のように電源を接続し、棒に大きさ\(I\)の電流が常に流れるようにする。以下、棒以外の電気抵抗や自己誘導、及び導体レールと棒との間の摩擦を無視して考える。

まず電池が接続されれば棒には図で上向きに電流が流れますから、電磁力がフレミングの左手の法則で図の矢印の向きに働きます。このときの電磁力の大きさ\(F\)は\(F=IBl\)。

よって棒の力積の変化を考えれば、導体レールを飛び出すときの棒の射出速度\(v\)は、電流が流れ始めてから棒がレールを飛び出すまでにかかる時間を\(T\)として\(v=\frac{IBlT}{m}\)。

以上のようにして、かなり単純化した場合ではありますがひとまず棒の射出速度を求める事が出来ました。

この式を見れば、どうすればこの棒がより早くなるのかは一目瞭然。

太さ・材質が同じ棒なら長くなるほど質量が増してしまうことに注意して、単純に\(I\)、\(B\)、もしくは\(T\)を大きくすればよいのです。

ここで\(T\)を大きくすることがどういうことかというと、棒に電磁力がかかる時間を長くするということですから、それは導体レールの長さを伸ばすことに他なりません。

つまり、電源の起電力を大きくすればするだけ、磁場を強くすればするだけ、導体レールを長くすればするだけ、棒の速さは際限なく速くなっていくのです。

これを利用して物体を撃ち出すのが“レールガン”です。

―レールガンには、火薬を使った銃とは違って射出速度の上限はない、ということですね。

勿論、物体の速度が光速を超えることはありませんが、レールガンは理論上物体をここまで加速させることができるというのです。

実は電磁気を使って物体を加速させる方式の装置はこれ以外にも幾つかあり、それらをまとめて電磁(投射)砲と呼ぶのですが、レールガンはその中でも最も高エネルギーの射出を達成します。

最近の記録では、2010年末にアメリカ海軍が行った実験でレールガンが約10.4kgの砲弾を約2.7km/s(音速の約8倍!)で射出したそうですが、人間が電気という新しい力を扱えるようになって到達した世界も大分想像の及ばないところまで来たようですね。

発展途上のレールガン

―レールガンは名前はよく聞きますが、仕組みや由来は知りませんでした。

昔から、SF映画・小説をはじめアニメ・漫画・ゲームにも実は結構登場してきたレールガン。

最近はとある作品によって一部で知名度を上げてきてはいますが、しかしこれほどシンプルかつダイナミックな装置である割には一般的にそれほど知られていないのが現状です。

ここまで目にすることが少ない原因は、おそらくはレールガンが実用上まだそこまでうまくいっている訳ではないからで、例えば実際には上の設定で無視してきた他の抵抗や摩擦の影響も考えねばなりませんし、大きな電流が流れれば棒はジュール熱で高温となり抵抗値が増したり溶けたりもします。

さらに棒には速度と磁場の大きさに比例する逆起電力が生じるため、この装置の性能は大きな電流を流し続けるための電源電圧によってほぼ決まりますが、高電圧や強磁場を得る技術にもまだまだ限界があります。

これらの問題が劇的に解消されてくると、レールガンはもっと有名な装置になるかもしれません。

―レールガンが発展していくと、どんな未来になるのですか。

兵器利用に関しては電源の確保の都合などから現在はまだ敬遠されがちですが、他には特に宇宙開発の分野での活躍が期待されています。

未来の話ですが、例えば月面基地ができたとして、そこからロケットを飛ばすとします。

今までの常識で考えればロケット打ち上げの動力源は化石燃料になるでしょうが、燃料は宇宙では簡単に手に入る代物ではありません。

それに対し電気エネルギーは場所を問わず様々な方法で生み出すことができるので、ロケットをレールガンの原理で射出することができると宇宙でのエネルギーの問題がかなり緩和できそうですね。

―導体レールは、夢のある話だったんですね。

入試問題としては淡泊ですが、その実は結構男のロマンの詰まったレールガンについてでした。

これに限らず、高校の学習内容の中には面白い応用や身近に利用されているものが意外にあります。こんな感じで話が繋がってくると勉強もちょっと楽しくなってきますし、自分なんかは高校で学ぶこんな単純なことがこの不思議なことの原理となっているのかと感動を覚えたりもします。

過去問参考書などの解説にはこういうこともたまに書いてあったりしますが、自分は大変楽しませてもらっていますね。皆さんも周りの様々なものに、自分が今勉強している内容を見つけてみると面白くなってくるかもしれませんよ。

参考文献
・本庄隆編著『東大の理系数学25ヵ年』教学社
・鈴木健一編著『東大の物理25ヵ年』教学社
・堀芙三夫編著『東大の化学25ヵ年』教学社
Wikipedia

 

東大入試ドットコム編集長 石橋雄毅

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